《天の仙人様》第171話

俺たち仙人が集められる。ルイス兄さんの息子が生まれてから數日たってからの出來事である。二人のお師匠様が険しい顔をしながら、俺たち四人のことを見ているわけである。何かしらの大きなミスをしてしまったのだろうかと不安になってしまう。だが、もう過ぎ去ってしまったことを悔いていても、それは意味のないことでしかないのである。ならば、前向きにとらえなくてはならない。今のこの現狀もこれからのことのために行うことであるのだから。この部屋には結界が張られているために、今この部屋にっているもの以外の存在はこの部屋の中を見ることも、中の音を聞くことは出來ない。さらにはこの部屋の存在を認識できないというのだ。ろうと思うことも、聞き耳をたてようと思うことも決してあり得ない。そこまでする必要があることをこれから話すということでもあるわけだが。そう思うと、恐ろしさに震いしてしまうわけだが。

お師匠様は遠くを見るかのような目つきをしながら窓の外を見ている。その先には王城が建っている。この國で最もしい建築であろう。王族の権威をただ一目で表せるだけのというものをつぎ込んでいることには違いがないのだから。ただ、そちらを見たお師匠様の目はあまりにも面倒くさそうである。しさに心打たれるということはなく、ただ、ひたすらにこれからのことを考えて憂鬱に思っているわけである。そう見えるのだ。もしかしたら、王族関係のことだろうか。そうなると、俺たちの失態があるわけではないということだろうか。それはほっと出來る。

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「貴様らは何で呼ばれたのかがわからないことだろう。まあ、俺たちも出來ることであるならば、呼びたくはなかったというところではあった。そもそも、このことに対して俺たちがどうにかできる立ち位置にいるわけではない。ただ、大きな爭いの引き金となってしまう可能のものに対して、ただ指をくわえてみているというのも、非常にむずい。戦爭で死ぬのは自然だ。それ以外に死ぬものはいない。被害は自然にしか現れないのだから。だから、そうなるのは俺たちとしても困るわけなのだ。というわけで、貴様たちを呼びだした次第というわけだ。これから起きるかもしれない災害に対処するには貴様たちが最も適任であるということなのだからな」

「とはいっても、何かしらの大きな介をしろというわけではありません。ただ、監視をしていればいいのです。あなたたちであれば、ここ數千年……そしてそれ以上もの年月の間この世界を見つめることは出來るでしょうからね。観察者であることも可能なわけなのです。我々は積極的にそれをしては來ませんでしたが、今回は事がことですので。あなたたちには監視してもらおうと思ったわけです。ただし、その意識を持ってほしいという意味合い以上の価値はありません。むしろ、我々の言葉に対して必要以上の意味を見出すことは一切止します。これを破るとするのなら、我々仙人の総力をもって排除することになるでしょう。仙人であろうとも、殺す方法はいくらでもあります。そう簡単に死なないというだけでしかありませんからね」

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俺たち四人はしっかりと頷いた。言葉の意味を言葉のままに理解しなくてはならないのである。行間というものを一切読んではならない。真意はそのままに言葉に現れていてその表面をなぞることのみが許可されているわけなのだから。むしろ、深読みをしてしまえばそれは間違いであるということ、絶対にならないこと。それはまた、難しいことではある。ただ、お師匠様たちの言葉は本気である。ここで、躓いてしまってはこの後でより大きな問題が生まれてしまうのだろう。それに、仙人であるというのならば、より深く手を出すことを良しとしない価値観というのはすっと納得するものでもある。

俺たちの反応を見る限りでは、問題ないことがわかったようでにこりとかすかな笑みを浮かべているようである。期待をしているからこその、この反応であることは容易にわかる。今まで張り詰めていたかのように流れていたはすうと消えてなくなっていく。重苦しくじていた空気が吸いやすくなるのだから。だが、それは期待に応えてくれるだろうという期待からくる緩和であることもしっかりと理解できている。ならば、失させないように努力をしよう。大事なことである。

「最近、王族の人間に新しい家族が生まれたというのは知っているな? なにせ、アラン。貴様の兄の息子なのだからな。知っていないとは言わせない。で、彼が出産時に黃金に輝いていたという話がこちらにまで伝わってきていてだな……鳥たちが噂していたものだから、事実を確認した。見てみればよくわかったのだが、彼は大神之子の使徒としてこの地に降りている。生まれながらに寵けし人間というものはどれほど昔に見た限りだろうか。文獻にすら殘らないほどの大昔にいなくなって、それっきりだと思っていたが、再びこの世に現れてしまったということだ。アラン、貴様の兄は魔導の腕が非常に優れているようだから、そこから子たちの興味を引いたのかもしれない。ただ、それも予想の一つでしかないわけだが。実際にはどうして、そのような事態になっているのかは一切わからないが、その事実を知られてしまえば、力と権力に溺れたバカ者が何をしでかすかわかったものではない。だから、絶対にそんな未來にならないように、貴様たちで監視……いいや、見守っていてほしいということだ」

「彼は將來何か大きなことをすためにこの世に使わされたのか、それとも彼らの気まぐれでしかないのか。それはわかりはしません。なにせ、大神之子というのは、我々とも関わり合いを持とうとしない、獨自の勢力なのですから。この世界の調和を守るための存在であったというのに、それをしているように見えなくもない行は、いささか、こちらとしてもどうにかしたいところではありますね。まあ、それが出來ないからこそ、頭の弱い人間にられないようにしてもらいたいというのが最大のところです。出來ないとは言わせはしませんよ」

ルイス兄さんの子供は、予想以上の異常を持って生まれてしまったらしい。それならば、黃金に輝いていたとしても當然であろう。あの神々しさは、子様の寵によって生まれたであったのだから。俺たちが飲み込まれてしまうほどの力であったと記憶しているのだ。ただ、今はそのが出るという話を人々の噂話では聞いたことはないのだから、他の人たちに知られるという心配はないだろう。産婆たちも使用人たちも、も、何一つとして語ることを許されてはいない。誰の耳にもれてはならないと緘口令を強いているわけだから。ただ、たとえ知られたとしても、それがどういう意味を持つのかということは普通であればわからない。お師匠様の言った通り、どの英雄譚にも、神話にも生まれた時に黃金に輝いた子供の話はないのだから。口伝えにすら殘らないほどの昔ということである。それに、黃金に輝いた子供の話があるとすれば、昔話のような創作話ばかりである。それも、大神之子様とは関係ないのだ。そこから、関連を見つけ出すことは難しいだろう。関連を見るとすれば、それは言いがかりにしかならない。今であれば、ただのイカレタ者という扱いで神病院に連れていかれるのがオチだ。であれば、俺たちの口かられなければ、とりあえずは安心であるということである。

もし、知られるということがあるのだとしたら、兄さんの子供が將來大きくなった時に預言をいただいた場合である。なにせ、寵けているのだから、預言の一つや二つはあってもおかしくはない。その時に子様のほうから関わってきた場合であれば、知られてしまうということは避けられないだろう。その時に、不穏分子をどうにかしなくてはならない。人は何か掲げられる機を持てば、爭いを始めるだろう。しかも、今回は大神之子の預言をいただいたということで、である。それがどれだけの効力を持つのか。言うまでもない。爭いで自然が滅ぶことを避けるようにかなくてはならない。またその時にも、お師匠様と協力して解決する必要があるだろうが。ただ今は、靜かに見守っていればいいだけではある。

大神之子様の存在はこの世に生きとし生けるもの全てが知っており、敬っている。それに一切の例外はない。そこいらの草花ですらも敬っていることは確かであるという話だ。文獻には、草木の大神之子様の力を授かりしものが森の中を歩いていると、誰に言われるでもなく木々が樹を出し始め、草が花を咲かせ、果実を実らせるという言い伝えが殘っているほどである。それは、草花たちのお供えものであるだろうという話だ。だから、この場で、意識の違いや空気が合わない生きはいない。ゴブリンであろうとも、カンムリダチョウであろうとも、この価値観は変わらない。そのために、張した雰囲気がこの場所に漂ってしまっているということなのだ。全ての生きが理解できてしまう価値観というのはそれでまた、恐ろしいものであるということを現実的なまでに教えてくれてしまうのであった。

お師匠様たちは、すべてを言ったようで、よろしくとばかりに消え去ってしまう。俺たちはその姿が完全に消えてしまうまでくことは出來ずにいた。衝撃というべきものが伝わっていて、それを処理するのに時間がかかっているわけなのだから。ゆっくりと時間をかけてき始める。あまりにも突拍子もないことではあるが、だからといって否定することは出來ない。否定してはならない。逃げられるわけがないし、逃げてはならない。そのような空気である。苦しくもあるが、それを乗り越えなくてはならないだろう。俺たちのような若造であろうとも、任せられたことは立派に果たせなければ。そして、それを思うほどに重くのしかかる。

アキが何かを思いついたようでこちらへと向き直った。いち早くすべてを理解することが、納得することが出來たということだろうか。なかなかの早さである。何も考えていない可能はあるが、知も上がっていることは間違いないのだから、それはないだろう。鳥頭であったからと言って、よほどの阿呆というわけではないのだから。むしろ、鳥であったころに俺の顔をずっと覚えていたというだけでも、阿呆ではないということを確信できるわけだが。

「私たちは同じ仙人としてこの事態に対処する……今はまだ大きな事件などは起きていないために、その必要はないですが、いずれ起きるであろう事態のためにもよりな連攜が求められることは間違いないでしょう。ここまででは誰も否定することはありませんよね? 當たり前のことを言っているのですから。むしろ、否定するほうが難しいまであります。ですので、常に顔を合わせて連絡を取り合うということが非常に大切で、必要なことでしょう。ということで、私もこれからアランの家に住むことにします。ああ、今は寮でしたので、アランの寮の部屋に一緒に住むとしましょう」

最初の方はおとなしく聞いていたハルもルーシィも大きな聲を上げて反対している。さすがに最後の意見は看過できないといったところか。そして、その反応は當然であろう。ただ、アキは全くじていないのである。なかなかの膽力だろう。稱賛に価するかもしれない。ただ、それがまたしても彼たちの怒りを買ってしまうということにも気づけたらより良いと思う。

確かに、アキの言うことも大きく間違ってはいないが、そのための手段により大きな目的が骨に隠れてしまっているというのが問題であった。明らかに、俺との既事実でも何でも作って、妻にしてもらおうというような考えが淺はかなほどに見えてしまっているわけである。俺としてはそういうところもおしくらしいと思えてならないが、皆がそう思うわけではない。肝心な作戦を隠しきれていないのでは、その案を反対する意見以外は出てこないというのも至極當然の話だろう。

ただ、アキの言い分では、この案は將來起きるであろう事態のための連攜のためというものがある。これを否定することは、仲間での関係を否定することになるために、そこに付け込まれてもおかしくはないし、実際に付け込まれている。そもそも、ここまで骨な作戦でありながら、功するだろうと思っている理由が、自分たちのを優先して、お師匠様から伝えられたことを完遂することを諦めるのかということなのだから。ここを突きつけられてしまっても無理やりに自分の我を通せるような人ではない。彼は心優しいのだから。ルーシィは何を考えているのかわからないところがあるため、しばかり不満そうではあるが、それ以上に面白そうな顔をしている。不気味に見えなくもない。ただ、その表もまたしいと思うわけだが。

ハルは結局、アキを俺と一緒の寮に住ませるということを否定しきることは出來なかったのである。完全にアキの勝ちであった。あとで、めてあげなくてはならないだろうという考えが頭に浮かんできた。

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