《ぼくは今日もむ》#1 家族なんですから

「……ドリアン王、大変ですッ!」

そんな切羽詰まったようなびとともに、見知らぬ男が突然駆けてきた。

息は絶え絶えで、かなり急いで來たのだということが分かる。

「何事だ」

それでも一切じず、ドリアン王は冷靜に問う。

すると、男れた息を整えながら答える。

「そ、それが……何というか、複數人が他の國から來て、その……」

「……何だ。もっと落ち著き、要領よく話せ」

「も、申し訳ありません。突然、他國から訪れてきた複數人の男が、この街を徘徊しているのです」

王の言葉でようやく落ち著きを取り戻した男は、淡々と、尚且つ焦りを孕んだ聲でそう言った。

他國からやって來た、複數人の男……? もしかして、観客とかだろうか。

不法侵だったり、犯罪を犯したりさえしなければ、そこまで問題でもないように思えるけど。

「……? それの、何が問題だというのだ」

「無論、ただの観ならば何の問題もありませんでした。ですが、彼らは人を探しているようなのです。その人を見つけるために、住人に聞いて回っているところを目撃しました。……しかも、銃や剣などを使い、無関係の住民を脅して」

Advertisement

「……」

ドリアン王の眉が、ぴくっと反応を示した。

人探しをすること自は、何も悪くない。

それどころかむしろ、早く見つかればいいのにと祈るばかりだ。

けど、だからといって。

わざわざ住民を脅す必要はないじゃないか。

そうまでして必死に探している相手って、一誰なんだ?

「殘念ながら、誰を探しているのかまでは分かりませんでした。が、このまま放っておくと、住民に被害が及んでしまう恐れがあります」

男の意見を聞きながらも、ぼくは脳でひたすら思案を巡らせていた。

他國からの訪問者。住民に銃を突きつけることも厭わない野蠻人。目的は人探し。ここ――王都〈ホームベル〉に。

それらのピースが、きっちりと何かに嵌った気がした。

……待て。ちょっと待ってくれ。

ぼくには、ちゃんと心當たりがあるはずだ。

當然、斷言はできない。あくまでぼくの推測だし、當たっているという保証はどこにもない。

いや、この場合はむしろ、外れていてくれたほうが嬉しいこと。

だけど、そうやって楽観的にもなれなかった。

「……ライム様っ!?」

背後でマリアージュさんの愕然とした聲が聞こえたが、ぼくは構わず駆け出した。

お城を出て、真っ直ぐに走る。

無我夢中に。一心不に。一目散に。

ユズたちが待っているであろう、ぼくたちの家へ向かって。

§

思い出していた。

あのとき、あの子が言っていたことを。

――こことは違う別の國で、奴隷をしていた。

――逃げ出したことは、すぐに気づかれる。気づかれれば、必ず見つけ出すために追いかけてくる。

そう悲しそうに告げた、ミント・カーチスの言葉を。

確証はない。いや、確信したくない。

だけど、ぼくの中でどんどん嫌な予が膨らんでいく。

突然訪れた來訪者の目的は、ミントなのではないかと。

そんな、嫌な想像を必死に掻き消してみるも、徐々に大きくなるばかりで消えてくれない。

今は、ユズが家に匿っているはずだ。

もし仮にミントが目的の人だったとして、居場所まで突き止められたとする。

その場合――あの二人は、一どうなる?

どれだけ野蠻な人なのか分からないから、まだ何とも言えないが。

なくとも、無事では済まないだろう。

特に、ユズはともかく、ミントはまず間違いなく連れ去られる。

そして、また奴隷生活へと戻ってしまうに違いない。

そんなのは、嫌だ。

ぼくは當人ではないし、知り合ってから間もない。

だけど、ミントがぼくたちの元から離れ、再び奴隷などという辛い日々を送るのは嫌で仕方がない。

ぼくたちはもう家族となったのだ。

そこに、ともに過ごした年月など全く関係ない。

の子を救いたい。友達を守りたい。家族を助けたい。

ぼくが行する理由なんて、ぼくが今必死に駆ける機なんて――たったそれだけで充分だ。

「開いて、る……?」

やがて、我が家に到著して。

無防備にも扉が開かれてしまっていることに気づき、ぼくは呆然となる。

その時點で、もうただの懸念なんかじゃなく確信に変わっていた。

だから、ぼくはできるだけ慎重に心がけ、ゆっくり中へ足を踏みれる。

そっと靴をいで壁伝いに進み、奧の様子をこっそりと窺う。

すると、そこには。

リビングの隅で暗い表をしたまま震えるミントと、そんなミントを庇うように前に立つユズ、そして――見知らぬ人間が三人いた。

今ぼくがいる箇所からは後ろ姿しか見えないため、その顔立ちなどは分からないが……背の高さやガタイの良さからして男だろう。

やっぱり、ぼくの當たってほしくない予が的中してしまったらしい。

すぐさま助けに行きたいところをぐっと堪え、とりあえず會話の盜み聞きを試みる。

「……の程を弁えろ。お前は所詮、奴隷なんだ。當然、我々から逃走することも、幸福な暮らしをすることも許されはしない」

「何言ってるんですか! そんなこと、あなたたちが決めることではないです!」

「部外者はすっこんでいろ。これは、我々の問題だ」

「部外者って……それなら、わたしは口出ししてもいいはずです。もう、家族なんですから!」

「家族、だと……? はっ、そんな偽りの関係に何の意味がある。ミント・カーチスに、家族などもういない!」

ああ、ダメだ。これ以上は、聞いていられない。

ユズが必死にミントを庇ってくれているが、の震えは離れているぼくにもよく分かった。

畏怖。悲哀。憤怒。

そういった負のに支配された、絶に歪んだ表

あんなに小さな子に、あんなに可い子に、の子に、もうそんな顔をさせたくはなかった。

だから――。

ぼくは、すー……っと、自分のからや気配などを全て消し。

足音が立たないよう、ゆっくりと男たちに近づいていった。

    人が読んでいる<ぼくは今日も胸を揉む>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください