《天の仙人様》第22話 夏の日

空にはお天道様が輝いている。真上だ。俺の隣には、ルーシィがいる。軽く汗をかいている。それを手で拭って払い落としている。健康的である。

もう夏だ。そうじさせる天気であった。ギラギラとした太は、俺たちに熱を浴びせ続けており、力をじわじわと奪っているというのがよくわかる。俺はともかくルーシィは、何でもないようにふるまっているが、獣人らしく、舌を出して荒い呼吸を繰り返している。熱を逃がそうとしているのだ。このままでは、倒れてしまうと危懼したために、これ以上外にいるのをやめて、室ろうということになった。

俺たちは家へと向かいながら、道すがら売っていたアイスを舐めている。まろやかなヤギのの味がする。それ以上に、ガンガンに冷やされているアイスを口にれたせいで、頭がキンキンと痛くなってくる。だが、そういうのも氷菓子の醍醐味という奴であろう。

自宅へと到著し、中にるが、ルーシィはそれに続かない。家の敷地の前でピタリと止まってそれから先には進もうとはしないのである。どうしたのかと俺は首をかしげることしか出來ないのである。

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「どうしたんだ? なにか、気味の悪い蟲でもいたのか? それだったら、目をつむって飛び越えてしまえば大丈夫だよ」

「え? あ、いやあ。領主様の家だからさあ……しだけ、りづらいというかなんというか。つまりは、そういうことなんだよ」

りずらそうに、もじもじとしている。そういうことを気にしない格だと思っていたが、別にそういうことはないらしい。しかし、一緒に家の中にでもって涼もうと思っていたのだから、そこで止まってしまうと困る。他にあるとしたら、ルーシィの家にれてもらうことになるわけだが、それもまた拒否することだろう。俺にはなんとなくわかる。

「友達だから大丈夫だろ。こうやって手をつないでいれば、怒られることはないだろうしな。貴族の友達を家に上げて怒るようなやつはいないさ」

俺は、ルーシィの手を握って無理やり家の中へと引きいれた。そうでもしなければ、中にってこようとはしないのだから仕方あるまい。彼はしばかり慌てたような反応を見せてはいるが、それだけであった。

「あら、アラン様。ガールフレンドですか?」

使用人の一人にそうからかわれた。目つきが笑っている。よほど楽しいのだろう。確かに、仲がいい子供たちを見ているのは俺も楽しいと思う。公園で遊んでいる子供たちにらかな笑みを浮かべることは多々あるのだから。……前世の話だが。

「友達だよ。あと、ルーシィは男だからね」

そう、忠告しておいてあげた。好きでっぽく見られているわけではないからな。何せ、俺がの子かと思って接していた時には、大聲で否定して來たからな。そこまでの子扱いされるのが嫌なのかと思ったほどである。だから、それ以來、の子として接したことはない。

「あら、そうですか。ふふふ」

笑って、使用人は去っていった。なんだったのだろうか。俺はルーシィの方を見ると、つないでいる手をじっと見ていた。目を見開いていた。顔を赤く染めており、沸騰しているようである。熱中癥を疑ってしまう。

「ルーシィ? 大丈夫かい?」

「…………」

固まっている。反応が全くない。俺は、目の前で手を振ってみるが、目線はつながっている手に向かったままだ。俺は焦りをじた。もしかしたら、意識がもうろうとしていて何も考えられていないのではないかと思ってしまったのである。當然、熱中癥でも人は死ぬ。俺はその焦りからつい手を離した。

「……あっ」

聲がれた。ゆっくりと俺に握られていた手をに當てる。もう一方の手で包み込む。目を閉じた。まるで、寶を手にれたかのような表である。どうやら、熱中癥ではないようだが、今の行の意味が理解できなかった。どういう意味があるのだろうか。

「なにしてんの?」

「え? あ、ちがう! ちがうから!」

何が違うのか。俺にはわからない。わかることといえば、ルーシィの気の巡りがめちゃくちゃに早くき回っていて、暴に荒らしまわっているようだということだ。張しているのだろうということはわかるが、家の中にる程度ではそこまでではなかった。むしろ、ここまでれ始めてしまった原因を考えてみると……。

「もしかして、手をつないだことないのか?」

「あ、うん。初めて……。手をつないだ……」

なるほど。どうりで。しかし、親とも手をつないだことがないとは。そういう家庭もあるのだな。……俺の家も、親と手をつないだことなかったわ。つまりは、そういう文化であったのかもしれない。俺は貴族の家だから、手をつながなくても何も思わなかったが、まさか、庶民ですらもそういう文化であったとは。驚きである。

「一緒だな」

「え? ほんと?」

と、顔をグイッと寄せてきて聞いてくる。俺は同じようにこたえると。嬉しそうに笑った。とてもらしい顔つきである。だが、その想は言えない。非常に殘念である。彼のしさを俺が聲に出してしまうと、彼は怒ってしまう。そう思うからこそ、俺は心にとどめるだけであるのだ。

「お互い初めてなんだ」

そう言って、再び俺と手をつないだ。しかし、顔を真っ赤にしている。そんなに恥ずかしいのならわざわざつながなくてもいいと思うのだが。だが、別に嫌ではないのでそのまま俺の部屋へと案する。

「お兄さま、そのは誰?」

と、背後から聲が聞こえた。振り返ると、そこにはアリスが仁王立ちで立っていた。びりびりとした空気が周囲を包み込むかのように広がっているようにじられる。

「アリス。こいつは男だ。の人ではないよ」

「その顔で? それは無理があるのではありませんか?」

純粋な疑問というような顔で言った。ルーシィはしばかり怯えたような顔を見せている。確かに、貴族の娘に対して喧嘩を売られて、平常心でいられる人間などいないか。たとえ、その娘が男爵程度の地位しかなかったとしても、民衆から見れば同じ貴族なのだから。俺はしばかり申し訳ないと思っているのである。

「そうだ。ルーシィは男だ。どんな顔だろうと、別は覆らないだろう?」

「その名前で?」

「……そうだ」

「ふーん」

と、視線をさまよわせて、あるところに照準が合う。寒気が走る。先ほどまでの暑苦しい空気からは一変して、真冬の中に取り殘されてしまったかのようである。手先がかすかに震えているようであるのだった。

「手をつないでいるのはどうして?」

「つなぎたいから」

俺は即答した。すると、ルーシィはその答えに対してあからさまに慌て始めてしまう。ああ、ルーシィは別につなぎたいわけではないのか。俺は手を放した。しかし、ルーシィは殘念そうな顔を見せる。どうしたいんだよ。

「ではお兄さま、おままごとをしましょう?」

アリスは話を変えることにしたようだ。ルーシィに対する興味はなくなったのだろう。そのおかげか、彼は表が和らいでいるのであった。ほっとしているように見えなくもない。

「いや、ルーシィがいるんだけど」

「ならば、ルーシィさんも一緒にしましょう。お兄さまがお父さん役で、私がお母さん役で、ルーシィさんが子供役。それでだいじょうぶでしょう。そうすれば、お兄さまとルーシィさんが一緒に遊びことも出來て、それで、私も遊ぶことが出來ます」

「ルーシィがお父さん役は?」

「それだけは絶対にダメです。お兄さまがお父さん役をやってください」

「……どうする?」

俺は確認をとった。顔にできるだけ出さないようにしているようだが、わずかに不機嫌だということがわかる。おままごとは嫌なのだろうか。いや、嫌なのは當然だろうよ。ルーシィは男だ。ハンターを目指すような男だ。おままごとなんて遊びに興味を示すわけはないのである。

「……お嫁さんがいい」

「え?」

「あ、なんでもない!」

オーバーにリアクションをとる。本人が何でもないということなので、何でもないのだろう。ということにしておく。お嫁さんをやりたがるなんて変わっているなとおもったが、それも心のうちにとどめておく。たまにはそういうこともあるのかもしれないだろう。歌舞伎的な気持ちなのかもしれない。扱いされたくないのに役をやりたいとはなかなかにおかしなことが起きているが、そういう矛盾があってもいいだろう。

結局、アリスの言った配役でおままごとをすることになった。俺の部屋に三人でる。アリスが最後に部屋にった。

「あなた、お仕事お疲れ様」

もう役にっているらしい。ゆっくりと俺に近寄ってくる、アリス。を俺に預けるようにを倒す。俺はしっかりと肩を摑んで支えている。夏の季節にこんなにもべったりとくっついていたら暑くて敵わないのではないかと思うのだが、アリスは一切気にする様子を見せない。

「ああ、ありがとう。アリス」

俺とアリスの距離は息がかかるほどであり、アリスは目を閉じて、こちらへを近づける。

「何してんの?」

俺は、額に手を當てて、距離をとる。危うく、同士がれ合うところであった。そんなことは、今まさに他人がいる現狀ではダメであろう。アリスはしばかり我慢を覚えなくてはならない。だが、俺に止められてしまったことに対して、不満を持っているようであるのだった。

「パパとママがいつもこうやってチューしてたもん」

「おままごとだからしなくていいんだよ」

「お母さん役だから!」

「ダメ!」

「むー、ダメじゃないもん」

頬を膨らませているが、ダメなものはダメだ。そんなにちゅっちゅしていたら、キス魔と噂されて嫁の貰い手がいなくなる。それはアリスの將來的にも大事なことだろう。

それからは、アリスの暴走を俺たち二人で押さえつつ、おしとやかなおままごとをしていくのであった。

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