《ぼくは今日もをむ》#1 まさかのステータスの登場である
怪訝に思いながらも、ユズの半歩後ろを歩き。
やがて數十分が経過して到著したのは、とても大きな建だった。
所々に配置された、大きな窓。豪華で頑丈そうな扉。その扉の前に置かれている、質素な看板。
看板には――『冒険者ギルド』と達筆な文字で記されていた。
「ここは……」
「冒険者ギルドです。冒険者という職業の方が集まり、世界各地からの依頼をけ、その依頼をこなすことで報酬金を貰っているわけですよ」
冒険者ギルドという言葉自は、何度も目にしたことはある。
もちろん、ライトノベルやゲームで、だが。
ここにきて、ようやく異世界らしい施設の登場というわけか。
「冒険者っていうのは、誰でもなれるもんなの?」
「はい、特別な資格とかは必要ないです。ただ、依頼中に負傷したり、その……死んでしまうようなことが起こる場合もあるので、そういう覚悟とか勇気がある人だけ、ですかね」
なるほど。注する依頼によっては、強力な魔との戦闘などで死傷者が出る恐れもあるわけだ。
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でも、その分、貰える報酬金は他の依頼より多くなるだろう。
……とはいえ、今のぼくたちはそこまで金に困っていないため、わざわざ危険を冒してまで難しい依頼をける必要はない。
そんなことを考えながら、ぼくたちはギルドの中にっていく。
外観からある程度は想像がついていたが、中はやはり広かった。
何十畳あるのか分からないほど広い空間に、テーブルと椅子がたくさん並んでいる。
まばらではあるものの、それらの椅子に男が座って酒を飲んだり駄弁ったりしていた。
奧には付らしきものや掲示板と思しきものがあり、更には二階へと続く階段もある。
ユズが奧に向かって歩き出したので、ぼくも後に続く。
「ユズも冒険者なの?」
「まあ、そうですね。わたしだってそんなに戦えるわけではないので、簡単なものばかりけてきたんですけど」
「へぇ、神って敵を一瞬で蹴散らしたりできるんだと思ってた」
「そこまで強いわけないじゃないですか……。それと、わたしが神だってことは、他の人がいるところではあんまり言わないようにしてください」
「あ、そうだったね。でも大丈夫だよ、ユズは神どころかただの可いにしか見えないし」
「なっ……馬鹿にしてるんですかっ!?」
「うん」
「うん!? うんって! そこは否定してくださいよっ!」
何やら喚くユズだったが、見ただけでは神と思えないというのはいいことじゃないのかな。
たとえそれでも、実際に神である立場なのだから、神に見えないのは屈辱なものなのかもしれない。
一般人なぼくには、よく分からないけども。
そんなことを話していると、付に到達した。
すると、ユズは付のお姉さんに聲をかける。
「あの、すいません。わたしの連れが、冒険者になりたいんですけど」
「でしたら、こちらの機械に利き腕を通してください」
そう言って、お姉さんは棒狀で真ん中にし大きめのが空いた機械を差し出す。
更に、そののし下には細い隙間――まるで中からカードが出てきそうなものまである。
言われた通りに、ぼくはの中へ右腕を突っ込む。
すると、ガガガ……と機械的な稼音が鳴り、下の細い隙間から何やら一枚のカードらしきものが出てきた。
「そちらに書かれているのが、あなた様の能力値となります」
「能力値……?」
「はい。現在あなた様が発揮することのできる才能、能力を數値化したものです。今その數字が低かったとしても、努力や経験次第で幾らでも能力を上げ、強くなることは可能ですので気を落としたりすることのないようお願いします」
まさかのステータスの登場である。
異世界と言えど、ライトノベルやゲームのような要素はさすがにないと思っていたのに、意外とステータスが存在するらしい。
期待と不安を同時にじながらも、ぼくはカードを手に取って書かれている文字を見る。
筋力:90
耐久:79
敏捷:122
力:104
魔力:39
知力:61
固有スキル:隠蔽化
何というか……パッとしない數値だ。
あまり高いわけではなく、かと言ってめちゃくちゃ低いわけでもなく。
実に中途半端である。
「この能力値って、どうなんですか?」
「えっと……平均以下、ですね」
試しに訊いてみたら、とても言いづらそうに答えられた。
まあ、ぼくは元々平和な日本にいたわけだし、能力値が低いのは仕方ないか。
だけど、一つだけ気になっている部分がある。
「固有スキルっていうのは何なんですか?」
そう。一番下の項目――固有スキルについてだ。
スキル自は大抵のゲームに登場するため知っているものの、ぼくにスキルと呼べるような技とか能力は一切ない。
なくとも、ぼく自に思い當たる節は何もなかった。
「その人特有の、能力や技を指します」
「じゃあ、この隠蔽化というのは?」
「……何でしょう。私にも聞いたことのないスキルです」
付のお姉さんが何年この仕事をしているのかは分からないが、當然ぼく以外にも何人もの冒険者、冒険者志者を見てきただろう。
そんな人ですら聞いたことがないというのは、一どういうことなのか。
もしや、それほどまでにレアな能力だったりするのだろうか。
「お手數をおかけいたしますが、その能力を発していただけないでしょうか。心の中で能力名を強く強く念じれば、すぐに発できるはずですので」
「あ、はい、分かりました」
言われ、ぼくは目を閉じてその通りに念じる。
――隠蔽化、隠蔽化、隠蔽化――と。
強く、強く、他に何も考えられなくなりそうなほど、強く。
「……なっ」
「ら、ライムさんっ?」
すると、不意に。
付のお姉さんと、ユズの愕然とした聲が聞こえた。
訝り、目を開く。
しかし、何も変わったところはない。あくまで、今ぼくの視界に映っているものは。
「ライムさん、どこにいるんですか……?」
隣にいるユズが、辺りをキョロキョロと見回しながら言う。
ユズだけではない。付のお姉さんまで、まるでぼくの姿が見えていないかのようにユズと同じ挙をしている。
いや――まるで、と言うのは誤りか。
ユズと付のお姉さんは、どちらもぼくの姿が視界に映っていないのだ。
この狀況からして、間違いないだろう。
そして、それが意味することはたった一つ。
「ぼく、明人間になれるみたいだね」
自分の考えを口にしながら、再度心の中で強く念じることで能力を解除させる。
ぼくの姿が目視できるようになったらしく、二人の視點はこちらを向く。
「隠蔽化――仰る通り、自らのを不可視にする能力のようですね。恥ずかしながら、そんな能力が存在するなんて知りませんでした」
得心がいったように、付のお姉さんは頷いた。
どうやら、ぼくは。
自分の姿を隠蔽するという、素晴らしい能力を手にしたらしかった。
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