《天の仙人様》閑話 ルイス1
僕の名前はルイス=バルドラン。バルドラン男爵家の長男だ。ほんの小さな田舎の村を治めている小さな貴族でしかないけれど、僕はその村が好きだし、將來は自分がそこを治めることになると思うと、より一層の著がわくというものだ。
今、そんな僕は王都にいる。そう、王都だ。父さんの領地である、田舎町というような畑に囲まれているような場所ではない。大きな壁に囲まれていて圧迫はじるが、村とは比べにならない數の人と、があたりを行きかっている。建も石造り、なかにはレンガ造りもある。これがこの國の技力の結晶だと言わんばかりの、近代建築が、どこを見渡しても存在しているのだ。僕は馬車の中から見たこの景だけで興し、夜も眠れない程だった。今までの、のどかな村の暮らしもいいが、王都の暮らしも悪くはなさそうだ。そう思える瞬間だった。ただ、僕は外にいるよりも中にいる方がおおいから、あんまり変わらないかもしれないけれど。
特に素晴らしいのが、王都を囲う外壁だった。魔導言語には文字というものがない。全ては口頭によって伝えられる。音の表記は基本的に自分たちの國で使われる言葉で書かれているけれど、それには、音をあらわすという意味以上のものは存在しないわけなのだ。しかし、音だけではなく意味を持つ模様が無數に存在するのだ。それを幾何學的に組み合わせるような特殊な紋様があり、そうすることで、魔法を発現させる模様を生み出すことが出來るわけであるのだ。基本的に建などの建築には、主柱となる柱一本に彫り出す。そうすることで、建自の耐久力を上げる効果を持たせるのだけれども、外壁には、全に渡るほどの紋様が彫られているのだ。そのしさは意識を奪われ何時間でも見ていたくなるほどに麗であり、心をわしづかみにされるほどであるのだ。を直させてしまい、ただそのしさにのまれたままに、何時間でも何日でも眺められてしまうのである。これほどまでの紋様は相當な偉大な魔師であり家でなければ、生み出せない。そうじざるをえないのだ。それほどの迫力と圧力をじ取れてしまうのである。
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「ルイスはやっぱり、蕓人であったり、役者であったりというような見世よりも、壁に彫られているような模様の方が興味があるみたいだな」
「もちろんですよ、父さん。これを目の前にして、それ以外のものが目に付くことはあり得るでしょうか。いいえ、決してあり得ないのです。僕は、今まさに引き込まれてしまいそうなほどです。どれほどの力と権威を持った魔師によって、描かれているのか、彫られているのか、気になって仕方がありませんよ」
父さんは呆れたように息を吐き出した。どうしたというのだろうか。何かあったのか。もしかしたら、それは呆れではなく嘆の意味が込められたものなのかもしれない。それであれば、父さんが息を吐いたというのも納得だろう。僕は再び、壁の模様へと目を向ける。このしさを、永遠に語り継げることの出來るを、目に焼き付けていくのである。
僕が王都に著いたのは、學式の一週間前。學式の前日には、今年學する貴族の子を集めて、パーティをするそうで、僕たちはその準備をしている。どの服を著ていくかなどと、いろいろ決めることが多いのだ。だから、町に出て遊びに行こうなどとは出來ない。後で、いくらでも行けるのでしばらくは我慢である。王都にしかないような本を探してみたいところだ。あとは、図書館に寄ってみるのもいいだろう。どれだけの蔵書が僕を待ち構えていることか。期待にが膨らむというものだ。
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滯りなく、パーティは終わった。お互いが全員初対面だ。だから、會話が盛り上がることはない。軽く自己紹介をして、親に促されて軽く會話などをする。やはり、変なことをしゃべって親に迷をかけたくないから、あまりしゃべることはないが。あと、一人だけ、自分が公爵家の長男だからと、威張り散らしていた奴がいたが、そいつを見た時に、全員の目のが変わった。すぐさま、何人かの貴族が持ち上げている。気分がよくなっているようで、大笑いである。だが、あれは明らかに、公爵家の派閥にりたいという理由で近寄ってはいない。いづれ、彼の家を沒落させてやろうという狡猾さからきているきであった。なにせ、ああいう奴が領主になったら、いくらでも陥れることが出來る。それほどまでの間抜けである。そして、空いたところに自分がろうとするのだ。六歳であるが、そこは貴族なのだ。間抜けな人間を陥れようとするのは當たり前だった。それだけの、賢さや狡猾さがなければ生き殘れないという世界でもあった。
あと、王様の顔も覚えた。これを覚えなければ、いつ不敬を働くかわからないからね。他の貴族相手には、學校では分差はないとされているが、さすがに王家の人間に気安く話かけられる人間はない。それだけ王族は別格というものなのだ。だから、誰が王様かというのは覚えておく必要があった。そのために、じっと見過ぎていて、目が合ってしまったが。軽くお辭儀はした。軽くといっても最上の敬意が込められているものだ。何がきっかけでお家斷絶になるかわからないからね。しの気分でも害してはならない。それが、僕たちがこの世界で生きる上での絶対條件なのだから。
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學式も、無事に終わり、その翌日となる。ただ、自分の名前を呼ばれて返事をするだけという時間だったし、來賓の方々の話を聞いていたりと、退屈な時間だったのだ。だから、特筆することなんてない。
それよりも、問題は今日であるだろう。なにせこの日は、新生たちの、ランク分け試験というのがあるのだから。
學力、魔力、武力。この三つの績を総合的に判斷して、クラス分けをしていくのだ。同じレベルの者たちで集めたほうが効率のいい授業が出來るだろうという、學園側の判斷だそうだ。これは學試験とはまた別に存在している。學試験は貴族は免除されているのだから。平民は二回も試験をしなくてはならないから大変かもしれないが、その代わり、この學校にるために必死に勉強している。貴族もまた、彼らと同じだけの量の勉強をしなくてはならないということでもある。
僕は、あまり自信がない。親は、主席になれると言っているが、主席になれるような人間は弟たちに何度も負けたりしない。僕は、毎日のように弟たちと訓練を積んでいたが、一度も勝つことは出來なかった。僕の力が先になくなってしまい、そこで負けてしまうのだ。彼らの力は無盡蔵なのではないかと恐ろしさすら覚えるほどなのだから。あんな人間がこの世にいるとは思いたくはないが、現実として存在しているのだから。けれるしかなかった。
でも、魔力や、魔法を行使する力はそれなりにあるだろう。なくとも、僕が自信を持っている。弟達でもできていないのだから。だから、魔法の試験だけは主席というか、一番の績を取りたい。これが僕の殘っているプライドだ。頑張ろう。
最初に行うのは、學力試験。いくつかの教室に分かれて、一斉に行われる。
テスト容は、計算問題と読解力問題だった。計算問題は、一桁の足し算引き算が基本だが、最後の方には二桁の足し算引き算が出題されていた。最初見た時はびっくりしたが、頭の中で、數字の數だけ石を思い浮かべて數えていけば、何とか解けた。あえて、難しい問題を出して、全員が満點を取れないようにする問題だったのかな。実際、僕もあっているかは自信がない。數を二桁以上も數えて、それが正確だという保証はない。しかも、頭の中なのだから。
読解力問題は、よく読んだ英雄譚に書かれている主人公の気持ちなんかを書く問題だった。とりあえず、文章を読んで書いてあることをそのまま書いてみたが、そのまますぎてダメかな。もっとひねった答えを求められているのかな。でも、うーん。わからないのだから、これは放っておこう。
「終了! 自分の名前を書いてあるか確認してください! それが終わったら、裏返しにして、教室から出るように!」
先生の言う通り、名前の書き忘れがないかを確認して、それが終わったら、みんなの後に続いて教室を出た。次は、魔法の試験だ。頑張ろう。
魔法の試験は、まず初めに魔力量の測定を行うらしい。魔力量の多さで、どれだけ努力をしているかがわかるそうだ。まあ、使いまくらないと増えないからね。その點でいえば、僕はいいところまで行けると思う。毎日のように魔力が空っぽになるほど魔法を放っていたからね。弟たちに呆れられるほどにね。
魔力量の測定に使われるのは水晶だ。それに、手を當てて、魔力を流し込んで、水晶と自分の中で魔力を巡らせていく。そうすると、魔力量が多ければ多い程、水晶が濁っていくらしい。水晶にはそういう特があるようなのだ。しかし、濁ったものでは魔力で濁っているのか元からなのか判斷できないため、綺麗にき通った無明の水晶を使うのだ。なくとも、家では見かけたことがない。きっと、高価なのだろうと思っている。完全に明にする技がどれだけ高度なものかは、想像するだけで簡単にわかるというものだから。
測定の列は十列ぐらいあり、僕は右から二列目の列に並んだ。これは、教室ごとに決められている。一人一人と、計測が終わっていく。しだけ濁る人と、全く濁らない人、いろいろな人がいる。全く濁らない人は、學力や武力で好績を取れる平民か、貴族か。どっちだろうか。
「はい、次の人」
「はい、よろしくお願いします。ルイス=バルドランです」
「……はい、わかりました。では、水晶に魔力を流し込んでください」
僕の番が來た。僕はお辭儀をして、水晶に手をれ、魔力を流していく。そして、循環をさせていく。魔力が水晶と僕のを巡っている。そして、水晶はだんだんと濁り始める。止まる様子はなく、じわじわと、反対側の様子が見えなくなっていく。そうして、水晶は、完全に黒い球となった。魔力ってこんなに綺麗な黒をしているのかと僕は心している。
下手な黒は汚らしいが、極度に黒ければ、ただ黒いとしいだと逆にうっとりと見惚れてしまうのだろうと思う。穢れなくただ黒いをしているのだ。
「…………」
測定員の人が固まっている。どうしたのだろうか。こんなに小さな水晶だったら、真っ黒に出來るぐらい僕以外にもいるだろう。弟たちも出來るのかなあ。出來そうだな。魔力の量ならば、弟たちだって多い方だろう。僕はそれ以上の技があるから、魔法対決なら勝つことが出來るのだけれど。もしかしたら、僕と同じようにこの黒にうっとりしているのだろうか。その気持ちはわかる。とても綺麗だからね。
とはいえ、測定員さんはあまりにも驚愕したような唖然としたような、そんな雰囲気を醸し出していて、し心配になる。大丈夫かと、思いたくもなるというものであった。目の前で手を振ってみたりするのだが、意識でも飛んでしまったかのように、反応がない。どうしたものだろうか。
「あのー……」
「あ、すみません! ありがとうございました。武力試験はあちらです」
意識を取り戻したかのように突然き出すと、測定員の人は、向こうの扉を指さした。僕は、憂鬱な気分になり、重い足取りで、その扉の向こうへと進んだ。
武力試験は、試験管の目の前でいくつかの型を披して、それを採點してもらうというものだ。しっかりと、剣を振れているかとか、そういうところを見られるのだろう。まあ、それぐらいなら、落第點を出されることもあるまい。僕の問題は第一に力がなさすぎることだからね。型を一通り見せるだけなら、問題はないと気分は軽くなる。僕がると、もう試験が始まっているようで、何人か試験管の目の前で型を披している。今披している子たちは、そこまで武が得意ではないらしい。僕よりも下手なのだからね。武なんてしもやっていないのだろう。でも、一応點數をつけるのだから仕方ない。卒業までに覚えればいいのだ。
僕の番だ。名前を名乗って、型を披する。簡単な型だ。剣を振り、払い、突く。敵として想定するのは、弟たち。二人だ。いつもそういう訓練をしていた。剣の腹でけて、返すように斬る。滯らずに流れるように。まだぎこちないな。もうしスムーズにしなくては。今ので、數回は斬られている。カインが腹を斬っていて、アランが足を斬り飛ばしている。この時點で、僕は戦闘不能だろう。だが、今はイメージ。しっかりと、何度でも捌くしかあるまい。
「やめ!」
試験管の言葉で、僕はピタリと止まる。イメージでは、カインの首筋に剣を當てているのだ。當てられたことはないけれど。僕はゆっくりと剣を戻して、試験管に向き直る。彼は、唸っていた。
「どうしましたか?」
「いや、何でもない。向こうの扉を進んで、闘技場で待っていなさい」
僕は一禮をして扉の向こうへ進み、闘技場へとる。この學校で一番広い場所が闘技場なのだ。そこには、試験が終わった生徒たちが集まっていた。僕もそこに紛れるようにしてる。
生徒たちは隣り合っている子たちと試験の結果はどうだったのかなどと聞き合っている。やはり、それなりに自信があったり、なかったりとあるようだ。剣が得意なら、魔法が苦手だし、その逆もある。両方を極めるなんて難しいのだからね。
全ての生徒の試験が終わったのか、僕たちの目の前には、學園長が現れる。臺上に上がり、僕たち全員が見えるようになった。
「えーおほん。みなごくろうじゃった。しかし、試験はまだ終わっておらん。これから、最終試験として、トーナメント方式の模擬戦を行う」
僕はその言葉を聞いて、絶したのか。言葉が出なかった。聞いたことがなかった。そんな試験があることなんて。しかも、実戦形式の試験だ。どうして、恥をかかなくてはならないのかと、このときばかりは學園長を恨んだことだろう。
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