《最強転生者は無限の魔力で世界を征服することにしました ~勘違い魔王による魔の國再興記~》最終話 魔王さま、歴史に名を刻む
セレモニーはつつがなく進み、いよいよ僕の閉祭の言葉を殘すのみとなった。
広場からし離れた場所にある公園に舞臺は設置されており、僕はそこに上がってスピーチすることになっている。
舞臺裏で待機していた僕は、大きく深呼吸を繰り返した。
マオフロンティアがある程度の規模になって以降、こうして魔王としてみんなの前で話す機會は増えたけれど、まだまだ慣れなくて。
むしろある程度の張をもって臨めるからこそ、今のところ大きなミスをやらかしてないのかもしれないけど。
「張してるんですか、マオさま」
「いつも通りね」
「変な所で小心者なんですから。今やマオさまは誰もが認める魔王なんですから、もっと堂々としてていいんですよ」
簡単に行ってくれるなあ。
魔王として認められるほど、僕に求められる期待値は上がっていく。
それに応えないとって思うと、どうしても張しちゃうもんなんだって。
「あ、でもあんまり堂々とされると、私の好きなマオさまと微妙にずれが生じるので、やっぱり今のままでいいです」
「ははっ、なにその勝手な理由。でも、僕も今の自分だからこそ、みんなが慕ってくれるのかなとは思ってる」
「調子に乗らない謙虛な部分がマオさまのチャームポイントですから。だからこそ、たまに見せる魔王らしい冷酷な一面とのギャップが映えるわけですし」
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「ギャップねえ」
「人も殺さないし戦爭もしないって言ってたあの頃からは考えられないような一面です」
そういえば、そんなことも言ってたっけ。
現に戦爭はしていないけど、結局、人は殺してしまった。
あの頃の僕は、人間の命より魔の命を優先するような自分になるとは思ってもいなかったから。
「殘酷になったのかな、僕は」
「そういうのでは無いと思います。優しいって言う本質は何も変わっていないんですよ。私が言うのもなんですけど……きっと、マオさまには、他人の命を奪ってでも守りたいものができたんです」
「例えば、グリムとか?」
「ちゃんと”私が言うのもなんですけど”って前置きしたんですから、からかわないでくださいよぅ」
「ごめんごめん」
グリムは火照り赤くなった両頬を手で隠しながら、僕を睨んで言った。
「でも事実だ。ああ、確かにその通りだね、僕には大切なものが沢山できた。故郷を追い出されて、家族に見捨てられて、全てを失ったあの時から考えられないぐらい、沢山の人が、が」
だから強くなれた。
殘酷にもなれた。
容赦なく人の命を奪えるようになったことが、周囲から見て、果たして”善い”変化だったのかは、僕にはわからない。
けど僕は、あえてそれを”長”と呼ぶことにした。
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他者の価値観や倫理観はさておき、僕にとっては善い変化だったのだと認めることにしたのだ。
僕は魔王で人でなし。
大事な誰かを傷つける奴が居たら、人間でも殺すし魔でも殺す。
この3年間で、僕はそういう生きに変わったんだ。
そしてこれからも――
『それでは次のは、マオ……おほんっ、魔王様による閉祭の言葉です』
表からミセリアの聲が聞こえた。
「おっと、そろそろ時間ですね」
「うん、行ってくるよ」
「はい、行ってらっしゃい。そして――」
「そして?」
「あー……いや、なんでもないです。頑張ってくださいね!」
明らかに何かを隠しているグリムを不思議に思いながら、僕は舞臺上へ向かう。
僕が姿を表した途端、魔や人間たちからは大きな歓聲があがった。
んな人に慕われて、尊敬してますなんて言われて、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。
練習のおかげで、挙だけはある程度、魔王らしく堂々としているように見せかけることは出來るようになった。
けど恥心の方はなかなかコントロールできなくて、今もしだけ顔が熱くなっている。
「魔王さまがんばれー!」
歓聲に混じって、そんな聲が聞こえてきた。
僕の張が見抜かれてしまったみたいだ、さらに恥ずかしい。
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「みんなをがっかりさせないようにね、マオ」
「プレッシャーかけないでよ、ミセリア」
小悪魔っぽく笑うミセリアから拡聲魔法が刻まれた棒――つまりマイクをけ取り、僕は観衆の方を向いた。
公園は観客で埋め盡くされ、さらに外の道まで見客でいっぱいだった。
客側も、もてなす側も、その誰もが笑顔を浮かべている。
準備段階から々と問題は山積みで、無事今日を乗り切れるか不安だったけど、この風景を見ればわかる。
祭りは功だった。
そして、僕の國造りも間違ってはいなかった。
これまでも幾度となくじてきたけれど、今日は特に強くじる。
ああ、魔王になってよかった、って。
そう思うと、自然と口から言葉が溢れてくる。
一ヶ月前から考えてたスピーチの容は全部吹き飛んで、僕は思うがままの言葉をみんなに伝えることにした。
「まず最初に、僕からここに居るみなさんに謝の意を伝えたいと思います。今日の祭りを楽しんでくださった魔や人間のみなさんも、そして祭りのために盡力してくれた國のみんなも。その全員に、僕は心の底から――ありがとう」
そう言って、深々と頭を下げる。
観衆たちがざわついているのが聞こえた。
その音の中に、「ありがとー!」という聲がいくつか混じっていて、し泣きそうになる。
「今でこそこんな大きな國になったけれど、最初は僕とグリムの2人だけで。この辺り一帯は毒で侵された大地しか無くて。ニーズヘッグが仲間になって、毒の浄化をしてくれなかったら、今のマオフロンティアはなかったのかもしれません。そのあとも、フェアリーにオーク、スライム、ケットシー、樹人、フェンリル――もちろん他の魔たちもたくさんいて。その全員が居たから、誰一人として欠けずこの國と共に歩んでくれたからこそ、今のマオフロンティアがあるんだと、僕は今日のこの景を見て確信しました」
みんなは僕が居たから、って言うけどそれは違う。
僕も歯車のうちの一つに過ぎなくて、パズルのピースを嵌めるように、奇跡的にみんなが噛み合って、補い合ったからこそ、今日のこの祭りが、國がある。
「生もまともに住めない、まともな植も生息しない、ほんの3年前まで、ここはそういう場所だったんです。そんな大地の上で、今日のような素晴らしい祭りが出來たことは、奇跡としかいいようがありません。出會いと、今日までの努力が引き起こした奇跡です。その奇跡に立ち會えた、その奇跡の一部になれた。僕の人生において、こんなに誇らしいことは他にありません。僕は、今日という日に出會えた喜びを、今日という日を導いてくれたみなさんへの謝を、生涯忘れることは無いでしょう」
いや、生涯と言わず――永遠にだって。
例えこのが朽ちて魂だけになったとしても、絶対に忘れるもんか。
「これから先も、僕はこの國をさらに発展させてみせます。みなさんの聲を聞いて、みなさんと共に、より過ごしやすく、笑って過ごせるような國へと。そして――また次にこの祭りが行われる時、今日以上の奇跡が見られるはずだと、心の底から信じています」
それは確信と言ってもいいほどで。
すでに僕には見えていた、マオフロンティアのさらなる発展が。
「改めて、今日はみなさん、ありがとうございました。これにて、閉祭の言葉とさせて頂きます」
僕はその言葉と共に、再び深く頭を下げた。
観衆たちの拍手と歓聲が聞こえる。
舞臺を、そして僕のを揺らすほどの喝采は、同時に僕の心を揺らし――緩んだ涙腺が、僕の視界に映る足元を歪ませていた。
魔王なんだ、ここで涙目なんてみっともない姿は見せられない。
し涙が乾いた頃に僕は頭を上げ、舞臺上を去ろうとした。
と、ミセリアが近づいてきて「はいストップ」と両肩にれて靜止してしまう。
ん? 予定じゃこれで終わりだったはずだけど。
「えー、続きましてー……」
「続くの!?」
思わず突っ込んでしまう。
観衆たちも何も知らなかったようで、何が始まるのかとざわついている。
「ニーズヘッグさんから、魔王様に向けて大事なお話があります。みなさん、よかったら靜かに聞いてあげてください。ほんとーに大事な話なんで」
「何も聞いてないんだけど」
「そりゃそうだよ、サプライズなんだからマオが知ってたら意味ないじゃん」
ああ、そういや……ニーズヘッグとグリムが何か隠してる様子だったな。
あれはそういうことだったのか。
「ま、待てっ、やっぱりこの裝はおかしいだろう!? 順番が逆ではないか!」
「うだうだ言わないでしいです。私がデザインした渾の一作なのです、文句は許さないのです」
「そうですよニーズヘッグ、ただでさえこんな機會を與えられたんですから、贅沢は許しません」
「どうしても嫌だって言うんなら、オレが代わりに著てやってもいいぞ?」
舞臺裏から、何やら騒がしい聲が聞こえてくる。
ニーズヘッグと、レモンと、グリムと……ヴィトニル、かな?
「ニーズヘッグはわがままだな!」
「恥ずかしいなら、ボクが代わりに伝えてこようか?」
「そっちの方がおかしいだろう! くっ……仕方ない、行くしか無いのか」
ニーズヘッグは覚悟を決めたらしい。
そして舞臺裏での問答が終わり、表に姿を現したのは――
「そのドレス……」
「……笑うなら、笑え。場違いだとな」
純白のドレスにを包んだ、ニーズヘッグだった。
同時に、観衆から嘆の聲がれる。
それほどにしかった。
思わず目を奪われてしまう。
いつもは黒のドレスばかり纏っているから、印象が全然違う。
本人は笑っていいと言ったけれど、笑えるもんか。
「好きな人がこんなに綺麗な格好してるのに、笑う男なんて居ないよ」
「だが……場違いではあるだろう?」
確かに、なんで結婚式でも無いのにウェディングドレスなのか。
それに、ニーズヘッグからの大切な話って一何なんだろう。
……ってまあ、この格好でなんとなくはわかるんだけど。
「あと、格好で何を言おうとしているのか察してしまうのは避けたかったのだ」
ニーズヘッグの言葉に、「おぉぉぉ……!?」と観衆が湧く。
「観客どもが盛り上がっているので、さっさと言うからな。覚悟はいいか?」
「とっくにできてる」
「ならば――」
大きく息を吸って、短く強く息を吐く。
數秒だけ何かを思い出すように目を瞑り、次の開いた瞬間、彼は口を開いた。
「私と、結婚してしい!」
勇ましく、強い口調でニーズヘッグは言い放った。
僕は笑って、一瞬だけ視線を外すと、すぐに彼の目を見て返事をする。
「もちろんオーケーだよ、僕と一緒に、この國の行く末を一生見屆けよう」
彼に歩み寄ると、そのを抱きしめる。
ニーズヘッグは抵抗なく僕の腕に収まった。
湧き上がる観衆たち。
そしてここから求められているのは當然――なわけで。
さすがにニーズヘッグもそれは理解していたらしく、至近距離で僕たちは見つめ合った。
次の瞬間、を寄せ合った僕たちを見て、観衆たちは今日一番の盛り上がりを見せるのだった。
表でのプロポーズが終わり、舞臺裏に戻った僕たちは、火照った顔を冷ますために、椅子に座って手で顔を仰いでいた。
気を利かせて二人きりにしたつもりなのか、舞臺裏には誰もいない。
「最初はいつものドレスで、という予定だったというのに。なぜウェディングドレスを著せられなければならないのだ……」
「確かに、プロポーズのシーンには合わないよね」
「だろう!? まったく、あやつらのセンスは理解できん」
裏に戻ってもニーズヘッグの怒りは冷めやらず、ひょっとすると誰も居なかったのは彼から逃げるためだったのかもしれない。
でも、まあそれはそれで都合がいい。
予定は狂ってしまったけど、冷やかす第三者が居ないほうが、僕の大事な話・・・・・・も伝えやすいから。
「マオ様、何を探しておるのだ?」
椅子の近くにある棚を探り、小さな箱を取り出す。
ニーズヘッグの問いに、僕は出來る限り平然とした態度で答えた。
「指」
「そうか、指か……ん、指だと?」
「うん、ニーズヘッグに渡すやつ」
「待て、何を言っておるのだ?」
「何って――プロポーズする時に渡すつもりだった指だけど」
「いや、しかし、結婚してくれと言ったのは私であって……ま、まさか、マオ様。最初からそのつもりで……」
「そういうこと、ほんとすごいサプライズだったよ。驚かされた」
祭りが終わって、二人きりになったら僕の方から言うつもりだったのに。
まさか先手を取られるなんて、男としてけない。
「すまぬ、とんでもないタイミングだったのだな」
「このめでたい時に謝らないでよ。でも、このまま終わるのはかっこつかないから、僕からもプロポーズだけさせてもらってもいい?」
「うむ、もちろんだ!」
僕は彼の隣まで移すると、指の箱を開き、中でり輝く指を見せながら言った。
「さっきは一緒に國の行く末を見屆けてしいって言ったけど、僕がニーズヘッグと結婚したい理由は、本當はもっと個人的なものなんだ。ドラゴンらしい僕を支えてくれる強さと、僕の前だけで見せてくれる甘えたがりな弱さが、とにかくおしくて仕方ない。ずっとずっと一緒に居て、ニーズヘッグのことを世界で一番幸せにしたい。そして、僕が世界で一番幸せになりたい。だから――僕と、結婚してくれませんか」
ニーズヘッグは、返事もせずに僕に抱きついた。
痛いほど強く抱きしめられて、どうも彼は極まっているみたいだ。
「おぬしは……何も、わかっておらぬな」
「な、なにが?」
「私はとっくに、世界で一番幸せ者だということだ。おぬしと出會い、寄り添った時點で、私より幸せな生などこの世に、いいや他の世界にも一人だって存在しておらん!」
「そっか、そうだったね。考えてみれば、僕もとっくに世界で一番幸せだった」
「うむ……二度と忘れるでないぞ」
「うん、永遠に忘れないよ。ニーズヘッグと一緒にいる限りはね」
僕たちは痺れを切らして舞臺裏に現れたサルヴァに見られるまで、ずっと抱き合ったままだった。
その日の夜中に行われた祭りの打ち上げで、僕とニーズヘッグが死ぬほどからかわれたのは、言うまでもないことだ。
…………………………
「魔王歴3年、我が國で第1回目の國祭が行われました。この祭りは毎年行われ、今年でちょうど1萬回を迎える予定です。魔王歴4年には當時存在したエイレネ共和國、マル共和國と共に共同経済圏が作られ、さらに諸國と我が國との繋がりが強くなっていきます。この経済圏が、魔王歴100年に達されたとされる全世界統一のきっかけになったと言われています」
「よし、座っていいぞ」
教師の言葉に従い、教科書を読み上げていた生徒が椅子に座る。
「今さられる必要もないとは思うが、さきほど読み上げた通り、魔王君はほんの100年で世界の統一をし遂げた」
「せんせー!」
「どうした、リーベリー」
リーベリーと呼ばれた銀髪の、生意気そうな男の生徒は、うんざりとした表で言った。
「俺はもっと戦いの歴史とか聞きたいんだけど」
「戦いと言われてもな、唯一の戦いと言えば、魔王歴3000年ごろに起きた魔王君とニーズヘッグの、一ヶ月に渡る夫婦喧嘩ぐらいだな」
「夫婦喧嘩が唯一の戦いって……」
「スケールが大きいからな。まあ、最終的にヴィトニルの『ただの惚気じゃねえか!』という一言で終戦したわけだが」
「やっぱ歴史の授業はつまんねーよ!」
多な男子には、マオフロンティアの歴史はどうやら刺激がなすぎるらしい。
だが、それも仕方のない話だ。
「そうは言われてもな、お前だって知っているだろう? 魔王君のおかげで今でも平和が保たれているということを。これまでの歴史において、一萬年も戦いが起きなかったことなど無いのだぞ」
「わかってるよ、魔王様が立派だってことぐらい誰だって知ってる」
「じゃあ歴史の授業に期待するな。次の時間はお前たちが好きな魔法の実習だ、それまで英気を養っておけ、なんなら寢ても咎めんぞ」
「フォラス先生、そう言われると逆に寢られねえよ……」
結局、リーベリーは授業が終わるまで退屈そうにノートを取っていた。
それが一萬年後の出來事。
けれど、フォラスは知っている。
五千年前にも同じようなことを言っていた生徒が居たし、さらに二千年前にも似たような生徒が居た。
だから――おそらくさらに一萬年後も、いや十萬年後だって、同じやり取りを繰り返すんだろう。
この世界に戦いは起きず、貧困は無く、道を違えない。
ある者はそれを”退屈”だと稱したが、しかし誰もが知っていた。
自分は恵まれており、幸福なのだと。
この世界は終わらない。
いつまでも続いていく。
――この世界の頂點にマオ・リンドブルムという年が君臨し続ける限り。
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