《ぼくは今日もむ》#12 破れたり

風の渦と、炎の茨。

ユズは、その二つの攻撃をルーベルに向かって放った。

でも――何故か、彼には全く通用しなかった。

正確に分かるわけではないが、見たじ手加減した様子はない。おそらく、本気の一撃だっただろう。

ユズの喫驚している表が、それを如実に表している。

「……だから言っただろう。無駄だ、と」

「……っ」

自分の攻撃が全く効かなかったことが相當信じられないのか、ユズは拳を握り締めて強く歯噛みする。

まずいな……いくらステータスの耐久値が高いからといっても、ユズの攻撃なら多なりともダメージを與えられると思っていた。

大ダメージとまではいかないまでも、ほんのしだけ傷をつけることくらいなら、と。

なのに、実際にはこの有様だ。

こんなの、防力が高いとかいうレベルではない。

ルーベルに傷を負わせる方法を、ぼくは何も思いつかなかった。

「次は、こちらから行かせてもらおう」

そう言うや否や、ルーベルは懐ふところから一丁の黒い銃を取り出す。

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そして、その銃口をユズへと向けた。

「――弾ダン」

引き金を引き、銃口から一発の弾丸が放出される。

その剎那に、ユズは地面を蹴って素早く右方に跳んで回避した。

更に、ユズは間髪れず先ほどと同じ風の渦をルーベルに放つ。

しかし、やはり効いている様子はない。

どうすればいい。この勝負、どうすれば勝てるんだ。

諦めちゃダメだと起を試みてみるも、執拗に現実が邪魔してくる。

「さっさと諦めろ。そうすれば、貴様の命だけは助けてやる」

「……嫌です。わたしの命だけが助かったところで、意味なんてありませんし。それに――まだ、負けが決まったわけじゃありませんから」

でも。

そんなぼくの心に反し、ユズは一切諦めたりなどしていなかった。

「ならば、貴様の心が折れるまで痛みつけるだけだ」

「大丈夫ですよ。わたしの心は、あなたごときの攻撃じゃ折れませんから」

劣勢であることは間違いないのに、笑って煽ってみせる。

強いな、ユズは。

それほどまでに頑張っているんだから、ぼくが弱音を吐いてしまってはいけないか。

大丈夫だ。ユズなら、きっとルーベルの弱點を見つけてくれるだろう。

これは、期待ではない。

確信であり、心の底からの信憑だ。

「――裂レツ」

ユズの言葉をけ、ルーベルは引き金を引きながらも忌々しげに呟く。

された銃弾はユズへと向かうが、當然それも軽々と避け――

「……ぐぅッ」

不意に、ユズが苦悶の聲をらす。

怪訝に思ってよく見てみると、ユズの左肩にに塗れた傷が穿たれていた。

おかしい。

先ほどユズは、確かに橫へと跳ぶことで銃弾を避けたはずだ。

回避に失敗したわけじゃないのは、見ていれば分かる。

なら、どうして。いつの間に、ユズに攻撃が當たったんだ?

「不思議か? 自分は、間違いなく回避した。たった一発しかない銃弾を、今ので避けられないわけがない。じゃあ、この傷は何だ? ――と」

「……っ」

ユズは否定などせず、いや出來ず、傷口を手で押さえつつルーベルを睨む。

その反応を見て、ルーベルは嘲りながら続けた。

「はっ、愚かなことだ。その前提が、貴様自の認識が間違っていたというのに」

「どういう、ことですか」

「分からないか? こういうことだ――裂レツ」

今度は素早く撃ち、弾丸は真っ直ぐユズへ迫っていく。

唐突すぎたからか、もしくは肩の痛み故か。

ユズはうまく反応できず、回避の行をとることができなかった。

「く、ぅはぁ……っ」

そうなると、當然ユズに銃弾が直撃し、に一つの傷が……。

「……あれ?」

思わず、ぼくの口から聲がれた。

ユズの肩にある傷は、最初にけたもの。

だったら――腹部に穿たれた、二つの傷は一何なんだ?

「う、くっ……はぁ……はぁ……」

痛みのあまり、立っていられなくなったのだろうか。

ユズはその場にしゃがみ込み、手を地面についた。

「脆いな。先ほど放った銃撃は、対象へと向かう途中で増する。たった、それだけだ。馬鹿にも分かるくらい、単純なものだろう。だというのに、もう終わりか」

地面にしゃがみ込むユズを、ルーベルはつまらないものを見るかのように冷たい視線で見下ろす。

正直、耐久の高さだけに気を取られてしまっていた。

あいつの武は、銃。

こちらの攻撃が通用しない上に、ルーベルにも強力な攻撃の手段があったとは。

しかも、戦いが始まったときから、彼はまだ一歩もいていない。

誰がどう見ても、どちらが優勢でどちらが劣勢かなんてのは一目瞭然だった。

「……ルーベル、さん。見かけによらず、意外とよく喋るん、ですね……」

「……」

「……でも、いいんですか? そこ――危ないですよ」

ユズが、ニヤッと笑った直後。

會場中に、そしてモニターからも何か妙な音が響き渡る。

決して、大きな音ではない。

だがそれでも、観客が息を呑んで靜まているからか、不思議とはっきり聞こえた。

カチッ、カチッ――と。

「な……ッ!?」

その事実に気づいた途端、ずっと涼しい顔をしていたルーベルが、初めて驚愕に表を歪める。

それが、最後だった。

ルーベルが慌てて後方に跳ぶも、時既に遅し。

凄まじい轟音を伴い、大きな発が巻き起こった。

風はルーベルを巻き込み、フィールド中に煙が充満する。

やがて。

徐々に煙が晴れ、中からルーベルの姿が現れる。

「……貴、様ァ……ッ」

ユズを睨みつけ、初めて聲を荒らげたルーベルは。

さっきまで何の攻撃も通用していなかったのにも拘らず、頭や腕からを流していた。

どういうことだろう。

先ほどの発だけは、あいつにも効いたというのか。

「さっきのは線上の核といって、わたしの手のひらから地面を通って、対象者の足元を発させる技です。多の時間差はありますし音などで気づかれる恐れもあるんですけど、むしろそのおかげで、あなたにを流させることに功したみたいですね」

「……ッ」

ルーベルは何も答えず、ただユズを睨み続けるのみ。

そうか、さっき地面を手についていたのは痛みのせいではなく、この攻撃をするためだったのか。

「ルーベルさん、狡ずるはよくありませんよ。その耐久の數値、偽ですよね?」

「偽、だと……?」

「すいません、偽っていうのもし違いますね。あなたは――自分の固有スキルを使って、耐久値を急激に跳ね上げていたんです。違いますか?」

「……」

応答はない。

だが、それはユズの言っていることが間違いではないことを意味していた。

「えっと、堅牢結界っていうんですか? 詳しくは分かりませんけど、そのスキルで自分への攻撃を無効化していたんですよね」

「……何故、分かった」

「最初にここへ現れてから、あなたは一歩もかなかった。わたしの攻撃が効かないので避ける必要はありませんし、武は銃なので近づく必要もない。だから特におかしいとは思えなかったんですが、でもよく考えてみれば変なんですよ。風で飛ばされることもなく、炎で服すら燃えることもないなんて。耐久値という數値は、あくまで相手の攻撃を如何に耐えられるか、というだけなんですから。だから、わたしは思ったんです。わたしの攻撃が効いていないんじゃなくて、そもそも當たっていなかったんじゃないか――って」

そういや、冒険者ギルドで言っていた。

耐久は、相手の攻撃を如何に耐えられるを有しているかという數値。

つまり、を流したり傷をつけられないだけならまだしも、に纏っているだけの服すら何ともないのはおかしいのだ。

「結界、ですよね。その場所に固有スキルの堅牢結界を使うことで、相手の攻撃を無効化にしたんです。きさえしなければ、わたしの攻撃があなたに屆くことはない……そういう狀況を作り出したんですよね。場所に使う技ではなく、自分自に使う技だったなら、本當にわたしに勝目はなかったかもしれません。でも――これで、破れたり……ですよ」

そう言って、ユズは不敵な笑みを浮かべた。

慢心、驕り。

そういった余裕が、最終的に自分の首を絞める結果となってしまったのだろう。

「……くっ、そォォォォォッ!」

ルーベルは悲痛なび聲をあげ、最後の発とともに儚くもその命を散らした――。

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