《最強転生者は無限の魔力で世界を征服することにしました ~勘違い魔王による魔の國再興記~》その14 魔王さま、ダンジョンで変態悪魔と出會う

ひたすら似たような風景が続いていた跡は、地下20階を境に一変した。

扉を開いた瞬間に土の匂いが漂ってくる。

踏み出した先にあったのは、まるで窟のような不気味な空間だった。

「ようやく先に進んだってじが出てきましたね」

「ひょっとして、さっきの階で出てきたでかいスライム、ボスだったのかな?」

一瞬で蒸発させちゃったから、てっきりただの雑魚モンスターかと。

「そろそろ別のパンが出てきてくれるといいのだがな」

そう言いながら、ニーズヘッグは手にしたバゲットにかぶり付いた。

どうやらというか、やっぱりというか、寶箱の中は階層が深くなるごとに良くなっていくみたいで、地下10階を越えたあたりからパンや怪しげな薬品以外の、木や銅で出來た裝備品なんかが出てくるようになた。

けれどパンが出てこなくなったわけではなく。

むしろ數が増えて、一気に2個も3個も出てくるようになってしまった。

最初に箱の中に積み上げられたパンを見たときは、思わず目眩がしたよ。

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さすがに袋にらなくなり、かといって食べ末にするのもよろしくないので、余剰分はこうしてニーズヘッグのおやつとして活用している。

元々が竜なだけあって、食べようと思えばいくらでもっていくらしい。

あとで太って大騒ぎしないといいんだけど。

窟フロアにってからは、出現するモンスターも新顔にれ替わった。

まずはスケルトン。

おなじみ骸骨のモンスターで、たまに剣や弓を持った個が出て來ることもある。

次にヒュプノバタフライ。

初めての空を飛ぶ敵にして、睡眠の魔法を使ってくる厄介なモンスターだ。

まあ、基本的に魔法を使う前に倒すから、一回も食らったことはないんだけどね。

最後にブラッドウルフ。

のように赤い瞳を持った兇暴な狼の魔で、その素早いきはコボルトを凌駕する。

まっとうな冒険者だったら苦労する相手なのかもしれないけど――

「えいっ、せいやぁっ!」

束になったってザガンにすら敵わない程度だった。

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と言うより、この場合はザガンが強いってことになるのかな。

的確な攻撃で、一振りで數のモンスターを両斷していくその姿は、とてもじゃないけど普段の彼からは想像できない。

しかも、大量の魔に囲まれても、攻撃を食らうどころかかすめることすらなかった。

どうせ全部避けるんなら、寶箱で拾った鎧とか著けなくていいと思うんだけどね。

「魔王さまっ、こっちに寶箱がありますよー!」

跡にってから何度も聞いたグリムの聲が聞こえてくる。

そちらへ向かうと、そこには他よりちょっと豪華な裝飾が施された箱があった。

これは……レアアイテムの予

「さっそく開けてみよう」

ふたに手をかけ持ち上げると、ギィと音を鳴らしながら箱が開いていく。

中には――パンがあった。

そう、またパンなんだ。

がくっと崩れ落ちる僕をよそ目に、ニーズヘッグは箱からパンを取り出し、ためらわずかじりついた。

「んむ……なかなか、行けるな。

これは木の実か? サクッとしたと香ばしい風味が素晴らしい」

たぶんくるみパンだと思う。

「魔王様も食べるか?」

「じゃあ一口貰おうかな」

ニーズヘッグから一口分をけ取り、口に放り込む。

パン自にも甘みがあるて、クルミも香ばしくて味しい、彼が気にった理由もよくわかる。

「ほんとに味しいね、これ」

「ああ……そう、だな」

とは言え、寶箱にはパンばっかりってるわけじゃない。

もちろん他の寶箱には、前の階層よりグレードアップした裝備がっていた。

ただし、素手で十分強い僕には必要ないし、もちろんグリムが著けられるはずもなく、ザガンだけが々と裝備をれ替えて楽しんでるのが現狀なんだけどね。

ニーズヘッグに到っては、味しいパンさえ食べられれば他はどうでもいいみたいだ。

そのままひたすら階段を下り――ようやくたどり著いた地下39階。

ボスらしき、ローブを纏い宙に浮かぶ巨大な骸骨が、僕たちの前に立ちはだかっていた。

「アネモイ、行けっ!」

火屬のイグニス、氷屬のフェンリル、土屬のノーム、そして風屬のアネモイ。

僕の召喚魔法もどきは跡をもぐるうちに、ついに4屬分が完していた。

アネモイとは風の神々の総稱。

渦巻く風が、ボレアス、ノトス、ゼピュロス、エウロス、四柱の神の形を模してリッチに襲いかかる。

四方から風の神が迫り、戸うリッチは、そうこうしている間にミキサーにかけられた食材のように々になってしまった。

「まおーさまはやっぱりつよいな!」

「大したことはしてないよ、今ぐらいのモンスターならザガンにだって倒せる」

「よし、この階層を降りれば次のパンが手にるのだな」

パンの虜と化したニーズヘッグが階段を降りようとしたその時。

「……ぁ……ぇ……」

「ん?」

「どうした、魔王様」

「いや、今……誰かの聲が聞こえたような」

僕の耳は、微かに音を捉えていた。

「モンスターが徘徊しているだけではないですか?」

「だといいんだけど……」

「……ぁっ! ……そ……ぉぉ……」

「いや、やっぱ気のせいじゃないって」

「たしかにわたしも何か聞こえたな」

「これは……壁の中から聞こえておるのではないか?」

試しに近くの壁に耳を當ててみると――

「……っはは! やるぞ、わ……は……だぁっ!」

聞こえる、はっきりとの聲が聞こえる。

しかも笑ってるし。

ザガンが跡のり口を開いてそこそこ時間が経ってるみたいだし、足を踏みれた何者かが居たっておかしくはない。

と言うか、これってまさか……あれかな、”壁の中にいる”ってやつかな。

確かに、ここに來るまでに罠らしき仕掛けをいくつか目撃している。

僕たちの場合は、落としは飛べるから関係ないし、毒はニーズヘッグが吸収するし、理的な罠は破壊できるから、力づくで突破できてたけど。

もし壁の中にワープさせるような罠があるのだとしたら。

「誰か居るのは間違いないようだが、壁がこれではどうしようもないな」

僕やニーズヘッグの力ですらここの壁は破壊出來ないんだ、実質死んだようなものじゃないか。

「この聲は、まさか……フォラス、フォラスなのかー!?」

僕と同じく壁に耳を當てていたザガンが、大きな聲でそうんだ。

「ザガン、知ってる人なの?」

「わたしの父さまの知り合いで、魔法を研究してるすごく頭のいいひとだ。けど……」

「けど?」

「頭はいいけど、へんなやつだ」

ザガンが変なやつと言うぐらいなのだ、相當変なやつなんだろう。

「……先に進もうか」

僕にはそんなやつの面倒までは見きれない、これはもう見捨てるしか無い。

「待ってくださいよ魔王さまっ! 本當にあのフォラスだとしたら、これはチャンスですよ!?」

「グリムも知ってるんだ……」

「魔法研究の第一人者、稀代の天才にして最高の変態と呼ばれた偉大なデーモンです」

絶対にやべーやつだよそいつ。

稀代の天才はまだいいとして、最高の変態ってなんだよそれ。

変態に最高とかないって、あっても最低だから!

「まさか、誰か……そこに誰かいるのかー?」

壁の向こうからこちらに問いかけてくる聲が聞こえてきた。

ザガンの聲がフォラスに屆いてしまったみたいだ、ちくしょうこれじゃ逃げられないじゃないか。

「フォラスー、ザガンだぞー!」

「おおぉ、ザガン、あのザガンなのか!?」

「そうだ、ザガンだぞー!」

「久しいなザガン! 元気だったか!」

「わたしは元気だぞー!」

「そうか、私は々あって死にそうだぞ! ははははははっ!」

笑ってる場合かよ!

こうなったら助けないわけにもいかないだろうし、どうしたもんかな。

「彼を助けるためには、壁を破壊するしかありませんね」

「だが私のブレスでも破壊はできなかった、単純な破壊力だけでは対処できぬ素材なのだろう」

「頑丈っていうより、最初から効いてないじだったね。そもそも當たってないっていうか……逸らされた、って言えばいいのかな」

逸らされた魔力はどこへ飛んで行くのか、それを明らかに出來れば壁も破壊できるかもしれない。

まずは調べることから始めよう。

単純な魔法、例えばファイアを放つとして、それにGPSを付けるイメージで、現在位置をフィードバックする機能を付與する。

「ちょっと調べてみるかな……サーチファイア」

手から放たれた魔法は壁に當たると、あたかも効果が無かったかのように消滅した。

けど――やっぱりそうだ、魔法自が消えたわけじゃない。

目を閉じれば、ファイアの現在位置がわかる。

それが指し示していたのは……でたらめな、なくともこの世界のどこでもない場所だった。

つまりこの壁は、自分にダメージを與える衝撃や魔法なんかを、別の世界に逃がしてるってことになる。

「どうだ、何かわかったか?」

「たぶん壁の周囲に別の空間に、力を移すみたいなば張ってるんだと思う」

「それをどうやって突破するんだ」

「うーん、を破るとか々考えたんだけどイメージしにくいから、もっと強引な手を使うことにしたよ」

「強引?」

「うん、見たところ別の空間に転移できる力には上限があるみたいだからさ」

「つまり、上限を超えるエネルギーを打ち込んで、転移先の空間をパンクさせるわけだな」

「そういうこと」

これならイメージも単純なもので済む。

この世界で最も単純な魔法は、無機に大して衝撃を與える”ショック”という魔法と言われている。

を纏わせる必要もなく、単純明快な詠唱で発できるからだ。

これから僕が放つのは、そのショックの延長線上。

無限の魔力をありったけ込めた、デタラメなエネルギーの塊。

それを――壁へ向かって、何も考えずに放つ!

「行けッ、ショックブラスト!」

シュボッ……音と共に手のひらから放たれたエネルギー弾は、壁にれると同時に消えてしまった。

別の空間に飲み込まれたんだ。

飛ばれた先で膨らみ、ぜるエネルギー弾。

それはやがて転移先の空間の許容量を越え、風船のように膨らみ、そして――ついにはじけた。

パァン!

風船が割れるような音が響き渡り、直後、エネルギーの奔流がに溢れ出した。

ゴッ、ゴガガガガガッ、シュッゴオオォォオォッ!

容赦なく壁を砕いていく純粋な力の塊。

魔力の嵐が収まる頃には、目の前の壁は跡形もなく消え去っており――

「な、なんだ……今の魔法は……」

腰を抜かしたフォラスだけが、そこに殘されていた。

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