《召喚チート付きで異世界に飛ばされたので、とりあえず俺を転移させた神さまを召喚することにしました》第18話 どうしてこうなった
「……と思ってたのに、どうしてこうなった」
そんな言葉をつぶやきながら、俺はため息をついた。
ここは冒険者ギルドの裏にある訓練場だ。
端っこの方には、冒険者の野次馬たちと、心配そうな表をしたフィンがいる。
俺の目の前には、べろんべろんに酔っぱらったオッサンが一人。
スキンヘッドの頭は太のをけて輝いており、その瞳は眼前の俺をボコボコにしてやろうという気概に満ちている。
事の発端は、冒険者ギルドを出ようとして、俺がそこにいるオッサンにぶつかってしまったことだ。
酒がっていたオッサンは見事に俺に絡み始め、因縁を吹っ掛けてきたので、さすがの俺も黙っていられなかったというわけだ。
「じゃあ喧嘩しようぜ」と、闘爭心を燃やすオッサンに連れてこられたのは、冒険者ギルドの裏の訓練場だった。
本來は先輩の冒険者が後輩の冒険者に々と叩き込んでやる場所らしいが、今は完全に別の目的で使用されている。
いや、案外こういうことは多いのか。
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野次馬に集まってきた冒険者たちのノリも「おー、やってるやってる」みたいなじだった。
彼らにとっては日常の一部なのだろう。
巻き込まれた側にしてみれば、たまったものではないが。
「おい坊主。はやくやろうぜ」
オッサンは酒臭い息を吐きながらも、背中から武を取り出す。
巨大な剣だ。大剣というやつだろうか。
全が一本の骨のようになっている。
もしかすると、本當に巨大な生の骨を切り出して作られたものなのかもしれない。
非常に使い古されており、それを持つオッサンには妙な迫力がある。
「ああ。わかっている」
俺はインベントリから鉄の剣を取り出そうとして、思いとどまった。
相手は練の冒険者だ。
さすがに殺す気はないだろうが、俺だって負け前提の戦いはしたくない。
「――召喚」
「なに!?」
し考えたあと、俺は召喚を行った。
木の棒が出てくる可能もあるが、タンザナイトのようなよさげな武が出てくるかもしれない。
幸い、がおさまった後に殘っていたのは、木の棒ではなかった。
俺はそれを拾い上げる。
「お前、召喚士だったのか……。おどかしやがって……」
に驚いたのか、オッサンがそんな聲を上げる。
一旦それを無視し、拾い上げたそれに目を向けた。
白い剣だ。
特に半明ということもなく、殊更目を引く部分はない。
一つ気になるのは、刀が完全に刃のをなしていないところか。
刀のような形をしてはいるものの、刃の部分が全くない。
これでは何も切り裂けそうにない。
打撃系の武なのだろうか。
まあ石の剣とはまた違うのようだし、ただの剣ということはないだろう。
俺は観察眼を使った。
流爭剣りゅうそうけんタルク R
切れ味1
け流し+3
その銘は流爭剣。
たとえ魔神の絶拳であろうと、その刃の前にはあまりに無力。
なんかどこかで見たようなじのフレーズが浮かび上がってきた。
これはもしかしなくても、タンザなんとかとかいう例のアレと同じようなサイクルの武ではないだろうか。
それにしても、け流しか。
+3というのがどの程度なのかわからないが、試してみるか。
二回使ったら壊れる可能もあるが。
「待たせたな。武も用意できたことだし、始めてもらって構わない」
「……っ! おらぁぁああ!!!」
「っ!」
オッサンが距離をつめて、大剣を振るってきた。
鈍重そうな見た目の割に足が速い。
鍛えているのだろう。
普段の俺が食らっていたら、致命傷にもなり得る一撃だ。
しかし、今の俺には、流爭剣タルクがある。
オッサンの迫力は凄まじいが、気合で持ちこたえた。
俺はタルクを構え、オッサンの一撃をけ流すことを意識する。
その瞬間、妙な手ごたえのなさを手にじた。
これでけ流せているのだろうか。
「なにっ!?」
オッサンは軌道を逸れた剣を見て、驚きに目を見開いている。
どうやら功したようだ。
「まだまだぁあ!!」
と思ったら、すぐに大剣を引き戻して第二撃を放ってきた。
落ち著いて先ほどと同じようにけ流すと、オッサンの表が強張った。
何が起きているのかわからない、とでも言いたげな顔だ。
その一方、俺は気が気ではなかった。
朧脆剣タンザナイトは、耐久値が異様に低かった。
流爭剣タルクはどうか。
俺はタルクに向かって観察眼を使った。
流爭剣りゅうそうけんタルク R
切れ味1
け流し+3
耐久値148/150
その銘は流爭剣。
たとえ魔神の絶拳であろうと、その刃の前にはあまりに無力。
あった。
耐久値が表示されている。
タルクの初期耐久値は150らしい。
それで攻撃を二回け流したから148と。
そういうことだろう。
とりあえずタンザナイトのようにすぐに壊れてしまう心配はない。
しかし今の俺に、それ以上分析している時間はなかった。
「おらおらおらおらぁ!!」
オッサンの猛攻を、ひたすらタルクでけ流す。
一回、また一回と攻撃をけるたびに、タルクの耐久値はどんどん減っていく。
「な、なんだあれ……」
「あの猛攻を全部け流してやがる……。ありゃただのルーキーじゃねぇぞ……」
いえ、しがない召喚士です。
そんな言葉はもちろん口には出さず、俺は野次馬たちの言葉を聞き流しながら、淡々とオッサンの剣をけ流し続ける。
今の俺には、大した力も技もない。
だから、ハッタリで何とかするしかない。
勝負に勝つためには、決して自分の弱みを相手に見せてはならない。
あくまで平然と、さもそれが當たり前のことであるかのように、俺はオッサンの剣をひたすらけ流す。
タルクの耐久値を確認しながら、それを全く表に出さずに。
ずっとけ流すだけなので、オッサンの技量がどの程度のものなのかはわからない。
ただ格にも恵まれているので、そこまで弱いということはないだろう。
普通に食って生きていくには困っていないはずだ。
そんなことを考えていると、突然オッサンの攻撃が止んだ。
肩で息をして、じっと俺のことを見ている。
「まだやるか?」
「……いや。俺様の負けでいい」
おおー、という歓聲が野次馬から湧き上がる。
さりげなく観察眼で確認すると、タルクの耐久値は70を切っていた。
半分以上削られていたのか。
まだ余裕はあるが、オッサンがあれ以上続けていたらこちらがじり貧になっていたかもしれない。
とりあえずこの場がなんとかなっただけでも良しとしておくか。
心の中でいたわりの言葉をかけて、俺はタルクをインベントリにしまった。
「ソーマさん! 大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ、問題ない」
フィンが駆けてきて、俺のに怪我がないかチェックしてくれる。
大丈夫って言ってるんだけどな……。
まあ心配なものは心配なのだろう。
「本當に大丈夫そうですね……。でも、あんまり無茶しないでくださいね……」
「あ、ああ。気を付ける」
「それにしても、さっきのソーマさんのき、すごかったです!」
「そ、そうか? あはは……」
目を輝かせるフィンに、俺は曖昧な笑みを浮かべることしかできない。
オッサンの攻撃をけ流せたのも、すべて武のおかげなのだ。
それに召喚に失敗していたら、鉄の剣でオッサンと戦わなければならなかった。
これからはあまりリスキーな選択肢を取るべきではないな……。
フィンとそんな話をしていると、オッサンが俺の方へとやってきた。
相変わらず怖い顔だが、その目に闘志はない。
「おい坊主。今夜何か予定はあるか?」
「今夜? いや、これから夕食を摂って宿を探しに行こうかと思っているが」
なぜそんなことを聞いてくるのか。
意味がわからなかったが、俺は馬鹿正直に答えたことをすぐに後悔した。
「よし! 將來有な新人の団祝いだ! 今日は俺様のおごりだ!!」
「えっ」
「うぉぉぉおお!!!」
オッサンがぶと、野次馬から歓聲が上がる。
何が何やらわからない。
「行くぞ坊主! 嬢ちゃんも來い!」
「えっ」
「あの、えっ!?」
オッサンに手を引かれ、俺とフィンは酒屋まで連行されることになった。
俺はこの後、そのをもって知ることになる。
異世界の飲みニケーションの恐ろしさを……。
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