《天の仙人様》第194話

ざわざわと騒がしくなっている。俺の耳はそれをじ取った。あたりを見ても同じ反応をしている人はいない。ということは、俺だけに向けられたメッセージか、誰も気づかないような小さな現象か。おそらくは後者だろう。そして、その騒ぎは草木であるようなのだ。王都近くの森が一番當てはまるであろう。そこからの小さな騒ぎが耳にってきたということになる

ということは、森の様子がわずかにでもおかしくなっているだろうということであり、それをじ取ってしまったわけだ。とはいえ、その異常は俺たちにとって不利益を被るであろうということはない。ただ、今までとはし違うような気がするというだけでしかない。しかし、それが一回でも気になってしまうと、それが頭から離れることはないのだ。常にどこかに引っかかってしまって、取れそうにはない。

そのせいでか、使用人たちが心配そうに俺のことを見ている野である。どうやら骨なまでに顔に出てしまっているようなのだ。ここまで簡単に表をさらしてしまうというのはどうにかしなければならないが、それだけこの事件に興味が湧いて仕方がないということなのだろうな。そう納得した。

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「アラン様は、まるで子供のように楽しそうな笑顔をされるのですね。普段の笑顔よりも、より大きく輝いて見えますよ」

「それは、褒めているのかい。バカにしているのかい。まるで、普段の俺はたいして輝いてもいない笑顔を見せつけてくるというように聞こえてしまったわけなのだが」

「いいえ、そんなことはありません。普段だってとっても素敵な笑顔を見せておりますよ。ただ、今日は普段を超えたような、そんな笑顔であったということです。それほどまでに、何か楽しい事、面白そうなことを思いついたのか、見つけたのか。どちらなのでしょうかね。まあ、わたしたちはそれについて何かを聞き出そうとはしませんけど。男の人が何に面白さを見出すのかなんて、理解できませんからね」

俺は、彼に指摘されてしまうほどに、子供っぽい表をしてしまったのだろう。どれだけ気になっているのかという話である。それは、解決しなければ治まることはないのだろうと結論付けられるほどであった。

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そういうこともあれば、確認のためにも森へと行かねばならないだろう。最近では近寄っていないのだから、気分転換として行ってみてもいいだろう。森は、気の巡りが滯りやすいから、何度も來られないという理由でしかないのだから。最近では平原でとりあえず巡らせることが多かったが、久しぶりに森で巡らせるのも悪くはない。別に、そこでやらなければ、修行にならないわけではなくなってしまったというのにわずかばかりの悔やみを殘しているのであった。昔のように毎日森へとって、気を巡らせている生活に戻りたいものである。あの頃は、完全に自然と俺とが一つになるかのような錯覚を覚えるほどに、統一していたと言えるだろう。今は、それが甘くなっている。自分が自然の中に存在してしまっているのである。

一歩森の中に踏み込めば、今までとは全く違うような、そんな覚を覚えた。景から何からは完全に同じだというのに、全くの別であるかのようにじてしまうわけである。その原因はわかっている。何者かの気配がするのである。の気配は前からあったのだが、それ以外の気配をじるわけであった。今までにじたことのないような、それでいて生きであることは確かな気配であった。それがどんな生きかというのがわからないのだ。それはどれほどに不気味であろうか。俺はより慎重に歩くことにした。彼らが、一どんな目的でここに居るのかはわからない。俺と敵対している可能だってあり得る。その全ての可能を考えれば、慎重な行は何一つとして臆病であることにはならないわけであった。

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近づいてきている。大きな気配が俺の方へと近づいている。そちらへと歩いているというのもあるが、彼らは俺に気づいているらしく、彼らの方からもこちらへと寄ってきているのである。警戒心をより高めていく。出會い頭に攻撃をされてしまうのはあまりよろしくはない。奇襲をされないように注意しなくてはならない。出來ることならば、好戦的ではないといいのだが、それを保証してくれるものは何一つとしてないというのであれば、あらゆる可能を考えるのは當然であった。

そして、それは現れた。俺の目の前に突然にして出現したのである。すっと、草木のから出現したのである。俺は一応警戒しながらいていたし、彼らともうすぐ出會えるということをわかっていたので、驚きはない。驚かないように努力をしていたこともあって、しの揺も顔に出すことはしなかった。だが、彼らの姿に関しては、見たことがないために、固まってしまう。彼らの存在を今までに一度として耳にしたことすらないのだから。これで、何でもないかのように振る舞えとは出來ない。それほどまでの衝撃が俺を襲っているわけであるのだ。

人間というのは知を持つ生がたどり著くであろう、最も効率のいい存在である。知を持てば、道を扱うことを思いつく。すると、道を扱うために手を使う。であれば、手を歩行に使うことを止めて、後ろ足のみで歩くことを考える。そうすれば、二足歩行の生が誕生する。二足歩行になれば、そこから先はとんとん拍子に進んでいく。手は道を扱うだけでは足りずに、創作を始める。すると、脳の活化が起きて、より知能は高まる。それの繰り返しが今の人間である。どの種族も人間として呼ばれる大きな理由が知を持つ二足歩行の生なのだから。それ以外の要素は人間であることの証明には必要がない。それこそが唯一にして絶対の要因なのだと定義づけられているのだ。

今目の前にいる存在は、その定義から考えてみれば、確かに人間である。それは確かだ。明らかに二足歩行で歩いているわけで、そして道を手に持ち、服を著ているのだ。瞳には知が宿っており、自分たちがただの獣ではないのだと理解しているように見える。これで人間でないということは出來ない。だが、彼らは……彼らのはまるで植であるかのようなのだ。植が人の姿を取っているように見えるのだ。

がベースとなっている人間は今のところ存在しないとされている。植が知を持つことはほとんどの確率でありえないのだから。本能と反で生きている生が、新たに知を芽生えさせる可能は難しいというのが普通であり、実際に今まではそうであった。大神之子様への信仰は本能で行えるのだが、それ以上のことになると、本能と反だけでは限界がある。そのために、植人間という存在はあり得ないものとして片付けられていたのである。だが、彼らはその通説をぶち壊すかのような存在なわけである。俺たちが今まで信じてきたこの世界の底を揺るがす大事件ともいえる。そのようなものを目の前にして、それを一切表には出していないということを褒めたたえたいほどなのだから。

彼らは、キリキリと口らしき箇所をかして、意志の伝達をしているようだ。ということは、彼らは獨自の言語を持っているということになる。これはまさしく人間というにふさわしい。知を持ち、言葉をる存在を人間と呼ばないのであれば、俺たちすべては人間ではないということになるのだから。ならば、彼らはどれだけ否定されようとも人間であるということなのだ。それを揺るがすことは不可能である。

さて、今まさに新たな人種が誕生してしまったわけであるが、おそらくは、原始人と同じようなじであろう。確かに服を著ているが、その服というものはただ皮をに巻いているだけでしかない。どこに住んでいるのかはわからないし、どういう住処を作っているのかもわからないが、おそらくは文明のレベルもその程度だろうというのがわかる。であれば、彼らを王都に連れていっても生きていける可能は低い。文明のレベルが違う世界で、生きることは難しい。適応できずに死んでしまう可能だってあり得る。それに、言葉が通じないというのも、大きな障害となる。意思伝達が出來ないことは、普通であれば、恐怖を生むのだ。何者かがわからないのだから。彼らの思想信條が理解できないことは、意味のない恐怖と爭いを生んでしまう。だからこそ、彼らを王都まで連れていくということはありえない。であれば、ここに住まわせたままにするかというと、それもない。いずれバレる。そうした時には、どうなるかが予想できない。ただ躙され殺されるかもしれない。可能はゼロではない。俺だから、そうならないだけでしかないわけなのだから。

そういうことであれば、彼らを隠すに最適な場所というのは一つしかない。バルドラン領の聖域だろう。あそこは俺の庭なのだから、あそこに連れていってあげれば、普通の人間には見つかることはない。あとで、天龍様であったり、お師匠様たちに見つかることは確かだが。とはいえ、このまま不安定な未來に放置するよりは、安全な世界に置いて、ゆっくりと発展していく様を見屆けるほうがましだろう。俺はそこまでの介を許されるだろうという楽観的な思いもあることにはあるが。ただ、それ以上は介することはないというのも確かである。場所の提供以外は何もしないと誓うだろう。彼らはこれからの繁栄を誰の邪魔もされずに行えるのである。大事なことだ。

こういう時に役に立つのがジェスチャーである。大はそのしぐさで何を伝えようとしているのかがわかる。これは文明が変わろうとも人種が変わろうとも変わらない。手話は萬國共通の言語であるともいえるのはここにある。誰が何をしても通じる。仕草に意味は一つしかないのであるのだ。

俺はまず、彼らの目の前の空間をゆがませる。その先には聖域をつなげておく。今の俺は、同じ世界であればだれでも行き來できるようなをあけることが出來るようになっている。世界を超えようとすることは出來ないわけだが。つまりは、地獄には俺自はいくことは出來ないのである。まだまだ未だということである。だが、この世界をどこでも行き來できるようになるというのは、大きな異常である。そのために、そんなものを使ってしまうと、流が大きくれるようなことを仕出かすことも出來てしまうので、そういうことを目的に使わないし、そもそも、移手段としても使ってはいない。なにせ、一日に俺が遠く離れた二つの場所に存在できてしまうというのはあってはならないだろう。それは人間ではない。人間として見られていたいのであれば、それはしてはならないことなのである。だから、自重するのが基本であった。だが、今この場合であれば、いいだろう。なにせ、彼らを見られるわけにはいかないのだから。誰にも気づかれないように運ぶことなんて、誰にも出來るわけがない。今いるだけでも、十人はいるのだから。

そして、彼らを手招きしてこのの中にるように伝える。まずは俺がることで安全であることも當然伝える。未知のものを恐れることは當然だろうが、それ以上に好奇心が勝るのが人間である。だから、するりと侵してきてくれる。そうして、今までいた景との違いに驚いている。確かに、森と聖域では大きく風景が違うというのは一目でわかってしまうだろう。それに奪われてしまったように歩みを止めて、じっと見上げているのであった。

なんとかジェスチャーと、魔導言語を使用して、彼らにここへ引っ越しするように伝える。彼らの真の故郷は王都の森だろうが、ここを新たな故郷として生活してほしいと。彼らは最初は疑問に思っていたようだが、自分たちに襲い掛かるかもしれない危険を何とかして伝えることによって、納得してもらった。これでひとまず安心である。まずは、一日この空間をつなげておくので、その間に、向こうに置いてきてしまった人たちと、荷を取りに戻ってもらった。それが完了したら、このを閉じる。

彼らが全員戻ってきたようで、俺も誰かが殘っていないかを確認してみると、確かに大丈夫であるようだ。彼らに手を振って別れを告げると、を閉じる。これで、彼らが見つかることはないだろう。聖域の外には出ないようにして告げてある。そもそも、聖域がどれだけの広さなのか、今の俺にすらもわからないので、外に出れるかすら怪しいところだが。でも、とりあえずは問題は解決といっていいだろう。

ゆっくりと気を巡らしていき、最終確認をしていき、森の中を散策する。彼らの生活の痕跡を完全に消さなくてはならないのだから。不思議な生活様式を見つけられてしまうと、そこで大きな問題となるのだから。彼らが作っていた集落を見つけると、そこに対して、天候を作して雨を降らせ、雷を落とした。周囲は黒焦げで原型をとどめておらず、人が住んでいるとは言われても信じることが出來ないほどだ。これで安心だろう。俺は、森の外へと出るのであった。

次の日、謎の落雷が王都近くの森を襲ったという話で王都中が大盛り上がりになっていた。彼らの噂では、よからぬ獣が生まれてしまったので、神の裁きによって雷を落としたのだそうだ。新たな人間の出現をほのめかす様な噂話が一つもなくて俺はほっと息を吐き出すのであった。

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