《天の仙人様》第15話 天龍様
昨日はそのあと母さんたちに叱られてしまった。間に合わなかったのだから仕方がない。それでも、同じように森の中へと足を運ぶあたり俺もどうしたものかと思いたくはなるが。これは仕方がないのだと言いたい。仙人の習みたいなもんだ。本能なのである。自然の中にいると気持ちがいいのだ。前世でじる以上の快が全を巡るのだ。
いつもの場所にたどり著くと、昨日と全く同じ場所にカメモドキはいた。こいつは基本的に発期か食料探しがなければ可能な限りこうとしないから、予想は出來ていたことではある。おそらく、ナマケモノより行しないだろう。數週間ぐらいは、この場に殘っていても、驚きはしない。
俺はいつものように巖の上に座ると、瞑想を始める。緩やかな川のように時間を超えて自然と共に。
これは俺のルーティンワークのようなものとなっており、毎日続けられていた。森の中に遊び場と呼べるものはないから、基本的に近寄る子供はいない。大人もメリットがないから來ない。そんなところだった。だからこそ、こうしてのびのびと邪魔をされずに気を巡らせることが出來るのである。
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それは突然であった。
流れの中かられというものが唐突に打ち消された。気がしんと靜まり返り、靜寂を與える。この世のすべての生がとまったかのような時間が生まれてしまった。こんなことは普通はありえない。気には多のれが存在する。これは生きているということと同義である。れなき者は死んでいるものと同じなのだ。完璧なものは生きではないということである。だからこそ、気がぴんと、れなく自然を巡っているのがひどく恐ろしくじてしまうのだ。ありえないことなのだ。
恐怖に負けてしまったのだろう。俺は目を開けると、そこには龍がいた。龍は真っすぐに俺を見ていた。
龍は、西洋の姿ではなく東洋の姿である。神の一柱であり、俺とは三つも四つも格が違う存在である。龍が神であるかという問いは永遠に続けられるであろうが、自然の調和を行っており、神が降臨するときには龍が現れるという文獻も存在する。神の使いでもあり、神の一柱でもある存在とされる。しかし、伝説でしか語られることのない存在であることも當然であり、今目の前に龍がいるという事実に俺は打ちのめされているのだ。そもそも、今こうして目の前に龍がいるということにあまりにも現実がなかった。夢の中にいるような、いいや、夢よりもふわふわとした不気味な覚の中にいるようである。
龍の降臨に恐れをなしたのか俺以外にははいなくなっていた。魔も當然消えていた。それだけ、龍の格というものは尋常ではなく、気の弱い生であるならば、失神してもおかしくはない。俺が仙人であるから何でもないかのように言っているだけなのだ。その俺でも、気を抜いたら魂が抜けてしまうかもしれない。圧倒的である。それしか言い表せないのだ。あらゆるが醜く見えるほどに。だからこそ、龍は人前に現れることもなく、自然の奧深くへとひっそりと住んでいるのだ。
「初めまして、天龍様」
俺は頭を下げる。
お師匠様から教えていただいた龍の姿を思い返してみると、目の前の龍は天龍であるということはすぐにわかった。
天龍は蒼い鱗に覆われており、四本の角が生えている。ひげもすらりと長く優雅に漂っている。穏やかな目つきでもって、俺のことをしっかりと見つめているのである。天龍様の視界に俺がっていることにおこがましさをじる。
「今日は何の用でしょうか? お師匠様の伝言などを預かっているのでしょうか? それでしたら、わざわざ俺のために伝言を屆けてくださり、ありがとうございます」
「我は、天から見下ろしていた。すると、ほんのわずかな地域で仙気に満ち溢れている箇所があったのだ。我は気になり降りてみた。そこには、自然と共に一人の年が在った。よって、我はその者の前へと出てみようと思った」
「ありがとうございます」
俺は再び頭を下げた。褒められたことに対して口元が緩んでしまっている。この顔を見せるわけにはいかない。天龍に褒められているのだ。これで喜ばないのならば、何を喜ぶというのだ。それほどに、天龍からのお褒めの言葉というものはズシリとしたとしてにってくるのだ。
「心地が良い。木々もも魔も気も魔力も全てもが、調和をとり在る。お主が調律してくれているおかげであるな。喜びに打ち震えている草花、木々を見たのはいつぶりだろうか。今ではそうそうお目にかかれぬ絶景よ」
「謝の極みでございます」
「心よく、清きままにして生あゆみ、後にして天人へと昇ることを願っている」
「恐れ多いことでございます」
「我はそう思うことはない。聖人は仙人へと昇り、天人にるものだ。主にはその輝きをじる。期待しておるぞ」
「ははあ」
俺は深く深く頭を下げることしかできなかった。しかし、天龍様が期待をしているというのは素直に喜ぶべきことであり、俺の魂は大きく飛び跳ねていることであろう。下手したら昇天しまうかもしれない。たとえ、世辭であろうともこの言葉をもらったという事実は変わらず。俺はしっかりと噛みしめている。
「そういえば……我の末の娘もお主と同じほどであったな」
天龍様のその発言に言いしれない圧をじる。ぎゅっと俺のは萎してしまい、こまっているのだとわかってしまう。たった、その一言に、言いしれない重圧をじてしまったのだ。
「では、さらばだ」
天龍様は一言別れの言葉を述べると、天へと昇って行かれた。俺が言葉を発するよりも早かった。俺はあっけに取られてその姿を見ていただけであった。頭が白くなったのかどうなのか。
最後の言葉の意味は解らないが、將來天人へと昇れるだろうと天龍様に期待されているというのは笑いが止まらないが、そこで笑ってしまうと品がないため一生懸命こらえている。
「ひひひ」
こらえきることは出來なかった。だが、俺はそれは仕方のないことだと、気にしないことにしたのであった。
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