《最強転生者は無限の魔力で世界を征服することにしました ~勘違い魔王による魔の國再興記~》その23 魔王さま、宣戦布告をける

そいつが城にやってきたのは、迷なことに朝っぱらだった。

「ギギギッ、ギギギッ!」と鳴くもんだから、最初は巨大な羽蟲でもってきたのかと思ってたけど、ちょうど玉座の間で學校に関するあれこれを話し合っていたフォラスがすぐに気づいたのだ。

「プチデーモンの聲がするけど、魔王君はいつの間にペットを飼ったんだい?」

「そんなもの引き取った覚えは無いんだけど」

「となると……侵者か、その割には堂々としているし、こちらに近づいてきているようだが」

「プチデーモンって何なの? デーモンと何か関係がありそうだけど」

「関係は無い、ただ私たちより小型の悪魔というだけだ。力も弱ければ知能も低い、ただしその代わり、獨自のテレパシー網を持っていてね、遠く離れた相手の聲を屆ける時に使われるんだ」

フォラスがそんな説明をしている間に、鳴き聲は玉座の間の前にまで近づいて、そいつはバン! と扉を勢い良く蹴り開けた。

行儀悪いな、まったく。

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フェアリーと同じぐらいのサイズの、紫をしたそいつは、挨拶もなし僕の前へと近づいてきた。

「ギギギッ! ギギギギッ! そこのけない顔をしたオマエが魔王か?」

「そうだけど、君は?」

「オレ様はプチデーモンのイビィだ! 今日はヴィトニル様の言葉をオマエに伝えに來たぜ!」

ヴィトニルって誰よ。

「ヴィトニルというのは、たぶんフェンリルの親玉だ」

「ああ、そういうことか。で、そのフェンリルの親玉が僕に何の用事なの? 降伏? それとも配下になりにきたとか?」

「ギッ、ギギギッ! オマエなんてことを! もうヴィトニル様にこの會話は聞こえてるんだぞ!?」

「ならちょうどいい、返事をしてくれよヴィトニル様とやら」

イビィが冷や汗を浮かべながら、「ん、んんっ」とを鳴らす。

そして次に口を開いた時――それはイビィの聲ではなかった。

『く、くくく、くくくくっ、あーっはっはっは!』

お手本のような三段笑いが玉座の間に響く。

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『降伏? 配下? 自信過剰もここまで行くと稽だな、魔王を名乗る愚か者が!』

なるほど、遠く離れた相手の聲を屆けるってそういうことか。

プチデーモンは生きた電話として使われてるってことだね。

『オレはヴィトニル、フェンリル族を……いや、全ての魔を統べる者だ』

「統べられたつもりはないんだけど?」

『時間の問題だよ自稱魔王サマ、まさか気づいていないのか? お前らはもうとっくに包囲されてんだよ! オレは北の大地の魔たちを力でねじ伏せ、掌握した。さらに、城へと進軍する途中で鉢合わせた魔たちも、そのほとんども俺の軍勢に下ってるんだ。數、質ともに圧倒的なのは明白。対してお前らはどうだ? フェアリーにオーク、スライムに樹人だったか? いや、今はケットシーもいるのか。はっははは! その程度の武力でどうやってオレたちと戦うつもりなんだよ? 虛勢を張るのもも大概にしておけよ、自稱魔王サマ!』

お前たちの戦力は全て把握しているぞ、と言わんばかりに配下たちの名前を並べるヴィトニル。

そりゃそうだよ、特にバリアを張っているわけでもないし、今の領地は誰でもウェルカムなノーガード狀態だからね。

けどヴィトニルは、最も重要な戦力をカウントしていない。

それってズルだと思うな。

「うちにはニーズヘッグもいるんだけど」

『ドラゴンか、確かに強力な戦力だな、フェンリルたちにとっても脅威だ。だが、オレなら勝てる』

その聲には確固たる自信があった。

たぶん、実力に裏付けされた自信が。

「フェンリルは北の魔の中でも數が多くし、持ってる魔力も高い。そのトップを名乗るほどなんだ、自分の力には自信があるんだろう」

『信じられないってか? なら見せてやるよ、オレの圧倒的な力を、お前らの城からでも見えるようになぁ!』

見せる? どうやって?

この場にはメッセンジャーのプチデーモンしか居ないのに。

そんな僕の戸いを他所に、ヴィトニルは魔法の詠唱を始めた。

『今こそ目覚めよ、我がに脈々と流れる氷の神々の

基本的に詠唱が長ければ長いほど魔法の威力も難易度も高いと言われる。

長い分だけ消費する魔力も大きいし、集中が切れてしまえば失敗するからだ。

『我が放つは、大地を、空を、晝を、夜を、太を、月を、そして命を、全てを凍らす魔の奔流』

これだけの長さの詠唱、相當量の魔力を消費するはず。

『潰えるは邪道、敷くは覇道、この世の理を塗り替え大地に白狼の脈を刻めッ!』

そういえばニーズヘッグも言ってたっけ。

その気になれば、ブレスよりも威力の高い魔法を放つことができる、って。

『ヘルヘイム・リシェイパー!』

ヴィトニルが高らかに魔法名をぶ。

けど、僕の方には特に何も変化は無かった。

だけど――

『おおおぉ……』

向こう側から、フェンリルたちの嘆の聲が聞こえてくる。

何かが起きたのは間違いないみたいだ。

『自稱魔王サマ、外を見てみろ』

めんどくさいな。

けれど見ろと言われたからには見るしか無い。

僕はフォラスと共に玉座の魔を出て、廊下から外を眺めた。

後ろからイビィもちゃっかり付いてきている。

「あれはっ……」

見慣れた景の一角に、見慣れないが追加されている。

城の東に、どでかい氷の山脈が生まれていたのだ。

しかもあれだけ巨大なのに、太が貫通するほどき通っている。

単純に氷としての質も高そうだ。

これを、さっきの魔法で作ったってこと?

「なんてことを……」

『くっくくく、さすがの自稱魔王サマでも言葉にできないようだな! どうだ、これがオレの力だ。いくらお前らが竜の力に頼ろうとも、オレはそいつより強いんだよ!』

僕の手はわなわなと震えていた。

恐怖にではなく、怒りに。

「フォラス、あの氷は周囲にどんな影響をあたえると思う?」

「あれだけのサイズの氷だ、解ければ一帯は水浸しになるだろう。城の周辺も被害は免れない、畑が水浸しになれば生産量にも影響が出るはずだ」

せっかく、せっかくオークの芋畑が軌道に乗ってきたっていうのに。

フェアリーの花畑もとりどりの花が綺麗に咲き始めている。

最近では綿花の栽培にも手を出し始めて、さらに上質な繊維が作れるようになるかもしれないって、みんなで楽しみにしてた。

氷が溶けて泥水が流れ込めば、綺麗な水を好むスライム族だって悲しむ。

樹人たちのネクトル栽培にも影響が出るだろう。

ダメだ、魔王として、あの氷を放置しておくわけにはいかない。

「アンチグラビティ」

ズボズボズボズボッ!

地面に突き刺さっていた氷の塊たちが次々と引き抜かれていく。

そして宙に浮かんだそれらを、僕は――

「テレキネシス、吹っ飛ばせぇっ!」

フェンリルの軍勢が居そうな場所目掛けて飛ばした。

山ほどの大きさの氷塊が、高速で北へ向かって飛んでいく。

ズゥン……ズウゥン……ズゥンッ……。

そして遠方で、繰り返し地鳴りが響いた。

『巨大な氷の塊が飛んで來るぞー!』

『うわああぁぁぁっ! 逃げろっ、逃げろおぉぉおおっ!』

『ヴィトニル様、負傷者多數で……ひいぃぃ、まだ飛んで來るのかっ!?』

『かーちゃーん!』

通信が繋がりっぱなしのイビィの口から、阿鼻喚の巷と化したフェンリルの軍勢の音聲が聞こえてくる。

「魔王君、さすがだね」

「喧嘩を売ってきたのはあっちだから、自業自得だよ」

なおも慘狀はリアルタイムで伝えられている、どうも本隊は壊滅狀態みたいだ。

けど、肝心のヴィトニルは無事だったらしい。

『ふ、ふふっ……ふふふふ、くはははははっ! 面白い、面白いぞ魔王よ! それでこそオレの戦う相手として相応しい!』

この狀況でも強がれるメンタルは素直に褒めてあげたい。

せっかく、聲が震えてるのは聞かなかったことにしてあげよう。

『しかしお前がどんなに強かろうが、數ではこちらが圧倒的に勝っている、戦爭は1人じゃ出來ないんだよ! 先ほどの不意打ちで多のダメージは負ったが、それでも5000もの魔の軍勢が城を包囲しつつある』

「不意打ちなんてしたっけ?」

「彼の脳ではそういうことになってんだろう」

『だ、黙れっ! 対するお前らは一帯どれだけの兵を持っているんだ? 100か? 200か?』

「3だよ」

『は?』

「西の巨人部隊に、東の獣人部隊、そしてヴィトニル率いる本隊。僕たちを包囲してるのはその3部隊だけだろう? だから、それぞれ一人ずつで相手するって言ってるんだけど」

『そ、そんなことできるわけがねーだろっ!』

「出來るから言ってんの。はい通信終わり、とっとと巣に帰りなイビィ」

『待てっ、まだ話は終わってねえぞっ!』

「ギ、ギギッ!?」

僕はイビィに対して魔法を使い、さっきの氷塊にそうしたように北へ向けて猛スピードで吹き飛ばした。

「ギギイイイィィィィ……」

斷末魔のび聲をあげながら、遙か彼方へ飛んでいくイビィ。

元から小さなその姿はすぐに見えなくなり、聲も聞こえなくなった。

「さて、と。宣戦布告をしてきたってことは、フェンリルたちの準備はもう終わってるんだろうね、そろそろ所定の場所に向かわないと」

「私は西だったか?」

「うん、獣人たちの相手をお願い。一発どでかい魔法を見せてやったら、怯えて降參してくると思う」

こちらの戦力が3人と言うのは、僕とニーズヘッグとフォラスのことだった。

ザガンが言うには、彼はデーモンの中でも上から數えた方が早いほど、相當に高い魔力を持っているらしい。

それこそ魔力だけならニーズヘッグと互角と言ってもいいほどなんだとか。

最初に出會った時、2人の仲があまり良くなかったのは、相手が同程度の魔力を持っていることを察したからなのかもしれない。

「ふぁ~あ……何やら騒がしい音が聞こえてきたが、こんな時間に一なにが起きていたのだ?」

大きなあくびをしながら、寢間著姿のニーズヘッグが姿を現す。

起こそうと思ってた所だったからちょうどよかった。

「おはよ、ニーズヘッグ」

「ああ、おはようマオ様」

こんな時でも挨拶は忘れない。

「フェンリルが宣戦布告してきたんだよ」

「こんな朝っぱらからか?」

「そう、朝っぱらから。迷だよね」

「暇なやつらだな、もうし寢ていたかったのだが。ならば、私は東に向かえばいいわけだな」

「うん、手はず通りにね」

そして僕は、北の本隊へと向かう。

さっきの氷塊で十分力量差は見えたと思うんだけど、それでもヴィトニルは僕たちに立ち向かってきそうだ。

なら今度は、立ち向かう気も起きなくなるぐらい、徹底的に、圧倒的に、一つ一つ丁寧に、心を折ってあげないとね。

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