《人喰い転移者の異世界復讐譚 ~無能はスキル『捕食』でり上がる~》86 天才たる所以

プラナスは膝を抱え、揺れる焚き火の炎をじっと見つめていた。

パチパチと、火花が天に舞っては消えていく。

まるで人の命のように、儚く、軽く、ちっぽけで。

王都カプトを出て4日。

徒歩で移するしか無い彼たちが、ミスリルとエリュシオンが眠るフォディーナに到著するには、まだまだ時間が必要だった。

アニマを使えばもっと早く到著していたのだろうが、そう出來ない都合がある。

カプトから出発する直前、聖典を盜み出したのが水木だという事実をグラティア教が突き止めてしまったのだ。

まあ、すでに彼の生徒は1人も殘っていないのだから、気づかれるのは時間の問題だったのだろう。

以降、プラナスたち3人は王國の追っ手に狙われ、目立つアニマを使うわけにもいかず、ゆえに徒歩での移を強いられていた。

フォディーナに到著するまで、徒歩だとさらに4日と言ったところだろうか。

そこから封印を解除し、エリュシオンを奪取する。

王國の戦力はすでに帝國との國境地帯に集結しはじめているようだが、開戦の準備にはまだ時間がかかりそうだ。

できれば戦いが始まるまでにエリュシオンを手にれておきたい。

計算通りに事が進めば、そのみは葉いそうだ。

問題は、ソレイユをるための”資料”がそれまでにプラナスの手に渡るかどうかだが――

「おいプラナス、聞きたいことがあるんだが」

思考に耽っていたプラナスは、不快な聲で急速に現実に引き戻された。

「勝手に聞いてください、答えたくなかったら無視するので」

「ああ、なら勝手にさせてもらう。聖典には”呪”ってのが載ってんだろ? だったら、それを使えばフォディーナまで一瞬で移できたりしねえのか? 異世界から移させる魔法があったんだ、同じ世界で移させることもできるはずだ」

「無いわけではありませんが、違う世界同士を繋ぐ方が楽なんですよ」

あくまでイメージでしか無いが、世界を1つの球だと仮定する。

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2つの球を繋げる場合、球同士を繋ぐ筒――つまり通路パスは一直線で済む。

しかし同じ世界の異なる場所を繋げようとすると、通路を曲げなければならない。

この通路を曲げる、という行為に大量の魔力を消費してしまうのである。

「ワープの魔法に限った話ではなく、聖典に記されている呪の多くは、消費する魔力量があまりに多すぎて、そもそも発が不可能な代ばかりです。魔法の研究が進む途中で生まれた、夢の詰まった機上の空論ですね」

「はっ、時間をるだの魂を弄ぶだの、それが出來るならって期待したんだがな。役に立たねえな」

「そんなに頼るぐらいなら、エリュシオンを手にれる方がよっぽど現実的ですよ」

プラナスがそう言い切ると、水木は興味を失ったのかそれ以上は會話を続けようとはしなかった。

そして再び暇になった彼は、隣に居るソレイユの肩に手を回した。

「んっ……」

そのまま、彼を鷲摑みにする。

「待てセンイチロウ、プラナスが見てるぞ?」

「んだよ、いいだろ? あいつぁいいんだよ、気にしたって仕方ないって」

再び炎に視線を向けるプラナス。

その向こうでは、水木とソレイユがを寄せ合って何かをしている。

岬を殺す。

その目的が共通していることを利用して、水木はソレイユを口説き落とした。

ソレイユ自が、簡単に他人を信用してしまう人間だったこともあって、彼は水木の思通り、いとも容易く彼に心とを開いた。

それから、2人は時間が出來るごとに猿のように盛っていたが――プラナスにとってはどうでもいいことだった。

學者でもあるまいし、獣同士の尾を観察する趣味は無いのだ。

「連絡でも取りますか……」

そう小さく呟くと、プラナスは立ち上がり、水木たちから離れた。

彼は視線だけでプラナスを追ったが、”トイレにでも行くんだろ”と自己完結し、それ以上深くは考えなかった。

◇◇◇

「ラビーさん、応答をお願いします」

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キャンプから離れ、暗い森の中で木の幹に背中を預けたプラナスは、オラクルストーンに問いかけた。

するとすぐに返事がくる。

『どうしたんですかプラナスさん、こんな夜遅くに』

「現在位置を聞こうと思いまして」

『今はトランシーの南方ですね。明かりも見えているので、そろそろトランシーには到著しそうです。ここで食料を調達して、一気にプリムスを目指したいと思います』

「一気に……そう言えば、テームとディンデはもう存在しないんでしたね」

『はは、ボクたちが壊しちゃいましたからね』

ディンデは、かつて兎のような姿をしたアニマと戦し、山賊のアニムスに破壊させた町。

そしてテームは、魔使いのフリーシャの敵討ちをするために、魔たちが躙した町だ。

どちらも、現在ではただの廃墟と化していた。

つまり、最短ルートで王都を目指そうとすると、トランシーからプリムスがぽっかりと空いているということになる。

「人里が無ければ魔も増えているでしょう、あと山賊も。オリハルコンの影響か、異様にアニマ使いも増えています。気をつけてくださいね」

『そう……ですね。どこもかしこも異常ですよ。誰もが口を揃えてオリハルコンについて語り、そして町の外――ゾウブの範囲外には、數え切れないほどのアニマが闊歩している』

ラビーは暗い口調で言った。

トランシーという町の中で、正常なのはもはや彼だけなのだ。

『むしろ、自分がおかしいんじゃないかって錯覚してしまいそうです』

「確かに、すでにこの國において”異常”であるのは私たちの方なんでしょうね」

『油斷してると”正常”の波に飲み込まれてしまいそうです』

王國において、オリハルコンの末は、萬能の薬のような扱いであらゆる場所に出回っていた。

誰もがアニマ使いになることが出來る。

さらに能力や自己治癒力も向上するとなれば、危険を知らない國民たちが手を出さないわけがないのだ。

そしてその素晴らしさを知った人間たちは、周囲の人間、特に自分が大事だと思っている相手に、良かれと思って・・・・・・・オリハルコンを與えようとする。

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『おかげで、トランシーの名もロクに食べられそうにありません。隠し味なんてれられたらたまりませんから』

ラビーは、オリハルコンの末を食事に仕込まれたらたまらない、と出される料理にも可能な限り手を出さないようにしているらしい。

食事は、食材を調達し自分で作っている。

ここで修行の時にに著けた自炊能力が役立ってしまったわけだ。

『ところで、プラナスさんはどのあたりにいるんですか?』

「王都とフォディーナのちょうど中間あたりに」

『なるほど、あと4日って所ですね。追いつければいいんですが』

「最悪、フォディーナの町で會うことになるかもしれません。間に合わなかったらどうにか引きばしてみます、どうせ封印解除は私にしか出來ないんですから」

『気をつけてくださいね、ミサキさんの大事な人を殺すような男なんです。何を企んでいるのかわかりません』

「ふふ、心配ありません。企みならこちらも負けませんから」

暗闇の中で、プラナスは悪役めいて笑った。

実際、これは騙し合いだ。

そしてその騙し合いにおいて、プラナスには絶対の自信があった。

自分の能力を過信しているのではなく、水木程度に頭脳で負けるわけがない、と確信しているからだ。

「ん……?」

お互いの経過報告を終えたところで、プラナスは不意に周囲を見渡した。

石の向こうから違和を察したラビーが問いかける。

『どうかしたんですか、プラナスさん』

「いえ、大したことではありません。どうやらいつの間にか囲まれているようです」

プラナスは慌てる様子もなく、冷靜に言った。

その対応が、むしろラビーを戸わせてしまったようで。

『囲まれてるって……いやいや、大したことですよっ!』

「そうかもしれませんね。さて、私は繰り合っているミズキの元へ戻らなければならないので、お話はここまでということで」

『大丈夫なんですか!?』

「さあ? 今のところ敵が何人かはわかりませんが、いざとなればミズキたちは見捨てて私だけでも逃げますよ。シロツメさんには申し訳ありませんが」

あまりに淡々と話すプラナスに、ラビーの不安は増す一方だ。

『プラナスさんっ!』

「なんでしょうか」

彼は自分の不安を取り除く、と言う意味合いも込めて、彼にエールを送ることにした。

『頑張って下さいね!』

姿は見えないというのに、石の前で必死に握りこぶしを作って、力強く告げる。

場にそぐわない、”頑張れ”というあまりにストレートな言葉に、プラナスは思わず笑いそうになってしまった。

だが、おかげでしだけ元気は貰えた気がする。

「ええ、お互いに」

ラビーにそう告げると、プラナスはオラクルストーンをしまい込んだ。

おそらく、プラナスたちを囲んでいるのは、全員がアニマ使いだろう。

そこまでして必死で聖典を探しているという事は、やはり王國も最終的にはエリュシオンを手にれるつもりでいるのか。

「あんな過ぎた力を手にれてどうするつもりなのでしょうね」

エリュシオン――その力源である無限円環エンジン。

文字通り、無限にエネルギーを作り出す夢のような、そして悪魔のような機関だ。

さらに、無限円環エンジンによってチャージしたエネルギーを一気に放出する主砲は、文字通り人間の文明を破壊しつくす程の威力をめている。

しかも、高度な人工知能を搭載し、自己メンテナンス機能まで備え、人數での運用も可能。

獨裁者の理想が詰まったような兵ではないか。

しかし――

「世界を滅ぼしてしまえば、支配する対象も居なくなってしまうというのに」

支配者が支配者足りうるのは、被支配者が居るからである。

人々が消えてしまえば、ただの孤獨な人間に過ぎない。

だが彼らは、スイッチを押さずにはいられない。

なぜなら彼らは、不運にも力を持ってしまっただけの愚か者だからだ。

愚か者は未來を想像できない、目先の利益に飛びつく。

水木もその同類だ。

彼は常に全力を出さず、舌なめずりして獲をじっくり味わうタイプの人間だ。

その本が、毒を扱うアニマ”マリティア”にも現れている。

しかしだ、を抑制できるタイプの人間でもない。

でなければ、彩花を殺すという最悪の選択はしなかったはず。

ゆえに、追い詰められた彼は、怒りに任せて必ず主砲を放つだろう。

そして世界は破壊しつくされ、滅びる。

それこそが――今のプラナスの、目的であった。

「さあ、それまではせいぜい、お互いを利用しあいましょう――」

敵の存在に気づいた水木とソレイユが、一足先にアニマを発現させる。

し離れた場所に現れたマリティアとウェールスの姿を見て、プラナスもに手を當て、自らの力を解放する。

喪失の記憶を噛み締めながら。

「共に行きましょう、アイヴィ――レスレクティオッ!」

夜空に響くプラナスの聲。

そして闇夜を貫く、の柱。

その中から姿を現すのは、”王の城壁”とも呼ばれた気高き騎士だ。

「プラナスッ、お前が焚き火なんかするせいで囲まれてんじゃねえか!」

「お、おいセンイチロウ。それはさすがに……」

「ソレイユは黙ってろよ!」

「……わかった」

そもそも焚き火をしようと提案したのは水木だ。

あまりにお門違いな罵倒に、プラナスは聞く価値なしと判斷し、無視を決め込んだ。

「てめぇ無視すんのか? おい、暗メガネ!」

「子供並みの語彙力ですね。そんな余裕があるのなら敵に向き合ったらどうなんですか?」

周囲を取り囲む、アニマの発現を示すの柱は1つや2つではない。

「10、20……いや、それどころじゃないぞ、數え切れないっ!」

「んだよ、どこからこんなに沸いてきたやがったんだよ!」

「ひょっとすると、もっと前から見つかっていたのかもしれません――ねっ!」

レスレクティオは柱群に自ら突っ込むと、姿を表したばかりのアニマを攻撃する。

ギュイイィィィィッ!!

が手に持つ巨大なランスは、敵に接するとその先端が高速で回転しだす。

そして刺突だけでは削りきれなかった殘りのHPを奪い、先端が敵機を貫いた。

「まずは1

これだけの數が居るのだ、おそらく彼らはオリハルコンを摂取することによりアニマ使いとなった者たちだろう。

つまり、まだまだ生まれたばかりの稚児のようなもの。

どんなに能が優れていようと、レベルが低ければ能力はたかが知れている。

騎士団長として戦ってきたアイヴィのステータスを引き継ぎ、その上にプラナスの力まで加わった今のレスレクティオならば、一撃で仕留めることも容易かった。

もっとも、これだけ數が居ると余裕とまでは行かないが。

パシュンッパシュンッ!

らを囲むアニマが、ソーサリーガンを斉する。

圧倒的量で迫る弾幕。

プラナスは回避することを諦め、可能な限り被害のなく、かつ敵と近い場所に移

「うわああぁぁっ!」

「センイチロウッ!」

水木はソレイユに守られながら、どうにかソーサリーガンの被害をまぬがれる。

しかし、ウェールスの方がかなりダメージをけてしまったようだ。

確かにマリティアは一般的なアニマに比べてあまり頑丈ではない。

高いHPを持つウェールスが壁になること自はそうおかしな話ではないのだが――なぜか守られた水木は、自分が痛みをけたかのように激昂する。

「くそがっ、くそがっ、くそがぁっ! 調子に乗りやがって、死ねよぉっ!」

「待てセンイチロウ! 1人で突っ込むな!」

相変わらず協調の無い男ですね、とプラナスは彼を蔑視する。

しかし、それでも何だかんだで生き殘っているのだから悪運の強い男だ。

プラナスがよそ見をしていると、眼前に次のアニマが迫る。

しかし彼は近距離からのサーベルによる攻撃をを捻り回避すると、その捻りを利用して槍を突き刺した。

「2目」

視線を右に向ける。

中距離、ランスが屆かない距離に敵が1機。

どうやら近づいてきて手に持った短刀で斬りつけるつもりらしい。

それより先にランスの先端を敵機に向ける。

「スティンガー、出シュート」

宣言と共に、ランスの先端が高速回転しながら出される。

ギュイイィィィィ――ガガガガガガッ!

まさか槍が飛んでくるとは思ってもいなかったのか、敵アニマはそれをのど真ん中でけ止めると、HPはみるみるうちに減っていき――貫通。

カシャンッ!

敵の撃破を確認すると、先端を失ったランスから細く長い棒が現れる。

そして棒は傘のように開き、ランスは出する前の狀態に戻った。

「3目……いや、一ずつ數えていてもキリがありませんね」

次に迫るは、10機を超えるアニマ。

それが四方八方からほぼ同時に攻撃を仕掛けようとしている。

「ですが、レスレクティオをただのアニマと思ってもらっては困ります」

それでもプラナスの余裕は崩れない。

「スキル発ブート、現実の否定ファンタズム」

槍を立て、以前のレスレクティオには無かった、本來の持ち主になったがゆえに習得したスキルを発する。

その効果は――

「グレイブヤードグールズ」

――本來なら人に対して適用される魔法の規模を、アニマのサイズにまで拡張する。

プラナスが魔法を発すると、レスレクティオを囲みつつあったアニマたちの足元に、無數の”手”が現れる。

手は機に絡みつくと、彼らは一切きが取れなくなった。

はそこに、腕を天にかざしながら、さらに追撃の魔法を放つ。

「モノリスアスフィキシア」

アニマたちの頭上に、巨大な石版が現れる。

レスレクティオの腕が下げられると、連するように石版も落下した。

ドシャアァッ!

10機のアニマは、1機も逃れることはなく、石版に押しつぶされ圧死した。

「いっけぇっ、ナグルファル!」

一方で、ソレイユも三つ爪を駆使して次々とアニマを撃破していく。

「トキシックバブル! 苦しんで死ねよ、死ねよおぉっ!」

水木も他の2人に比べると劣るが、それでも善戦はしていた。

気づけば、彼らを囲むアニマは50機を越えている。

しかし、プラナスの圧倒的な強さの前では、50機程度では力の差は埋められなかった。

「ペインフルフィールド」

『ぎゃあああァァァぁっ!』

プラナスの周囲から、野太いび聲が轟く。

再び囲まれたプラナスだったが、ただ相手に痛みを與えるだけの魔法”ペイン”の拡張版――ペインフルフィールドを発し、近寄ってきたアニマ全てを戦闘不能に追い込む。

中にはあまりに痛みに意識を失ったり、ショック死してしまったものもいるようだ。

これで殘る敵アニマは數えるほどになったが、それでも彼は、余裕を見せても油斷はしない。

「おい、あれまさか……」

水木が王都の方角の空を指差す。

その先に居たのは、空を飛び、こちらへ近づいてくる赤と青の2機のアニマ。

「アニマ・アニムスじゃねえのか……?」

「王國も聖典を取り戻すために本気みたいですね」

「逃げようプラナスっ、さすがに分が悪いよ!」

敵前逃亡を提案するソレイユだったが、プラナスは返事すらしなかった。

はただ空を見上げ、オリハルコン製のパーツ――アニマ・アニムスを全に纏った2機のアニマが近づいてくるのを待っている。

「一度ぐらい叩きのめしておかないと、気が済まないとは思っていたんです」

プラナスは、怒りを孕んだ聲で言った。

アイヴィを死に至らしめた、憎きオリハルコン。

それを全に纏ったアニマ。

の中に渦巻く復讐の炎が、それを打ち倒したがっていたのだ。

「知らねえぞ、俺は逃げるからな!」

「ええ、殘りのアニマを撃破したら好きにしてください。私も、あれを倒したら追いかけますから。ソレイユさんも、飛んでいる敵が相手では役に立てないでしょう? ミズキと一緒に逃げていいですよ」

「……わかった。悔しいけど私も退かせてもらう」

プラナスから見ても、ソレイユは素直で、格も良く、頭も悪くない。

これでもうちょっと疑り深ければ、悪い男やに騙されることも無いだろうに。

離れる彼を憐れみながら、プラナスは空の敵を迎え撃つために魔法を発する。

「エアリアル」

風を纏ったレスレクティオが、ふわりと浮かんでいく。

一般的に、特殊なスキルを持つアニマや、翼のある魔以外は空を飛ぶことは出來ないのだが、プラナスにはそんなことは関係なかった。

自らが習得した魔法を全てアニマでの戦いにも転用できる彼は、無數のスキルを持つに等しい。

「アクセラレイト」

続けてかけるのは、加速の魔法。

そしてレスレクティオは、接近しソーサリーガンの銃口をコチラに向ける2機のアニマに向けて――

「ブーストバースト」

足元に小規模な発を発生させ、加速することで猛スピードでチャージをかけた。

ゴオォオオオオッ!

まるで風を切る矢のように、瞬く間に敵との距離を詰めるレスレクティオ。

突然の出來事に、敵機は慌ててソーサリーガンの引き金を引くも、ぶれた照準では良くて裝甲をかすめるだけだ。

「はああああぁぁぁァァッ!!」

ギュオオオオォォオオッ!

プラナスの気合のった掛け聲に合わせるように、ランスの先端が回転し、唸りを上げる。

そのままの勢いて突き出された一撃は、いくらアニマ・アニムスを纏っていようとも、無視できないほどの威力をめていた。

ズガガガガガガガッ!

ドリルのように渦巻くランスが、赤い敵機の部を穿つ。

攻撃を止めようと敵アニマは槍の先端を摑むが、止まるどころか、さらに接する面積が増し、HPの減スピードが増すだけだ。

すかさずもう1機の青いアニマが、味方を救うために、レスレクティオに向けて鎖付きの鉄球を放つ。

「ちっ」

プラナスは舌打ちをして鉄球を回避。

離れた途端に赤いアニマの肩が開き、無數の球をばら撒く。

するとぜる、浮かぶマキビシのようなものだ。

それで接近を防いだ上で、巨大なソーサリーガンを両手で抱え、レスレクティオに向けた。

「スプレッドアイス」

魔法の発

レスレクティオの手のひらから無數の氷が放たれ、ばら撒かれた球を全て潰す。

パァンッ!

氷にれると、球は乾いた音を響かせながら破裂した。

発してくれれば目くらましになるかと期待したものの、思っていたぜ方とは違ったようだ。

直後に放たれた大型のソーサリーガンを後退しながら回避。

しかし続けざまに青いアニマが放った鉄球までは避けきれない。

「ソーサリーチェインッ!」

寸前、プラナスは魔法を発させる。

ガシャアンッ!

レスレクティオは、重い一撃を両手をクロスしながらけ止めた。

「い、うぅっ!」

さすがにアニマ・アニムスを纏っているだけはある。

ただのアニマとは比べにならない、あまりに強い衝撃だった。

レスレクティオは、一気に地面へと吹き飛ばされる。

しかし、ただやられただけではない。

鉄球と衝突する直前にプラナスが唱えた魔法により、レスレクティオと赤いアニマは魔法の鎖により繋がれていたのだ。

つまり、地面に叩きつけられるのなら、敵機も道連れになる。

ズウウゥゥンッ!

2機のアニマが接地する。

レスレクティオはどうにか著地勢を取ったが、鎖でつながれた赤いアニマは、勢を崩したまま地面に転がった。

「もらいました」

プラナスは倒れたままの敵機との距離を一気に詰め、ランスを回転させる。

そしてを踏みつけながら、その顔面に突き刺した。

ギュイイィィィ――ガリガリガリガリッ!

回転する槍を押し付けられ、赤いアニマの頭部が激しく震える。

だが、アニマ・アニムスを裝著した敵を倒すには、まだ威力が足りない。

「エンチャントウィンド」

ビュオオオォ!

槍が風を纏い、激しく渦巻く。

時にその風は刃となって、敵の裝甲を傷つけた。

「エンチャントフレイムッ」

ゴオオォッ!

さらに槍が炎を纏う。

魔法によって生み出された炎は風と混ざりあい、暗闇を赤く照らしながら敵を溶かし盡くす。

「グレイヴランスッ!」

ガッ、ガガガガガガッ!

さらに地面から回転する巖の槍が突き出す。

顔面からのランスと、後頭部からのグレイヴランスの挾み撃ち。

これにはさすがの敵も為す無く、頭だけでなくまで痙攣させはじめた。

上空の青いアニマは慌ててソーサリーガンを放つも、揺しているからかレスレクティオには當たらない。

近くの地面をえぐるだけだ。

ガガガガガ――ゴッ、グシャアアァァッ!

そして、ついにHPを失った赤いアニマは、回転する2本のランスに頭部をミキサーのようにかき混ぜられ、かなくなった。

「あと、1機」

プラナスが夜空を見上げると、そこには接近し、鉄球によって仲間を救出しようとした青いアニマの姿があった。

2機同時ならともかく、1機なら――今のレスレクティオで、問題なく相手できる。

浮遊魔法の効果はまだ継続している。

レスレクティオはふわりと舞い上がると、青いアニマと真正面から向き合った。

ここからは、近接戦闘を得意とするアニマ同士の、力と力のぶつかり合い。

敵は鉄球を振り上げ、全力でレスレクティオに投擲した。

「フィジカルゲイナー」

プラナスは筋力増強の魔法をかけ、避けもせずランスを構える。

ガギィンッ!

そして、迫る鉄球をランスで撃ち落とした。

すぐさま2撃目、それも弾く。

3撃目、突き落とす。

4撃目、5撃目、6撃目――青いアニマによる攻撃を盡く潰し、レスレクティオはじわじわと距離を近づけていく。

その距離が、ランスの程範囲にまで近づいた時。

青いアニマの使い手は、荒い呼吸を繰り返しながらつぶやく。

「オリハルコンは素晴らしい質だ、負けない、負けないはずなんだ、オリハルコンは素晴らしい質なのだから」と。

プラナスは、その男が憐れでならなかった。

気づかぬうちに汚染され、利用され、戦いに駆り出され。

あんなものさえ無ければ、死ぬことなんて無かったのに、と。

「オリハルコンのっ、オリハルコンの力をおぉおおおおっ!」

もはや鉄球での攻撃は不可能な近距離。

腰にぶら下げていた短剣を握りしめると、破れかぶれでレスレクティオに斬りかかる。

プラナスは心をすことなくそれを避けると、ランスの先端で軽く敵の裝甲にれ、そのまま通り過ぎた。

今のはマーキングだ。

プラナスの持ちうる、最大威力の魔法を発させるための。

土、火、氷、風。

四屬を同時発させる魔法など、現存する魔法師ではプラナスにしか扱うことは出來ない。

人間相手に使えば、瞬く間に人がミンチとなる、文字通り”必殺”の魔法を――プラナスは淡々と発させた。

「ディザスター」

それは繭のようでもあった。

ゴガッ、ガガゴゴッ、グオオォオッ!

局地的に渦巻く強風が青いアニマのきを封じ込め、さらに炎が裝甲を焼き盡くす。

そこに巖が巻き込まれ、人大ほどある巨大な氷も共に渦巻き、敵機を々に砕いていく。

プラナスは、それでもまだ足りないと、槍の先端をディザスターで躙される青いアニマに向ける。

「アクセラレイト、スティンガー」

槍に加速魔法を付與した上で、出する。

シュゴオオオオォオオッ!

回転速度、初速共にアクセラレイトにより増大し、數倍の威力に跳ね上がったスティンガーは、まっすぐに青いアニマに向けて飛翔した。

ただでさえ死にだって彼に突き刺さる、過剰なる一撃。

もはや青いアニマの使い手には、自分のがどうなっているのかもわからず、ただただ鋭い痛みだけをじて、意識は遠ざかっていく。

同時に、障壁を失った機も、潰され、砕かれ、曲がり、捻れ、貫かれ――ディザスターの効果が切れると、ただの鉄くずとなって、地面に落ちてゆく。

カシャンッ。

ランスの次弾が自的に裝填され、傘が開くように元の姿に戻った。

「ふぅ、こんなものですか」

敵の全滅を見屆けたプラナスは、ため息をつく。

実はこれが、彼のアニマによる初めての戦闘だったのだ。

の損傷はほぼ無かったが、神的な疲れがどっと押し寄せる。

「やはり戦闘は向いてないですね、デスクワークの方がに合っています」

この臺詞を、たった今殺されたアニマ使いたちが聞けば、どう思うだろうか。

だが、それが彼の強みでもある。

油斷しない、自らを完全であると驕らない。

天才であるという自覚はあろうとも、欠點はあるはずなのだから。

エアリアルの効果が切れ、地上に降り立ったレスレクティオ。

は、ゴミのように転がる青いアニマの亡骸を見つけると、つま先で蹴飛ばした。

「元が弱いアニマにオリハルコンを使ったところで、強さなどたかが知れているというのに。勿無いですねえ、ほんと。予算の無駄遣いです。その分だけうちのラボに渡してくれていれば、もっと果を出せたと言うのに」

アニマ・アニムスの製造費はそう安くはない。

たった2機とはいえ、それが破壊されるのは、王國としても痛手なはずなのだ。

「それとも、雑魚アニマにも使えるほど量産制が整ったのでしょうか。だとしたら――」

プラナスは振り返り、空を見上げた。

その向こうには王都が、さらに向こうには帝都がある。

「あなたが王國に勝たなければ、全ては臺無しですよ」

そのメッセージは、岬に向けたものだった。

作戦はすでにき始めている。

全ては、岬の復讐を完遂させ、プラナスの目的を達するために。

「全部で5人……いや、予定通りならすでに3人ですから、あと2人ですね。ふぅ……どうかシロツメさんが良き終末を迎えられるよう、遠くから祈っています」

そう空に向かって言い放つと、プラナスはすでに退避している水木たちと合流するために、その場を去っていった。

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