《天の仙人様》第46話 驕らずの実力
これは、遊んでいたということになるのだろうか。もしかしたら、相手は遊ばれていただけだとじるかもしれない。そもそもそういうことすらなく、ただ躙されていたというのが最も納得のいく狀況ではあるだろうが。手加減、そういうものを知らない一人の人間のせいで。その人は、真っ直ぐに地面に立って、あおむけになって倒れている二人の年を見ていたのだ。あまりにも無機質的だとしか言いようのないそんな眼である。あきらかに、自分の想定しているレベルのその下を來ているからであろう。その前のき全てでもってそれを証明していたが、わずかな期待があったらしい。
俺は剣を見つめていた。兄さんの持つ、あまりにも綺麗に手れされてあるをである。素手でもよかったかもしれないという後悔や反省を含めた目であった。それほどまでに実力差があったというだけである。教えてあげればよかったなと、思いつくのがもうし早ければと、思わずにはいられなかった。これは、兄さんが手加減という言葉をあまりにも知らな過ぎたということを想定できなかった俺の責任もあるだろうと思えてならない。
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「弱いなあ……。剣で遊んでいたもんだから、それなりに強いかと思っていたけれど、大したことはないんだなあ。びっくりしたよ……」
その人、カイン兄さんは、殘念そうにつぶやいた。しかし、これは年たちに一切の非はない。カイン兄さんが強いという事実を認識することなく、年たちと模擬戦をしたのなら、年たちに勝てるわけがないのである。一方的な躙、そう呼ぶにふさわしい出來事なのだった。ただただ慘めに、年たちはぼろ布であるかのように倒れている。だが、しっかりと息をしているので、死んでいるわけではない。ただ恐ろしいまでの恐怖から逃げるために、起き上がることを放棄しているわけなのだから。
俺は兄さんの方へと近づく。これでは、何度もやろうとも、結果は同じであろう。なくとも、彼らを鍛えるということになる前に、彼ら自が剣を持つことに恐怖を持ち始めてもおかしくはない。剣を持つことに覚悟が必要なのは當然なのだが、この世界で、剣を持つことに恐怖を覚えては生きてはいけない。それだけ殘酷にして、危険極まるのだから。そうはならないようにしなければならないだろう。俺の役目だとは思わないが、今手を差しべることが出來るのは俺しかいないのだから、俺がやるべきであろう。
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「兄さん、もうし手加減してあげようよ。兄さんは強いんだからさ、そうでもしないと、この子たちは手も足も出ないよ。それぐらいの実力差があったわけなんだしね。全力を出すことが悪いわけじゃないけど、これは今の正解じゃなかったよ」
「そうか? オレって、父さんに一度も強いと言われたことないし、一度として勝ったことないし、『お前はまだまだだ』と言われるし、アランにも負けるし。弟に負けてしまうような兄なんて弱いことは確かだし、まだまだ、進する必要があるわけだ。であれば、こんなオレを強いなんて言えないだろうよ。そうだろう?」
父さんが、強いという言葉を簡単に使わないのは、俺たちに驕りを作らないようにするためなんだけれども。後は、大人としてみれば、そこまで強くはないという意味でもある。野生生にとってみれば、大人であるとか、子供であるとかいう條件は関係ない。獲がいたら全力で殺す。だから、子供の中で強くても自慢にならない、より強くなるように努力をせよ、という意味合いなのだろうと思うわけだが、兄さんは、子供の中でも大したことないと思っているようであった。たしかに、子供を大人の実力の中で評価するということはしない方が普通なのだから、そういう考えに陥るのもわかる。これは、父さんのミスであろうな。あとは、俺が勝ったりすることもあるからか。弟に負ける兄が強いとは思えないよなあ。一年多く生きているということは、それだけのアドバンテージがあるのだから。それを覆すような実力があるのだとすれば、それは兄さんにとって自分の弱さが當てはまるのだろう。これは、どんな理屈をこねて、理解させたとしても、納得させられることではないだろう。
ただ、全的に考えてみれば父さんが悪いわけではないということはわかっている。父さんの教育は功しているのだ。どんな相手にでも全力で戦うということが出來るのならば、油斷や慢心など起きないだろう。驕りを生まないことで、より慎重になることが出來る。戦闘で死ににくくなるのだから。しかし、それは実踐でのみ培われるべきものだった。兄さんには訓練では実力を合わせることが重要なのだと教える必要もあっただけだった。それが致命的に足りなかったというわけである。
「まあ、そうかもね。それなら兄さんは弱いね。まだまだ、実力不足なところがあるのだろう。でも、この子たちは、その兄さんよりも弱いんだから、手加減してあげたらっていう話だよ。今から考えても、この子たちとの実力差は手加減した程度で埋まるほどではないのだからさ」
俺は父さんの指導が無駄にならないように言葉を選びながら、兄さんを説得していく。だが、兄さんにはそれも通用しないような、そんな顔を見せている。あの表としては納得できていない。どうしてなのかと頭を抱えてしまいたい。あまりにも頑固すぎるのではないだろうか。
「そうしたら、オレの訓練にならないし、手加減したら、向こうのためにもならないんじゃないのか。手加減した訓練って、所詮そのレベルの訓練じゃん。やっぱり真剣にやらないとダメだと思うんだよね、オレは。そう思うだろ?」
「じゃ、じゃあさ……兄さんは攻撃を避けるだけで、この子たちにひたすら攻撃をさせるってのはどう? それなら、手加減しないで全力を出して回避できるし、向こうも全力で攻撃の訓練が出來ると思わない? どう?」
兄さんは、考えているようであった。俺の理論に対抗できるのかを。しかし、対抗してほしくない。なくとも、この案を言った時の年たちの顔は明るくなったのだ。んなことを同時にやっても、無駄なのだ。無理は上達には必要ない。むしろ、阻害するだけでしかない。それは、長のためにならないのであれば、今すぐに排除しなくては。そして、彼らにとって、攻撃と防を同時に並行的に行うというのは、無理なのだ。ならば、一つずつ極めていくべきだろう。まずは、攻撃を當てるということを訓練にしていく必要がある。それだけ、彼らは弱いのだから。
俺の不安な心をあおるように靜かな時間が流れる。兄さんは、顔を下に向けて悩んでいるために、俺の不安は加速していくのである。じれったく、わざとらしく、そのそぶりは終わらず。いつ上げるのかと待っているのだが、寢ているのではとさえ思ってしまう。そうして、顔が上がる。遅かった。
「じゃあ、そうしよう。アランの案でいこうか。これから、二人はオレに一撃でもれれば勝ち。オレはひたすら避け続けて、二人が疲れるまで一撃もれられなかったら、オレの勝ち。それでいいね」
「「は、はい! よろしくお願いします!」」
このあいだの待ち時間の間で、休憩が出來ていたようで、二人はすぐに立ち上がれたようであった。それなら大丈夫なのだろうか。し汗をかいているし、息もまだまだ荒い。すぐに倒れなければいいのだが。しっかりと俺が監視していなくてはならないと心に誓うわけだ。
時間が過ぎ去っていく。その間もひょうひょうと兄さんは汗一つかくことなく避け続けられている。彼らの攻撃はあまりにも直線的で、読みやすいというのはあるだろう。だからか、わざと、ギリギリで避けているのだ。しでもミスれば、攻撃が當たるようなタイミングで避けている。だが、そうでなければ兄さんの特訓にはなりえないという現実もある。そして、それは夕方を迎えて、空が真っ赤に染まったことまで続いていくのであった。
「じゃあ、このぐらいでいいか。もう夕方だし。家に帰ろうぜ」
カイン兄さんの掛け聲で、草原に倒れ込んでいる二人はよろよろと起き上がる。
結局は、ボロボロになるのではないかと思うほどに、しごかれていた。攻撃だけをしていたというのに。だが、二人ともハンターに憧れているのだそうで、それなら手を抜くわけにはいかないと、カイン兄さんは目を輝かせていた。その結果がこれだということを考えてほしいものでもあるが、間違えているわけではないので、俺は何も言わない。俺たちの指導力不足で死んでしまうほうが嫌なのだ。教える側の人間に俺はいるのだから、そうならないよう努力をしているのだ。その結果としてのこれであるのだから、ある程度はけれる必要もあるだろうことは言うまでもなかった。
俺たちは門まで戻ってきており、そこで別れる。そこからは、二人で屋敷へと足を向ける。その間も兄さんは、剣をふるっている。今日はあまり振っていないからだ。一振りずつ、無駄を消していく。そのきは、彫刻的なしさを持っているのだ。一瞬を永遠にとどめておきたい。そのを、兄さんの剣からはじられる。恐ろしいことである。それは、すれ違う人、人、人、その人たちに伝わらない。認識すらできない。神的なであった。嘆くべきことだった。しかし、俺は言わない。屆くことのないことだからだ。諦めにも似ていた。俺だけが気づいている優越と、俺しか気づかない悲壯の二つが絡まり合って心に居座っているのだ。
「ただいま」
俺たちは、扉を開け、中へとる。と、俺に衝撃が。何事かと視線を向けると、そこには、ルーシィが飛び込んできていた。てっきり、ハルの仕業ではないかと思っていたが、そうではない。いつもなら、これはハルがやってきていた。それだけ、今のハルは思い悩んでいるのかと俺は不安になる。しかし、一緒に心配しているルーシィの表が明るいのだから、何かあるかもしれない。朗報があるのかもしれない。そう思えた。
ルーシィは腹のあたりに手をれる。丹田といわれる場所であった。そこに正確に手をれさせて、でている。その手つきはまるで妊婦のように優しさのこもったものであった。俺はそのしぐさで、思い至ってしまった。
彼は、俺へ上目遣いで見上げると、瞳をうるうると潤ませて、重大なことでもいうかのような気の重くなるような空気を作っていた。俺は、予行演習という気持ちでどっしりと構えているように見せている。
「……出來るようになっちゃった」
俺は、ルーシィが俺たちと同じ修行が出來ないということで、ふくれていた。だから、とりあえず、気をじる修行を課していたのだ。出來るわけがないだろうという思いからであったが、やらせるだけいいだろうということだった。一応ヒントも與えた。
で、出來るようになったらしい。気は巡っていない。知覚出來るようになったのだろう。しかし、なぜ。仙人というのは、魂でどうか決まっているのではないのか。こんなに近くに三人も素質がある者が現れるわけはなかろう。ならば、なぜ。
「おめでとう、ルーシィ」
しかし、今それを考える必要はないのである。俺は、ルーシィに祝福の言葉をかける。それを聞いた、ルーシィはをくねらせて喜んでいるようであった。俺の頭は混しているが、彼の純粋に喜んでいる姿に癒され、解けていく。しずつ冷靜になっていく。しかし、それ以外にも気になることがあるというものだ。
「ハルは、どうなんだい? 一人で部屋にこもっているのだろうから、大は察することは出來るんだけれど」
「えーっとねえ……あともうしな気がするよ。一生懸命頑張っているよ」
ルーシィは言いづらそうに答えた。そして目を伏せる。やはり、彼たちは友達になったのだなと俺は嬉しくなる。心配しているからこその、目である。そうじゃなければ出來ないだろう。
だが、俺まで心配することではない。彼たちが不安になっているのならば、俺は不安になってはいけないのだ。全員が重い空気でいるのならば、浮かび上がることはない。誰かが軽くなっていれば空気は循環しれ替わっていくのだ。だからこそ、俺は気にしていないというような空気を出しているわけであった。
「そうか、力まないようにしたほうがいいと伝えなくちゃな。力めば、それは遠ざかる。焦りなく、ゆっくりと、家寶でも待つようにしてればいいのさ」
「そうなの?」
「そうだよ。力はいれるところと抜くところを間違えちゃいけないのさ。それを間違えると一気に難しくじるっていうだけさ」
気持ちの切り替えは大事なのだ。気楽にすれば、見えなかったものが見えたりするのだから。ならば、それを手助けするべきだろう。
俺は、そのことを伝えるために、ハルのもとへと向かうのだった。たどり著くと、ハルは、顔をしかめて目をつむっていた。まだまだだ。俺は、目の前に座り、ハルの手をびぎる。ハルは、びっくりしたようで肩を震わせる。
「肩の力を抜いて」
俺の言葉に素直に耳を傾けて、肩の力を抜いた。そうして、そのまま気の巡りをじればいいのだ。俺は、夕食の時間になるまでハルに付き添っていた。
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