《天の仙人様》第20話 剣と魔法

今日は兄さんたちにわれて草原にいる。しかも、ってきたのはルイス兄さんであった。いつも一人で魔法の修練を続けているものだと思っていたが、俺たちと鬼ごっこでもしたくなったのだろうか。いや、ない。だとしたら、何があるだろうか。ルイス兄さんはよくわからないのだ。いつもは一人で本を読んでいることが多いというのに。どういう風の吹き回しだろうか。

「どうしたの、兄さん」

俺は、疑問を素直に口にしてみることにした。この事態が起きる可能など萬に一つも想像していなかったのだ。それだけ珍しいことが起きているのである。だからこそ、俺たち弟は何が起きるのかがわかっていないのである。

「どうもしてないさ。ただ、ちょっと見てもらいたいものがあるんだよね」

兄さんは、腕を天に向ける。指を鳴らす。すると、火の塊が空へと向かい上で破裂する。火のがこちらへ振ってきた。それはしっかりと熱を持っており、しばかり熱かった。だが、それ以上に綺麗な花火でもあるために俺たちはじっとその景を見ているのだ。

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俺は、兄さんの顔を見てみると、満足そうに笑みを浮かべている。何度も何度も頷いてを確かめているようでもあった。

「へえ、兄さんもはもう、それが出來るんだ」

カイン兄さんは心しているように空を見上げていた。最初は手をこすり合わせる熱で火を発現させていたのに、指を鳴らす程度の作で発現させられるようになっているのだ。どれだけに魔法を慣らしてきたのか。

というか、ルイス兄さんってこの魔法を自慢するために俺たちを呼んだのか? 兄さんって、そう言うところもあるんだな。けっこう意外だ。自分の中で世界が完結しているものだと思っていたよ。本ばかり読んでいれば、そういうふうに解釈されても仕方がないだろう。

「まだまだあるんだ。もっと見ていってよ」

というと、ルイス兄さんは口の周りに手で円を作りその間から息を吐き出す。と、手の間から蛇のような大口を開けた炎の渦が飛び出し、あたりを暴れまわる。して、しゅんと消えた。熱風がこちらに襲い掛かってくるが、威力を抑えているようで、しばかり夏をじそうな程度の熱気である。先ほどよりは涼しいとさえ思うことだろう。

「二重元素だね。もう出來るようになったんだ」

俺は心していた。詠唱なしで二重元素の魔法の発現。才能あふれる魔法使いでも、五歳でそのレベルにはたどり著かないというのに。あきらかに、次元の違う魔法の才能がルイス兄さんの中に流れているのだ。英雄クラスの才能ともいえるだろうか。恐ろしい程である。

「朝から晩まで魔法の練習していた甲斐があったよ。毎日毎日、魔法を発現させて、それに合わせて魔力をどの程度使えば、どれだけの威力が生まれるのかというのを何度も実験したものだ。最も、効率のいい魔法だと思うね。まだまだ、研究のし甲斐があるだろうけれど、それだけの価値はあるに違いない」

ルイス兄さんは誇らしげであった。というか、すごすぎるな。冷靜に考えれば考えるほど異次元の領域である。兄さんの魔力量はかなり多い。使えば使うだけに溜めておける量が増えるのだが、多過ぎである。まさしく、朝から晩まで魔法を空っぽになるまで使い続けなくてはならないようなものである。

「うわあ……」

カイン兄さんも魔法は使えるようになっている。だからこそ、ルイス兄さんが何をしているのかがわかったはずだ。

「もったいね」

「ほんとうだね」

俺たち弟二人は、長男に対してそう思ってしまった。それほどまでに、無駄遣いを極めているといっても過言ではなかった。非常に殘念であった。それが気づかないとは思わなかったのに、その程度でしかなかったことに失したのかもしれない。はあと、溜息を吐いてしまうほどだった。

「な、なんでさ! これだけの魔力があれば、どんな敵でも一撃だよ!」

ルイス兄さんは、尊敬の言葉でも浴びせられるのかと思っていたようだが、全くそうは思わない。

確かに、魔力の量と魔法の習に関しては尊敬に値する。俺だって、二重元素の発現しかできないし、いまだに無詠唱で魔法なんか放てない。だが……。

「魔法だけじゃダメだろ」

カイン兄さんの言葉である。俺はそれを肯定するようにうなずいた。そうなのだ。それが重要なのだ。魔法だけですべてがまかり通るほどこの世界は甘くはないのである。それを理解しているものだと思っていたからこそ、俺たちは兄さんを殘念に思うのである。

「何でさ!」

と、ルイス兄さんは抗議するような聲を上げるが、目線は俺たちの顔を順々に見ている。そして上にそれた。それを見て、俺はしばかり認識を変えることにした。別に、理解していないわけではなさそうである。

「わかっているんでしょ?」

「え?」

「兄さん、模擬戦しようよ。俺が木刀は持っているからさ」

俺は腰に差している二本の木刀を二人に渡す。

「ルールは……魔法を使ってもありにしよう。それでも大丈夫だよね、カイン兄さん」

「ああ、大丈夫だ」

ということらしい。なら問題はあるまい。ルイス兄さんは魔法を使って倒せばいいし、カイン兄さんはそれを避けてルイス兄さんを倒せばいい。さすがに、魔法対決では勝てないからな。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

ルイス兄さんの聲は震えていた。しかし俺は止める気はない。開始の合図はすぐに上げられた。

しかし、それでもルイス兄さんの対応は早かった。早すぎるとでも言ってもいいかもしれない。あの発言はブラフなのではないか、とすら思えてくる。

「《水》」

ルイス兄さんは呪文を唱える。それに反応して、カイン兄さんは橫に飛んだ。兄さんが立っていた場所から土の塊が飛び出る。あの呪文はフェイクだったのだ。

「《風は押す》」

カイン兄さんの足が速くなる。弾丸のように突き進んでいく。ルイス兄さんが指を鳴らすと、目の前で発が起きる。が、いつの間にか前面に水のを張っていたようである。ぼそぼそとつぶやいても魔法は発現する。そういうことだろう。

そうして、カイン兄さんは目の前にたどり著いた。そのまま振り下ろす。それをルイス兄さんは、何とか木刀でける。ただ、木刀をけ止めただけの衝撃で、兄さんは苦痛の顔を見せているのであった。勝敗はもう見えていた。

數十分ほどであっただろうか。太はそこまでいていないということは、大した時間が経っていないということはわかる。

「うーむ……」

俺は、近寄ってきていた犬の頭をなでながら考えている風な様子を見せる。

「勝者、カイン兄さん!」

「ま、そりゃそうだ」

俺の宣言に、カイン兄さんは喜ぶこともせずに立っていた。一方のルイス兄さんは、力のすべてを使ったかのようにだらりと地面に倒れ込んでいた。

「なあ、その犬はなんだ?」

「ワライオオカミだよ」

「ハハッ! ハハッ!」

犬、改めワライオオカミが鳴き聲を上げる。まるで笑っているかのような鳴き聲を上げるために、そう名付けられた。

「オオカミなんだ、そいつ。変な奴だな」

「ハハッ! ハハッ!」

ワライオオカミに笑われているということは、自分より格下の存在だと思われているということなのだが、言わないでおいてあげよう。カイン兄さんとルイス兄さんが傷ついてしまう。

「く、くう……」

ルイス兄さんはうめいている。その聲は悔しさにあふれていた。わかっているのだろう。どうして負けたのか。俺たちは言わない。プライド? そんなものを守るためであるのならば、戦おうとは言わない。ただ、それでは寶の持ち腐れであると忠告したに過ぎない。それに気づければいいのだ。

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