《天の仙人様》第41話 大道蕓の

九尾の狐様はお師匠様が帰っていくと、後を追って帰っていった。百年もそのような関係だそうで、疲れた顔をしながらお師匠様はぼやいていた。俺は、彼を教えてもらえることを祈っていた。お師匠様も、の素晴らしさをわかってくれればいいのだが。そうそううまくはいかないだろうとも思う。あの人は、ほんの數年関わっただけでも、堅なのだろうというのがけているのだから。

今は、太が真南に昇っていることからもわかるように、晝頃なのであるわけだが、今日は蕓人がこの村にやってきたそうだ。父さんたちの會話から聞いている。珍しいことだ。こんな田舎村へと、足を運ぶような蕓人はいないと思っていてもおかしくはない程なのだから。だから、こんな機會を逃してはならないと、使用人を連れ立って、兄弟全員で蕓人を見に行こうということになった。もちろん、ハルとルーシィも一緒だ。

蕓人は、村の広場にいるということらしいので、そちらへと向かっているが、カイン兄さんは兄弟で一番楽しみらしく、興を抑えきれないようである。俺たちが、興していないかといわれると、そういうわけではないのだが、カイン兄さんの興合が異次元に高いために、俺たちはある程度冷靜でいられるのだ。あれは、貴族の次男としてどうなのだろうか。將來恥ずかしいと思うことがあるのだろうか。本能で生きているような人だから、どうなるかはわからない。だが、そういう生き方が絶対に間違いというわけではないのなら、悪くないということならば、良いといってもいいのではないだろうか。正か負しかないのならば、兄さんは正に當たることは間違いはないのである。

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「あ、あれがそうじゃないのか? あんな奇抜な格好をしている人なんてそうそうお目にかかれるものじゃあないからね」

と、ルイス兄さんが指さす先にはピエロの姿をした、大男がいた。子供だから、大男に見えるのではない。純粋にでかいのだ。隣にいる男よりも頭一つ高い。のっぽである。もしかしたら、二メートルはあるかもしれない。種族がわからないように、フェイスペイントは濃く塗られているし、服裝もだぼっとしていて格を悟られることはない。大きな帽子をかぶっているせいで、頭に特徴があるかどうかすらもわからないようになっている。完全に不思議な存在として彼はその場にいるわけなのである。

蕓人は、ボールを複數個手に持って、ジャグリングを始める。そして、それからも一つずつ數が増えていく。十を超えるような數のボールをくるくると彼の目の前で回っているのだ。だが、ここからではまだ距離があるので、すぐに蕓人がしっかりとみられる位置へと移する。

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とりどりのボールが、規則正しく放られて、蕓人の手と中空を移している。カラフルな円が出來上がっているのだ。観客から歓聲が上がる。しいのだ。奇天烈な外見からは想像もできないような緻で繊細なを目の前で広げていた。

ボールは全て手に戻り、ポーズを決める。俺たちは拍手で稱賛をする。大きな音がこの広場に広がり、村全へと行きわたっているかのようで、そして、外にすらもれ出してしまっているかもしれない。それほどである。それが鳴り終わる前に、次の準備へと進んでいく。

蕓人は多彩であった。手品も披していた。俺が個人的に気にったのは、人形劇である。彼のる人形は、があるかのように喜劇的に、悲劇的に演じられていた。人形というよりは、人間に糸をつけているというほうがよほど信じてもらえそうなのだ。たった數本の糸から、ここまで人間を出すことができる技の高さを稱賛していた。拍手が鳴りやむことなんてない。彼の蕓と、技にこの村の全員が惚れこんでしまったのだから。

舞臺は終わった。俺たちは次々に、チップを蕓人が出した防止の中に放り込む。それだけの価値があるのだ。蕓人は一言も話すことなく、ただ丁寧にお辭儀をしていた。

俺は、その様子をじっと見ていた。ただお金をもらって、それに対して禮をする道化師。その姿にひどく惹かれるものがあったのだ。それは何だろうかと、探しているのである。別に、道化師を見たことがないからではない。彼の姿が俺のイメージするピエロや何かと恐ろしく違っているわけでもない。ただ、その姿には言いようもない底の無さがあるような気がするのだ。

俺の知的好奇心という奴はだんだんと大きくなっていっているわけであるし、道化師がこの村に遊びに來るなんてことが今後あるとは思えない。ならば、実際にいてしまうのがいいことなのだと俺の頭は結論を出すわけである。

俺は彼へと足を進めると、兄さんが手をばして引き留めようといていた。だが、兄さんたちの方を見て、首を橫に振った。それだけですべてを理解してしまったのか、そのばしたうえでは、行き場なくさ迷って、下に降ろされるのであった。

「ピエロさん、ピエロさん。木で出來た橋を、軽やかに飛び跳ねながら渡ることはあるのでしょうか。ピエロさんは、壊れることを恐れずに、飛び回ってしまうのでしょうか?」

俺は、つい話しかけてしまった。キャラクターというものがあるように、ピエロが話すとは思えなかったが。しかし、何かしらの答えを出すのではないのかという思いもあるわけなので、試しにという、新作のデザートでも頼むような気楽な覚で言ったに過ぎないのであった。

彼は、じっと俺のことを見つめるようにのぞき込んでいる。というものが失われているかのように無機質的で、ただ綺麗であるように見えた瞳の底では何を考えているのだろうかと。そんな不気味さをじつつも、彼がどんな反応を見せてくれるのかを俺は待つのである。我慢比べであれば、俺が勝つことは間違いないだろうし、彼もまた俺が飽きてしまうことをんでいるようではなかった。何か、答えを出してあげようというわずかな、親切心が仕草に見えるような気がするのだから。

「…………。木を壊し、中空を飛んで覧にれましょう」

道化師の答えであった。その場でぴょんと一つ飛んでみた。それと同時に、大玉の上に乗っかって、片足でバランスを取っている。なるほどと思った。今見せてくれたそのきのみで、その様子が浮かぶ。やってみろとは言わない。この質問はそういう類なのだ。ただ、聞いて、どんな答えが返ってくるかの遊びでしかないわけである。

「ネズミは貓を食べますか?」

「ネズミは獅子すら食べるでしょう。もっとも、恐ろしく強い生きなのですから」

「砂漠に泉は出來るのでしょうか?」

「砂漠などありません。原っぱが存在するだけなのです」

俺たちは、何の意味もなく。ただ言葉を言い合っているだけなのだ。ありとあらゆる思考すらも無意味に返すだけの、垂れ流しである。夢の中をこぼしてしまっているかのような、そんな世界を彼と共に話し合い、作り上げているのである。彼もまた楽しんでいるかのようで、ただつらつらと語り掛けるようにしゃべっている。

俺は、満足したので手を振って道化師から、離れる。どうやら、俺のことを待っていてくれたようで、みんなが待っているのが見える。俺のことを置いて、帰っていってしまっていたと思っていたのだから。むしろ、そうしても問題ないと思っていたからこそ、し、申し訳ない気持ちになったが、俺の楽しみを譲るつもりもなかったので、悪ぶれないように堂々と近寄るのだ。俺が合流すると、屋敷へと歩き出す。ぞろぞろと。一塊となって。

「すごかったな、あれ。アランもすごいと思ったよな。いいよなあ……ああいう蕓を持っていると。尊敬するぜ。オレも出來るようになるかなあ。ああやっていっぱい球を投げる奴。他にも、帽子からハトを出してみたりと蚊もすごそうだな。どうやってやるのか全く分からないけどさ」

カイン兄さんは、興したように、ジャグリングをしているかのようなジェスチャーを見せる。使用人たちは、ほほえましそうにその姿を見ている。兄さんはまだまだ、稚な年なのだから、そうやって尊敬するような人間の真似をしたいと思うのは普通なのだ。むしろ、冷めたようなをわずかでも持っている俺の方がダメかもしれない。興はしているのだろうが、兄さんほどではない。真似したいとは思わない。あの蕓は干渉するからこそ、しいと思っているわけなのだから。

「まあ、カイン兄さんならできるんじゃない。そういうセンス在りそうだし。むしろ、出來なくて悲しんでいるほうが驚くかもしれないなあ」

「ほんとうか?」

「ああ、確かにね。カインなら、明日にも出來ていても驚かないかな。そういうものだと思っているわけだしね。僕たちは。おそらくだけど、そういったことに対するセンスはカインが最も優れているのじゃあないかな」

ルイス兄さんも俺の考えに同意した。運センスがずば抜けて高いから、もしかしたらあり得るかもしれないと、俺たちは思ってしまうのだ。

屋敷に著いたら、さっそくとばかりにカイン兄さんはジャグリングの練習を始めた。まだまだ未である。二個は出來て當たり前だろうが、三個になるとおぼつかなくなる。俺たちはそれを橫目に剣を振る。カイン兄さんは、ムズムズした様子を見せているが、自分でジャグリングの練習をしているわけで、俺たちは気を使わずに堂々と剣を振っていく。意地悪ではない。それに、目を離していると、いつのまにか、三個、四個というように數が増えていくのだ。まさかそこまで上達するのが早いとは思わない。驚くわけだが、それを面に出さずに剣を振り続ける。

じっと、カイン兄さんが俺のことを見ている。俺は気にすることなく、ハルの剣の振りを修正していく。ルーシィもちょっと、重心がずれるから、そこに気を付けて、教えていく。だんだんと、しい軌道で振り下ろされる剣はほれぼれする。

「どう?」

「綺麗だよ」

「え、本當……あ、私は?」

「もちろん、綺麗だよ。とっても可い」

ハルは、口をもごもごとかしている。何かをこらえているかのようであった。それにルーシィは文句があるかのように詰め寄ってきてくる。俺は同じように答えるが、それだけは満足できないようである。では何をしようかと思い、手を握り目を見つめてルーシィのことをどれだけしているかということを、語ったりしたわけであるが、それでも満足できないのか、更にせがんでくる。

「もう十分じゃないのかい?」

「ま、まだ足りない。もっと言ってほしい」

「…………。ダメだよ。顔が真っ赤じゃないか。そんなに恥ずかしいのに、続ける必要はないでしょ。そんなに、何度も言わなくても俺は、ルーシィのことをしているんだからさ」

「うん……」

ルーシィは真っ赤な顔のまま、剣を振り直す。しかし、集中できていないようでふらふらとした筋である。俺は、顔を緩ませながら、剣をしっかり構えさせたりと、修正していく。

と、忘れていたので、カイン兄さんの方を見ると、八個のボールを使ってジャグリングをしていた。俺の口が開いた。いや、まさかと思ったが、もうそこまでできるとは思いもよらない。早すぎるだろう。四個までなら、納得は出來よう。センスだけでもどうにかなるのだから。だが、それ以上を超えてくると、猛烈なまでの反復練習を必要とするはずなのだ。それなのに、こんなにも短時間で習得されるとなると、世界中の蕓人が嫉妬に狂うことは間違いない。

「すごいね、兄さん。大道蕓人になれるよ」

「いや、オレは蕓人よりも騎士になりたいからな。剣で人を守れる人になりたいのさ。だから、これは遊び」

そう言って、満足したのか剣を手に取り、振り始める。その振りは、力強くしなやかに、意志をもって振られていた。敵を倒すということ、人を守るということ、その二つが包された剣を見ていて、俺は心が震えるかのような気持ちであった。素晴らしいのだ、一言でいうのなら。心は力へと変わる。それを現するかのように振られ続ける剣を見るだけで、俺は溫かくなれる。熱が沸き上がるのだ。

「大丈夫?」

ハルに心配されてしまった。これはまずい。何でもないようにふるまってみる。しかし、ハルは心配そうに見つめている。何かおかしなことでもあるのかと、剣の振り方一つ一つをしっかりと見直してみる。だが、普段通りの剣筋である。つまりは、長している要素がじられないわけである。これは大変なことだと思う。長しなくなったら、生きではないというようなものだ。老化もするが、それ以上に長するのが生きなのだから。止まってはいけない。歩き続けるのだ。一歩ずつでも。ならば、歩こう。そのために歩き方を探そう。今の俺は歩き方を忘れてしまったのだ。

しかし、ハルの不安はそこではなかったらしい。

「でも、ここが燃えているよ。いつものアランとは違うみたい。とっても不思議な覚」

といって、指を指したのは、気が活発に巡りエネルギーが満ち溢れている箇所であった。そこを何でもないかのようにすっと指さしたのだ。

俺は驚いた。いや、驚いたという言葉で片づけていいものか。どきんと心臓が飛び上がり、呼吸が一段と早まるのをじるのだ。病気なのではないかと疑うほどにがおかしいと自分自が実してしまう。それほどの異常事態を引き起こしているのである。それほどまでにハルの指摘は、おかしな事態と言えるのだ。普通は、仙人以外の人間には、気というものが見ることは出來ないのだ。じることができても自のだけ。他人の気を知覚は出來ない。しかし、ハルは出來ている。俺の頭は混の絶頂にいたのであった。

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