《召喚チート付きで異世界に飛ばされたので、とりあえず俺を転移させた神さまを召喚することにしました》第19話 イケる口じゃねぇか嬢ちゃん

「さっきは悪かったなぁ坊主。俺様もし蟲の居所が悪くてな。つい飲みすぎちまってたんだ」

「あ、ああ。それはいいんだが」

「心配しなくても、今日は俺様のおごりだ! 好きなだけ飲んで食って騒いでいけ!」

「いや、うん。ああ……」

気をよくしたらしいオッサンのごり押しに負けて、俺とフィンは酒場で飲むハメになっていた。

カウンター席に座る俺の隣には、フィンとオッサンがそれぞれ陣取っている。

周りには、冒険者と思しき男たちがどんちゃん騒ぎを繰り広げていた。

頭部用の裝備品の中にエールを注いで飲んでいるのは、とある種族に伝わる儀式か何かなのだろうか。

おかしい。

どうしてこうなった。

今日はフィンと一緒に、日が沈むまでに生活必需品を買い揃えておこうという話をしていたはずだ。

なのにどうして、俺はムサいオッサンたちと酒を飲むハメになっているのだろうか。

無論、あの後すぐに酒場まで連れてこられたので、生活必需品の調達などできているはずもない。

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この調子だと明日にもつれ込みそうだ。

なんとか朝のうちに揃えるしかないか……。

俺も既にオッサンから二杯ほどエールを飲まされているが、異常に頭が回らなくなっているということはない。

ほとんど酔っ払っていないところを見る限り、俺は比較的酒に強いのだろう。

「ソーマさん、このおおいしいです!」

「そ、そうか。よかったな」

「はい!」

俺も同じを食べているが、たしかにうまい。

何のなのだろうか。

「これだけ味しいおを食べてると、お酒も進んじゃいますねー」

「そ、そうだな」

フィンは謎のを食べながら、ご機嫌な様子でエールをあおっている。

発言が完全にオッサンのそれと同じだった。

現代日本では未年だが、こちらの世界では十五歳で一人前と認められる。

他の種族だとしは違うのかもしれないが、なくともドワーフはそうだ。

なのでフィンが酒を飲んでいるのは何もおかしくはないのだが、やはり俺からすれば違和がすごい。

なにせ、フィンの長は百四十センチほど。

ぱっと見では小學校高學年と言われても通るレベルだ。

こんな現場が見つかったら、日本なら間違いなく補導される。

そんな彼だが、やはりドワーフなのか酒は大好だったようで、味しそうにゴクゴクと飲んでいる。

もうこれで三杯目のエールだ。

今日はオッサンの奢りだからいいかもしれないが、俺との食事の時にこんなに飲まれても困るぞ。

「おっ、なかなかイケる口じゃねえか嬢ちゃん! マスター、もう一杯頼む!」

「さすがに飲ませすぎじゃないかね。冒険者ギルドの先輩としてそのあたりにしておいたほうが……と思ったが、お嬢さんはドワーフか。それなら大丈夫ですな」

「あっ、ありがとうございます!」

何が大丈夫なのかわからないが、マスターから四杯目のエールが差し出される。

フィンも嬉しそうにけ取っているので大丈夫だろう。

何が大丈夫なのかはもうよくわからなくなってきている。

「そういえば、まだ名前を聞いてなかったな。俺様の名前はガレウスだ」

「ソーマだ」

「フィンです。よろしくお願いします!」

話を聞く限り、オッサン――ガレウスは古株の冒険者らしい。

新人の冒険者に絡みに行っては、その実力を見るのが役目なのだとか。

薄々察しはついていたが、冒険者ギルドというのはだいぶ暴な場所のようだ……。

というか、ただ酒を飲んで騒ぐ理由がしいだけのような気がしないでもない。

「それにしても、ソーマは召喚士なんだな。流れの召喚士なんて俺も初めて見たぞ」

「そうなのか?」

「ああ。お前も々大変なんだな……」

「まあな」

なぜかガレウスから同の目を向けられたので、適當に肯定しておく。

そういえば、衛兵にも似たような反応をされたが、なぜなのだろうか。

それをガレウスに聞くのもおかしいので今は聞かないが。

「そういえば、例のアレ、まだ見つかっていないらしいですね」

「ああ、アレか。ギルドの依頼も取り下げられてなかったからな……」

「例のアレ?」

「ああ、ソーマは今日來たばかりだから知らねえよな」

マスターとガレウスが何かを話し始めたが、なんの話かわからない。

俺が不思議そうな表をしていたのか、ガレウスがうっかりしたような顔をしていた。

「なんでもこのプロメリウスに、魔族が一人り込んだって話だ。まあ魔族一人がり込んだところで何ができるのかって話なんだけどな」

「魔族か」

「しかし、魔族の中には個でありながら一國の軍隊に匹敵する力を持つ者もいると聞きます。頭の片隅にでも置いておいたほうがよろしいかと」

「そりゃ魔王がり込んだとかならわかるけどよ。そんなに気にするほどのことか?」

「石板の認証を突破するほどの力を持った魔族がり込んでいるのですぞ? 警戒して然るべきです」

マスターの言葉に、ガレウスは押し黙る。

石板の認証と言うと、プロメリウスの門のところでやったアレのことだよな。

アレを突破したのか。

たしかにそれは、し警戒しておくべきだろう。

それはすなわち、認証を突破するという選択肢を取れる確かな知と能力を持った魔族がこの街に潛んでいるということなのだから。

なくとも俺には、あの認証を突破できるほどの知恵も力もない。

「ソーマさんは、私が守りますから大丈夫です」

「フィ、フィン?」

「だいじょうぶですよー」

フィンが突然抱きついてきて、俺の頭をで始めた。

赤くなった顔が近い。

心臓の鼓が早くなる。

「フィン……うぉっ……」

「へへー……。…………」

フィンの荒い息が俺の顔にかかって……めちゃくちゃ酒臭い。

よく見ろソーマ。

そこにいるのはフィンではなく、フィンの姿をしたただの酔っ払いだ。

酒に酔って潰れた酔っ払いだ。

「ありゃ、嬢ちゃんは潰れちまったか。ドワーフにしちゃあ酒に弱いな。ソーマ、ここは宿屋も兼ねてるから、泊めてさせてもらったらどうだ?」

「あ、ああ。それじゃあそうさせてもらおう」

俺がそう言うと、ガレウスはマスターに向かってサムズアップした。

マスターもそれに応える。

完全にハメられたじじゃねえかよちくしょう。

しかし、背に腹は変えられない。

明日からどうするかは別にして、今日はここに泊めさせてもらったほうがいいだろう。

「宿泊はいくらになる?」

「一人一泊、四百ディールです。食事付きですと四百五十ディールになります」

「わかった。二人頼む」

「わかりました。々お待ちください」

思ったよりも良心的な値段設定に安心し、俺はフィンを背負って立ち上がる。

フィンのは本當に軽い。

背中に伝わるぬくもりにどぎまぎしつつも、できるだけ意識しないようにした。

「それじゃあ、俺たちは一足先に失禮する」

「わかってるさ。俺様もそこまで野暮じゃあない。ただ、嬢ちゃんを泣かせるなよ?」

「もう寢てるんだから泣くも何もないだろう……」

「……がはは! それもそうだ!」

俺の返事に一瞬キョトンとしたガレウスだったが、すぐに快活な笑いを浮かべる。

なんなんだ。

ガレウスたちと別れ、俺たちはマスターの後についていく。

「こちらになります」

マスターに案されたのは、酒屋の三階にある客室の中の一つだった。

ドアを開けて中にる。

「ふむ」

部屋に特筆するべきところは特にない。

とても広いとは言えないが、人間二人が泊まるのに支障はないだろう。

トイレはあったが、シャワールームらしき場所はなかった。

これはし厳しいな。

明日になったら、シャワーだけでも浴びれるような宿屋を探したほうがいいかもしれない。

フィンと相談してみるか。

部屋の隅には、壁に接するように巨大なベッドが一つ置いてある。

……いや、待て。

「なんでベッドが一つしかないんだ?」

俺がそう言うと、マスターの眉が上がる。

「えっ?」とでも言いたげな表だ。

むしろこっちが言いたいくらいなんだが……。

「二つあるお部屋のほうがよろしいですかな?」

「そうしてくれ」

「ふむ。かしこまりました」

訝しげな表をすぐに戻して、マスターは他の部屋に案してくれた。

次の部屋も先ほどと同じような作りだったが、ベッドは二つある。

この部屋でいいだろう。

「それでは、ごゆっくり」

なにやら含みのある言い方をして、マスターはドアを閉めた。

若干マスターへのヘイトが溜まっていたが、気にしていても仕方ない。

フィンを左のほうのベッドにそっと下ろす。

幸せそうな顔で眠る彼を見ていると、心が落ち著いていくのが実できた。

それにしても、今日は疲れた。

俺ももう寢させてもらおう。

そう思ってベッドにダイブすると、俺の意識は急速に薄れていった。

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