《天の仙人様》第169話
カイン兄さんの二回目の結婚式が開かれた。ルールイ義姉さんとの結婚なわけであるが、別にリリ義姉さんと別れたわけではない。ならば、彼はどこにいるのかというと、兄さんの隣に立っているわけである。兄さんのような既婚者が新たなと結婚をするということになると、自分たちの夫婦の中に新たに加わるための儀式という面が強くなる。結婚式とは言われているが、ウエディングドレスを著たりということはない。厳かに、だけが集まって、式を挙げるのだ。それでも、結婚式にふさわしいであろうドレスは著るが。それが、ウエディングドレスではないというだけの話だ。そもそも、帝國の結婚式はウエディングドレスなんてものを著ないために、ルールイ義姉さんも反発はない。王國出のであれば、そこで一回めるそうだ。
俺たちと、その婚約者である四人もまた式に參列しており、まぶしくも建の中にってくるを浴びてしく見える、彼らの景を見つめているわけであった。來年に行われるであろう、自分たちの姿を想像しながら。キラキラと輝いた眼をしている。それと同じくらいに、俺に重圧がかかる。期待されるということは、それだけ重みがかかることなのだから、これぐらいは許してほしいところであった。それだけ重くじるわけだ。
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式が終われば、ぞろぞろと外に出てそれから帰路につく。パーティを開いたりということはしないのである。後妻の力が弱いとかそういうことではなく、二回目以降の結婚式を大々的に行ってしまうと、その夫婦は近い將來に破滅してしまうという言い伝えがあるのだ。それを守っているだけに過ぎない。他國から見れば、変な風習かもしれないが、二回目の結婚式にいい思い出がないのだから、仕方がない。
大昔に、この地を支配していたアブリスル大王は、妻に先立たれてしまい、跡継ぎもいないということで、新しくを妻に迎えれた。その時に婚禮の儀式を國王であるのだから大々的に行い、國中でそれを祝った。これからの王國の繁栄を全國民が期待し、それを想像することは難しいことではなかった。するとどうだろうか。數年もしないうちに、アブリスル大王夫妻は、病で倒れてしまい、そのまま亡くなってしまった。その後には國までも滅んでしまったという。十年も経っていない間の出來事であるそうだ。だから、二回目以降に結婚を盛大に祝ってはならない、むしろ、式を挙げないほうがましいという教訓がこの國では殘っている。
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それに、今回のようであるならば、夫婦三人でいる時間を多くとることが出來るだろう。式に來てくれた人と付き合う時間の多くを、三人のプライベートで使える時間に変わるのだから、そこまでの不満はないと思わないでもない。それに、式を見せたい人ならばしっかりと全員が參列している。帝國からもルールイ義姉さんの家族が來てくれているのだから。異國の地へ嫁に行ってしまった娘のことをどう思っているのだろうか。気になるところではある。だからといって質問をしようとは思わないけれども。帝國人に目を付けられたくはない。彼らは戦うことが好きだし、剣闘士がいまだに人気の職業だ。奴隷がやるわけではなく、志願でるらしい。一応死人が出ないようになっているわけだが、それでも、危険な職業に就きたかるのだから、帝國人は相當だろう。
「私たちの結婚式ももうすぐね。まだまだ先だろうけど、あと一年もないのだと思うと、張して來たわ。今まではそれを見ている側だったのに、自分たちがあの場所に立てると思うとね……」
「そうだね、ハルちゃん。楽しみだね。貴族の三男だから、そこまで豪華に祝うことは出來ないだろうけれど、一生の思い出に殘ることは間違いないだろうね。綺麗におめかししてね」
彼たちの會話が後ろから聞こえてくる。すすと近寄って俺の腕を取るルクトルは目でもって俺に意思を伝えてきているわけである。明らかに期待していると言っている。とはいっても、場所の設定などを行うだけで、どういうことがしたいとかは、彼たちで決められるだろうが。もしかしたら、いろいろなオプションを積んでも、許してくれるような大金を用意してくれるかという期待だろうか。男爵の三男に金銭で期待してはならないだろうが。しかし、彼たちの期待を裏切りたくはないという自分もいるわけで。難しい話である。頭を悩ませて仕方がない。これは誰にも相談できないし、したくはない。そう思ったわけであった。
そんな兄さんの結婚式からしばらくの期間が経ち、もうそろそろで俺も學校を卒業するという時期に迫ってきている。時間の流れは早い。まだまだ時間はあったと思っていたのだけれども、すぐにでも過ぎ去ってしまうのだから。もっとゆっくりと過ごしていたいと思っていたのだが、そうはいかないものであった。仕方のないことではあるが。時の流れは、気まぐれでしかない。自分の気分で時の早さを変えてしまう。誰も抗うことも、ることもできない。絶対の存在として永遠に君臨し続けることだろう。そして、俺の時はたまたま、早く過ぎ去ってしまったのだと諦めるしかないだろう。
そして、そんな時期に俺たち三兄弟は集まっている。誰かが召集をかけたわけではなかったが、なんとなくであった。場所はルイス兄さんの部屋であった。もうすぐマリィ義姉さんの出産があるだろう。そんな時期であった。そのためか、しそわそわとしている。別に陣痛が始まったわけではないのだが、もうそろそろ出産だろうという予想だけで、兄さんは気が気ではないらしい。本だろうから、治しようがない。もしかしたら、自分一人では不安に耐えられないから、そして、そうなるだろうと俺たちは確信していたから、集まったのかもしれない。気まぐれに。皆の意思が一つのもとにたどり著いたわけであるだろう。バカバカしくもあるが、あり得なくはない。俺たちは長い時間を一緒に過ごしているのだから、こういう意思疎通が出來てもおかしくはない。超能力とでも言える力があるのだろう。
「カインは結婚生活は順調か? なにせ、途中から新しく妻を迎えるなんてそうそうあることじゃあないからね。貴族の人間であれば、たいていは結婚式を挙げた後は誰とも結婚しないことが普通だし。あまり、縁起のいい話というのもあるだろうからね。帝國出のということだから、通った話かもしれない」
「……帝國にオレを向かわせなければそういう話は一切なかったんだけどな。誰が決めたのかは知らないが。とはいえ、ルールイに出會えたことは謝しているよ。彼はとても素晴らしいだ。リリだけに任せっきりになっていた家事を二人で分擔してくれているし。彼のおかげで、負擔が軽くなっていることは確かだ。帝國の味付けはまだまだなれそうにはないけどな。オレの舌にはあまり合わないかもしれない。あとは、自分の屋敷を持てる程度には金を稼がなくちゃならないというところか。それよりも、兄さんはどうするんだよ。このまま王家の仕事に関わるのもいいけどさ、長男なんだからいずれは領地を継がなくちゃあならないだろう。その時のことはもう考えてあるのか?」
「……いいや、まだだよ。どうにかしたいとは常々思っているんだけどね、どうにもいい案が思い浮かばないんだ」
「ルイス兄さんは明らかに、王族側の人間として取りられているから、カイン兄さんが領地を継げばいいんじゃないの。どうせ、ルイス兄さんは、領地に帰る余裕なんてないだろうし。だったら、次男であるカイン兄さんが領地に帰って継いであげれば安心じゃないの。家も手にることだし」
俺の言葉に、衝撃をけたように固まってしまっている。そこまで驚くようなことだろうか。むしろ、ルイス兄さんが領地に帰る時間が全くないということがわかっているのだから、いずれはそうなるだろうということがあまりにもわかりやすいと思っていたのだが。どうやらそうではなかったようである。全く考えていなかったのか。本當にいい案どころか、悪い案としても上がっていないというところは驚きである。
だが、一度そういう案が出てしまえば、とっても妙案に思えてくるというものである。ルイス兄さんとしては、王都での仕事と領地経営を同時に行いたいと思っていたのかもしれないが、それ以上にそれは無理であろうという考えもよぎっていたことだろう。だから、弟であるカイン兄さんに領地を譲ることに対して一切の反対も出ないのだ。カイン兄さんも、父さんの跡を継いで領地を運営することが嫌というわけではないだろう。ただ、し不安げに暗い表を見せているわけだが。この中で一番頭の出來が悪いと兄さん自思っているからこそのこの顔なのだろう。ちらりと俺の方を見てきた。俺に跡を継がせようという考えが一瞬浮かんだのだろう。だが、さすがに、何もしていない次男を差し置いて三男が跡を継ぐことは出來まい。兄さんの仕事にも大きくかかわるだろう。なにせ、弟に継承権を奪われた無能という烙印を押されるのだから。
だが、そこまで兄さんがおびえる必要はないと思う。なにせ、リリ義姉さんは商人の娘だ。しかも、王都でそれなりの地位を持っている商人のである。だったら、彼に手伝ってもらえばいい話ではないだろうか。別に、領地の舵きりは男だけの仕事というわけではないのだから。中には、男が生まれなかったからと、の領主の地域もある。二つしかないが。だが、二つも実例があるのならば、誰も文句は言うまい。しかも領主補佐でしかないのだから、余計に何も言われないだろう。ならば安心というものである。
兄さんも決心がついたようで、目つきが鋭く上の立場の人間になるのだという思いが強まっていく。もし間違った道に進んでいるようであれば、俺たちが毆って道を戻せばいいだろう。むしろ、俺たちがそうしてくれると思ったからこそ腹が座ったのかもしれない。それはとても嬉しいことである。
どたどたと廊下が騒がしくなっている。何か不屆きな輩でもり込んでしまったのだろうか。であるならば警戒するに越したことはない。腰に差さっている剣に手をかけて、外へと耳を傾ける。カイン兄さんの口元がにい、とつり上がっている。とても楽しそうな表だ。それとは対照的に自分の妻がここに住んでいるルイス兄さんは気が気ではない。気持ちはわからなくはないが。ただ、ここでじっとしているのも何なので、ドアをゆっくりと空けて外の様子を伺った。
確かに、騒がしく使用人たちが行ったり來たりとしているわけであるが、それが何を目的としているのかがわかりはしない。ただ、慌てているのだということだけが確かにわかっている。兄さんは心配だからとマリィ義姉さんたちのいる部屋へと向かうことにしたらしい。ならば、俺たちも後についていこう。一人よりも三人である方がより彼たちを守ることが出來るだろうから。
向かっている途中で第一王子殿下とその奧方様である八人のと出會った。俺の四人という人數ですらもかすんでしまうほどの數である。誰もが國でも上位を競うであろう程の人ばかりだ。しかも、この中に王國出のは三人しかいないそうで、他の五人は他國から嫁いできたのだそうだ。王子殿下はよく外國へと訪問することが多いから、その時に惚れられてしまうのだろう。なにせ、この國でも一、二を爭う男子なわけで、さらに格もいいと來ている。世のが放っておくわけがない。男子というのも、大変なものだと他人事に思ってしまった。
俺は、いまだに王族の人間に対する張が抜けていないためにか、がちりと石みたいにくなってしまう。どうにか直したいのだが、まだまだ無理かもしれない。それとは対照的にルイス兄さんはとてもリラックスしている。まあ、家族相手に張はしないだろうか。これが彼らと親戚になった俺たちと家族になった兄さんの違いなのだろう。
「義兄さん、使用人たちが大慌てで、あたりを行ったり來たりとしていますが、何をしているのでしょうか? 今日は何か特別な客人が來る予定でもありましたでしょうか。僕の記憶ではそういったものがなかったと思っているのですが。さすがに王城に突然の客人は招かれないでしょうからね。相手も失禮であることは分かり切っているでしょうし」
「ああ、まだ知らないのかい? まったく、ルイス君に一番に知らせなくてはならないだろうというのに、ちょっと慌て過ぎではないかね。まあ、予定よりもしばかり早いのだから気持ちはわからないでもないけれど」
「早いとは……どういう意味でしょうか?」
「ああ、どうやらね、マリィに陣痛が來たらしいんだ。もうすぐ出産するらしいから、その準備で慌てているのだよ。なにせ、もうすぐ生まれるだろうと思っていても、一週間以上は先の話だったからね。突然のことだからと慌てているのさ」
あまりにも、淡々と話しているために、ルイス兄さんはその言葉の意味を理解するのにしばらくの時間がかかってしまっていた。人形であるかのようにきの一切が止まってしまって、反応がない。どうしたのかと思い、目の前で手を振ってみると、大聲を出して絶してしまったのであった。それだけの衝撃が兄さんを駆け抜けていったわけであった。
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