《人喰い転移者の異世界復讐譚 ~無能はスキル『捕食』でり上がる~》71 救いなき戦場 - ZERO the first volume
イリテュムを発現させた百合は、風の音に耳を傾け、気持ちを研ぎ澄ます。
隣にはスキュラーで手足を作り出したテネリタスエルレアが立ち、さらにその橫ではアーケディアフランサスが鈍くを放つ巨大なニッパ――パニッシャーを支えにしてしゃがんでいた。
その視線は一様に、北の空を向いている。
國境地帯から、帝都の通信施設に連絡がったのが2時間前。
上空をスペイス、グラディアート、ストゥーディウムの3機が通過したのが確認された。
まっすぐ帝都に向かっているのだとするのなら、到著時刻は間もなくのはずだった。
百合たち3人が立っているのは、帝都東區だ。
アヴァリティアキシニアとイーラクリプトは中央通りに、無法地帯ローレスのアニマ部隊と共に待機。
亡命してきた5人は、西區で多數の軍所屬のアニマ、アニムスと共に敵の到著を待っていた。
殘りの1人、六平は、戦闘は不可能だという判斷により、住民たちと一緒に避難している。
東區は他の地域よりも若干高い位置にあるため、百合たちからはひと目で帝都の様子を見ることが出來た。
住民は誰ひとりとして出歩いていない。
帝都南側の地下に建設されたシェルターに一部が避難し、その他の住民たちはすでに都を出ている。
ここに居るのは、戦う覚悟を決めた人間のみであった。
「不謹慎だって怒られるかもしれないけど、こういうシチュエーションってドキドキしちゃうな」
フランサスはいつもと変わらず、無邪気さを隠そうともしない。
百合はそんな彼のことを、し羨ましいと思った。
その図太さがあれば、今の自分ほど苦しむことのかっただろうに、と。
「ドキドキしているのは私たちも同じですよ、意味合いは々違うとは思いますが」
エルレアはいつもよりし暗いトーンで言った。
彼も百合同様に、張に押しつぶされてしまいそうなのだろう。
エルレアも自分と同じ心境なのだと知り、百合はしだけ安心する。
心なしか、の軽くなったようなきがする。
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アニマが魂を反映した姿だというのなら、がそのきに影響されるのも當然のことなのかもしれない。
「よしっ、頑張らないと!」
百合が気を取り直し、気合をれ直した――その時だった。
ウオオォォォォォォオオン……。
無機質な建が雑多に立ち並ぶ帝都ラトプシスに、不吉なサイレンが響く。
町の中央にある通信施設の上部に設置された、大型の魔力駆式のスピーカーから発せられた音だ。
そして北の遙か彼方、果てしなく続く青の空に、3つの異が現れる。
それぞれ右から橙、青、濃い緑をした、アニマの姿だった。
◇◇◇
「敵機を確認。奴らはオリティアでの勝利で調子乗っている、我々の力で現実を突きつけてやれ!」
帝都北側に待機していた、長距離攻撃に適した武裝を持つアニマ部隊。
彼らは隊長機の言葉を聞き、各々形の異なる銃を構える。
続けて、その背後に並んでいた帝國製のアニムス――マフラムの小隊が、銃の長いソーサリーガンを構えた。
「撃てえぇッ!」
ドドドドドドドォンッ!
隊長らしきアニマが合図をすると、全ての武裝が一斉に火を噴く。
放たれた無數の銃火は、遠方より迫る3機のアニマに見事命中し、炸裂。
上空は炎と煙に包まれた。
「やったか!?」
隊長機が歓喜にぶ。
そんな彼を見て、クリプトは骨に舌打ちをした。
無論、その距離からして聞こえはしないが。
「阿呆が、あれは化だと言ってあっただろうが。早く次の手を打たなければ――」
「キッシシシ、來たみたいだねェ」
キシニアの言葉とほぼ同時に、煙の向こうから3機のアニマがほぼ無傷で現れる。
そして一番左側のアニマ――吉よしなりのアニマ”ストゥーディウム”が、長い砲をした灰の銃を構えて呟いた。
「これがオリハルコンの力だ――重力弾、グラベダド」
ヴゥン――
低く鈍い音と共に放たれたのは、深黒の球だった。
速度はあまり早くない。
ゆったりと不気味に、帝都の北門へと近づいていく。
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アニマたちはグラベダドを撃ち落とそうと弾幕を張ったが、びくともしなかった。
やがて黒球は帝都の地面にまで到達すると、一気に膨らみ、半球形になって辺りを覆い盡くす。
「ぐ、おぉ……なんだ、これ、は……」
グ、ググ……バキッ、ガギィッ!
本來、グラベダドは重力球を放ち、著弾點に重力ドームを生し、相手のきを抑制するための武裝である。
しかしオリハルコンにより武裝が強化された結果――その重力は、敵を押しつぶすほどの威力にまで増大した。
出力、機力の高いアニマたちは重力ドームから命からがら退避するものの、アニムスや貧弱なアニマは次々と膝をつき、強制的に地面に倒されていく。
「あれじゃ無駄に苦しませるだけだよ、次は私が行くから。融解弾ソール、えいっ!」
きの取れない部隊に向かって、鞍瀬くらせのアニマ”スペイス”が、額のクリスタルからり輝く球を放つ。
グラベダドに似た軌道を描いて地表へと近づくが、その効果は全く異なる。
ソールは本來、そので目をくらまし、熱でしずつHPを削る武裝である。
しかしオリハルコンの存在によって、ソールの威力もまた、兇悪化していた。
ジ、ジジジ――ゴオオォッ!
地表付近まで近づいたソールはふわりと靜止し、高溫の熱波を拡散、一瞬にしてあたりを火の海へと変えた。
その場に居たアニムスたちはその熱に曝され、やがてHPを失い、溶かされていく。
無論、重力の効果もまだ続いているので、彼らは潰されながら溶かされることとなった。
もっとも、障壁HPを失ったアニムスの機はすでに數百度を越えており、兵はとっくに全を焼かれて絶命していたのだが。
しかし、重力と熱波から逃れた數名の兵はすぐさま勢を立て直し、上空のアニマに銃口を向ける。
ドゥンッ!
放たれたソーサリーガンは真っ直ぐにスペイスに向かい――嶺崎みねざきのグラディアートがかばうために前に出た。
両手に握られた一対の剣、右手のモラルタ、左手のベガルタ。
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ベガルタはモラルタよりも若干小さい、その分だけ小回りがきくのだろう。
それらの剣で撃ち落とすのかと思いきや、彼は微だにしなかった。
向かい來る銃弾。
このまま行けば、命中する軌道だ。
しかし著弾する直前――グラディアートが避けるまでもなく、銃弾は勝手に左右に逸れていった。
「ありがとう嶺崎くん、やっぱりオリハルコンってすごいね」
「ああ、オリハルコンは素晴らしい質だ。この力のおで俺たちは戦えるんだ」
決してオリハルコンの力ではなく、グラディアートの持つ常時発型スキル卑怯なる平等ジャマーの効果なのだが、価値観の歪んだ彼らにそんなことは関係ない。
理屈がどうであろうと、全てはオリハルコンのおかげなのだ。
スペイスを守ったグラディアートは、地表に急降下し剣を振るった。
ズドォンッ!
見えいたモラルタの一撃は空を切ったが、地面を叩き割り、衝撃波で前方のアニマを瀕死狀態にまで追い込む。
「馬鹿な、避けたはずではっ!?」
ヘイロス・ブラスとの戦闘経験のあるキシニアはまだしも、一般の兵はまさか衝撃波だけでダメージをけるとは思いもしなかっただろう。
そして、すかさずベガルタによるニ撃目を放つ。
ガシャァンッ!
切られると言うより、砕かれると言った方が正しいか。
ベガルタの一撃をまともにけた帝國のアニマは、破砕され、全のパーツを盛大に散らせた。
「く、喰らええええぇっ!」
付近に居たアニマが、恐怖に聲を震わせながら、ソーサリーガンを連する。
マシンガンタイプの武裝なのか、放たれる銃弾の數は秒間100にも達するほどで、直撃さえすれば相當な威力を発揮するはずだったが――
グラディアートは、やはり微だにしない。
銃弾は、勝手に彼のを避けてゆく。
「何で當たらないんだよおぉぉおっ!」
無駄だと理解しながらも、帝國軍のアニマはソーサリーガンをし続けた。
ガシャン、ガシャン。
瓦礫を踏みしめながら、一歩一歩、敵へと近づいていくグラディアート。
「ひっ、ひいぃぃぃっ……」
腰を抜かし地面に座り込むアニマに対しモラルタを振り上げ、一閃。
それで砕する――はずだった。
「スキル発ブート、は引力ホールドオンミーッ!」
いつの間にか接近していたキシニアの聲が響く。
グラディアートのはスキルによって引き寄せられ、振り下ろした剣は何もない空間を切り裂いた。
「移しただと? いつの間に!?」
戸う嶺崎に、キシニアは巨大な斧パラシュラーマを振りかぶり、フルスイングした。
ガゴォッ!
グラディアートの橫っ腹に、アヴァリティアの一撃。
いくらオリハルコンを纏ったアニマと言えど、踏ん張りきれない。
青の機は建に衝突しながら吹き飛ばされていく。
背部のオリハルコン製ブースターから魔力を噴出しつつ姿勢を制しようと試みる嶺崎。
だが、回復より先に次の攻撃が迫る。
いや――むしろ、自分から迫っていると言った方が正しいのか。
吹き飛ばされた先に居たのは、もう一の青い機、クリプトのアニマ”イーラ”だ。
「あの馬鹿力には及ばんが、その分は技で補おう!」
吹き飛んでくるグラディアートに向かって、大剣フロスを振り下ろす。
「アペルティオー・フローリスッ!」
さらに剣の接の瞬間、斬撃は分裂し、上下左右から同時に4つの刃が敵を包囲する。
ザシュウッ!
グラディアートにその攻撃を防ぐ手立てはなく、宙に舞い、地面に叩きつけられた。
だが、この程度で相手が倒れるはずがないというのは理解している。
クリプトの予想通り、グラディアートは何事も無かったかのように、すっと立ち上がりイーラクリプトとアヴァリティアキシニアを睨みつけた。
「抗うくせに、その程度なのかよ」
「言ってくれるねェ、鬼が。オリハルコンとやらにられて調子に乗ってるのかもしんないけど、経験の差ってヤツを見せてやるよ、キッシシシ!」
「珍しく意見が合ったなキシニア。全くもってその通りだ、力の差など技で埋められるということを教えてやる!」
2人は同時に前に踏み出し、グラディアートに向かって駆け出した。
獲のリーチは2人の方が上、しかも技と経験の差は歴然としている。
どうにかなる、どうにでもなる――そう高をくくっていたクリプトの視界から、グラディアートが消失した。
歴戦の勇士である彼の反応速度を越えたのだ。
「なっ――」
「なら俺が、埋められない差を見せてやるよ」
耳をくすぐるその聲は、真後ろから聞こえた。
ベガルタによる素早い斬撃がイーラを襲う。
本能が危機を察知し、クリプトは大剣をの側面に縦にして構えた。
ガイィンッ!
ぶつかり合う剣と剣。
力負けしたのは、イーラの方だ。
「ぐ、ぬおおおぉっ!」
吹き飛ばされる機、手には痺れるような覚。
ザザザザッ!
どうにか著地し、大剣を杖にしてブレーキをかける。
それを見て嶺崎は、偉そうに拍手をしながら挑発をした。
「今のを防ぐなんて結構やるじゃん、おっさん。きっとオリハルコンの素晴らしさを知ったらもっと強くなれるのに、殘念だな」
「哀れだな、自我を失ってまで得た力に何の意味があると言うのか」
「自我ならある、見てわかるだろ?」
「あるように思い込んでいるだけだ。ミネザキとか言ったか? お前はとっくに死んでいるのだ、死んで自分自を演じているだけだ」
「わからないおっさんだなぁ」
「死者と通じ合ってたまるものか、お前はらしく・・・土に還れェッ!」
グラディアートへチャージを仕掛ける。
だが再びクリプトの視界から姿を消し――次はアヴァリティアの背後に移した。
「キシニアッ!」
「キッシシ、來ると思ったよ――っとぉッ!」
アヴァリティアは背後に肘を放つ。
ガギィッ!
斧での反撃を想定していた嶺崎は、それを慌てて前腕でガード。
生まれた微かな時間を利用して、アヴァリティアはグラディアートの腹部を足の裏で蹴飛ばした。
開いた距離、それはすなわち斧の間合い。
「もらったァッ!」
斜め下から振り上げられるパラシュラーマの一撃。
完全に仕留めたはずだった。
「キニシア、上だ!」
クリプトの聲に上空を見ると、そこには迫る魔力塊があった。
とっさに地面を蹴り、避ける。
「くそっ、亡命チームで抑えてるんじゃなかったのかい!?」
アヴァリティアの足元を抉ったのは、ストゥーディウムのソーサリーガンだ。
帝國兵と亡命した5人は必死で上空のアニマに攻撃をしかけていたが、その攻撃を完全に止めるには至っていなかった。
だが、意識をこちらに向けたせいか、ストゥーディウムにいくつかの銃弾が命中している。
その點だけは不幸中の幸いと言えるのかもしれない。
「よそ見をしてる暇なんて無いって」
千載一遇のチャンスを逃したイーラとアヴァリティアにグラディアートが猛攻を仕掛ける。
ブースターと圧倒的な機力を利用し、視覚で認識出來ない速度で繰り出される立的な連撃。
背後や頭上に來たかと思えば、次の瞬間には足元を、腹部を。
時になぎ払い、時に切り上げ、時に突き刺し。
バリエーションかな攻めに、2人はじわじわと追い詰められていく。
そもそも、一撃の重さが違いすぎるのだ。
2人が食らわせた渾の一撃は、しかしグラディアートにとっては致命打にはならない。
一方でグラディアートの場合は、まともに喰らえばHPを半分ほど持っていかれる。
それが例え、四將であったとしてもだ。
余裕を見せ、立ち止まったグラディアートに向かって、イーラとアヴァリティアが獲を大きく振りかぶる。
並のアニマなら容易く破壊してしまうであろう一振りを、彼は――
ガギィンッ!
モラルタとベガルタ、それぞれ片手で容易くけ止めてしまった。
まるで、避ける必要など無いのだと見せつけるかのように。
「正直、2人とも弱いよ」
全く余裕を崩そうとしない嶺崎。
クリプトとキシニアは、それでも帝都と自らのプライドを守るため、彼に立ち向かい続けた。
◇◇◇
一方、百合、エルレア、フランサスの3人は、上手く鞍瀬の注意を引くのに功し、戦闘を開始していた。
い出すのは容易かった、テネリタスが高出力のテンタクルス・レイを放つだけであっさりと近づいてきたからだ。
元より、彼らは連攜など考えていなかったのかもしれない。
オリハルコンの圧倒的な力があれば、そんなは考える必要も無いのだから。
「赤羽さん久しぶりっ!」
以前と変わらず、明るい口調で話しかけてくる鞍瀬に、百合は無言でダガーミサイルを放った。
しかしそれらは全て、スペイスに著弾する前に発してしまう。
なぜかと言えば、それはスペイスが発したスキルに原因があった。
私は太になれないバーンアウト。
スペイスの溫度が上昇し、機自が融解弾ソールと同等の存在になるスキルだ。
本來はソール同様、しずつ相手のHPを削るためだけの能力だったのだが、オリハルコンの力によって能が引き上げられている。
スペイスは、今や近づくもの全てを燃やし盡くす、く兵と化していた。
「ひどいよ、いきなり攻撃してくるなんて。せっかくだし、死ぬ前にしお話しようよ」
「何を?」
「オリハルコンについて」
再び放たれるダガーミサイル。
もちろん、今度もまた命中する前に発してしまう。
「もったいないなあ。死ぬ前にオリハルコンの素晴らしさを知っておくべきだと思っただけなのに、オリハルコンは素敵なのに、素晴らしい質なのに」
「話が通じてないのに會話する必要なんて無いっての! フラン、やっちゃって!」
「りょーかいっ!」
まずは空を浮かぶスペイスを地面に引きずり降ろさなければならない。
ダガーミサイルが當たらないとなれば、それを可能にするのはテネリタスのテンタクルス・レイぐらいのものか。
だが百合は、あえて異なる選択肢を選んだ。
「殘念だな。私、赤羽さんのこと尊敬してたのに……お話出來ないなら、溶けちゃえ! 融解弾ソー――」
「そぉおれっ!」
ドゴォンッ!
敵の攻撃よりも先に、背後に回ったアーケディアフランサスがパニッシャーでイリテュムの背中を叩き、上空に向けてふっ飛ばした。
向かう先はもちろん、スペイスだ。
「熱さで脳みそまで溶けちゃったの? そんなことしたって無駄死にするだけだよ」
鞍瀬の言う通りだ。
スペイスに近づくにつれ、イリテュムの機は徐々に溶けていく。
表面がただれ、骨格がむき出しになり――そう、障壁があるはずなのに、あまりに簡単に。
「ヴァニタスッ!」
どこからともなく聲が聞こえてきた。
ドオオオォンッ!
するとスペイスに接近していたイリテュムが、上空でぜる。
「えっ、何!?」
至近距離で風を浴びたスペイスは、よろけながら腕で顔をかばうような仕草を見せる。
「エルレア、今ッ!」
「はいっ、テンタクルス・レイ!」
手の形を模していた右腕が変形し一本の棒となり、その先端から束ねられた手が線を放つ。
一本一本の線は細くか弱いが、束ねることでその威力は増大し、背部ブースターに損傷を與えるに至った。
上空でさらにバランスを崩すスペイス。
そこにトドメ言わんばかりに、アーケディアが助走をかけ、建を踏み臺にして跳躍。
熱波によるダメージはあったが、數秒ならば問題視するほどではない。
「しまった、後ろ!?」
「遅いよヤクチューのお姉さんっ!」
オリハルコンによって覚が拡張された影響なのか、どうやらアーケディアの姿を鞍瀬はすでに捉えていたようだ。
だが、捉えた所で反応が遅れれば意味はない。
バギィイッ!
振りかぶったパニッシャーはスペイスの背中に直撃。
「きゃあああっ!」
鞍瀬はびながら、のけぞった狀態で地面に叩きつけられた。
「ふっふーん、やっと四將らしい活躍ができたってじじゃないっ?」
「はい、さすがですフランさん」
「そうでしょそうでしょー?」
地面に降り立ったフランサスは、明らかに調子に乗った仕草を見せた。
とは言え、この程度で戦闘不能になるオリハルコン搭載機ではない。
むしろ、ここからが本番である。
スペイスが叩きつけられた周辺は、彼自が放つ熱によって火の海と化す。
ゆらりと揺らめく炎、熱によって歪む景、その中でゆっくりと立ち上がる、百合たちより一回り大きいアニマ。
「オリハルコンは素晴らしい質だから、これぐらいなんともないよ、赤羽さん」
負け惜しみでも何でも無く、スペイスのきから一切のダメージはじられなかった。
「融解弾ソール」
鞍瀬は落ち著いた様子で、そう靜かに宣言する。
スペイスの額がったかと思うと、そのは前方に向かって進行を初め、ちょうどエルレアとフランサスの間に靜止する。
エルレアは自らのHPを見て戦慄した。
その數字が、夥いちじるしい速度で減しているのだ。
フランサスも同様だったのか、2人は慌ててソールから距離を取る。
無論、移しながらもエルレアはテンタクルス・レイを放ち牽制するが――
「ソール、ソール、ソール」
スペイスは額から何度も何度もソールを撃ち出す。
「連続で撃てるなんて!?」
エルレアは驚愕の聲をあげた。
そして、空中で靜止。
ヴァニタスを発するまで隠れていたイリテュムの周辺にもソールは浮かび、徐々に逃げ場は失われていく。
「ソール、ソールッ、ソォルッ、ソォォルッ、ソオオオォォォルッ!」
撃ち出す度に鞍瀬のテンションが上っていく。
オリハルコンの影響だろうか、上ずった聲で繰り返しぶ彼の姿は、あまりに異様だった。
「スキル発ブート、獨り歩きする噓アフェクテーション!」
ダガーミサイルが通用しないのなら、と百合は分を作り出し、特攻させヴァニタスで自させる戦法を取る。
これが彼にとっての最大火力。
それでも、スペイスは自など一切恐れず、まるで存在すら目にっていないかのようにマイペースにソール設置を繰り返す。
周辺を明るく照らし、焼き盡くすの珠は、未だ初撃の分すら消えていない。
「あっつうぅいっ! いつまで殘ってるのこれぇっ!」
フランサスも近づいてからの攻撃を試みるものの、ソールで移経路が限られていること、そしてスペイス自も熱を放っている事が原因で、なかなか近づけない。
その間にもさらに熱源は増加し、3人のきは制限されていく。
戦いの経験が淺い鞍瀬でも、その軌道を予測できるほどに。
「ユリっ、危ない!」
「っ!?」
ついにスペイスがいた。
跳躍してイリテュムの目の前に迫ると、無造作に腕を振る。
近接武裝も何も無かったが、熱を放つ機はそれだけで兇である。
後方に回避したイリテュムだったが、れずとも傍に居るだけでみるみるうちにHPは減っていく。
距離を取ろうにも、能差は圧倒的。必死に逃げた所で離れるわけがなかった。
「あっははははは! すごいでしょ? ね? ネ? これがオリハルコン、オリハルコンの素晴らしい力っ、オリハルコンは素晴らしい質です! ですよぉっ、ああはははははははっ、ヒイィィィっ!」
その笑い聲は、明らかに狂人のそれだ。
高熱に曝されながらも、百合は寒気をじていた。
あんな風になってまで、力なんてしくない。
私は私のままで強くなりたい、と。
このままでは埒が明かない。
そう頑丈ではなイリテュムがHPを失うまであまり時間は殘されていないのだ、百合は賭けに出た。
短剣――ミセリコルデを両手に握ると、あえて前へ踏み出し、攻撃を仕掛ける。
逃げ一辺倒だと思いこんでいた鞍瀬は、攻勢に転じたイリテュムに対応しきれない。
「せえぇいっ!」
近づくほどにHPの減は加速する。
を切らせて骨を斷つつもりで、百合がスペイスに向けるのは渾の突き。
ガギィッ!
短剣の先端は、確かに相手の部に命中した。
「あは、全然痛くないよ、赤羽さん」
鞍瀬は憐れむように言った。
わかっていた、非力なイリテュムではオリハルコンを裝備したアニマにダメージは與えられないと。
それでも、生き殘ると決めた以上は、戦わなければならない。
ダメージを與えられていないわけではないのだ、しでも、自分ができることをやらなければ。
百合は余裕でこちらを見下ろすスペイスに、振り返りながらスカートブレードで斬りつける。
ザザザザザッ!
腰回りに付けられた無數の刃が、スペイスの裝甲を裂いていく。
ミセリコルデより威力は高い、だがそれでも、鞍瀬は「ふふっ」と余裕の笑みを浮かべていた。
「叩き潰しなさい、スキュラー!」
そこに、右腕の手を巨大な鈍に変形させたテネリタスが援護にる。
ヒュオッ――ドゴォンッ!
上から振り下ろされる大質量のハンマーを、スペイスは容易く片手でけ止めた。
手応えはある、だがそれ以上に敵の機の方が強固だ。
「ぶっ壊れちゃえええぇっ!」
さらにアーケディアが接近し、パニッシャーでスペイスの側頭部を狙う。
ドオォンッ!
命中、響く衝撃音。
しかし當たったのは頭ではなく、スペイスがまっすぐばした腕である。
グラディアート同様、技ではなく力で圧倒する。
渾の一撃が片手で止められてしまうようでは、その差を経験で埋めることは難しかった。
「はあああぁぁぁぁぁああっ!」
だが、両手が塞がった今、イリテュムの攻撃を防ぐ手立てはない。
百合は繰り返しミセリコルデで切りつけた。
キィンッ、ガンッ!
他の2人に比べて軽い音、些細と呼ぶ他無い低い威力。
ガッ、カキンッ!
それでも、それでも、しでも役に立てればと、自分たちを守ってエクロジーに殘ってくれた岬に報いることができればと、何度も何度も斬りつける。
「はっ、はあぁっ、あああああぁぁっ!」
そんな百合を、鞍瀬は冷たく嘲笑する。
「赤羽さん、ぜーんぜん痛くない」
「っ――!」
スペイスは両手で抑えていたスキュラーとパニッシャーを摑むと、同時に投げ飛ばした。
「きゃあああぁっ!」
「ひゃあっ!?」
びながら宙を舞うテネリタスとアーケディア。
そしてゆっくりと、自分を斬りつけるイリテュムの方を向いた。
「オリハルコンってすごいよね。學校では私より赤羽さんの方がずっと上だったのに――今じゃこんなに、ちっぽけに見える」
スペイスは腕を振りかぶると――
ゴッ!
拳が、イリテュムの腹部に突き刺さった。
オリハルコンによって増強された圧倒的な出力は、イリテュムの障壁を貫通する。
衝撃とともに、百合は鈍い痛みをじた。
「お、ごっ……」
吐き出されるうめき聲。
ゴオオォオオッ!
そしてイリテュムは高速で後方へと吹っ飛び、回転しながら何度かバウンドし、本來ならありえない方向に足を曲げながら、地面に倒れる。
「あ……ぁ、ひ、ぐぅぅぅぅぅ……っ」
呼吸すら困難なほどの激痛が、百合の左足を襲う。
「あははっ、はははははっ、あっははははははははははは!」
燃え盛る戦場に、正気を失ったのび聲だけが響いていた。
【書籍版発売中!】ヒャッハーな幼馴染達と始めるVRMMO
【書籍化いたしました!】 TOブックス様より 1、2巻が発売中! 3巻が2022年6月10日に発売いたします 予約は2022年3月25日より開始しております 【あらすじ】 鷹嶺 護は幼馴染達に誕生日プレゼントとして、《Endless Battle Online》通稱《EBO》と呼ばれる最近話題のVRMMOを貰い、一緒にやろうと誘われる 幼馴染達に押し切られ、本能で生きるヒャッハーな幼馴染達のブレーキ役として、護/トーカの《EBO》をライフが今幕を開ける! ……のだが、彼の手に入れる稱號は《外道》や《撲殺神官》などのぶっ飛んだものばかり 周りは口を揃えて言うだろう「アイツの方がヤバイ」と これは、本能で生きるヒャッハーな幼馴染達のおもり役という名のヒャッハーがMMORPGを始める物語 作者にすら縛られないヒャッハー達の明日はどっちだ!? ※當作品のヒャッハーは自由人だとかその場のノリで生きているという意味です。 決して世紀末のヒャッハー共の事では無いのでご注意ください ※當作品では読者様からいただいたアイディアを使用する場合があります
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8 100