《ぼくは今日もむ》#7 ええ子や

ぼくは、誰かにを揺すられて目が覚めた。

ゆっくり重たい瞼を開いていくと、すぐ目の前にこちらを覗き込んでいるミントの姿が。

どうやら、ぼくはミントに起こされたらしい。

起床してすぐに目にしたものがの顔(しかも超近距離)だなんて、今日はいいことがありそう。

「おはよ、早起きなんだね」

「……ん。今まで、ずっとそうだったから……」

「そっか。それにしても、まさかミントが起こしてくれるとは思わなかったよ」

「……迷、だった?」

「ううん、そんなことないって。ありがとね」

「……ん」

を起こし、頭をでながら否定したら、ミントは嬉しそうに口角を上げて僅かに頷く。

いな……なんて思いつつ、起き上がって部屋を出る。

すると、ユズが部屋の近くに立っていた。おそらく、ぼくの部屋かその奧にあるミントの部屋に用があったのだろう。

「あ、ライムさん起きてたんですか」

「ミントが起こしてくれた。ユズはどうしたの?」

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「朝ごはんができたので、ライムさんを起こそうかと思ってたんですけど……」

「そうなんだ、お母さんみたいだね」

「だ、誰がお母さんですか。とにかく來てください」

「はーい」

ぼくたちは肩を並べ、一階に下りる。

やがてリビングに到達したら、テーブルの上には既に朝食と思しき料理が並んでいた。

見たじ、細部は微妙に異なっているものの目玉焼きやサラダなど、日本でも定番のよくある朝食のように思える。

が、昨晩の夕食からして、おそらく竜や何か変な魔の卵を使用していたりするんだろうな。

を損なう恐れがあるため、あえて訊かないでおこう。

ぼくたちは食卓を囲み、食事を開始する。

ちなみにぼくの隣にミント、正面にユズという配置だ。

ふと橫を見れば、ミントが目の前の料理を見ながらし涙目となり、箸をかすことすらしていなかった。

「どうかした? あ、もしかして嫌いなものだったり? ごめんね、うちのユズが」

「ちょっと! さらっと他人のせいにしないでくださいっ!」

ぼくとユズの漫才に、ミントは首を橫に振った。

そして、儚い聲で否定の言葉を紡ぐ。

「……ううん、そうじゃ、ない。私、今まで、こんなに食べさせてもらったこと、ないから……」

思わず、答える言葉を失ってしまった。

ミントは、昨日言っていた。

昔から金があまりなく、貧乏な生活を続けていた。ある日親が亡くなり、それからは奴隷として生きてきた、と。

だから、いくら目の前にあるこの料理が簡単に作れて一般的なものだったとしても、誰かに作ってもらったというのは初めてでもおかしくはない。

どれほど貧乏だったのか定かじゃないから詳しいことは知らないけど、お金がなかったら食材を買うこともできないだろう。

その後の奴隷生活でも、ロクなものは口にできなかったのかもしれない。

あくまでぼくの中にある奴隷の悪いイメージだが、ミントの様子を見た限りだと、決して間違いではないように思えた。

「今は、もうそんなこと気にしなくていいんだよ。ミントだってぼくらの家族同然なんだから、遠慮なく好きなだけ食べてよ」

「……ん。あり、がとう……っ」

ミントは涙ぐみつつも、朝食を貪り始めた。

味の想なんて、聞くまでもない。ミントが食べているのを見ていれば、味しいのは明らかだ。

それに、昨日の夕飯もかなり味しかったし、やはりユズは料理が上手いのだろう。

こうして、ぼくは異世界に來て初の朝食を楽しんだ。

もちろん味しかった。

でも、それとは別に気になっていることが一つだけあった。

それは――。

「ねえ、ユズ。ミントに、服を買ってあげられないかな」

「服、ですか?」

そう。ミントは初めて會ったときから今まで、ずっと同じ服を著用している。

所々が破けた、ボロボロな服を。

ただでさえ昨日ベッドや機など々な家を買ってもらってばかりなのに申し訳ないとは思うものの、ミントをその格好のままにしておくのも気が引ける。

「そうですね……。分かりました、今から服屋に行きますか」

「……い、いい。もう充分、んなことをしてもらったから……」

「まったく、遠慮しなくていいんですよ。ほら、一緒に行きましょう」

「……ん」

そういうわけで、ぼくたちは服屋へと向かった。

昨日言ったランジェリーショップの近くにある、大きな服屋だ。

様々な年代の服裝が、店に飾られている。

「ミントさんって、長はどれくらいなんですか?」

「……? 分からない」

ユズの問いに、ミントは首を傾げる。

ミントの長は、今のぼくより高い。だから百五十の後半くらいだとは思うけど、それでも正確な數値は分からない。

「んー……それなら、試しに著てみてもらっていいですか?」

そう言って、ユズはミントに一著の服を手渡した。

所々に花模様の描かれた、可らしい服だ。

ミントもユズも、普通に似合いそう。まあ、二人は何を著ても似合いそうではあるけどね。

すると、ミントは頷き――。

ぼくたちの目の前、この場で、著ている服をぎだした。

「あ! ち、ちがっ……ここでいじゃだめですよっ!」

「……? だめ、なの?」

「他の人もいるじゃないですかっ! 試著室があるんですから、そっちで著替えてください!」

「まあまあ、ミントは知らなかったんだからさ」

「ライムさんは鼻の下をばさないでくださいっ」

ばしてないよ! ぼくを何だと思ってるの!?」

「ただの変態です」

「……心外だよ」

殘酷なユズの一言により頭を垂れていると、ユズはミントを連れて試著室へと向かっていく。

何ということだ、置いていかれてしまったじゃないか。

やっぱり、ユズってぼくに対して厳しい気がする。もっと優しくしてくれてもいいと思うんだ。

などということを一人で考えていたら、やがて二人は戻ってきた。

ミントの手に、一つの袋を提げて。

「あれ、もう買ったの?」

「はい。さっきの服がたまたまちょうどいいサイズだったので、同じサイズの服を何著か買ってきました。まあ、ミントさんは特にどんな服がいいとかはないみたいでしたから、わたしが選んだんですけど」

「そうなんだ。ミント、よかったの? たぶん、ユズの好みになっちゃったよ?」

「ちょっ、どういう意味ですか! そこまで変なものを選んだつもりはありませんっ!」

ユズのツッコミをスルーし、ぼくはミントの返事を待つ。

するとミントは自が持っている袋を一瞥してから、ゆっくり頷いた。

「……ん。買ってくれたものに、文句なんか、言わない。買ってくれるだけで、嬉しい、から……」

ええ子や。めちゃくちゃ、ええ子やんけ。

ミントがあまりにもいい子すぎて、思わず関西弁になってしまった。

でも、ミントの境遇だと服を買ってくれることもあまりなかっただろうし、仕方のないことか。

せめて、これからはもうできるだけ遠慮させず、好きなものを買ってあげよう。

もちろん、ぼくじゃなくて、ユズがね。

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