《ぼくは今日もむ》#18 みんなの

扉を開けると、そこは清潔のある白に覆われていた。

天井も壁も床もベッドも機も、何もかもが真っ白だ。

そのベッドには、中に包帯を巻かれたミントが寢かされている。

「……ライム……ユズ……?」

どうやら既に目を覚ましていたらしく、ぼくたちが室したことに気づいて瞳だけをこちらに向けて呟く。

ベッドの傍らに椅子が二つ用意されていたので、ぼくとユズは腰を下ろす。

「大丈夫、なんですか、は」

「……ん。試合は、どうなったの?」

「勝ちましたよ。もう、奴隷生活に戻る必要はないんです。わたしたちと一緒に暮らせるんですよ」

「……そう。よかった……」

ミントは天井を見上げながら、心から嬉しそうに微笑んだ。

でもまあ、嬉しいのは當然だ。

今までの辛い過去も乗り越えて、死に狂いで勝負に勝ち、ようやく今がある。

無事に終わって、本當によかったと言わざるを得ない。

「けどさ、何で急に倒れたの? あの出量、普通じゃなかったよね」

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「……私の固有スキル〈蓄積無敵〉は、相手の攻撃が自分に當たってもダメージが無効になるもの。更に、それで相手の攻撃を無効化すればするほど、どんどん蓄積されていって……私の攻撃が強化される。でも、一定時間が経過したあとは全ての攻撃の反が返ってくる……」

なるほど、得心がいった。

ポメロを一撃で斃すことができたのも、そのスキルで蓄積していたおかげというわけか。

使いようによっては強力なスキルではありそうだけど、かなり諸刃の剣だろう。

「でも、本當に無事でよかったよ、みんな」

「はいっ、そうですね」

「……ん。二人のおかげ」

ぼくたちは、三人で笑い合う。

何が可笑しいのかなんて分からないけど、ただただ嬉しさやらやらで自然と笑みがこぼれたのだ。

と、そこへ。

後ろから、扉が開く音とともに。

「失禮する」

そんな一言だけを発し、巨漢の男――ドリアン王が現れた。

ネルソン王子、シナモン王、セネカ王、マリアージュさん……勢ぞろいだ。

「……ふむ。可い」

「えっ?」

ドリアン王から発せられたとは思えない発言が聞こえ、ぼくは思わず耳を疑う。

すると、マリアージュさんが耳打ちしてくる。

「ご存知ありませんでしたか? 旦那様は、可の子がとても大好きなのですよ。坊ちゃんにお見合いさせていたのは、できるだけ早く可い嫁さんが見たいからというのもあったみたいです」

「あ、そ、そうなんですか」

何というか、衝撃的だ。人は見かけによらないという言葉を、こんなにもにしみたのは初めてである。

最初は怖い人というイメージを抱いてしまったものの、今急に親近が湧いた。

分かるよ、その気持ち。可の子は最高だよね。

「ふんっ、あんたらが助かったのはあたしたちのおかげでもあるんだから、もっと謝しなさいよねっ!」

「え? でも、シナモンは特に何もしてないような……」

「んなぁっ!? あ、あのときちゃんと助けてあげたでしょぉ!?」

「いや、それでもぼくを狙ったりしてたし」

「それはあんたが悪い! あと、あたしのことはちゃんと様づけしなさいよぉ!」

とんだブラコン王様だけど、話してて楽しいし可いからぼくは好きだ。

うん、シナモンからは嫌われてそうだけども。

と、ネルソン王子が急にぼくに聲をかけてきた。

「ライムさん、し話があるんだけどいいかな?」

「あ、うん。何?」

「えっとね……ここはみんながいるから、二人きりで話したいんだ」

「ふ、二人きりで!?」

何だろう……みんながいるとだめってことは、ああだめだ見當もつかない。

さすがにネルソン王子だし、襲われたりとかはないだろうけど。

とか考えながらもネルソン王子の大きな背中について行き、病室を出て人気のない場所へと到著した。

「まず、ライムさん。僕たちはまだ知り合ってから間もない。そのくせして、みんなには人関係であると噓をついている」

「う、うん、そうだね」

急にぼくたち二人しか知り得ない報を確認してきて、ぼくは困しつつも頷く。

そんなことを今更言って、どうしたのだろうか。

「だけど、それはあくまで偽りの関係だ。僕は、そんな繋がりでいるのは満足できない」

「え、えっ?」

「だからね、ライムさん。僕と――正式に際してほしいんだ」

一瞬、思考が停止した。

やがて、言われた言葉の意味を理解し、徐々に顔が熱くなっていくのが自分でも分かった。

「こ、際って……本當に付き合うってこと? ほ、本気で?」

「もちろんだよ。最初は、ただ協力してくれて嬉しいというしかなかった。でも、気がつけば君の優しさに惚れてしまっていたんだ」

や、やばい。なんかこの人、本気でぼくに告白していらっしゃる……。

誰かに告白されたのなんて初めてだから、つい條件反で照れてしまったじゃないか。

男からっていうのが、どうしても殘念でならないけども。

「えっと、その、気持ちは嬉しいんだけど……ごめんなさい。付き合うことはできない、かも」

目をし逸らしながら、ぼくはしっかりと返事をしておく。

生憎と、ぼくには男とそういう関係になるなどという趣味はない。

だが正直に言うわけにもいかず、他に振る理由を考えて口にする。

「まだお互いのことそんなに知らないし、まずは友達から、とかでだめ、かな……?」

「……そうだね、それでいいよ。でも、僕は絶対に諦めない。君を、必ず惚れさせてみせる」

最後にそれだけを言って、またみんなのいる病室へと戻っていった。

あれぇ……どうしてこうなった。どうして、ここまで惚れられてしまったんだ……。

判然としないながらも、ぼくも病室へ戻る。

ネルソン王子、シナモン王、セネカ王、ドリアン王、マリアージュさん、そしてユズとミント。

みんな楽しそうに談笑し、笑い合っている。

ぼくは、ほぼ無意識にとある一點を見つめてしまっていた。

ようやく見せた、ミントの笑顔だ。

今までにも、微笑む程度のことはあったが……ここまで心から楽しそうに笑っているのを見るのは初めてのこと。

ぼくは、この笑顔をこれからも守ってやりたい。

だって、ミントは。

いや、ここにいるみんなは。

ぼくの大切な――。

心の中で告げ、ぼくはまたみんなのの中へっていった。

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