《天の仙人様》第9話 武の才能
剣の訓練といっても、今行っているのは基礎中の基礎である、素振りだ。しかし、これを怠っては、何もできないのだから侮れない。だからこそ、俺たちはしっかりと一振り一振りを真剣にするわけである。
「ふうむ……やはり、アランは才があるな」
父さんは顎に手を當てて唸るように見ている。
俺はお師匠様から剣を習っているため、そこそこしっかりとした太刀筋を描いている。それを見たルイス兄さんは裏切り者でも見るかのような視線を俺に送っているのだが。たしかに、兄さんから見れば裏切り者に見えてもおかしくはないだろう。
「兄さん、俺はちょこちょこ一緒に剣を振っていたんだよ。さすがに、魔法だけで生きていけるほど俺には才能はないからね」
「裏切ったなあ! いっつも僕と一緒に本を読んでたくせに! 一緒に、魔法だけで世界を作ろうとすら約束していたのに!」
「……それもたまにじゃん。それと、最後のは俺は一つも約束した覚えはないのだけれども。さすがに噓で俺を裏切り者扱いはやめてほしいな」
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ルイス兄さんの口調は冗談じりであるということはわかるため、そこまで怒っていないだろう。
俺は再び素振りを始める。ルイス兄さんはそれを悔しそうに見ている。俺には負けないだろうと思っていたのだろうが、それは甘い話だ。
俺は師匠から武を教わるようになっているが、仙はどうなったかというと、基本の部分は全て習得することが出來た。どのレベルまでが基礎の部分かというと、自然のエネルギーをに取り込み循環させることによる不老不死である。このレベルまで來て仙人を名乗れる。いまでは、そこまで意識せずともエネルギーの循環が出來ている。歩くのを意識する必要がないのと同じようなものである。
俺は師匠に二年で仙人になれたのは早いのか聞いてみたのだが、師匠の反応がそこまで驚いていないということもあり、そこまで早くはないと思っている。が、俺の知っている仙人は相當な年月を修行に費やして初めてなれると思っていたのだが、そうではないのだろうか……。
「アラン! 模擬戦しよう! 模擬戦!」
カイン兄さんが我慢できないような様子で俺に話しかけてくる。カイン兄さんは相當な戦闘大好きっ子である。誰のをけ継いでいるのかが全く分からない。
「うん、いいよ。いいよね、父さん?」
「ああ、父さんが見ている範囲でな」
と、父さんからの許可をもらったわけだし、し離れて俺たち二人は構える。ルイス兄さんは素振りをやめて観戦するらしい。
カイン兄さんは目を輝かせながら俺に相対する。俺は落ち著いて剣を構える。
これに合図はない。自分のタイミングで始める。開始の合図は自分たちのリズムでしかわからない。
「ヒュッ――」
兄さんは呼吸のリズムからわずかにずれたタイミングで攻撃に移すことが出來る。兄さんの呼吸のきなどは一切參考にならないし、のリズムを無理やり崩して攻撃できる。だから、こっちの意表を突いた一撃が飛んでくる。
まっすぐに飛び出し、素直に振り下ろすだけ。それだけでも十分なきである。兄さんの非凡さというものをいやというほど実してしまう。が、俺だって努力をしているし、兄さん相手には攻撃全を見る必要があるのは何度も知っている。わずかにを逸らしてそれを避けると、剣を橫に薙ぐ。とりあえず間合いから逃げてもらうための一撃。素直に後ろに下がる。俺は追いかける。重心が前に傾いているのだから、その勢いを利用して兄さんに近寄る。そして振り下ろす。
「くっ」
それよりも早かった。どうやっているのか。野生か何かだろうか? 兄さんの剣は俺のわき腹に食い込んでいた。先ほどまでの笑顔はし消えていた。……まあ、俺にとってこの程度の痛みはないのと一緒だが。
そのまま無理やり剣を振り下ろす。當然避けられる。姿勢を低くして、懐にもぐりこむ。そして剣を振り上げる。兄さんの右脇に當たる。
「いった」
兄さんは飛んでいたようだ。地面に著地するとけの要領で転がる。そうして、距離をとるのである。その一連のきに隙と呼べるものは一切存在していない。恐ろしいまでに、効率化されているのである。才能というものか、努力というものか。そのどちらともいえるかもしれない。
「ふう……」
軽く息を吐き出す。俺たちは再び剣を構えた。ゆっくりと足をらせてにじり寄っていく。瞬間を見極めるために呼吸はゆったりと靜かに行われた。
模擬戦は終わった。最後までたっていたのは俺だ。カイン兄さんはあおむけに倒れている。
「勝者、カイン! アランもなかなか強かったが、まだまだみたいだな」
父さんの宣言で勝者が告げられる。まあ、仕方ない。真剣であるならば致命傷になるであろう一撃を俺はもらい過ぎた。カイン兄さんがいくら武の才があるとはいっても、しっかりと反省しなくては。あれでは、これから先何度も死にかけてもおかしくはない。
「二人ともすごいな……」
ルイス兄さんが呆れていた。たしかに、兄さんから見てみれば、俺たちのきはとても目で追えるような単純なものではなかったかもしれない。それほどの力量差があると思っている。だからこその、兄さんの反応なのだろう。
「いや、そんなにすごくないぞ。お前も頑張ればできる」
父さんは、ルイス兄さんの肩に手を置いた。ルイス兄さんは驚いたような顔を見せている。確かに、今のルイス兄さんから見れば俺たちのきは到底真似できないものかもしれないだろう。
まあ、どんなに描寫をしようとも、所詮は子供の戦い。大人にとってはじゃれているようにしか見えない。それに、これですごいと俺たちに思ってほしくないという思いも込められているのだろう。この程度なら努力ですぐにたどり著く。むしろ、ここで驕って肝心なところで命を散らすほうが危険だ。俺だって、こんな鈍らな腕で生きていけるとは思っていないからな。頑張らなくてはならない。
カイン兄さんも同じことを思ったらしく、熱心に剣を振っていた。父さんはそれをじっと見ていた。
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