仙の修行はうまくいっていない。今日もまたしても進展などなく、ただ時間だけが過ぎ去っており、家へと帰ってきていた。俺としてはそれに対して何か思うところはなく、ただそういうものだという認識でしかないが、それとは正反対であるように、ハルの顔は悪い。俺はゆっくりと背中をなでながらそばにいるということをゆっくりと認識させていく。そうしなければ、変に憂鬱な空気を纏ってしまうのである。

仕方ない。何度も言っているのだが、ハルはそれをけれられずに、俺に嫌われたくないという一心で焦りが見える。だが、その焦りで仙など上手くいくわけもなし。ただただ、負のスパイラルというものそのものだった。

俺の手に絡ませるように、ハルの手がれる。熱がお互いのを行き來している。ハルは全を俺に近づけてくる。俺はそれをけれるように、手で寄せていく。息がかかる。お互いの息が混ざり合い、心臓が高鳴る。騒ぐ。わめく。猛るのだ。ハルから近づいてくる。れる。わる。わす。お互いの熱が換されていく。やわらかく、激しく、を混ぜ溶かしていく。

ハルは、飢えているのだ。恐れているのだ。それが、行で現れてしまっているだけなのだろう。だから、俺はそれを全力でけれ続ける必要があった。けれ続けなければ、彼が壊れてしまうという思いがあった。彼が過去に何をしてきたのかはわからない。恐怖するだけの何かをしてきた、されてきたのかもしれない。だが、俺は今の彼を見ているのだ。過去ではない。だから、今の未來の彼をし続けているのだ。だからといって、過去の彼が嫌いになることはない。過去今未來、すべてにおいてのハルをしているのだから。それほどまでに深く、深く、というものがあるのだ。

時間をかけてしっかりとを伝えるようにしている。それだけ深ければ深くなるほどに、お互いがお互いを認識できなくなるほどに、一つになってしまったのだと錯覚するほどに、境界線はだんだんと消えていってしまうかのように、囚われてしまうかのようで。

「ん……アラン……」

ハルのにはをどれだけ注いでも、満たされることはない。俺はそれだけが心配だ。今俺たちがを合わせていても、それでは満足できないのではないかと不安になってしまう。俺のにも限界がある。一度に與えられるには。時間をかければ無限にじるを與えられるだろうが、瞬間では、限度があってしかるべきなのだ。そうでなければ、壊れてしまう。によって廃人にだけはなってほしくない。だからこそ、ゆっくりと時間をかけてし合わなくてはならないのだ。

「アラン様……。……あ」

扉を開けて、使用人がってきた。であった。俺たちが舌を絡ませるように熱的な行為をしているというところを見られた。まあ、いつか見られるだろうとは思っていたが、今日であったか。婚約者であるのだから、その行為自に対して何かを言われることはないだろうが、ただ、見られてしまったというその事実が心に引っかかるように殘ってしまうこと確かであろう。

ハルは、隠すように離れる。顔が真っ赤である。やはり、人に見られると恥ずかしいのだろう。を見せることに対して抵抗がない俺にとっては、恥ずかしいと思うことはないが、を俺たちだけの個のものとして隠すという気持ちもわかる。し合う姿を俺たちだけのとして共有しておきたいのだ。それもらしい。だがしかし、後の祭りというやつだ。バレているものは隠し通せない。一応婚約者であるため、怒られることはないだろうが、児がこんなことをしていると知られたら、どうなるのか。

「お二人は、そんなにお熱いのですね。とても羨ましくじてしまいます。しかし、今から燃え上がらせていると、炎はいずれ鎮火してしまいますよ。そうなったときは慘劇です。今までの全てのが仮初のものでしかなかったのではないかという恐ろしい程の、虛無と恐怖に襲われてしまうことでしょう。ですから、今からしずつ抑えていくことを助言しておきます。小さな炎をしっかりと燃やし続けることが長続きするコツです」

「アランと、私は永遠にし合うの！　絶対に！　消えることなんてありえない！　今も未來も來世も、世界の端までし合うって誓っているの！　たとえ、他の誰かのが消えるのだとしても、私たちのは消えない！　ずっとずっと、これから先もあり続けるの！」

使用人の言葉に、聲を震わせて反論をする。俺は背中をさする。俺がそばにいると教えるために。消えないと伝えるために。ここに殘り続け、彼の魂との両方へと語り掛けるように。ゆっくりと落ち著かせていかねばならない。それだけ、彼は追い困れているのだ。俺にはどうすることも出來ないほどに深いところで、悩んでしまっているのである。俺のアドバイスが屆きそうにないのだ。であれば、どうすればいい。ただ、彼の近くに寄り添うことしかできない。俺の力のなさに呆れ果ててしまう。自分自が自分自に対して失してしまいそうだ。だが、それはしてはならない。しっかりと自分をもっていなくては。そうでなければ、彼を勵ますなんてことは決して出來るわけがないのだから。

使用人は、申し訳ないことを言ったと顔をわずかにゆがめている。それを無理やりに押さえつけようとしているのだから、より質が悪く顔に表れてしまっている。いっそのことただひたすらに悪いことをしたという思いを表に出してもいいのかもしれないが、ハルは、それをんではいなかった。今の彼にありとあらゆる同を向けてはならない。敏に嫌悪してしまうことは間違いないわけであるのだから。だから、その表の変化など気にすることなく、何か言うこともなく、ハルの涙をためている顔を落ち著かせる方が大事であった。

「アラン、いなくならないよね。ずっと一緒にいるよね。今も、これからも、ずっとずっと、世界がなくなっても、一緒にいるよね。だって、私と約束してくれたもんね。決して離れることはなく、つながり続けるって、し続けてくれるって……」

彼の言葉には、あまりにも覇気がなく弱々しくなっている。今にも消えてしまいそうなほどである。不安でしかないのだろう。俺がどれだけ言おうとも、何度も言おうとも、それを再び口にして、俺の口からもう一度聞くことによって、心を落ち著けさせていることは違いないのだから。であるならば、俺はいうだけである。その言葉を何度も伝えるだけなのであるのだから。

「大丈夫。ずっといるさ。生まれ変わったって、一緒にいるよ。これから先もずっと先も、永遠であろうとも。絶対にな。俺たちがし合う限り、永遠に離れ離れになんてならないさ。それが、この世に生まれた俺とハルとの絶対にして確信的な誓いだろ」

俺は、不安を取り除くように優しく聲をかける。しかし、これでいいのかという思いもある。これだと、ハルは俺なしでは生きていけなくなる。どんどん俺に依存してしまうだろう。それはいいことなのかという思いがないわけではない。だが、今のハルから俺が離れると、何をするかわからない。絶してしまい、自分の命を絶ってしまう可能だってないわけではない。それだけは絶対にダメだ。自殺だけはしてはいけない。どんな逃げの手段を持っていても、自殺という手段だけは持っていちゃいけないんだ。それをしてしまえば、俺はハルに対するが揺らいでしまいそうですらある。自殺を憎むあまりに、彼自までも憎んでしまいそうなのだ。だから、俺は彼を憎みたくないから、その道へと行かないように優しく、手を取り合って、隣を歩いてあげるのである。

ハルは、俺にうずくまるようにを寄せる。俺は頭をなでる。絶しないように、優しく。ハルはゆっくりと俺に全てをゆだねるようにを預ける。そして、気の流れが緩やかに変わっていく。だんだんと、呼吸もゆっくりとしたものへ変わる。肺が大きく膨らみしぼんでいくのだ。俺は、ハルの頭をやさしくでている。それだけで十分だろう。むしろ、そこから先を無理にする必要はない。出來るすべてでもって、ただしているということを伝えればいい。むしろ、それだけは欠かさずにしなくてはならない。絶対條件である。

「ハル様は、アラン様しかいないのでしょうか。でしたら、なんて虛しい。空虛な人生なのでしょうか。救う手立ては、あるのでしょうか。いや、このままでいることも正解かもしれません。間違いかもしれません。わたしには何一つ思い浮かびません。わたしはアラン様ではありません。これは、アラン様、あなたにしか、解決するを持てないのかもしれません。ハル様を絶対に幸せにしてくださいね。同じとしての願いです。よろしくお願いしますね」

「……ハルは空虛ではないさ。虛しくはないさ。幸せにすることは間違いないが、彼が俺だけをし続け、俺以外をせなくなったとしても、それに対して虛しい人生だったと彼が思わないようにするのが俺の役目ではないかね。であれば、俺はそれを実現するだけだろう。それ以外には何も必要ないという思いすらある」

俺の言葉に使用人はただ、はっとしたように息を呑んでいる。気持ちの強さを理解できたのだろうか。だからこその、その反応だろうか。であれば俺としては嬉しい。そうでないとしたら悲しい。ただ、彼には俺がどれだけ彼のことを想っているのかということを理解してほしいところである。

「さすがでございます、アラン様。そこまで強い気持ちであれば、ハル様は決して恐れずに、空っぽにもならずに、ただ満たされた人生を送ることは出來そうです。それはきっと、素晴らしい事でしょう。どれだけ、を求めても、それが葉わない人は數多く存在します。その中に置いて、彼は、たった一人に、この世の全てのをもらうことが出來るのですから。羨ましいです。アラン様。決して彼を不幸にしてはなりませんよ」

「ああ、ハルは俺が絶対に幸せにするさ。いや、ハルだけじゃない。ルーシィだっている。二人とも、絶対に幸せにするさ。お前が心配しなくてもな」

「ふふ、そうでございました。では、わたしはこれで」

「待ちなさい」

俺は、使用人を呼び止める。彼は疑問に思っているらしく、首をかしげて俺の方を向いた。きょとんとした顔で、見ている。呼び止めたことが間違っているかのように思えてきてしまう。

「どうして、ここにいるのですかね。九尾様」

「おやあ、わらわが憑依していると気づいておったか。なかなかよのお」

「まあ、気の巡りが二つもあれば、馬鹿でも気づくというものですよ。普通はそんなことがありませんあkら、それほどまでに骨でしたからね」

「そうか。やはり、適當ではさすがに気づきよるよ。であっても、わらわを気にするでない。意味など存在しない。人が生まれ死ぬことに疑問を持たないように、わらわが今どこにいるのかも疑問に思わなくてよいのだ」

使用人は、部屋を出る。それとれ違いで、ルーシィがってきた。ルーシィは俺と視線が合うと、顔を明るくしながらこちらへ駆け足で近づいてきた。

「ただいま」

ルーシィのは俺の頬にれる。ルーシィは、年相応ならしさがある。ハルは、児的でありながら的な格を持っているために、俺に対する接が絡みつくようであるのだが、ルーシィはさらりと、水のようなれ合いに止まっている。というのが、普段の狀態である。

彼は、発期にると、ハルよりも積極的である。斷り切れずに、一緒に風呂にった時なんて、中をキスされた。その時に首筋に著いたキスマークを親に発見されてひと悶著あったのだからな。

「ところで、アラン」

「なんだ？」

「あたしのことも、永遠にしてくれる？　今も、未來も、あと過去も。あたしの全部をしてくれる？」

……どうやら、扉越しに、あの會話でも聞いていたのだろうか。でなければ、この話題を今出すわけがない。そうなのだろうな。だとしたら、言うことは一つだけだろう。

「もちろんだ。ルーシィの全てを永遠にし続けるさ。ずっと好きでい続けるよ。世界が変わってもね」

「あたしも」

お互いのがれ合う。の表現としては陳腐なもの、しかし、もっとも単純で、最も伝わりやすい表現であるのは間違いなかった。あたたかさが、が、から俺に伝わってくるのだ。だからこそ、ハルは確かめるように何度も求めるのだろう。口づけというものの力というのはそれだけのものがあるのだ。