《天の仙人様》閑話5

僕が學校に慣れてきているころ、マイクとタンジェットという名前の友達が出來た。二人とも男子であり、グループに分かれて作業をするときに二人と一緒にいることが多い。二人とも、特待生クラスの中では真ん中程度の績でしかないが、それでも學年全から見れば頭がいいのは當然のことであるから、僕の知らないような面白い知識なんかも知っているし、話していて楽しい。

今日の授業が終わるということで、僕はいつもの通りに、ミーシャの方へと歩いていると、マイクが僕のことをじっと見ていることに気づいた。何かあったのかと訝し気に見ていると、彼はこちらへ近づいてきた。

「ルイスは、ミーシャさんとどういう関係なんだい? いつも二人で一緒にいるところを見るんだけども」

なるほど、確かに僕たちぐらいの歳でも貴族の男が一緒にいたら何かがあるのかもしれないと疑うのも無理はない。しかし、學校ではあまり目立って一緒にいることはないし、一緒にいる時間は図書館にいる間だけである。それだけで、何かしらの関係があるのではないかと疑うのはし無理があるようにも見えてしまう。

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「いいや、何もないよ。ミーシャと一緒に勉強をしているんだよ。だから、一緒に図書館に行くっていうだけさ。よかったら、マイクも來るかい?」

と、僕は彼もってみるのだが、首を橫に振って斷った。何かを警戒しているようである。なんだろうと思っていると、マイクの視線の先にはミーシャがこちらを見ていた。そして、今日は彼の方から近づいてきてくれたのである。いつもなら、僕から近寄っていくのだが。

「ほら、もう授業も終わりましたし、早く行きますわよ。時間は無限ではありませんからね。マイクさん。そういうわけですので、ルイスを借りていきますわね」

「ああ、そうだね、ミーシャ。じゃあね、マイク」

「ああ、じゃあね、ルイス」

ミーシャは僕の手を引っ張って図書館へと向かう。その勢いの強さからよほど、早く図書館に行きたいのだろうという思いが強く伝わってくる。僕も彼の足並みに合わせるようにし早く足をかしている。

図書館に毎日通っていると、定位置というものが出來ていく。僕たちはってすぐ右に曲がり、し進んだところにある席に著くのである。そこが何というか落ち著くのだ。ここから見るいつもと変わりない景が、良いのである。

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教科書などを広げながら、復習をしていると、彼の手がとまる。僕の顔をじっと見つめているようであった。どうしたのかと、僕も彼のことを見ていると、彼の口がき出す。

「マイクさんと、何を話していましたの?」

「マイクと? ミーシャと僕が仲がいいから、人か何かの関係を持っているのかいって、聞かれただけだよ」

「へ、へえ……。そ、それで何と答えましたの」

「ん? 友達だって答えたよ。僕たちは仲がいいといっても、友達としての仲だからね。僕としてはミーシャと仲なんじゃないかと疑われて悪い気はしないけど、その噂が広がってミーシャに迷をかけるのだけは嫌だからね。しっかりと訂正しておいたよ」

正確には違うが、意味合いとしては似たようなものである。それに、実際には人ではないのも事実だし、ここで噓などいう意味もない。

それを聞いたミーシャは、仕方がないような不満なような何とも言えない微妙な顔を見せている。僕はそれの意味がわからずに、首をかしげるしかなかった。

すると、僕たちの方へと歩いてくる人影が見えた。姿ははっきりとは見えないが、確実に近寄ってきているのはわかった。その顔がはっきりと見えるようになってくる。その子はであった。可らしいの子。ミーシャも可らしいが、それとはまた別のしさ、可らしさをに纏っているのである。それは僕もよく知っているなのだ。

「マリィ様、こんにちは」

そう、彼は王様だった。彼は學年第三席の座についており、僕たちと同じくらいの実力を持っていることは言うまでもなかった。その彼がここに來ているということに僕はわずかな驚きを隠せないでいる。いままでは僕たちとはあまり関りがなかっただけになおさら一層であった。それでも、無理やりに吐き出した挨拶はこの揺を伝えることなくしっかりとした音となり、出てくれていたのである。

「こんにちは、ルイス様。それと、ミーシャ様。お二人はいつもここで勉強會を開いていますね。とても素晴らしいです。そうやって、二人で切磋琢磨してより実力を向上させるというのは、とても素敵な考えだと思います」

の綺麗な聲に聞き惚れていた。だが、それを顔に出すのは恥ずかしいので、努めて冷靜に見えるようにしている。

「おほめにあずかり栄です、マリィ様。それで、マリィ様は何の用でしょうか? わたくしたちは一生懸命復習をしておりますし、マリィ様も無駄な會話をする余裕などないと思いますので」

ミーシャの言葉にはわずかなとげがあった。下手したら、不敬として罰せられてもおかしくはない。僕は目を見開いて彼の方を向いた。彼は無表を務めているようではあるが、ほんのし目つきが鋭かった。その睨み付ける対象になっていたら、どうなっていたことか。僕はし震える。冷靜になるように彼の手に僕の手を重ねてみる。目つきが穏やかになる。変な空気になることは阻止できたと僕は軽く息を吐き出した。とはいえ、彼の手にれてしまったことに今さらながらに意識してしまう。今度はこれを顔に出さないようにするのだ。

「あなたたちが毎日放課後に居殘りで勉強會をしていることをとても羨ましく思っていました。だから、私もその仲間にれてほしいのです。だめでしょうか?」

と、マリィ様が僕たちの顔を見ていった。というよりも、僕の顔を見ていったに近い。おそらく、僕がこれを言い出したのだろうと思っているのだろう。だから、僕にこれの決定権はあると思っているはずだ。実際に僕から提案したことであるから間違ってはいない。だが、ミーシャと一緒に勉強をしているので、彼にも確認を取るようなそぶりを見せればいいとは思うけれど。

ミーシャはあまりのことに大きく取りしているが、僕は彼につられないように冷靜にいることに意識を裂いてしまっているために、彼を落ち著かせることなど全くできなかった。

……斷る理由は思いつかない。三人で勉強した方がはかどるだろうし、マリィ様はとても可らしい。可の子と一緒に勉強できることに不満はない。ミーシャもそうだが、僕のモチベーションとしては十分だろう。唯一の欠點は、彼が王様ということだが、それを気にして関わらないでいることはとても難しい。いづれ関わることになるのなら、今も後も変わらない。それに、これを斷ったらどんな目に遭うのかもわからない。それに怯えるぐらいなら、一緒に勉強するくらいなんてことないのである。僕の答えは一つしかないのだった。

「いいですよ、一緒に勉強しましょう」

「ルイス!」

ミーシャが驚きのあまり大聲で僕の名前を呼んでいるが、これは、変えられない。それに、ミーシャがいらなくなったわけじゃないのだから、これからもミーシャとは勉強會ができる。そこにマリィ様も加わるというだけだ。

は、じっと僕の顔を見ていたが、変わることはないと思ったのか諦めたように溜息を吐いた。

「お二人は、呼び捨てで呼び合うほど、仲がいいのですね。とても羨ましいです。そうだ、私のことも名前で呼んでくださいませんか?」

マリィ様は何を言っているのか。そんなことが出來るわけあるまい。そんなことしたら、それこそ不敬罪で首が飛んでもおかしくない。

「ミーシャ様のことはよくても、私のことはダメなんですか? ルイス様?」

「ま、マリィ様が僕たちのことを様付けしているのに、僕たちが様付けを外して呼び捨てにするというのはいかがなものかと思っただけですよ」

ミーシャも首をぶんぶんと縦に振る。あまりにも恐ろしくて、下手なことは言えないのだ。それが僕たちはよくわかっていた。

「そうですか……なら、私もルイスと、ミーシャ。そう呼びますから。あなたたちも呼び捨てで呼んでくださいね? 仲良くしましょう? ……ダメですか?」

僕は彼の目を見て、気づいた。そういうことかと。彼は王様だから、友達がまだ出來ていないのではないのかと。ならば、僕は彼の友達になってあげようとも思った。友人がいないなんてとても悲しいじゃないか。きっと、他の生徒も僕たちと同じようにマリィに呼び捨てをすることを恐れて、距離を置いていたことだろう。だから、友達が出來なかった。

「わかったよ、マリィ。これからは、君のことをそう呼ぶよ。だから、僕のこともちゃんと呼び捨てにしてね」

「はい! よろしくお願いしますね、ルイス!」

の笑顔は、これまで見たことがない程に輝いて見えたのであった。

それからは、僕たち三人で放課後の時間に復習をするのだ。たまに、ミーシャが不機嫌になることはあったが、その理由もよくわからないし、どうしようもなかった。

そんなときに、登山の授業があった。僕としてはあまり好ましくはないが、授業なので、諦めることにする。

そうして班分けをしていくと、僕は、マリィと、マイクの班であった。王様と一緒の班だということで他の班からうらやましがられたが、僕はいつも通りにするだけだ。しっかりと表を固く引き締める。

そうして、山を登っている途中、マリィがふと足をらせてしまうという事故が起きてしまうのだ。本當に偶然出會った。確かに機能雨が降っていたから地面はぬかるんでいてもおかしくはない。そのたまたまを狙ったかのようにマリィの足をらせて崖下へと落とそうとして來たのだ。僕はとっさに腕をばし、彼の手を握った。一瞬であった。ほんのわずかの差で彼が大けがをしていたかもしれない。俺は心臓が大きく飛び跳ねながらも、彼が無事でいることにほっとしていた。

「あ、ありがとうございます。ルイス。しヒヤッとしました。下手したら死んでいたかもしれません」

「マリィ、よかったよ、君が無事で。何とか間に合ってよかった。マリィが怪我してしまったら、僕はとても悲しむことになるだろうからね」

僕の顔は大きく緩んでしまったことだろう。それだけに、彼を間一髪のところで助けたことが嬉しかったのだ。僕は、彼を引き上げると、お互いに見つめ合って、ちょっと笑みがこぼれた。なぜだか、通じ合っているような気さえしてくる。この覚が噓でなければとてもうれしいだろう。そう思えた。

「二人って呼び捨てなんだね。いつの間にそんなに仲良くなったんだい。驚いちゃったよ」

マイクからは、質問攻めにあうことになってしまったが。だが、それも今の僕にとってはどうってことないものであったのだ。

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