《天の仙人様》第214話
人の死が散りばめられている空間である。そこいらに、死が転がっているのだ。全員がそれを見ないふりをするように、踏みつけているわけであるが。死んでしまえば、それはどうなるのか。を持ってしまえば、彼らの存在が足かせとなる。それは持ってはならないのだ。非であること、人間としては圧倒的に欠陥があるであろう神を持っている人間のみが、戦場で生きぬくことが出來るのである。それを完全に証明するような、よく言えば豪膽な人間だけが今もまだこの地に立っているのである。
では、彼らの數はどうなのだろうか。數は順調に減っていっている。まだまだたいしたことではないだろうが、いずれは壊滅的被害となることは間違いない。なにせ、嵐の中で戦っているようなものなのだから。いいや、嵐なんて表現すら生ぬるいかもしれない。嵐程度ではこれほどの死者が生まれることの方が珍しいのだから。そして、その中心に位置するのは俺であるが、俺が手を休めることはしない。彼らを全員殺しつくすことになったとしても、俺は表を変えることなくやり遂げる。それをしなくてはならないのだ。全てに、両國に被害のみをもたらした災害として君臨しなくてはならないのだ。そうすることで、その先の未來を守ることが出來るのだ。
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死を生み出すことによって新たな未來を築いているのだ。あまりにも皮的過ぎるが、それこそが正攻法なのである。戦爭という概念そのものが皮の塊でしかないのだから、俺の行が、あまりにも人間という存在を稽なものとして描いていることになろうとも、手を休めるわけにはいかないのである。どれだけの數の兵士が死に絶え、この地で姿を消そうとも、など湧いてはならないのである。
今もまた、狂ったように襲い掛かってくる、敵がいるわけだが、あしらうようにして、切り伏せる。一撃で、心臓を破壊し、肺を破壊し、そのままるようにずれて、は別れるのだ。しい切れ味である。表面をなでてみれば、綺麗に一直線にそろっていることがわかるだろう。確認しなくともわかるというものである。
敗走してくれると楽である。士気がなくなれば、兵士ではなくなる。ただの烏合の衆となり果てる。そうなれば、殲滅することは容易い。彼らに永遠に刻み付けるだけの恐怖を與えることがより簡単になる。だが、彼らも後には引けないのかと言わんばかりの形相で襲い掛かってくるのだ。しも俺に被害を與えることなく、無殘に命を散らせるばかりだというのに。何をそこまでして駆り立てるのか。彼らは、人ではないのかもしれない。
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奇聲をあげながら襲い掛かってくる。このころまでになっていると、完全に敵としてみなされているのは俺だけであり、相手國は同じ敵を倒す味方として一致団結している節があるのだ。それほどまでに彼らの恐怖を駆り立てることに功しているのだが、あまりにも上手くいきすぎて、まともな判斷が出來なくなっているのかもしれない。常人ならば、この時點で敗走するか、撤退するか。どちらにせよ、戦場から離れようとくのが當然であるが、それを諦めているかのように、こちらへと向かっているのだ。涙は枯れ果ててしまったのか。何も流しはしない。乾ききった瞳孔を大きく見開いて、俺の姿を一瞬でも逃してなるものかと、そういう心意気であるのだ。
それも無駄となるが。俺のきは相手の隙間をうようにしてく。意識のはずれの中に存在するきなのだから。目でとらえることなどできはしない。死角から死角へとき、決してとらえられることなどない。常人の認識する速度を上回って、移しているわけなのだから。これでとらえようと思うほうが無理なのだ。
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指揮の判斷が遅れれば、遅れるほどに被害が大きくなる。一秒でも早く決斷してほしいところだ。その秒の間に一人の人間が死ぬのだから。全ては俺の手によって。彼らの相手は、相手の國ではなく、俺一人となっているのだ。共闘しているのだ。そうでもしないと、俺を退けることは出來ないのだと兵士たちは理解したのだから。ただ、それでも不可能であるほどに、絶対的な実力が存在したということである。無慈悲に躙されてしまうだけの、力の差があるのだ。
俺は手加減ということをしない。恐怖を與えるのに、俺が余裕ぶっていてはならない。ギリギリ勝てるかもしれないなんて淡い期待を持たせたりはしない。それはあまりにも殘酷であるから。彼らの犠牲を無にしてしまうのだから。この土地に二度と目をつけないようにしようと、占有しようと思わないように底から叩き潰すわけである。そのための、絶対的な力を見せる。自然の力をに纏い、自然の暴力によって、彼らを殺していくわけであるのだ。
彼らはまさに、世界から、自然から見放されてしまっているのだ。自然は俺に力を貸し、彼らには貸すことはしない。それは、その事実のみで、彼らが見放されているということを証明するのは容易い事であった。それにいつ気づくのかというだけなのだ。それに時間がかかってしまうほどに、人が死ぬというだけなのだ。全てに見捨てられて、殘酷なままに。祈りなんて屆きはしない。自然の暴力をそのままに現している。そう念じることで、俺の罪悪すらも飲み込んでいるのだから。あまりにも無責任であった。
迫っている。死がだんだんと迫っているのだ。どこにも安全な場所など存在しない。彼らのいる後方までもが、簡単にたどり著けてしまう距離でしかないのだ。あまりにもあっけなく、すぐそばにまでいるのである。目の前だ。數瞬後には完全に自分が消え去っていて、殘るのは片ばかり。軍人として、いいや、人間としてそれを許容できるのかという瀬戸際に立たされているのである。
大聲が響き渡る。それは撤退の二文字を伝えている。戦場一に響き渡るようにして、救済であるかのような言葉が聞こえてくるのだ。しかし、それとほぼ同時に彼らの顔が、一瞬にして意識を取り戻したかのように、真っ青に青ざめたのである。
彼らはようやく決斷したらしい。逃げるように俺から遠ざかっていった。仲間の死なんて持ち帰ることもせずに、この場から退いていくのである。今ここには人の死だけが転がっているわけである。ただ、その代わりに自然は何でもないかのように、平然と存在し続けているわけであるが。何も失われなかったのだ。亡くなったものは人の命だけである。
俺は守ることは出來ただろう。ただ、あまりにも大きな犠牲を出したうえでだということであった。死の山が出來上がっている。彼らのが誰のものであったかと判定することも難しいほどに、とが飛び散ってしまっているのだ。彼らのが、綺麗な姿のままに現存していることは、恐ろしい程の幸運であろう。それほどまでに、片のみが散らかっているのである。
俺は、門を開く。異界の門を。そこから呼び出すのである。彼らを。掃除屋を呼び出すわけであった。そして、彼らはこの景を目の當たりにして天を仰いだわけである。彼らのような地獄の存在にも、この世を憂うだけの傷的な心は持ち合わせているらしい。俺も同じようにして、彼らに手を合わせ、來世は幸せな生を送ることが出來るようにと、祈るわけである。しかし、それを見た彼らは何か得のしれないものでも見るかのような顔をするのである。心外である。俺が祈ってはならないというのはどこの宗教での話なのか。問いただしてみたいものである。
「あなたがこの慘狀を生み出しているというのに、よく祈れるものですね。普通であれば、何もじたりはしませんよ。何か思いを持ってしまえば、神の欠落と崩壊が起きてしまいますからね。自分がどれだけの人間を殺したのかと、どれだけの生を冒涜し、躙したのかと、それを考えることは、化けでもしたりはしませんからね。だから、殺人鬼はハイになり、狂ったように演じねばならないのでさあ。そうでもしないと、人間を保つわずかな要素すらも消えますからね」
「彼らの死は無駄ではなかったのだと、無駄にはしないのだという誓いだよ。絶対にこの地に永世の平穏をもたらして見せようという意気込みでもあるから。それだけの想いがあるのならば、彼らと向き合わねばなるまい。彼らが安心して死に、そして送られるようにと、俺は笑顔を向けなければなるまい。それが俺の、この現狀を起こした人間の使命であろう。そうであれば、しないというわけにはいかないだろうし、俺は彼らをしているのだ。殺意によって殺すのではなく、によって殺す。それで、神が壊れることがあるだろうかという話でもある」
「なるほどねえ……あっしには到底理解できなそうな覚でありますね。永遠に理解したくないと思える思想は初めてですよ。今までのは、ひとまず耳を傾けてもいいかと思えていたのですけれどねえ……。素晴らしいですよ。逆に誇っていいかもしれません。マルチ商法よりも吐き気がするような思想ですからね」
彼は呆れたように首を振っている。俺の考えをバカにしているようにも思えた。まあ、わからなくても構わない。自分自でのみ、それを信仰し、信じ切ることが出來るのかという話であるのだから。思想というのは、そういうものであろう。最後の一人である、自分自の想いによるのだ。俺の想いが死なぬ限り、それは力を持ち、俺を助けてくれるのだと、思うわけであった。
彼らが、死を片付けている間にも、この地をしている気の流れを整えていく。戦場というのは、生の死が発的に大量に起きてしまう場所である。そこでは、大きな気のれが起きてしまうのだ。生気というか、活力というか、そういうものが、死ぬ瞬間には出てくるのだが、それが同時に、しかも大量に出てくるというのは、自然の許容を大幅に超えてしまう。だから、ゆっくりとなじませていく必要があるのだ。それを放置してしまえば、ここの地に歪みが生まれることだろう。死者が仏できずにとどまってしまうこともあり得るわけだし、良からぬものの住みかとなる。良い事など一つもないのだ。だから、こうして丁寧に整えていかねばならない。
今回は普段の戦爭の倍以上もの使者が出てしまったということもある。平均的な一度の戦闘行為による死者數であれば、數年かければ、自然と元の流れに戻る。だが、今回は、數年では戻ることはなく、それだけの期間を歪んだ気の巡りになってしまっていると、想定しているような危険なことが起きてしまうというわけである。
彼らは仕事を終えると、さあっと消えていく。この場所は戦場になる前の緑が綺麗な平原へと変わっているわけであった。ここが戦場になっていたのだと誰が信じるだろうか。それほどまでに変わっているのだ。
この場所に兵士たちが帰ってきた場合、死が一つもないとなると、驚くことであろう。本來であれば、それはならないことだろうが、今回は良いのである。俺というイレギュラーが存在し、それに手も足も出なかったということ。それが超常の存在であると見せつけるためには、この場所に置いてきてしまった死を跡形もなく、きれいさっぱり片付けることが必要なのである。
俺は、最終確認として、小さな片一つでもないかと見て回ると、家へと帰ることにする。途中の山の中で水浴びをして、の匂いを完全に落として。そうでもしないと、衛兵たちに変な疑いをかけられてしまうのだからな。
それから、數日後だろう。兵士たちが帰ってきた。満創痍という表である。それほどまでに追い詰められていたのだろう。彼ら側の気持ちに立って、あの場所にはいなかったのだから、こうして、戦場から離れた時の彼らを見て、俺のしたことが、彼らの心に消えることのない傷を負わせたのだと理解できた。功と言えるだろう。
彼らの帰還を待ちわびていた國民は、表と、そして數のなさに怪訝な表をしている。そりゃそうだろう。意気揚々と出兵してきたというのに、ここまで意気消沈としているのだから。誰かが質問をする。どうしたのかと、殘りの人たちはどうなったのかと。戦爭は勝ったのか負けたのか。
沈黙ばかりが続いている。誰も口を開くことなどできないのだ。明らかに、自分たちがどれだけ愚かなことをしたのかと、突きつけられているのだから。それを自らの口で話すことが出來るかという話である。今彼らはかすかに殘っているプライドを捨てる心の準備を要するのである。それがわかってしまうのである。
覚悟を決めたようである。當然だろう。いずれは答えなければならない。その時がいつ來るのか、先になるか後になるか。その違いだけしかないのだから。彼らは負けたと答える。そして、相手の國も同じく負けたと。國民には何を言っているのかがわからないことであろう。だが、それだけの短い言葉が、完璧にあの戦場を語っているのである。それほどまでに悲慘で殘酷な戦場であったのだ。
その全てが俺の手によって起こされたものなのである。
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