《天の仙人様》第4話 生まれ変わり

「おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ!」

俺はこの世に生をけた。自分の口から呼吸と共に鳴き聲が上がっているのをじる。これは意識的な行なのではなく無意識的な行なのだ。ただ、そこには生まれてきたことに対する歓喜の念が込められている。俺はしばらく、生の雄びを上げ続けていた。

俺は泣き止むと、ベッドに橫になっているのもとへと連れていかれる。そしてそのに抱かれた。おそらく母親であろう。腹も減っているので、房に吸い付く。抵抗はない。むしろ、あったら死してしまう。生きるということに直結するのであれば、母親の房に吸い付きをもらうことに対しての恥じらいなどあるわけがないのだ。

「―――――」

「―――――」

大人たちの話し聲が上から聞こえてくる。何を話しているのか全く分からない。日本語ではないのは確実であり、英語らしい単語も一つとして聞こえない。今までに一度も聞いたことのない言語である。どこの國の言葉なのだろうか。出來れば日本人がよかったが、そう都合よくはいかないようだ。出來ることなら、醫療が発達してくれていると嬉しいと思った。

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食事が終わり、ベビーベッドに寢かされる。あたりを見渡す限り、ここが病院の可能はなさそうだ。家なのだろうか。家で出産するような文化だということである。まあ、珍しい話ではない。

「――――――」

「―――――」

「――――――」

俺の両親と思わしき人と、もう一人お婆さんが話している。お婆さんは産婆なのだろう。そうして、何かを話して、お婆さんは部屋を出ていった。殘ったのは俺の両親だけである。

俺の顔をのぞき込む男。たぶん父親だろう。これからは父さんと呼ぶことにしよう。とてもらかな顔を見せている。顔が緩んでしまっているともいえるだろう。

しばらく父さんが俺のことを見つめていると、どたどたと大きな足音が鳴り響いてくる。

「―――――!」

「――――!」

小さな男の子が二人、部屋に大聲を上げながらってきた。そして、父さんに怒られた。まあ、仕方がないだろう。おそらく、俺の兄なのだろうな。しかし、言葉が拙かったり、バランス悪そうに立っているところから見て、そこまで俺と年齢が離れているというわけではなさそうである。

俺はこれからこの家族と一緒に過ごしていくのだ。遠めに見ているだけでもとてもあたたかな家族だということがわかる。今度こそ、両親を悲しませるようなことはしないと心に誓った。

そうして、俺の最初の一日が終わった。

今は誰もが寢靜まっている。俺は、生まれ変わったという興で寢れないのだが、どうしたものか。やることがないので、天井をじっと見ている。

すると突然、俺の目の前に羽が現れた。それはひらひらと落ちてきて、俺の顔の上に乗っかった。俺は手に取って確認してみる。これは、閻魔様のところでもらった天狗の羽だ。それがどうしてここにあるのだろうか。俺は不思議に思い、じっとその羽を見ていた。しい輝きに俺は惹かれていたのかもしれない。綺麗な羽であるのだ。

「よう」

橫から聲をかけられた。しかも、日本語で。

俺はすぐさま振り向くと、そこには天狗が立っていた。

どうしてここにいるのだろうか? 俺はあまりにもかしづらい首を無理やりにかしげてみる。どうもぎこちない。赤ん坊はやはり大変であると何となしに思った。

「それが目印だからな」

俺の持っている羽を指さす天狗。どうやら、これを目印にしてここに來たらしい。

何しに來たんだろう?

「貴様を鍛えに來たんだ」

どういうことなのだろうか? 鍛える? 赤ん坊の俺を?

「貴様の魂が綺麗だという話をしただろう?」

たしかに、その話は聞いたな。俺は、あの時の會話を思い出している。

「でだ、そういう綺麗な魂の持ち主は天狗側としても貴重でな。俺たちの技を伝えたくなっちまうんだよ」

どういうことなのだろうか?

「簡単に言うと、天狗の派閥の拡大が目的ってことよ。ただ、俺たちの仲間にするには清らかな魂でないとだめってことだ」

なるほど、そういうことなのか。で、どういうことを教えるつもりなのだろうか?

「仙だ」

……仙

「ああ、貴様には仙人の位へとなってもらう」

仙人ねえ。

「簡単にれるとは言わねえが、この國を……いいや、世界を生き抜くうえで、仙人としての力は必要になると思うぜ」

そんなに危険なのか?

「當り前だろ? まあ、仙を悪用したら俺たちが殺しに行くが、貴様のような人間が悪用することはありえないだろうしな。ま、そもそも仙人の格に上がったやつらが、下賤なことなんかやる意味がないしな」

危険なところで生きていく上に力は必要だし、家族を敵から守るためにもある程度の力はいる。まあ、斷る意味がないか。

よろしくお願いします、お師匠様。

「ほう、俺を師というか。いいだろう。立派な仙人へと育て上げて見せよう。大船に乗ったつもりでいるがいい」

天狗……いや、お師匠様はニヤッと口元を上げて笑った。

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