赤信號。

俺はたくさんの車が行きかう様子を眺めながら信號が青に変わるのを待っていた。俺の他にも信號を待っている人がいる。

今は出勤や登校の時間なためサラリーマンや學生の姿が多く見える。

俺の肩に雀が一羽とまった。その景が面白いのか、子高生だと思われるがこちらにスマートフォンを向けて寫真を撮っているのがわかる。雀は、靜かに俺の肩にとまったまま、その場にじっとしているのである。どうも、俺の肩が心地いいようである。

俺はよく、こうやって、他の生、小から好かれることがあった。カラスにまで好かれていると知った時は、苦笑いをしてしまったが。

「ねえ、あのトラック、おかしくない？」

俺の隣で雑談をしていた子高生の一人が前を指さした。その方向を見るとふらふらと軽トラックが走行しているのがわかる。何とも危なっかしい運転であるが、奇跡的に事故を起こさずに進んでいるのである。そして、段々とこちらに近づいている。その姿がはっきりと見えてくるのである。

「こっちに向かってる？」

「まじで？」

「やばくない？」

しかし、俺たちは他人事のようにそれを見ているだけである。だれも逃げようとすることはしない。それどころか、スマートフォンを軽トラックの方へとむけている始末である。どうしようもない。そう思っている自分もいていない。現実味があまりにもないのだ。

とうとう男の顔がはっきりと認識できるところまで來てしまった。男は真っすぐこちらを見ていた。おかしな様子は見られない。素面である。

俺の足はようやく後ろに下がりだし、逃げる意思を見せだす。だが遅かった。今からどれだけ足を速くかそうとも、軽トラックに激突するのは目に見えていた。俺は覚悟を決めて、目をつむった。自分が死ぬ瞬間など見たくはない。だからこそ、目をつむってすべてが終わるのを待った。じっと、待っているのだ。

いろいろと思い出される。走馬燈というのはこういうものかと納得できた。確かに、小さなころからの記憶が溢れんばかりに頭の中にぶちまけられている。

…………。

「…………。……あれ？」

痛みは來ない。何かがに當たったというもない。死ぬというのはこういうものなのかとも思ったが、周りが悲鳴を上げ始めているのだから、ここは現世であることがはっきりと理解できる。

何が起きているのかを確かめるために俺は目を開ける。

目の前には軽トラックがあったが、し手前で止まっていた。他の車にぶつかった様子はない。しかし、差點の真ん中に停まっているため、走行の邪魔になることは間違いないだろう。

運転手はじっとこちらを見ている。背筋に嫌な汗が流れる。

男はゆっくりと降りてくる。俺はその様子を眺めていた。

悲鳴は止み、わずかなざわめきがあるのみである。この場にいるすべての人間が混に極致にいるのだとすぐさま、理解できる。俺のいる場所へと突撃してくるわけでないのだ。先ほどまでの勢いはどうしたのかと問いかけたくなってきてしまう。

「何してんだ貴様！」

乗用車を運転していた一人が車から出てきて男に詰め寄った。もっともなことである。男が襟首をつかまれる。抵抗する様子は一切見られない。これからのことを気になっているのか野次馬の數がぽつりぽつりを増えている。

「うっ…………」

うめき聲をあげて詰め寄っていった男が倒れ込んだ。地面にが流れ出ている。そしてかなくなった。

何が起きたのか。俺の思考は止まった。男がこちらに一歩足を踏み出してようやく意識が戻ってくる。

まずい。それだけが頭の中に浮かんだ。逃げなくては。數秒遅れてそれも思い浮かんだ。

俺の足がわずかに後ろへ下がった直後、心臓に嫌ながした。恐怖で見れなかった。ただわかることは、今度こそ死んだのだろうということだけだった。何かをじ取ったのか、雀は俺の肩から飛び立ってしまった。

何かが抜ける音がした。男の手には包丁が握られていた。それで刺されたのだと理解した。視線の端で、が噴き出ていた。俺は力が抜けるように崩れ落ちた。

悲鳴が聞こえる。他の場所からもが噴き出る音が聞こえる。

男は気でも狂っているのだろうか。いや、狂っているのだろう。そうじゃなければ、手當たり次第に人に斬りかかるようなことなどしないはずだ。

俺は息絶えるその瞬間まで、男が人を殺し続ける姿を見続けていた。