《人喰い転移者の異世界復讐譚 ~無能はスキル『捕食』でり上がる~》63 過ぎ去りし時間は殘酷に
目をつぶり、お姉ちゃんのが重ねるのを待ったものの――一向にキスをされる様子はない。
僕は恐る恐る片目を開き、涙で歪む視界で様子を覗き見た。
……止まっている。
恐怖とか躊躇ではなく、顔を真っ赤にして、ぷるぷると震えながら接する寸前で止まっている。
「お姉ちゃん?」
「ひゃいっ!?」
気の抜けた聲に、僕は思わず頬を引きつらせた。
まさか、あそこまでやっておいて、恥ずかしくて出來ないとか言い出すわけじゃない……よね?
「ま、待っててね、お姉ちゃんきちんとするから。今度こそやってみせるから!」
僕的には別にやらなくてもいいんだけど。
慌てふためくお姉ちゃんを見ていると、ああ、やっぱりお姉ちゃんはお姉ちゃんなんだな、と実する。
例の畫で自分の気持ちに気づいただけで、お姉ちゃんはずっと前から僕のことが好きだったんだ。
変わったわけじゃない、本心をさらけ出しただけで。
別人のように見えてたのは、僕の心の問題だったんだ。
「どうして笑ってるの?」
指摘されて初めて気づいた。
さっきまでは引きつってただけなのに、気づけば頬が緩んでいる。
「はは、泣いてまで悲しんでたのが馬鹿馬鹿しくなっちゃってさ」
「もしかして、私が何もしないと思ってるの? 言っておくけど、やるときはやるお姉ちゃんだからね!?」
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「するつもりなんだろうとは思ってるよ、でも出來ないんだよね。だって、したことがないから」
要するにそういうことだ。
お姉ちゃんに彼氏が居ただなんて話は聞いたことが無いし、彼なんてもってのほか。
ファーストキスすらまだの乙が、弟を押し倒して襲う、なんて真似をできるわけがなかった。
いや、妄想の中じゃ何度もやったのかもしれないけどさ。
現実となると話は別なわけで。
「う……仕方ないじゃない。私、ずっと岬ちゃん一筋だったんだから」
お姉ちゃんは頬を膨らまして拗ねてしまった。
このセリフまで微笑ましく思えてしまうのは、さすがに考えが甘すぎるだろうか。
今だってまだ、お姉ちゃんとキスとかその先とか、考えることすら出來ない。
だけど、僕が何を言ったって、お姉ちゃんの気持ちが変わることは無いだろう。
やっと再會できたんだ、また離れ離れになるつもりなんてない。
だったら、僕が妥協するしかないんだろう。
時間と共に慣れていって、お姉ちゃんに向けるを、しずつしずつ変形させていくしか。
ひとまず今日の所は、一旦落ち著いてもらうしかない。
僕は目をそっぽを向くお姉ちゃんの首に腕を回すと、今後は逆に僕のにホールドした。
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あれ、そういえばいつの間にかがくようになってる。
「岬ちゃん、なんでけてるの?」
「なんでって……」
眉をへの字に曲げながら、から顔を出してこちらを睨みつけるお姉ちゃん。
こっちが聞きたいぐらいだった。
「うーん、やっぱり強い人にはあまり効果が無いのね。リアちゃんもすぐに解けちゃったし。という事は……岬ちゃんもリアちゃんと同じぐらい強いってことに」
「まあ、それなりには強いと思うよ」
さっきあれだけ喰ったわけだしね。
そこらのアニマ使いが束になったって敵わない程度の力は手にれたと思ってる。
「何度も使うと効果が薄れちゃうし……もう、駄目だね。弟にこんなことするからバチが當たったんだ」
お姉ちゃんは心の底から悲しそうに言った。
複雑な心境だ。
お姉ちゃんが悲しむ顔は見たくないけれど、かと言って安直に笑顔にすると言うわけもいかない。
ふぅ……一緒に痛いと願うのは僕のわがまま。
折れる必要があるのは僕の方。
あまり考えすぎるな、僕。
大、百合やエルレアにはあれだけ酷いことをしておきながら、が繋がってる程度が何だ。
今さら常識人ぶるんじゃない。
さあ、やろう。むがままに、その涙を止めてあげるといい。
「お姉ちゃん、こっち向いて」
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「やだ」
に顔を埋めるお姉ちゃんに語りかけるも、不貞腐れてしまった彼は一向に言うことを聞いてくれない。
仕方がないので頭をでながら再び「こっち向いてって」とお願いすると、しぶしぶ、顔の上半分だけを見せてくれた。
「はい、そのまま上に上がって」
「顔が近づいちゃうけど、いいの?」
「いいの」
もぞもぞと僕のの上を這いずるように移すると、再び至近距離で2人の顔が近づく。
僕は覚悟と強い意志を持って、お姉ちゃんは戸いながらも、顔を赤くして。
さっきとは全く逆の立場になってしまった。
「私にキスとかいやらしいことされるの、嫌なんだよね」
「嫌とは言わない。ただ、今はまだ難しい」
「一緒だよ……でもごめんね、私はもう我慢できないから。昔みたいに、いいお姉ちゃんにはなれないよ」
「それでも一緒に居たいと思ってる」
「私は一緒に居るだけじゃ足りないと思ってるの!」
「わかってるよ、だから……しだけ、時間がしいんだ。僕が気持ちの整理をする時間を」
「整理して、どうなるの?」
お姉ちゃんは”どうにもならない”と思ってるみたいだ。
僕は言葉ではなく行でそれを否定する。
どうにかなるよ、きっと時間が解決してくれる。
それも――さほど長くない時間が、さ。
「ふぐっ……」
僕はお姉ちゃんの顔を引き寄せると、を重ねた。
らかで、しだけった。
「ん、んっ……んぅ……っ」
慣れていないお姉ちゃんは、どうやら息を止めているらしかった。
初々しい、可らしい、素直にそう思える。
実際にやってみると意外と平気なもので、むしろの高鳴りが抑えられないほどで。
もうし先まで行けるかな、と試しに固く閉じられたお姉ちゃんのを、舌先でノックした。
……反応はない。
続けて、し強引気味にの隙間に舌をり込ませようとすると――お姉ちゃんはガバッ、とを起こしてしまった。
「ぷはぁっ! はぁ……はぁ……はっ……な、なんで急に……?」
「気持ちの整理がつけば、これ以上のことだって出來るってこと。もちろんお姉ちゃんがんでるようなことだって」
「いい、の?」
「むしろこっちが聞きたいよ、時間を貰わないといけないんだから」
「いいっ、いいからっ、時間なんていくらでもかかったっていいから! 岬ちゃんと人になれるなら、いつまでも待てるよ、私」
目に涙を浮かべてまで喜ぶお姉ちゃん。
わかってくれたみたいでよかった。
ならこの場は、ひとまず一件落著――
「ところで岬ちゃん」
「ん?」
「やけにキスに慣れてなかった?」
「……あー」
とは、行かないみたいだ。
さすがに百合とエルレアのことを話さないわけにはいかないだろうな。
それに……彩花のことだって。
「わかった、彩花ちゃんだ! 彩花ちゃんとそういう関係になっちゃったんでしょう? あれ……でも、だとしたらこれは浮気……?」
「彩花はもう死んだよ」
「死ん……え?」
お姉ちゃんは絶句している。
僕の馴染である彩花とは、お姉ちゃんだってもちろん親しくしていた。
「うそ……あの彩花ちゃんが? どうして!?」
もっと言えば、全員が小學生だった頃は3人一緒に行するのが常だった。
そんな彼が死んだと聞けば、大きなショックをけるのは當然のことだ。
「水木に殺されたよ」
「水木って、先生? 擔任だよね?」
「そう、水木は彩花を脅して関係を迫っていた。でもある日それを拒まれ、かっとなって殺した」
本當は々混み合った事があったんだけど、今はひとまず伏せておく。
「あんまり良くない噂は聞いてたよ。でもそんなことまでするなんて……じゃあもちろん、水木は捕まったんだよね?」
「僕に罪をなすりつけてのうのうと生きてるよ」
「岬ちゃんに罪を……じゃあつまり、帝國に居るのは、王國から逃げてきたから、ってこと?」
僕はすぐさま首を橫に振った。
逃げるもんか、それだけは絶対にありえない。
「違うよ。水木も、他の奴らも、王國も――全てを殺すために帝國に來たんだ」
思い出すだけで、浮ついた気持ちは何もかも吹き飛んで消える。
殘るのは、で靜かに揺れる黒い復讐の炎だけ。
「そ……っか。辛いこと、沢山あったんだ。顔つきも隨分大人っぽくなってるもんね」
「そうかな、顔が変わったからそう見えるだけじゃない?」
「ううん、お姉ちゃんにはわかるよ。ごめんね、なのに酷いことしようとして」
「いいってば、お姉ちゃんだって同じぐらい辛かっただろうから」
見知らぬ世界に1人で飛ばされて、周りには友人も居なければ家族も居ない。
環境は、僕らよりずっと劣悪だったろう。
それでもお姉ちゃんは変わっていない、そこに僕は彼の芯の強さをじ取っていた。
その後、僕とお姉ちゃんは指を絡め手を繋いだまま、ベッドにごろんと寢そべった。
々あって疲れてしまったからか、気づけばこんな勢になっていたのだ。
天井の壁紙を見つめながら、肩を寄せ合ってぼーっとしていると、ふいにお姉ちゃんが口を開く。
「そういえば、結局どうして岬ちゃんはキスに慣れてたのかな?」
その話題、とっくに忘れてくれてたと思ってたのに。
さて、いい機會だし今のうちに百合とエルレアのことを話しておくかな。
「人ができたんだ」
「そっか、人……こい……人ぉ!? み、みみみ、岬ちゃんに人だなんてっ! じゃあやっぱり、さっきのは浮気ってことに……!」
「人は2人居てさ」
「二!?」
お姉ちゃんは起き上がると、目を見開いて僕の方を見た。
そんなにショックだったかな。
まあ確かに、以前の僕しか知らないお姉ちゃんにしてみれば、二するようなキャラだとは思いもしないだろうけど。
「クラスメイトの赤羽百合と、この世界で知り合ったエルレア・フラウクロックっての子なんだ」
「しかもの子……いや、それは正しいのよね。岬ちゃんは男の子だし。でも、それって、2人は知っているの?」
「知ってるも何も、一緒に旅してるから。了承の上でお付き合いしてるよ」
「岬ちゃんが知らないうちにとんでもない世界に足を踏みれてる……」
お姉ちゃんはめまいでもじたのか、頭を抑えながらぼふっとベッドに倒れ込んだ。
大げさな。
「でもまあ、そこにお姉ちゃんが増えたって問題はない、ってことなんだね」
「2人ならわかってくれると思う」
実の姉って言ったら、しは戸うだろうけど。
「納得してるんだったら……々複雑だけど、私も飲み込むことにする。岬ちゃんだって私のために気持ちを整理してくれてるんだもん、私もそれぐらいやらなきゃ」
気持ちの整理が必要なのは僕だけじゃなかったか。
これでフェアって呼べるかはわからないけど、貸し借り無しに出來たのは嬉しい。
お姉ちゃんと、そういう関係にはなりたくないから。
「それにしても、人ならその2人は岬ちゃんのことを心配してるだろうね」
「生きて戻るって約束したから、信じて待っててくれると良いんだけど。それ以前に、無事に帝都には著けたのかな」
「エクロジーから帝都までは數日あれば到著するはずだから、とっくに・・・・到著してるころだとは思うんだけど……」
お姉ちゃんの何気ない一言に、僕は自分の耳を疑った。
ここから帝都まで數日かかって、その道のりを、とっくに……?
「ねえ、僕って一、何日間眠ってたの?」
「ちょうど一週間だよ」
――僕は、自分の耳を疑った。
一週間? 一晩の間違いじゃなくて?
オリハルコンさえ使えば數時間で王都から帝國まで來れる今、一週間なんて時間があれば――國1つぐらい、容易く滅ぼせてしまう。
「これ以上目を覚まさなかったら私だけでも帝都に戻ろうと思ってたの。でも良かった、戻ってたら岬ちゃんと再會できなかっただろうから」
後のお姉ちゃんの話は、申し訳ないけど僕の頭にってこなかった。
それだけの時間があれば、帝都に向かって再びここに戻ってくることも出來たはず。
ヘイロスとの戦闘がすでに終わっていることも確認できるはずだし、せめて避難した人々を町に戻すぐらいは。
けど、どれもされていないということは――帝都で、何かが起きたのかもしれない。
「お姉ちゃん、今すぐ帝都に向かおう!」
起き上がりベッドから降りると、お姉ちゃんの手を握りながら言った。
「もうし2人きりでゆっくりしてもいいんじゃない?」
「僕だってそうしたいけど、出來ない理由があるんだ。早く戻らないと手遅れになるかもしれない」
「帝都ならリアちゃんがいるから大丈夫だと思うんだけど……わかった、岬ちゃんがそこまで言うなら急いで戻ろっ」
皇帝が強いのはわかってる。
けどいくら強かろうと、誰も迎えにこないという事実がある限り不安は消えない。
部屋を飛び出し宿から出るなり、各々がアニマを発現させた。
「ウルティオッ!」
「おいで、ルクスリア!」
灰で細のをした、ルクスリア。
それがお姉ちゃんのアニマだ。
見たところ空は飛べなそうだし、帝都に向かうなら僕が抱えていった方が良いだろう。
「握って」と手を差しべる。
けれどルクスリは、ふるふると首を左右に振った。
「私を抱えたら速度が落ちちゃうでしょ? 大丈夫、このあたりには珍しく鳥型のアニマが多いから、あの子に乗せてもらうね」
本來、鳥は質的な問題で魔力を溜め込むことがないのか、あまり魔にならない。
ヘイロスが居なければ、群れで鳥型魔が空を飛び回る景など見ることは無かっただろう。
にしたって、乗せてもらうっていうのはよくわからないけど――
ルクスリアは両手から白と黒の、魔力で出來た小さな二の球を生み出す。
それをの前で1つに合させると、両手を前へと突き出した。
「手加減するならこれぐらいかな……カドゥケウス!」
球だった二の魔力は、互いに絡み合いながら1つの帯となって空へ向かって放たれる。
向かう先には悠然と大空を舞う鳥型魔の姿があった。
カドゥケウスはその魔の頬を掠り、その視線がルクスリアを捉える。
「さあ、おいで」
お姉ちゃんは急降下してくる魔を待ち構え、そのが機を捉える寸前で、ひょいっと避けた。
そしてすれ違いざまに指先で首にれる。
「じゃあ行こっか、ちゃんと付いていくから心配しないでいいよ。遅かったらこの子に無理をさせれば・・・・・・・いいだけだもの、可哀想だけどね」
お姉ちゃんの言葉の意図を察しかね、その時はあまり深く考えなかった。
そんな僕が、無理をさせるという言葉の意味を知るのは、直後のことである。
そもそも魔程度の力で、アニマ1機を支えながら飛べるものなのか。
答えは簡単だった。
出來ないのなら、させてしまえばいい。
お姉ちゃんのスキル知を否定するロマンティクスに囚われた者は、いかなる命令にも逆らうことは出來ない。
例え無理な命令でも、要求に可能な限り近づこうとする。
「グエェッ、ゲエェェェェエエッ!」
隣に並んでウルティオの速度に合わせて飛ぶ鳥型魔は、悲鳴とも取れる鳴き聲を常に吐き出していた。
の限界を越えたスピードに、全が軋み、今にも崩壊しそうなほど変形している。
それでも飛んでいく。
お姉ちゃんがむ限り、その生命が盡きるまで止まることは無い。
「ごめんね、うるさくって。ほら、岬ちゃんが困ってるでしょう? 黙っててね」
お姉ちゃんがそう言うと、本當に鳥型魔は黙り込んでしまった。
もっとも、表からその辛さは伝わってくるんだけども。
何にせよ、この速度で一直線に帝都を目指せば、2時間もしないうちに辿り著くはず。
どうか無事でいてくれますように――そう強く願いながら、僕は無心で風を切り、前進を続けた。
◆◆◆
帝都ラプトシス。
帝國最大の都市にして、あらゆる機能が集中した心臓とも呼べる場所は今、炎に包まれていた。
けたたましくサイレンが鳴り響き、住民たちは慌ただしくシェルターやラプトシスの外へ避難する。
帝都へ攻め込んできた王國軍のアニマはわずか3機。
対する帝國軍のアニマは、王國より亡命してきた年を加えると30機を越え、アニムスまで含めば100機以上の戦力があった。
戦況は圧倒的に帝國軍有利。
兵士たちは、ほんの3機で攻め込んできた王國軍を見て、揃って腹を抱えて笑ったと言う。
今では笑うことすら出來ないになっていたが。
「あっははははは! 今度こそ死ねよ、ダルマあぁぁぁぁっ!」
空中より急降下したアニマが、サーベルでテネリタスを斬りつける。
すでに満創痍だったテネリタスは回避することもできず――
ザシュッ!
その切っ先は、彼のを深く深く切り裂いた。
「エルレア……エルレアアアァァァッ!」
百合は必死でぶも、彼もまた満創痍。
ばした手が屆くことはなかった。
倒れゆくテネリタス。
エルレアはか細い聲で、岬との未來を百合に託す。
そして地面に倒れると、かなくなった。
空より見下ろす3機のアニマは、未だ無傷。
対する帝國側は、すでに全てのアニムスと、半數以上のアニマを喪失。
四將のうち2名が健在だが、皇帝は意識不明により戦線參加は不可能。
クリプトは確信する。
これは負け戦だ、と。
しかし百合は倒れない。
勝ち目がなかろうと、岬と再び會うことだけをみ、無理を押し通して立ち上がり続ける。
――復讐者の帰還は、未だ葉わず。
失戀したのでVtuberはじめたら年上のお姉さんにモテました【コミカライズ連載中!】
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