《天の仙人様》第166話

ハルたちはマリィ義姉さんの元へと足を運ぶことが多くなっているために、俺は一人でいることが多くなった。俺としては、彼たちの會話の中にれるわけがないだろうし、そもそも、ってはならないだろうとも思っているからである。の會話にることはあまり俺たちにとっていい方向に転がらないだろうということは確かであり、それを忠実に守っているわけである。そういうこともあって、一人でいることが多いと思っていたのだが、最近ではルイが俺の近くにいることが多くなっていると思う。そのおかげでか、寂しいとかいうとは全くの無縁でいられた。そも、寂しいとじることがあるのかがわからないが。出來れば、じることが出來ていたいので、こうして、ルイと一緒にいることで、それがまぎれているのだと思い込んでいる。

は前からもよく一緒に話していたりとしていたわけではあるが、最近ではより積極的に來るようになったと思う。たまに、悲し気な顔を見せることはあるが、それ以外では楽しそうに笑顔を見せている。とてもらしい表であった。ただ、彼の悲し気なその表をどうにかしてなくしてあげたいとは思っているのだが、そこからさらに踏み込むことは俺に許されているわけではないので、そこまではないしない。思うだけで行に移してはならないということである。それは確実であろう。だからこそ、こういう関係でいられるのだと思っているわけであるし。

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話すこととっても他のないようなことでしかないが、彼は目ざとく俺の表を読むことが出來ているのか、何か考え事をしているような顔を見せると、心配そうな聲で聞いてくるのである。彼はどうやら、友人として俺の力になりたいという思いが強いのだろう。素敵なである。だからなのか、彼にはなんとなく思っていることをポロリと吐き出してしまうこともたまにはある。それをただ優し気な顔つきで聞いてくれるのであった。

「アランしゃんが悩んでいることがありましたら、いつでもわたくしが相談に乗ってあげますからね。なにせ、わたくしたちは友人ですからね。ハルしゃんたちには言えないような悩みでも友人であるわたくしには気軽に話せるかもしれないと思いますし……。わたくしは、そうありたいと思っていますから。アランしゃんの力になれることがわたくしの幸せでもあります」

「そうだね、ありがとう。ルイがこうして俺のことを心配して思ってくれているというだけで俺はとても嬉しいよ。本當に、ありがとう。もしかしたら、これからもそうやってルイに頼ってしまうことがあるかもしれない。でも、それでも俺の友人でいてくれるかな」

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「……ええ、大丈夫ですよ。こうして、あなたの悩みを一緒に分かち合っているだけでも、わたくしは十分なのですから。本當に、十分なのです。あなたの力になっていると思えば、なんてことはありませんから。それ以外には何も必要とはしていないのです。それ以上は、もらい過ぎですから」

またしても、彼は憂いを持った瞳でもって、すうと明後日を見る。悲しみを隠そうとし、そして隠せずに、そのままに現れてしまったかのようで、俺は手をばしてしまいそうになる。だが、それを俺自が許すことはしない。無理やりに引き留めるのである。そうでなければならない。そこで自らの意思で深くにり込むことは許されるべきではないのである。それは、誰にも幸福を運んでは來ないだろう。今この狀況からくことを誰もがんでいないように見えて仕方がないのだから。

そうした関係で暫く過ごしていたのである。數週間ほどの間、他のないことで、そしてたまに悩みを打ち明けるようにして、そんなことをしていたであろうか。俺だけが気が楽になっていいものかという思いもあるが、彼もまた、悩みを自ら打ち明けることをしない限り、俺はれてはならない。そうじたのだから、かないのだ。そして、休みの日には、彼の家に招待されることとなった。一人でいるくらいなら、一緒にいないかということだそうだ。ということで、彼の家にお邪魔したわけだが、やはり親に角が生えている。男陣だけであるが。父親のがより濃く出ているのだろう。彼には人なのかと質問をされたわけである。當然、そんな関係ではないので、正直に話すと、何かの怒りにれるようなことでもしてしまったのか家の庭に連れていかれた。服を引っ張っているわけではないので、無理やりというじではないが、ついていかなければ、危険な香りがする。それだけの圧力でもって、俺のことを見てくるのである。チラリと後ろを確認するときには、子供に見せるような視線ではない。親の仇でも見るかのような視線でもって、睨み付けてくるのである。ぞっとする。

の家の庭はとても大きく、一部には草が禿げ上がっているところがあるのだ。地面は踏み固められて、草が生える隙間もない程である。おそらくは、石よりも固くてもおかしくはないだろう。パッと見ただけでも、それがわかる。そこでは、俺たちよりも小さな年が年老いた男と戦っていた。軽く流されるかのように転がされている。何度も何度も立ち上がって、戦っているようではあるのだが、全く相手になっていないのであった。遊ばれているといった方がいいか。あれで特訓になるのだろうかという疑問が湧いてくるが、それをしているということは、なるのだろう。躾けというわけではないのだろうということはしっかりと伝わってくるわけであるし。

息も絶え絶えとなり、彼らの修行というものは終わったらしい。そして、初老の男、おそらくはルイの祖父であろう人が俺たちの存在に気づいた。その中でも、俺が気になったようでじっと睨み付けるかのような視線を浴びせられている。だが、俺はその程度で怯むことはないために、見つめ返しているわけではあるが。しばらくの間、しんと靜まり返っているかのような時間が続いたが、彼はおかしくなったのか聲を張り上げて笑い始めたのである。その音量は相當に大きく、木に止まっていた小鳥たちが逃げ出すほどであった。むしろ、そちらの方に怯んだところすらある。

「わしが睨み付けておったのに、全く怖気づくことのない豪膽な男じゃ! 面白い、気にったぞ! わしが戦うとしよう!」

「ちょ、父さん! 今日は、俺が戦うつもりなんだから、そんなことを言わないでくれよ! こういうのは基本的に父親の仕事なんだから! 今日ぐらいは我慢しろってさ! そういうところで、祖父が出てきちゃあダメだろ!」

「なんじゃあ、貴様。どうせ、貴様よりもわしのほうが強いのだから、実力を測るうえでは問題なかろう。どうせ、ルイにふさわしい男かを調べるためにわざわざ連れてきたのだろう。だったら、このわしが相手をした方が何倍もわかるというもの。それに、そこに親と祖父での格式の違いなどありゃせんわ」

俺の隣に立っていた彼は引き下がる。父の威厳というものがあるかもしれないが、やはり、ルイの祖父さんには頭が上がらないようである。たしかに、覇気が他の人とは段違いである。圧倒的な実力を持っていると見ただけでわかるような人がこんな街中に平然と住んでいるということが恐ろしいことではある。隣人は軒並みすれ違うだけで萎してしまうだろう。問題があったとしても注意しに行くことすら難易度が高いことは間違いない。

非難するように年はこちらへと駆け寄ってくる。それと代で俺が禿げ上がっている地面の上に立つ。この舞臺には俺と彼の二人しかいない。みんな離れてみている。先ほどよりも數歩後ろに下がっているのだ。よほどなのだろう。しは本気を出してくるということは確かなのだとわかる。上半をはだけさせて、余裕のある表だ。そんな雰囲気であるのに、先ほど以上の実力で相手をしてくれるのだから、泣いて喜ぶべきなのだろうな。そして、俺も武なんてものは持っていないから、徒手で戦うことになるが、それでも問題はないのだろう。ゆっくりと構えをとる。

じりじりと空気が焼けるようなの中で、俺たち二人は向かい合っている。先ほどまでの余裕を持った表を見せている姿は完全に消え去っており、今では一人の武人としての顔しか存在しない。もしかしたら、初手から本気で來る可能があるかもしれないと、より深く警戒していかなくてはならない。先ほどより本気の、その本気のレベルがどれほどなのかをしっかりと探らなくては無慈悲に倒されるだけに終わるだろうから。

一歩の踏み込みで、距離はもう存在しない。そのまま拳をぶつけられる。重心を橫にずらして、躱し、腰をひねって拳を當てる。威力はあまり伝えられなかったために、大したことはないだろうが、俺の方が間合いが短いということを利用する。拳を當てる勢いを利用してさらに一歩踏み込むのである。間合いが極端に近ければ、攻撃は意味のないものへと変わってしまう。だから、俺だけが圧倒的な優位を取れる距離へとり込むのである。そのまま、拳を膝裏へと叩き落す。跳ね返すことは出來なかったようで、膝が崩れる。首筋が俺に屆くようになれば、すぐにそこへ拳を叩き込む。だが、倒れ込むようにバランスを崩したために、前転の要領で逃げられてしまった。すぐに立ち上がって、構えをとってしまうので、振出しとなってしまう。

では振出しにしなければいい。構えをとった直後には、俺はもう間合いにり込んでいる。そのまま上から拳を振りぬく。構えをぶち抜くかのような威力でありながらも、それを軽やかにけ流されて攻撃は無に終わる。そして、それだけの攻撃が終わればそれは隙となってそこに殘る。それを逃してくれるような優しさを持ち合わせているわけはない。視界の外から足が飛んできており、気づいたときにとっさに飛ぶことでギリギリで當たることはなかった。ただ、肝を下したことは間違いなく、わずかにが震えていてた。死を一瞬だけでも覚悟したのだから、想像に難くない。

それからも何度も拳をわしたのだが、俺たちは倒れることはなく勝敗が決まらないで、時間だけが過ぎていくのである。彼は楽しそうに牙をむき出しにしながら笑顔を浮かべている。角が二本も生えているために、より顔つきが恐ろしく見えて仕方がない。怪と形容することが正しいことであるかのように思えてならない。彼と俺とが同じ人間なのかという事実にしばかりの神さをじてしまうことだろう。

「くくく……しは出來るかと思っておったが、なかなかに楽しいではないか。うちのたわけな息子では弱くて話にならないから、貴様のような強い男と出會えたことに謝しておるぞ。これからルイのむ――」

「――なにやってんじゃ! あんたたちはいつまでもバチバチバチバチと! 近所しゃんの迷になっちまうじゃろうが! そういうことも考えられないのかお前しゃんたちは! そんなに好き勝手に暴れまわっているようじゃ、今夜の晩飯はなしにするぞ!」

と、唐突に扉をけ破るようにして大聲でびながら一人の老婆が現れた。彼は角は生えてはいないが、風格というものからして、明らかに目の前に立っている男の妻であろうということは想像できる。しかも、どうやらどれほどの武人であろうとも自分の妻にはかなわないようで、先ほどまでの威厳が消え去ってしまうかのようにしゅんとしている。俺は彼のその姿を見ないようにと視線を逸らした。みじめな姿を人に見られることは屈辱だろうからな。

は、耳を引っ張って連れて行ってしまった。その間に誰も言葉を発することは出來ずに、ただその場でじっとしていることしかできない。出來る限り波風の立たないようにしているのであった。

「うちの母さんは帝國だからね。ああして、の気が多いんだ。あれはまだ怒っていないけど、怒りだしたらもう誰にも止められないさ。でも、ああしているだけのまだ優しさが殘っている姿は基本的に父さんにしか見せることはないから、君は安心していいよ。そこまで危険だからといって警戒しなくてもね」

「わかりました。でも、変に怒りを買いたくはないので、おとなしく靜かにしています」

「はは……ごめんね」

俺たち三人も続くように家の中にっていくこととなった。というか、あの人も帝國出だったのか。最近は帝國になにかしらと縁をじて仕方がない。ああ、そうそう。帝國と言えばもうそろそろカイン兄さんとルールイ義姉さんとの結婚式か。

カイン兄さんはあの後、どんな會話を三人でしたのかはわからないが、結局のところ、結婚することにしたのだ。一週間後に結婚式を挙げるということである。あの後の三人の姿を見たことがあるが、幸せそうに見えたことは確かなので、幸せな家庭を気付くことは出來るだろう。俺は応援している。

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