《人喰い転移者の異世界復讐譚 ~無能はスキル『捕食』でり上がる~》72 理不盡な奇跡 - ZERO the second volume

「ユリッ!」

エルレアがぶ。

そして倒れたままかないイリテュムに、複數設置された球を避けながら駆け寄ろうとするも、思うように前に進むことが出來ない。

さらに、テネリタスにターゲットを変えたスペイスがそれを許さなかった。

「次はあなた。名前も知らないあなた。でもオリハルコンの素晴らしさは知ってしいな」

スペイスにきは技もへったくれもない。

がむしゃらに繰り出される手足を、エルレアはスキュラーで作られた手足をさせながらトリッキーに回避する。

「あっはは、気持ち悪いきっ!」

手足によってくのではなく、手足にかされているかのようなテネリタスの挙に、鞍瀬が率直な想をらす。

しかしエルレアは全く気にしていなかった。

むしろ醜悪であるほど、自分の本がさらけ出せているようで気持ちよかった。

それでも、こんな至近距離での回避を続けていても意味は無い。

どうやら便利なことに、スペイス自が発する熱も、融解弾ソールの熱波も、彼には一切影響を及ぼさないらしい。

つまり、一方的に熱で消耗していくのはエルレアの方だけだ。

「食らえっ、食らえっ、食らええぇっ!」

一方的にやられてばかりでフラストレーションを溜めたフランサスが、スペイスの上から降ってくる。

ガギイイィィ――!

アーケディアの全重をかけた渾の一撃は、片手で止められてしまう。

わかりきった結果だった、それでもやるしかない。

テネリタスの右腕の手が変形し、鋭利な剣となる。

「はああぁっ!」

使い慣れない剣など、単なる付け焼き刃に過ぎない。

スペイスはその剣を止めようと、もう一方の手をばした。

が、剣は手にれる直前にしゅるりと解け通り過ぎると、の前で今度は槍に形を変える。

ギュオオオォッ!

槍はスペイスの目の前で高速で捻れながら、そのを刺し貫いた。

用で便利で羨ましいです」

鞍瀬は微笑み混じりにそう言った。

Advertisement

エルレアはドリルを模したつもりで攻撃を放ったが、効果はいまいち薄そうだ。

上空から仕掛けたアーケディアは投げ飛ばされ、テネリタスは槍を摑み引き寄せられ、腹部にスペイスの膝がめり込む。

ゴッ!

鈍い音、鋭い衝撃。

エルレアは軽い目眩を覚え、足元がふらつく。

その顔面に、スペイスは拳を叩き込んだ。

「はぐっ……!」

「エルレアッ!」

百合の聲が響く。

テネリタスは、スペイスのパワーをまともにけ、吹き飛ばされた。

「名前も知らないあなた、よそ見をしたら死ぬよ?」

「死ぬのはそっちだってば!」

気をそらしたフランサスに、瞬時に近づくスペイス。

ゴオォッ!

アーケディアが繰り出された右拳にパニッシャーをぶつけると、衝撃波が周囲の炎を揺らした。

続けて左拳、摑みかかってくる右手、またびてくる左手と、全ての攻撃にパニッシャーをぶつけながら応戦する。

一見して拮抗しているように見える戦いだったが、しかしアーケディアの足元はじわじわと後退していた。

パワーの差は如何ともしがたい。

いくらスペイスの元のスペックがさほど高く無いとしても、オリハルコンにより何倍にも膨れ上がった出力に、生のアニマで対応できるわけがないのだ。

そして徐々に追い詰められていくエルレアとフランサスを――百合は、地面に倒れたまま見ていた。

今はどうにかやりあっているが、そう長くは続かない。

異様にタフはアーケディアはまだしも、テネリタスのHPはさほど高くない。

すでに近づくだけでHPが減ってゆくスペイスと戦うには、限界と言ってもいい狀態のはず。

悔しかった。

わかりきってはいたけれど、何も出來ない自分が。

ウルティオとの力の差は以前から明らかだった。

けれど今では、岬どころかエルレアやフランサス――いや、その他大勢にだって屆いていない。

そんな彼らが苦戦するオリハルコンを用いたアニマを相手にするなんてもってのほか。

無謀としか言いようがなった。

Advertisement

それでも、何か役に立てるのでは無いかと思い、戦場に立ったが――この有様だ。

HPは盡き、足は折れ、今や立ち上がることすら出來ない。

「私は……こんなことをするために……っ」

岬は、こんな百合を見ても怒らないし、以前と変わらずしてくれるだろう。

それが余計に慘めだった。

おそらく、岬は百合に戦力としてのを期待したわけじゃない。

純粋に一緒に居たいと思ったからこそ、彼を旅に同行させた、ただそれだけだ。

旅の途中も何度も求めてくれた、その度に自分の中の求が満たされていくのをじた。

最初は依存だけだった。

もはや彼には岬しか殘されていなかったから、すがるように彼を頼った。

だけど今は、純粋に――を張って、していると言える。

だからこそ、役に立ちたい。

まれる以上の自分でありたい、そうじゃなければ、岬にふさわしい自分とは言えない。

「う、ぐううぅぅぅ……ッ!」

辛うじて生き殘っている建を支えにしながら、イリテュムは立ち上がった。

左足に上手く力がらない、浮かせるとゆらゆらと揺れると同時に、疼くような強烈な痛みが走る。

人間で言う所の、骨折の狀態なんだろう。

「ふうううぅぅ……うぅぅ……っ」

うめき聲を上げていなければ、痛みに耐えることも出來なかった。

歩くこともままならない狀態で、一何をしようというのか。

自分に問いかけても、答えは出ない。

ただ、”何かしなければ”という強い意志だけがそこにはあった。

ダガーミサイルは屆かず、ミセリコルデやスカードブレードは足の使えない今、接近戦闘など不可能なので役に立たない。

一番有効的なのは、おそらくヴァニタスだ。

けれど、アーケディアがどうにかスペイスの攻撃を凌いでいる今、分で割り込むのはフランサスの邪魔になるような気がしてならなかった。

「まだ、他に……っぐ、何か……ある、はず!」

役立たずだ。

けれど役立たずなりに、ちょっとでも戦況を有利にできる何かが、きっとどこかにあるはず。

Advertisement

そう信じて、思考を巡らせる百合。

しかし――そう簡単に見つかるわけもない。

「まだまだ、行けるんだからぁっ!」

自らの言葉で自らを発するフランサスだったが、その限界は近づいている。

エルレアは時折、テンタクルス・レイでアーケディアを援護していたが、近づこうとしないということは、もうHPが殘されていないのだろう。

今、八方塞がりのこの狀況をどうにかできるのは――

「私だけ、なのに……!」

何かがあるはずなのだ、どこかに、この魂のどこかに。

見つからなくても探さなければならない。

無かったとしたら作らなければならない。

する。

強く、強く、今より強い自分を、もっと岬の役に立てる自分を。

だが――そんなは、彼のどこにも存在しない。

いや、そもそも彼には、最初から強さなんてものは存在しなかった。

全てが虛飾だったからだ。

広瀬団十郎という優秀な馴染、桂偉月というさらに優秀な友人、そこに付屬する自分。

立ち位置に相応しい自分になるために、百合はんな噓で自分を塗り固めてきたのだ。

本當は人付き合いだって苦手で、手先も不用で、勉強も嫌いで、どうしようもない自分だったはずなのに、見栄を張るためだけに、”勝ち組”に殘るためだけに、自分を偽ってきた。

だから、百合のスキルは獨り歩きする噓アフェクテーションなのだ。

あのスキルの存在こそが、彼の本を如実に現している。

――私がしかったものは、何だったんだろう。

自分を偽り続けた百合は、気づけば本當の自分を見失っていた。

それを思い出させてくれたのは、他でもない、岬だ。

甘えて、溺れて、依存して。

まぬ努力なんて必要ない、しなだれかかるだけの、甘い甘い泥沼。

それが、本當は弱い百合が、一番しかったもの。

なのにいつの間にか、岬を好きになりすぎたあまりに、また同じ過ちを繰り返していた。

自分を変える必要なんて無かったのに。

「ああ、そっか、私……」

んで、熱して、大逆転、なんて柄じゃない。

無理に強くなろうとしなくていい。

出來ないものは最初から出來ない。

百合が圧倒的な脅威の前で出來ることなんて、せいぜい今まで通り虛勢を張って、噓をつくことだけ。

力不足だと思うのなら、変えるべきは自分自ではなく、自分が纏っている噓だったのだ。

「無理……しなくて、いいんだ」

道筋は、ありのままの自分をれれば、自然と見えてくる。

手をのばすのは、今まで歩んできたルートの延長線上。

「私は、私らしく……噓を、つこう」

摑むのは、似て非なる何か。

魂に浮かび上がるその言葉を、百合は無意識のうちに発していた。

「スキル発ブート……獨り歩きする虛アフェクテーション」

言葉は変わらない。

姿も変わらない。

しかし噓はさらに濃く、真実から離れてゆく。

スキル発が宣言されると、いつもと変わらぬイリテュムの分が作り出され、いつもと変わらず敵に近づいてゆく。

鞍瀬は気にも留めなかった。

あんな分程度、どうせ熱で溶かされて勝手に消えていくからだ。

「あれ、消えてない?」

だが、今回は違った。

私は太になれないバーンアウトの熱波の範囲っても分に変化はなく、まっすぐにスペイスへと近づいていく。

「何かが変わったの……? あっははははは! 今さら何をしたって、オリハルコンの素晴らしさに敵うわけもないのに!」

アーケディアと打ち合う手を止め、分を破壊しに向かうスペイス。

「逃げるなぁっ!」

フランサスは憤るが、鞍瀬は一瞥すらしなかった。

繰り出した熱を帯びた拳は分に命中し、貫通し――それでも虛像は、平然とそこに佇んでいた。

いや、そもそも當たってすらいないのではないか。

何かにれたは、全く無かった。

と言うより、新たに生み出された分には、実が無かった。

「なんだ、ただのこけおどし――」

ガンッ!

しかしながら、背中を見せたスペイスを、分はミセリコルデで容赦なく切り裂いた。

「……え?」

大した威力は無い。

だがその一撃は、鞍瀬を驚愕させるには十分過ぎるだった。

確かにさっきはることができなかった。

だが分の攻撃は、なぜか當たっている。

短剣だけ実があるのかもしれない、と素早いきでミセリコルデに手をばすも、やはりすり抜ける。

そして分は再び短剣を振り上げ、スペイスのを切り裂いた。

ザシュッ!

先程よりも深く命中する短剣。

「相手からはれるのに、私からはれない……?」

そう、百合が得た新たなスキルは、まさしく存在そのものが噓でインチキ。

が健在である限り消えない、一方的に攻撃を仕掛ける分を生するというものだった。

イリテュムの能は、やはり他の四將やエルレアに比べればあまり強くはない。

その本のコピーなのだ、分とてさほど強烈な武裝を持っているわけでは無いのだが、相手からの攻撃を一切け付け無いとなると、話は別だ。

そしてもう1つ、新たな分の特筆すべき特として――

「ヴァニタス」

ドオォオオンッ!

百合がそう呟くと、分は盛大に、周囲を巻き込んで自する。

――それでも、分は一切のダメージをけていない。

ヴァニタスという武裝の特上、分が健在だからといってすぐさま連発できるものではないのだが、それでも自しておきながら炎の中を平然と歩く敵の存在は、あまりに厄介極まりない。

「っ……でも、本さえ倒せば!」

イリテュムはすでに瀕死の狀態、直接れずとも、近くにソールを打ち込むだけでもトドメを刺せるだろう。

ぐっと腳部に力を込め、一気に跳躍しようとするスペイス。

「いつまでわたしに背中を向けてるの?」

だが、その背後にはアーケディアがすでに接近していた。

ガゴンッ!

無防備な背中にパニッシャーが炸裂する。

「あぐっ!」

スペイスは前のめりになって転げそうになったものの、なんとか勢を立て直す。

しかし次の瞬間、眼前にはテネリタスが迫っていた。

両腕の手を束ね異形の斧へと変形させたそれを、スペイスの腹に叩きつける。

バギィッ!

「ぐ、ぐぅっ」

腹部への強い衝撃に、機はふわりと浮き上がった。

さらに放線を描くスペイスの落下點にイリテュムの分が近づくと、くるりと回転し、スカートブレードで切り裂く。

ズザザザザザザッ!

地に足の著かない狀態で怒濤の攻めをけたスペイスは、著地に失敗し地面に倒れ込んだ。

そこを見逃さないフランサスではない。

すかさず接近し、敵を叩き潰さんとパニッシャーを振り下ろす。

「ひっ」

怯えたような聲をあげながら、転がって寸前で回避。

すぐさま起き上がり一安心、かと思いきや。

ここが攻め時だと確信したエルレアは、まだまだ攻撃の手を緩めない。

今度はスキュラーをフレイル狀に変形させての毆打。

スペイスが浮き上がった所をアーケディアがさらに高くに打ち上げる。

そこに、分によって打ち込まれる多量のダガーミサイルと、テネリタスのテンタクルス・レイ。

落ちてきた所をパニッシャーで叩き、再びテネリタスが、三度イリテュムの分が。

間髪れず連続で襲い來る3機の連攜攻撃に、もはやスペイスは為すもなく翻弄されるしかない。

「お、オリっ……ハル、コンの……ぎぃっ、ちか……ら……が……!」

「いくらオリハルコンによって能が引き上げられていようと、あなた方のHPは多く見積もっても10萬もありません。つまり、これだけ続けざまに叩けばッ!」

「これで、おしまいだぁっ!」

テネリタスとアーケディアがスペイスを挾み撃ちにする。

一方は手で作られた鈍を、もう一方は鈍くるパニッシャーを。

ほぼ同時に、腹と背中に叩きつけた。

ドグシャァッ!

今までとは違う、何かが潰れたような音。

に纏ったオリハルコンが損傷した証拠だった。

「ユリっ、トドメを!」

「さあ、殺しちゃえ!」

「頑張れ、私の噓……!」

イリテュムの分がスカートブレードの端をつまむと、その側から無數の短剣がバラバラと落ちてくる。

それらの短剣は意志を持つように満創痍のスペイスに殺到した。

ドドドドドッ!

短剣の形をした追尾型小型弾は。敵機にれるたびに発する。

一つ一つは小さな炎だが、それが無數に集まることによって――スペイスは、大きな炎に包まれ、オリハルコンの破片をぶちまけながら宙を舞った。

そして――地面に叩きつけられたスペイスは、ぴたりときを止める。

まだ鞍瀬に息はあったが、外部からの強い衝撃で意識を失ってしまったのだろう。

「勝った……の……?」

ヘイロスという化を見てきたからか、相手がかなくなっても安心はできなかった。

だが、周囲に設置されていた融解弾ソールが消え、スペイス自が放っていた熱も無くなったことが確認出來ると、ようやく実が湧いてくる。

「はい、どうやら私たちの勝ちのようですね」

「ふっふっふーん、帝國……じゃなくてわたしたちの強さ、思い知ったか!」

アーケディアが腕を天に突き上げ、勝利に酔いしれる。

その姿を見て、百合は自分のからふっと力が抜けるのをじていた。

◇◇◇

「なぜだっ、なぜっ、なぜっ、どうしてっ!」

一方、グラディアートとアヴァリティアキシニア、イーラクリプトの戦いも佳境に差し掛かっていた。

途中までは防戦一方だった2人だったが、気づけば戦況は逆転している。

がむしゃらにモラルタとベガルタを振り回すグラディアート。

だが、その太刀は2人にかすりもしない。

「アニマの能は、俺の方が圧倒的に上のはずなのに!」

グラディアートは瞬時にアヴァリティアの背後に潛り込み、斬りかかる。

だがキシニアは最初からそのきを読んでいたようで、まるで背中に目でもついているように、軽く回避してみせた。

さっきからずっとこの調子だ。

いつからか、グラディアートの攻撃は一切2人に當たらなくなった。

そしてやがて、一方的にダメージをけるようになり、今では敗北の二文字が近づいていることすらじる。

「オリハルコンの力はこんなに素晴らしいのにっ! 違うッ、違う違う何かの間違いだ! 俺がただのアニマに負けることなんて、ありえないはずなんだッ! だってオリハルコンだぞ!? 俺はオリハルコンなんだぞ!?」

もはや余裕が無くなりすぎて、発する言葉すら支離滅裂である。

キシニアとクリプトはそれを聞いて、ほぼ同時に「はっ」と失笑した。

「オリハルコンだか何だか知らないけどさァ、あんたは剣に関してはズブのシロートだ」

「素人なわけがない、俺は訓練だってけてきたんだ!」

「ならばそれが原因だな、年」

グラディアートの剣を軽くいなしながら、クリプトが言った。

「半端に訓練などけるから、読みやすい太刀筋になるのだ。今のお前より、がむしゃらに剣を振り回す素人の方がよほどやりにくいな」

「く――馬鹿にするなァッ!」

「馬鹿になんてしてないんだけどねェ。あーあー、的になるからそうやって振りが単調になる」

素早く繰り出される連続攻撃を、アヴァリティアはダンスでも踴るように軽やかに回避した。

再び背後を取られようとも、側面や頭上からの奇襲ですらも、読まれて全くあたらない。

「こんなことがっ、あってたまるかよぉっ!」

し落ち著け、癖・が丸見えだぞ」

間合いに呼吸、剣先の辿る軌跡、微かなき。

それら全てが、キシニアとクリプトに嶺崎の次の行を教えていた。

だから彼の攻撃は當たらないし、2人の攻撃は的確にグラディアートに命中する。

キシニアはベガルタによる斬撃をギリギリで回避すると、次の瞬間に一歩踏み込み、パラシュラーマでその手首を狙い打つ。

ガンッ!

強い衝撃に耐えきれず、その手からモラルタが弾き飛ばされ、離れた場所に突き刺さった。

「ほぉら、見たことか」

「オリハルコンの力が、こんなことで――」

「逆だな、異の力に頼るからそういうことになる」

クリプトはそう言いながら、側方からグラディアートに近づく。

大剣を殘ったベガルタでけ止めようと防の構えを見せる嶺崎だったが、イーラの大剣フロスは、途中でその軌道を変化させた。

そして先程のキシニア同様に、手首を狙い剣を叩き落とす。

「剣士が丸腰だなんて、哀れだねェ」

「あ……あ……」

「結局、力で埋められる差では無かったな、年よ」

「ああぁ……くそおぉぉっ……!」

を失い、くことしか出來ない嶺崎に、イーラがゆっくりと近づく。

「キシニア、いいのか?」

「キシシシ、今回は譲ってやるよ。あたしにはあんたみたいに決め技ってやつが無いからねェ」

「ならば遠慮せずに頂こう」

フロスの柄を両手でしっかりと握りしめ、グラディアートからし離れた場所で足を止める。

切っ先をグラディアートに向け、軽く息を吐くと――もはやきすら出來ない敵に向かって、一直線に突き進んだ。

「アペルティオー・フローリスッ!」

すれ違いざまに剣を振るうイーラ。

繰り出された斬撃は、命中する瞬間に花が開くように4つに分裂する。

ザシュウッ!

それらは全て敵を深く切り刻み、グラディアートはその場で膝をつく。

「オリハル、コンが……なぜ……」

最後まで汚染者らしい臺詞を吐きながら、彼はうつ伏せに倒れた。

剣を構えたまま、余韻を噛みしめるクリプト。

彼はキシニアほどの戦闘狂では無かったが、強敵との戦いを楽しむ程度には武人である。

「お見事」

半ばふざけながら、賞賛の拍手を送るキシニア。

ただし、アニマで拍手をしても、無骨な金屬同士のぶつかる音しかしないのだが。

「ふん、まだまだ若造に負けるわけにはいかんな」

「おっさんっぽい発言だねェ。ちなみに、どれぐらい障壁値HPは殘ってるんだい?」

「490だ」

「よっしゃ、あたしは530!」

言いながら、アヴァリティアはガッツポーズをした。

微々たる差で勝ち誇るキシニアに、呆れ返るクリプト。

「些細な差だ、興味はないな」

「とか言いながら、実は悔しかったりしてねェ」

「ぐ……」

図星だった。

常々キシニアだけには負けたくないと思っていたクリプトにとっては、屈辱的な結果である。

「ま、でもさ。こいつらも想像してたほどの強さじゃなかったよねェ。あたし、絶対に誰かが死ぬと思ってたよ。特にクリプトとか」

「俺もキシニアが死ぬと思っていたぞ。やはり元のアニマのスペックが重要なのだろう」

「あのヘイロスってやつがよっぽどだったってことか。アニマ使いってだけで將來が約束されたようなもんだってのに、得の知れないに飲まれちまうだなんて、もったいないったらありゃしない」

オリハルコンは、アニマの能力を數倍にまで引き上げる。

つまり、元の力の差がさらなる差となって顕著に現れるのだ。

ヘイロスは、素の狀態でも才能に満ち溢れた素晴らしいアニマだった。

それと比べれば、スペイスも、グラディアートも、ストゥーディウムも、まだ常識的な範囲の能力しか持たない。

とは言え、あらかじめそのアニマの特を理解していなければ、善戦することすら難しかっただろう。

「大さァ、皇帝が帝都のゾウブをそんままにしといてくれれば、こんなことにはならなかったんじゃないのかねェ」

「その時は外での戦闘になっただけだ。まあ、町は今ほど被害はけなかったかもしれんがな」

クリプトは倒れたグラディアートを眺めながら言った。

その時、帝都の一角が急に騒がしくなる。

キシニアが音のする方を見ると、そこには地面に倒れる緑のアニマと、手を上げながら勝利を喜ぶ亡命者たちの姿があった。

「お、あっちも終わったみたいだ」

「ストゥーディウムか。數の暴力には勝てなかったようだな」

「スペイスにも勝てたみたいだし、これで一件落著だねェ」

あちらの部隊には突出した能力を持つアニマは居なかったが、その分だけかなりの數を割いてある。

見る限り、犠牲者は多數だが、奇跡的に亡命してきた5名は生き殘っているらしい。

「こちらもトドメを刺して終わりにしよう」

「生かして尋問とかしないのかい?」

「話が通じる相手とは思えんな。それに、ヘイロスのように羽化されたらたまったものではないからな」

そう言いながらグラディアートに近づくイーラ。

しかし、彼は途中で足を止めた。

視界に、見慣れぬアニマが寫り込んだからだ。

「あれは誰だ?」

どこからともなく現れ、東區の方へと駆けてゆく正不明のアニマ。

その姿に、キシニアは心當たりがあった。

「ああ、亡命してきた連中の最後の1人。確か……ムツヒラだったかな、あいつのアニマ”ファッツ”だよ」

「ムツヒラ? 確か神的に不安定な狀態で、住民と共に避難していたはずではなかったか?」

「だねェ、今さら何のために出てきたんだか」

◇◇◇

「くーちゃんっ、くーちゃあんっ!」

そんな聲を聞いて、百合、エルレア、フランサスは一斉に聲の主の方を向いた。

百合だけは、その正を聲から見抜いたようだ。

「……六平さん?」

「ムツヒラというと、一緒に召喚された方ですよね」

「うん、あと鞍瀬さんの親友でもあるんだけど……」

ファッツは倒れたままかないスペイスへと駆け寄ると、そのを抱き上げた。

の別れってやつ? 嫌な予するから早く殺したいんだけどー」

「こ、殺さないでっ! くーちゃんは悪くないの!」

「うえ、めんどくさ……ユリに任せるね」

六平はフランサスの苦手なタイプだった。

相手をするのも面倒になったのか、骨に顔を逸らす。

「くーちゃん、私だよ。奏だよ?」

「お……はる……こ……」

「良かった、私がわかるんだね?」

明らかにオリハルコンのことしか考えていないのだが、六平の脳は都合よくその聲を自分の名前を呼んだのだと解釈したらしい。

「私にはくーちゃんしか居ないの、くーちゃんが居なくなったら、こんな世界で生きていけないよぉ……!」

「すば、らし……」

「くーちゃんも同じ気持ちなんだね? 私に……私に何か、出來ることがあれば……」

呆れ気味で、そのやり取りを見ていた百合とエルレアだったが、さすがに我慢の限界だった。

まだ鞍瀬は死んでいないのだ、トドメを刺すまでは安心できない。

「六平さん、もう手遅れだよ。例え生き殘ったとしても、鞍瀬さんは元に戻らない」

「戻らなくたっていいの、生きててくれれば!」

「じき、生きているとも呼べない狀態になりますよ」

「それでもいい!」

全く話が通じない。

百合は大きくため息をついた。

元からあまり好きなタイプの子では無かったけれど、まさかここまでとは、と。

「ユリ、実力行使に出るしかなさそうです」

「そうだね、まあ大した武裝は無かったはずだし。任せても良い?」

「もちろんです」

イリテュムは、テネリタスの肩を借りてどうにか立つことが出來ている。

こんな狀態で戦闘など出來るわけもなく、エルレアに任せるしかないのだった。

「……!」

そんな2人のやり取りを聞いて、警戒心をわにする六平。

ファッツは拳銃のような形をシた小型のソーサリーガンを握ると、イリテュムとテネリタスに向けた。

「やらせない……私が、くーちゃんを守るんだから……!」

「六平さん、いい加減にしてよ。私たちは命をかけて戦ってるの、そんなわがままを聞いてる余裕は無いんだって」

「わがままはあなたたちじゃないっ! 人が、人が死のうとしてるんだよ!? そんなの見過ごせないのは當然だよ!」

突然の正論による理論武裝。

もはや言葉での解決は不可能だと判斷し、テネリタスはテンタクルス・レイを放つ準備を始めた。

六平とて、自分のアニマが貧弱なことぐらい知っている。

今回の戦いに參加させてもらえなかったのも、もちろん神的に不安定だったとか、鞍瀬の存在だとか、そういう理由もあったのだろうが、一番の原因はファッツが弱かったからだ。

武裝もなく、スキルも無い。

その歯がゆさが、六平にさらに意地を張らせていた。

そんな時、彼の目にとある文字が映り込む。

見慣れない言葉、今まで表示されなかったそれは――ファッツにめられた、スキルだった。

條件1、周囲にHP0の味方アニマが存在すること。

條件2、自分自のHPMPが最大値の狀態であること。

普通に戦闘に參加していれば、絶対に満たし得ない條件。

今まで一度も表示されず、六平がその存在に気づかなかったのも仕方のないことだった。

今だって、彼が鞍瀬のことを自分の味方だと認識している、という歪んだ狀況だからこそ條件を満たすことが出來たのだ。

「そっか、これでくーちゃんを助ければ……」

六平は迷わなかった。

このスキルさえあれば、”くーちゃん”を救うことが出來る。

もはや彼の頭には、それしか殘っていなかった。

他人の命など、今の彼にとって塵以下の存在でしかない。

「くーちゃん、すぐに助けるからね! スキル発ブート、無責任な自己犠牲サクリファイス!」

宣言と同時に、ファッツから全ての魔力が解き放たれる。

六平の視界に映るHPとMPの値は瞬時にして0になり、エネルギーはの粒子となって帝都に散らばった。

まるで雪のように空から降り注ぐの粒。

それらは地面に積もることはなく、特定のアニマにゆっくりと集っていく。

「ファッツにはスキルなんて無かったはずじゃ!?」

が……スペイスを包み込んでいます」

そして機を覆ったは、ひび割れたオリハルコンを埋め合わせるように傷口にり込み、治癒・・していく。

その恩恵をけたのはスペイスだけではない。

グラディアートも、ストゥーディウムも、同様にに包み込まれていた。

無責任な自己犠牲サクリファイス。

その効果は、HPMPを全て消費し、周囲の味方アニマを全回復させること。

沢山の人が死んだ。

生存者も傷だらけだ、もう戦える狀態じゃない。

そこまでして、多大な犠牲を払い、ようやく倒すことができた3機のアニマは、今――無傷の狀態で、再び立ち上がろうとしていた。

「噓……だ」

夢だと思いたかった。

しかし、立ち上がったスペイス、そこから聞こえてきた鞍瀬の聲を聞いて、嫌でも現実だということを認識させられる。

「ありがとう、むーちゃん。負けたと思ったのにまた立ち上がれるなんて、やっぱりオリハルコンは素晴らしい質だね」

「よかったぁ、くーちゃんが無事で。くーちゃんが居なかったら、私、私……!」

「うん、うん、オリハルコンが無いと悲しいもんね、わかるよむーちゃん。でもね、今は戦わないといけないから、し離れた場所で待っててね。すぐにオリハルコンを教えてあげるから」

「わかった!」

理解を脳が拒むような會話を聞かされ、百合は目眩がするような気分だった。

肩を貸すエルレアも同様に、悪夢としか言いようのない狀況に、言葉を失ってしまう。

「みんな頑張ったのに、こんな、こんな理不盡なことって――!」

百合が絶している間にも、3機のアニマはき出す。

それぞれ相の悪い相手と戦っていたことに気づいたのか、スペイスは亡命者たちの方へ、グラディアートは百合たちの方へ、そしてストゥーディウムはクリプトとキシニアの方へと飛び立った。

クリプトは確信する。

これは負け戦だ、と。

しかし、百合の目から戦意は消えていなかった。

どんなに理不盡が相手でも、岬と再び會うまでは死ねない。

例え相手が誰であっても、すでに死にかけたであっても、諦めるわけにはいかない。

噓に噓を重ね、何があっても生き殘ってみせる。

そして、萬が一にも勝ち目など無い、絶の2ラウンド目が幕を開けたのであった。

    人が読んでいる<人喰い転移者の異世界復讐譚 ~無能はスキル『捕食』で成り上がる~>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください