《人喰い転移者の異世界復讐譚 ~無能はスキル『捕食』でり上がる~》99 復讐とは幸福な未來を摑むための手段である

前線基地へと戻った僕たちを迎えたのは、生き殘った兵士たちの歓聲だった。

まるで英雄を迎えるのかような喝采――いや、実際そうなのかもしれない。

結果的に、ではあるけれど、絶的な量差があったはずの王國に勝利し、そして最後の脅威であったエリュシオンも墜ちた。

もはや帝國の勝利は確実なのだから、戦いにおいて大きな功績を殘した僕らは、紛れもなく英雄なんだろう。

慣れない賞賛に、顔が熱くなる。

僕だけでなく、共に歩く百合、エルレア、彩花も恥ずかしそうにしていた。

プラナスとアイヴィは、基地の手前で待機している。

的、神的に満創痍だったソレイユは、り口で門番の兵に任せて醫務室に案してもらった。

さすがに王國の人間を、いきなり帝國の基地に招くわけにもいかない。

リアトリスが死んだ今、軍の指揮権を持つのは、彼から次期皇帝に指名されたクリプトである。

彼に會うため、大勢の兵たちをかき分けながら基地中央にある施設に向かうと、その途中で1人のが前に現れる。

は両手を強く握りしめながら、仁王立ちをするように道のど真ん中に立っていた。

ずっと不安と戦いながら、僕らの帰りを待ってくれていたんだろう。

僕と百合、エルレアの3人が足を止めると、彩花が戸う。

そっか、彩花にはフランの姿が見えてないのか。

そのへんはあとでどうにかするとして――まずは目に涙を浮かべた彼をどうにかしないとな。

「フランサスさん、ただいまです」

真っ先に彼に聲をかけたのはエルレアだった。

百合と僕も続く。

「ただいま、フランサスちゃんっ」

「心配かけてごめんね、無事に帰ってこれたよフラン」

その聲を聞いて、さらに涙がこみ上げてきたんだろう。

フランは下を強くかんで、さらに零れる涙を抑え込んだ。

どうやら、エルレアの死は彼の心に大きな影響を與えたらしい。

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こうして泣いてくれる程度に、僕らの帰りを待ちわびる程度には。

僕はエルレア、百合と順番にアイコンタクトを取ると、フランに歩み寄り、腰を落として目線を合わせ、頭をでた。

すると彼の言葉を封じていた氷が溶けたように、ようやくフランは口を開く。

「もう、誰も……帰ってこないんじゃないか、って……っ。エルレアが、死んじゃって……わたし、ひとりぼっちになっちゃうのかな、って……!」

ついにボロボロと泣き出したフランを、橫から近づいたエルレアが抱きしめる。

同様に百合も、手を重ねるようにそのを抱きしめた。

そして僕は、頬に手を當て、しっかりと目を合わせて宣言する。

「これからはずっと一緒だよ、もう不安になんてさせないから」

「うんっ……ぜったいだよっ!」

「約束する」

「私だって、嫌と言っても離れてあげませんからね」

「うんうん、こーんな可い子、離せって言われたって無理だもん」

フランの表に、ようやく笑顔が燈る。

年相応の、子供らしい笑顔が。

その顔を見て満足していると、今度はお姉ちゃんが近づいてきた。

「おかえり、岬ちゃん、エルレアちゃん、百合ちゃん、それに彩花ちゃんもっ」

「えっ、命さんっ!?」

「そっか、彩花はお姉ちゃんが來てるのは知らなかったんだっけ」

「うんうんっ、同じクラスのみんなだけだと思ってたのに……お久しぶりですっ」

今回の作戦の全てを知っていたお姉ちゃんは、フランほど取りしては居なかった。

けれど、やっぱり死を経て蘇る、という無茶な魔法の存在を信じきれなかったんだろう。

その目の端には涙が浮かんでいる。

これは弟……もとい妹として、ちゃんと安心させてあげないと。

「お姉ちゃん、ただいま」

僕は彼に近づき、そのを抱き寄せる。

こうしてれ合わせることによって伝わるが、僕が生きてるっていう事実をお姉ちゃんに実させるはずだから。

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「岬ちゃん……よかったねぇ、本當に、うまくいってよかった……!」

お姉ちゃんも僕の背中に腕を回し、僕らは強く抱き合った。

こんな時でも、自分の不安が融解したことではなく、僕の計畫が就したことを喜んでくれる。

やっぱ優しいな、お姉ちゃんは。

敵わないや。

「あの、さ」

僕はお姉ちゃんの耳元に口を近づけ、囁く。

「帝都に戻ったら2人きりで話したいことがあるんだ」

「え、それって……」

”答え”は、あとのお楽しみってことで。

僕がを離すと、お姉ちゃんは顔を真っ赤にして固まってしまった。

でも、直解除までの面倒を見る時間はなさそうだ。

次々に僕を迎える人が現れる。

近づいてくる彼を、僕は右手を上げて待ち構えた。

意図を察した彼も左手を上げると――

パチンッ!

僕とラビーは、ハイタッチをわす。

「ありがとうラビー、君が居なきゃ死んでた所だったよ」

「ボクなんかでも力になれるものなんですね」

あんまり謙遜しないでしいな、冗談抜きでピンチだったんだから。

「今までもずっとそうだったじゃん、ラビーが居なきゃ帝國にもたどり著いてなかったかもよ?」

「大げさですよ、みなさんの力がほとんどです。あと、マーナとガルムも基地に居ますから、あとで會ってあげてくださいね」

れるとはさすが帝國、懐が広い。

ま、彼らも人懐こい格だったし、一度れられたらみんな可がってくれるだろう。

さて、ラビーと軽く挨拶を済ませた所で、次にやって來たのはキシニアとクリプトだ。

「すいません、こちらから顔を見せるつもりだったのに」

クリプトの顔を見るなり、僕は頭を下げた。

なにせ相手は皇帝なんだから。

「気にするな、英雄の凱旋なのだからな」

「キッシシシ、むしろこっちが頭を下げなきゃいけないぐらいかもねェ」

想像していたよりも元気な2人の姿に、僕は安堵する。

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いくら新たな兵裝を裝備していたとはいえ、あの大量のアニマ・アニムスと戦して生存するのは至難の業なはず。

なのにほぼ無傷なんだから、さすが四將を名乗るだけはある。

腕だけで言えば僕なんかよりずっと上なんだろう。

誰も彼もが、僕らの帰りを好意的にれてくれている。

ふと、1つの疑問が湧き上がってきた。

皇帝リアトリスの死は、すでに誰もが知っているはずなのに――なぜ嘆いていないのだろう、と。

「あの、クリプトさん。皇帝陛下のことは、どう伝えてあるんですか?」

「エリュシオンに特攻をかけたことは皆知っているさ、もちろん死んだこともな」

「でもそれにしては……」

「悲しんでるやつが居ないって? キシシ、むしろみんな讃えてるぐらいだよ、命を賭けて敵に特攻を仕掛けた偉大なる皇帝、ってね」

ああ、そっか、そういう考え方をする國なのか。

なら……良かった、のかな。

「むしろ、エリュシオンを墜としたのは皇帝陛下の功績だと思っている兵が多いぐらいだ」

「やっぱりそうなんですね」

スペルヴィアが特攻しても、エリュシオンに大きなダメージを與えることはできなかった。

僕は、水木に主砲を撃たせるためだけに、彼の命を使ったのだ。

けれど、リアトリスが居なければ天國の門ヘブンズゲートが立しなかったのも事実。

「皇帝陛下は全てを理解した上で引きけたのだ、あまり考え込むな」

「わかってます」

それでも、責任をじずにはいられない。

だって、これだけ湧いている場所を見回しても、ビオラさんの姿はどこにも無いんだから。

今頃――どこかの部屋で、1人涙を流しながら膝を抱えているんだろうか。

「暗い顔すんじゃないよ、あんただってまだ四將なんだからねェ。現実はあとから嫌ってほど見えてくる、だったら今ぐらいは笑っときな、兵や、あんたのするたちのためにもね」

……そうだ、キシニアの言う通りだ。

みんな生きて戻れたことを、心の底から喜んでいる。

そこに僕の勝手で水を差すようなことはしたくない。

何もかも綺麗に解決、というわけにはいかないけれど――今だけは忘れて、僕は笑った。

◆◆◆

基地の外では、プラナスとアイヴィが大きな木の下で肩を寄せ合い、岬たちの帰還に湧き上がる基地の様子を眺めていた。

「騒がしいですね、いつになったら私たちはれるのでしょうか」

「仕方ないだろう、今や彼たちは帝國にとっての英雄だろうからな」

「勝利の神と言うわけですか。ですが、おかげで私たちが帝國にれられる可能もぐっと高まったわけですね」

「なにせ四將だからな。プラナスがミサキを帝國に送ったのは、それが目的だったのだろう?」

「最初だけですけどね。最終的には隨分と大事に発展してしまいました」

戦爭は王國劣勢で進み、じきに帝國が勝利する――とは一何だったのか。

最初の頃は、エリュシオンもオリハルコンも、影も形もなかったと言うのに。

「そのせいで、一度はアイヴィを失ってしまって」

「だが、そのおかげで私はプラナスへの想いに気づくことが出來た」

流れるように殺し文句を吐きだすアイヴィに、プラナスは顔を赤く染めた。

「いつの間にそんなかっこつけたセリフ、言えるようになったんですか?」

「プラナスのことをおしいと思うと自然に出てくる」

「ま、またそういうことを……」

プラナスの顔は、さらに耳まで真っ赤になってしまう。

ずっと夢に見てきたやり取りで、妄想の中では何度でも聞いてきたはずなのに、やはり現実となると破壊力が違う。

しかし、やられてばかりでは納得の出來ないプラナスは、反撃に出た。

「アイヴィ、こちらを向いてください」

「ん、どうした? キスでもするのか?」

「先に言わないでくださいよぉっ!」

見事にカウンターを食らってしまうプラナス。

だが、向き合ってしまった以上は、しないわけにもいかない。

「私はいつでもいいぞ」

甘く囁くアイヴィに、プラナスは不満げに膨れながらも、を寄せた。

らかく、微かにった

幾度となくれあった夜の記憶が蘇り――プラナスの頬を、一筋の涙が濡らした。

「プラナスも、流れる涙も、この世の何よりしいな」

顔を離すなり、アイヴィは頬に手を當て涙を拭い取る。

その寶石は自分だけのものだ、そう主張するように。

「あまりそうやって私をおだてていると……」

「どうなる?」

「……調子に乗って、人前でもアイヴィを求めてしまうかもしれませんよ?」

プラナスは、涙に濡れた瞳で上目遣いをしながら言った。

に変化は見えないものの、そんな彼にアイヴィもかなりやられて・・・・いて。

「構いやしないさ、どこでだって。求めてくれるのなら、私はプラナスの想いに応えたい」

言いながら、プラナスのを抱き寄せる。

クリプトとの話が終わり、岬が呼びに來るまで――2人はそのまま、を寄せ合っていた。

◆◆◆

その日の夜、基地では盛大な宴が行われた。

余った兵糧を全て使い果たしてしまえ、と飲めや食えやの大騒ぎ。

誰かが用意していた祝杯用の酒も登場し、ある兵は歌い、ある兵は踴り、またある兵は服をぎ始める。

野次混じりの笑い聲が飛びい、基地にはお祭りムードが満ち溢れていた。

そんな中、僕は喧騒を抜け出して、部屋に彩花を呼び出した。

どうしても再會を果たした今日のうちに、ふたりきりの時間を作りたかったから。

部屋にった彩花はベッドに腰掛ける。

椅子に座って語らうつもりだったのに、大膽な彼の行に僕の心臓が跳ねた。

う僕を見て、彩花が不安そうに口を開いた。

「あれ……どうかしたの?」

「い、いや、別に。ちょっと深読みしてただけ」

どうにか取り繕い、僕も彼の隣に腰を下ろす。

別れの日から今日まで、まだそこまで時間は経ってないはずなのに、彼の甘い香りに僕は懐かしさをじていた。

「……岬くんの匂いがする」

彩花も同じことを考えてたみたいで、ちょっと嬉しくなる。

調子に乗った僕は、手を重ねた。

「なんか、むずいね、こういうの」

人未満の関係を飛び越えて、すぐに関係を持ってしまった僕と彩花。

だからこそ、こういう何気ないふれあいを新鮮だと思える。

「でも……今日からは、普通の人みたいに振る舞ったっていいんだよ、ね?」

「彩花が許してくれるなら」

「ずるいよ、そういう言い方は。まずは岬くんから言ってくれないと」

僕と彩花は、まとも・・・な告白をまだ済ませていない。

王都の時は……勢いに任せたっていうか、貪るようなじだったから。

今度はちゃんと、初就する瞬間のように、しっかりと伝えたい。

「好きだよ、彩花」

変にひねろうとは思わなかった。

気持ちは伝わっているはずだから、言葉も素直でいいんじゃないか、と思って。

「ふふ……うん、私も岬くんが好きっ」

彩花は僕の言葉に満足してくれたみたいで、上機嫌に返事をしてくれた。

あっさりしてたけど――これで、晴れて人同士ってことになる。

「例えの繋がった兄妹だったとしても、離すつもりはないから」

「私も、いつまでも傍に居るね。一緒に笑って、一緒に泣いて。しわくちゃのおばあさんになったって、ずっと、ずっと」

鳴り響く鼓に、落ち著かない気分。

自分の気持ちが浮ついているのが、よくわかる。

「……っ、ふ……えへへ……」

その時である。

僕が1人で舞い上がっていると、隣で急に彩花が涙を流し始めたのだ。

「ど、どうしたの、急に泣いたりしてっ!?」

焦った、とにかく焦った。

けど、彼の涙に僕が焦る必要なんて全く無いみたいで――

「今度こそ、ちゃんと人になれるんだって思ったら……なんか、極まっちゃったの!」

「彩花……」

「ありがとね、岬くん。私の事、救ってくれて」

そう言って、彩花はを僕に預けた。

さっきよりも、著度が高くなる。

じるぬくもりに、僕は今度こそ彩花を幸せにしてみせる――と、決意を新たにするのだった。

◇◇◇

しばし彩花と2人で告白の余韻に浸っていると、彼は突然立ち上がり、言った。

「そうだった、あんまり私が獨り占めしてるのも悪いよねっ」

「へ?」

「再會できたのは私だけじゃないんだから、順番は守らないとっ」

「え、いやっ」

確かに百合とエルレアとも話したいとは思ってたけど、それを彩花が言い出す必要は――

「じゃあ、百合ちゃんかエルレアちゃん呼んでくるねっ!」

そう言って、部屋を去っていく彩花。

1人殘された、手をばしたまま靜止する僕。

部屋に満ちた沈黙に、僕は言い表しようのない気まずさをじていた。

「……まあ、気を使ってくれたんだろうし、彩花に甘えるかな」

と言うか、もうそうするしかない。

それから1分ほどして、部屋に誰かが近づいてくる。

明らかに走っている足音――僕は彼の來襲・・に備えるために立ち上がり、両手を左右に広げた。

「ミサキッ!」

姿を現したのは、案の定エルレアで――両手を広げる僕に勢い良く抱きつき、そのままベッドに倒れ込んだ。

は、あまりに近い距離で、僕を押し倒しながら見下ろす。

その顔に浮かぶのは、まるで太のように爛爛とした笑顔で。

見てるこっちも、釣られて笑ってしまうほどだ。

「ああ、ミサキの手はこんなにもらかく、繊細なものだったのですね」

エルレアは僕の手のひらをで回しながら言った。

さらにその指先は腕から肩へと移っていき、鎖骨にれる。

「こ、これが鎖骨っ、ミサキの鎖骨ッ!」

何やらやけに興している、エルレアにそんなフェチがあったなんて。

十分に鎖骨を満喫すると次は首筋から顎のラインをで、耳たぶにれる。

「ふー! ふー! 耳たぶっ、や、やわらかいですっ、ミサキの耳たぶっ!」

まるで貓のようにふーふー言いながら、興の最高に達する。

ほんと、今日のエルレアはずっとこのテンションだな。

手で僕にれられるのがそんなに嬉しいのかな。

るだけで幸せになってくれるんなら、いくらでもらせてあげるけどさ。

「あ、あの、ミサキっ」

「んー? どうしたの、エルレア」

冷めやらぬエルレアは、僕の頬をさわさわとりながら言った。

「好きですっ!」

「知ってる」

と言いつつも、頬が緩む僕。

何回言われたって嬉しいものは嬉しい。

「好きです、本當に好きなのです、好きで、好きで、狂ってしまうほど、頭の中がミサキだけでいっぱいになってしまうほど、殺されてもいいと思うほど好きで――」

「うん、うん、わかってるよ」

「だからっ、キスをしましょう!」

出された結論があまりに可らしくて、僕は思わず吹き出しそうになってしまった。

さんざん前振りしておいて、やりたいことがキスだけとか。

そんなの、言われなくたってやるつもりだったのに。

「んっ!?」

僕はエルレアの顔を引き寄せ、暴にを重ねた。

う彼の口に舌をり込ませ、唾を送り込む。

じきに向こうも、自ら舌を絡め始めた。

ペチャ、ピチャ、とり気のある音が部屋に響く。

たっぷり息苦しくなるまでキスを続けると、僕たちは「ぷはっ!」とを放した。

「はぁ、はぁ……口の中が、ミサキの味でいっぱいになっています。口が、ミサキに支配されているじです」

放心狀態のエルレアは、呟くように言った。

「ああ……やはり、手足が戻っても変わらないものなのですね。一度染まった心は、何があっても戻らない。し安心しました」

さっきまでの妙なハイテンションは――そっか、自分が変わった事に対する不安を誤魔化すためでもあったのか。

「エルレアはエルレアだからね」

僕がそう言うと、彼はほっと肩をなでおろす。

そして宣言した。

「はい、今の私は何があっても、ミサキが作り出した私です。もしミサキがむのなら、手足も捧げる私なのです」

「嬉しいけど、今のも綺麗だよ」

「ふふ……ありがとうございます。ですがし未練があるので、今度は縛って、きがとれない私をして頂けませんか? 以前と同じように」

「あはは、まあ、善処してみるよ」

縛り方の書かれた本とか、跡の殘りにくい縄とか、この世界にあるのかな。

いっそプラナスあたりに作ってもらった方がいいんだろうか。

「それでは……名殘惜しいですが、そろそろユリを呼んできますね」

「あ、待ってエルレア!」

「どうかしましたか?」

「いや……えっと、その……」

未練を斷ち切るためか、そそくさと立ち去ろうとする彼を僕は引き止めた。

まだ伝えていないことがある。

正直、言うべきなのか迷ったけど、変に心殘りを殘すぐらいなら言った方がいい。

エルレアの答えはわかりきってる。

それでも――

「……いくら蘇るのがわかってたとは言え、死なせてごめん。辛かったよね、痛かったよね。僕がもっとうまくやれば、エルレアをそんな目に合わせなくて済んだのに」

「ミサキは優しいのですね」

優しいのはエルレアの方だ。

こんな僕でも、怒ることもせずに許してくれるんだから。

「私はミサキの所有、この命は全てミサキに捧げたものです。あなたのために死ねたことは、むしろ私にとっての誇りなのですよ」

ああ、やっぱり。

謝ったのは、あくまで僕の自己満足だ。

が命すら捧げてくれているのは、今まで何度も聞いてきたから。

ひょっとすると、”所有”っていうエルレアの言葉を聞きたい、そんな願があったのかもしれないけど。

「それでは今度こそ、ユリを呼んできますのでっ」

そう言い殘して、エルレアは部屋を去っていった。

別に次の人を呼ぶシステムなんて決めた覚えは無いのに、彩花からそうするよう言われたのかな。

再び1人殘された僕は、頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。

◇◇◇

「てっきり彩花と一緒に居ると思ったのに」

百合は部屋にるなりそう言った。

僕もそのつもりだったんだけどね。

と言うか――彩花もだったけど、いつの間に名前で呼びあうようになったんだろう。

フランがやけにエルレアに懐いてたのもそうだけど、僕の知らない所でみんなの関係しずつ変化しているらしい。

「彩花が自分から言いだしたんだよ、獨り占めすると悪いから呼んでくるって」

「……もしかしてさっきの気にしてるのかな」

どうやら名前で呼び合うことも含めて、協定のようなを結んだみたいだ。

まあ、容は何となく怖いからあえて聞かないようにしておこう。

百合は考え込みながら僕に近づくと、そのままベッドに腰掛ける僕の膝の上に、るように座った。

もちろん向き合ったままで。

……大膽だな。

百合がいきなりこんなことをしてきたってことは――”やっぱり”って言うか、當然のことなんだけど。

死の記憶から、まだ抜け出せてないんだろうな。

瞳が揺れている。

本當に現実なのか、また同じような結末になりやしないか、その不安が、彼を突きかしている。

そんな百合に対して僕が出來ることは、そう多くない。

「さすがに、しはしたないかな」

膝立ちの狀態で僕の顔を見下ろしながら、両手で頬に手を當てる百合。

僕は彼を見上げ、しっかりと目を見つめた。

ここにいるよ、夢じゃないよ、と語りかけるように。

トラウマは一瞬にして融解して消えるものじゃない。

些細な仕草やちょっとしたふれあいで、しずつ溶かしていくしか無い。

「でも……いいよね、今日ぐらいは」

「個人的には、これからずっとでもいいぐらいなんだけど?」

「む、このすけべやろーめ」

頬に當てられた手が、をむぎゅっと摑む。

痛くはないけど、さぞ変な顔になってるんだろうな。

「ぶふっ」

……加害者の百合が吹き出してるぐらいだし。

「ご、ごめん、岬の顔があまりに可らしいものだから……」

「変なフォローしなくてもいいから!」

よほどおかしかったのか、百合は僕の方をちらちらと見ながら肩を震わせ続けている。

さすがにそこまで笑われると恥ずかしい。

頬を引っ張っただけで、そんなに変な顔になるもんなのかな。

「可いっていうのは噓じゃないから。ほんとに、笑っちゃうぐらい可くって――たったそれだけで、こんなに笑えるんだもん。やっぱ、私って岬が居なきゃダメなんだね」

「僕だって百合が居なきゃ、だよ。復讐の時はずっと隣に居てくれた。記憶のほとんどに百合が映っている。もう、君無しの世界なんて考えられない」

「なんか臺本みたいなセリフだね、岬じゃなかったらきゅんとしてたかも」

「えー……じゃあ、僕だったらどうなるの?」

問いかけると、百合はを僕の顔に押し付けた。

頭は強く抱きしめられていて、自力では逃げられそうにない。

真っ暗な視界。

視覚が閉じたからか、火照ったの熱と、ほんのし汗ばんだ百合の香りを鮮やかにじる。

「岬相手だと……泣いちゃうかな」

気丈にもいつも通りの口調を維持しようとして、でも微かに聲が震えている。

「だって……また一緒に居られるって考えただけで泣きそうで、顔見るだけでも涙を我慢するのに必死で……っ、気づいて、なかった?」

「……気づいてたよ」

「そか、気づかれ……ちゃってたか」

誰よりも傍で見てくれて、誰よりも傍で見てきた人だから。

気づかないわけがないよ、百合。

「じゃあ、もう……泣いちゃっていいかな。うん、泣こう、泣いて、思い切り甘えよう……それで、いい?」

抱きしめる力を緩めて、見つめ合いながら、とっくに泣いてる百合は首を傾げてそう尋ねた。

愚問だ、聞くまでもない事じゃないか。

「ダメって言うわけないじゃないか。って言うか、早く甘えてくれないと僕が困る」

「どうして?」

「僕も泣きたいからさ」

百合と――みんなとまた會えたという奇跡を噛み締めながら。

返事を聞いた百合は、ベッドに僕を押し倒す。

今度は彼が僕のに顔を埋める番で、僕は彼の頭を抱きしめ、でる。

「岬……岬……っ、會えた、また會えた……私、やっぱり……やっぱりぃ、じにだぐなんてながっだよおぉおおおおっ! うわあああああぁぁぁぁぁあああっ!」

泣きぶ彼の聲を聞きながら、僕の頬にも一筋の涙が伝った。

こんなに泣かせるなんて、人失格だ。

決めた。

誓うよ。

今日からは、僕が今まで復讐に費やしてきた全てを――僕が大好きな全ての人を幸せにするためだけに、使うって。

そして、いつか、今まで泣かせてきた分の不幸を算出來たら。

『そんなこともあったね』って笑い合おう。

……薬指に、指でもらせてさ。

◇◇◇

宴が終わり、夜が明けると、撤収準備が始まった。

帝都への凱旋した僕たちは、再び多くの喝采に迎えられる。

英雄たちの帰還に、湧き上がる帝都。

それは――目まぐるしく過ぎゆく日々の始まりでしかなかった。

多くの兵が傷つき、疲弊し、さらに戦爭にかなりの金額を費やした影響で景気が落ち込み、一時的に帝國の治安は劇的に悪化した。

また、あちら側からの申し出でオリネス王國はインヘリア帝國の屬國となり、人口のほとんどを失った王國領土とも帝國に併合されることとなった。

さらに、殘った王國住民の殘黨や、汚染者の暗躍にと――戦後、帝國は未曾有の混に見舞われることとなる。

新たに皇帝となったクリプトは、その補佐であるキシニアと共に、治安改善のために奔走した。

”置”と言われた僕も、結局そのまま四將として名を殘すこととなり、國中を飛び回って仕事に追われる羽目になった。

まあ、隣には必ず誰か・・が居てくれたから、僕自信は寂しくなかったけれど。

さすがに全員を連れ回すわけにはいかなくて、寂しい思いをさせてしまったかもしれない。

そんな中、ラビーは両親との再會のためにオリネス王國へ帰還した。

屬國となったため出りは簡単になったが、彼の故郷であるクロッシェルと帝都ラトプシスはあまりに遠い。

それに、ラビー自が新たに決めた目標もある。

次に會うのがいつになるのか、ひょっとすると二度と會えないかもしれない――

そんな寂しさをに抱きながら、僕らは最後に固く握手をわし、別れを告げた。

そしてさらに時は流れ――気づけば、1年もの月日が過ぎ――

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