《魔がない世界で魔を使って世界最強》攫われた娘

伝えられた真実に彌一は沈黙し、セナは口元に手を當て息を飲む。

「うそッ・・・!?いったい誰に・・・!」

「わからない。晝頃に黒ローブを著た男が現れ、ユノくんと一緒にいた、組合の職員をナイフで刺したんだ。周りの冒険者と協力して僕も一緒に取り囲んで、ユノくんを連れ戻そうとした。そしたら男は弾を取り出してまとめて吹き飛ばしたんだ。そして気がついた時にはもう、すでに・・・僕としたことが油斷した、すまない」

再びビルファが頭を下げてくる。しかし彌一はいまだ沈黙したままだ。

「彌一・・・?」

心配になってセナが彌一に話しかける。途端、圧倒的なプレッシャーが場を支配する。

そのプレッシャーに誰もが呼吸を忘れ、けなくなる。彌一から放たれるプレッシャーは空気を歪めているのかと錯覚するほど。

彌一は靜かに、怒気を込めた聲を発する。

「セナ、エル、行くぞ。うちの娘を連れ去ったクソ野郎をぶっ潰す・・・!!」

「うん!」

「了解です、マスター!」

たった數十日だったが既にユノは二人の娘も同然。娘を連れ去られて彌一がブチ切れ無い道理は、ない。

「しかし彌一君、ユノ君がどこに連れ去られたのかわかるのかい?」

発のせいで誰も逃走する所を見ていない。ぶっ潰しに行くにしてもそもそも場所が分からなければどうしようもない。

彌一は顎に手を當て考える。

「・・・そうだ、クライトさん、ユノは攫われる時【式神】といましたか?」

「?ああ、職員と一緒に遊んでいたよ」

「組合の中に【呪符】はありましたか?」

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「いいや、中からは出てこなかった」

「ならいける」

彌一は意識を集中し、【探査魔】を発する。

「いったいになにを?」

「【探査魔】で呪符に殘った魔力を辿ってます。もし魔力が殘ってるなら・・・いた!!」

【探査魔】の範囲は最大で五百キロメートル、しかし探査した結果五百キロメートルの範囲にユノはいなかった。そこでユノが呪符を持っているなら呪符に殘った魔力を辿れば、居場所が分かるかもしれない。そう思い探査した結果、見事居場所の特定に功した。

「場所は・・・ここから南に千二百キロメートル。クライトさん、ここには何があります?」

「ヘルグ大森林を超えた先にある窟あたりだろう。あそこは強力な魔が多く生息している。まさか、今からいくのかい!?」

「ええ、すぐにでも行きます。移手段はあるので」

「・・・そうかい。わかった、城門は僕の名前を出せば通してくれる」

「ありがとうございます。必ずユノは連れて帰ります」

彌一はビルファと握手をわすと彌一とセナ、エルは城門へ急ぐ。城門でビルファの名前を出すと衛兵は城門を開けてくれた。

城門からある程度離れた後、ヘカートを出現させ乗り込む。

「二人とも飛ばすからしっかりつかまってろよ」

「急ごう彌一!」

「わかりました。マスター!」

彌一はアクセルを全開で踏む。ヘカートは急速発進し、悪路を走する。時速は二百キロにも及び、景を瞬く間に置き去りにしていく。

やがてすぐにヘルグ大森林に到著する。ヘカートは減速することなく森の街道に突っ込む。この森はユノと初めて會った場所、彌一とセナは慨深い気持ちになりながらも、必ずユノを救い出すと誓い前を向く。

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「マスター!二時の方向から魔が接近中!、數は十四です!」

「ちっ!面倒な、セナ、エル、俺は今手を離せん。迎撃を頼む!」

「「了解!!」」

彌一は速度を緩めることなく前を見據える。すると右の林から狼と熊型の魔が十四現れた。すぐに魔は迫りくる車を見て突撃してくる。

このままでは正面衝突する。いくらヘカートの裝甲が頑丈でもあれだけの量の魔がぶつかれば無事では済まない。セナとエルはすぐさま窓を開け、を乗り出す。

「【風炎砲】!!」

セナは作り出した矢を引き絞り濃された風のミサイルを撃ち出す。ミサイルは魔の集団に著弾し、炎がぜる。

発は魔を引きちぎり片を散らし、散らした片は炎に呑まれ炭となる。

しかし著弾を逃れた三の狼が跳躍しこちらに襲い掛かる。

セナは魔法を撃ち出してすぐなので反応できていない。

セナは急いで魔法を構築しようとした瞬間、三つの銀線が宙を走る。

飛來したのは銀の針。針は魔の目に深々と刺さり、魔が悲鳴を上げる。そして銀の針にはワイヤーが繋がっておりその先はエルの手元に続いている。

「邪魔です!」

義手がギィイイイーーーン!と鳴っと思ったらスパークが発生する。

義手から発生した電撃はワイヤーを伝い、魔に直接流れる。流れた電撃は魔の脳髄を直接焼き、生命活を停止させる。

「エル、それは?」

「義手に搭載された機能の一つです。電撃や銃弾などを放つことができます」

「・・・すげーなその義手」

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「私の実力はまだまだですよ」

「こりゃあ戦力として期待できるな。頼むぞエル!」

「はい。マスター」

彌一はエルの戦闘能力を頼もしくじる。彌一はさらに速度を上げるべくヘカートに魔力を流し、ヘカートの加速機能を使用する。

そしてしばらくすると森を抜ける。森を抜け巖石地帯を進むと向こう側に山脈が見える。娘を思い、一刻も早く助けると誓うと先を急ぐ。

ほどなくして山脈の麓に辿り著いた。ヘカートをしまい、近くの巖場にを潛め【探査魔】を使用する。

「あった、呪符の反応だ。ここの地下にある、ただ・・・ユノの反応がない」

「そんな!?いったいどこに!?」

「この地下窟には高濃度の魔力溜まりがいくつもある。それに妨害されてユノの反応が探せないんだ。でもおそらくこの魔力溜まりの場所のどこかにいるはずだ。とにかく急ぐぞ」

「マスター、あそこに人影が」

エルが差した方向に向くと遠くの場所に二つの篝火が見えた。暗闇の中を木々に隠れながら接近する。

篝火の下には窟のり口があり、近くでは二人の山賊風の男が欠をしながら眠たげに突っ立っている。

「あーあ、眠いな・・・なぁ、寢ちまおうぜ」

「アホか、ボスに殺されんぞ」

「どーせ誰もこねぇよ。てかボスも意味わかんねぇよな、あんなガキ連れ去らってこいって」

「まぁな。しかも一切傷付けるなって」

山賊二人は呑気に話を続けている。するとに潛んでいた彌一とセナが靜かに立ち上がり、山賊の前に現れる。

「ああ?なんだてめぇら、とっとと失せろ」

「そうだそうだ殺されたくなきゃ・・・」

「「邪魔だ!!」」

彌一は一気に相手の懐に潛り込み、踏み込むと同時に拳を突き出す。セナは右手をかざし圧された炎を相手の目の前で開放する。

一人は腹に拳を喰らい背後の壁にめり込み、もう一人はもろに発を喰らいって同じく壁にめり込む。壁はその衝撃で崩れ、巖が男たちを呑みこんだ。

二人はそれを見ながら、窟に向かって歩き出す。エルもその後に続き暗い窟に突する。

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彌一はレルバーホークを、セナは氷の槍を、エルは電撃ナイフを、それぞれがそれぞれの手段で窟に現れる山賊を殲滅しながら進んでいく。窟をある程度進んでいくと広い空間に出る。

「來たぞ!!お前ら構えろ!!」

そこでは五十人近くの山賊が待機しており、彌一たちが姿を現すと盾を持った山賊が前で構え、背後では魔法の詠唱を開始している。山賊の中にも優秀な魔法使いがいるらしく、炎、氷、雷の魔法が彌一たちを襲う。

「止まってる時間はねぇんだよ!!」

彌一は前方に【金剛障壁】を展開しながら盾隊に突っ込む。魔法が途切れた瞬間を狙ってレルバーホークで真ん中の盾隊をヘッドショットし、同時にセナの援護で雷撃の雨が盾のいなくなった箇所を狙い降り注ぐ。

「ぐぁあああああああああああああああああーーーーーーー!!!」

「ぎぃやぁああああああああああああーーーーーーーー!!!」

雷撃は地面を抉り、山賊のを焼き焦がし殲滅する。山賊はその場に倒れ奧へ続く道ができる。そのまま死の海を突き進んでいると上から小石がぱらぱらと落ちてきた。

「この野郎!」

「ぶっ殺せ!」

「構え!」

広場の高臺から五人の山賊が姿を現し、弓を引き絞って狙いを定めている。

そこへワイヤーに繋がれた銀の針と銃弾が飛來する。二人の男はワイヤーから流れた電撃で電死し、三人の男は心臓を銃弾で貫かれ倒れ伏した。

エルはワイヤーを引き戻しメイド服にしまい、再び前を向いて走り出す。

「セナ、エル!そこの角を右に曲がったところにあるに飛び込むぞ!それなら一気に下に行ける!」

三つに分かれた通路を右に曲がり、ほどなくするとロープで通行止めされた大きな縦があった。彌一は迷うことなく飛び込み、続いてセナとエルも飛び込む。

ひゅごぉおおおおおおーーーーーーー!!!と頬を風がで、ローブの裾をたなびかせながら急速に降下していく。地面はどこまでも暗く、先が見えない。

やがてうっすらとだがが見える。が抜けると巨大な空間に出る。高さは十メートル位の位置に飛び出る。

彌一は持ち前の能力で難なく著地し、セナは風の魔法で減速しながら舞い降りる。エルは天井にワイヤーを刺して減速しながら落ち、ワイヤーの限界になるとワイヤーを抜き落ちて著地する。

三人はすぐに辺りの警戒をするが特に変化はない。警戒を緩めず辺りを見回す。

「ここはなんだ?」

「人の気配はないようですね。置でしょうか?」

「・・・彌一!!これ!!」

彌一とエルが辺りを見回しているとセナが顔面を蒼白させ焦ったように呼んでくる。二人は急いで駆け寄るとそこにはに満たされた巨大な筒が並んでいた。

彌一とエルは筒の中を見て、そして戦慄する。

それはーーーーーーー四肢を切斷され心臓を出させている人間だった。

「うっ!いったいこれは・・・!?」

四肢にはチューブが繋がれており、心臓にも同じく何本ものチューブが繋がっている。しかも心臓はいており、生きている。つまり四肢を切られチューブに繋がれ、生きたまま心臓を出させられている。

あまりの非人道的な景に三人とも直する。よく見ると周りの筒も同じような景が続いている。

脳に直接電極が刺された人間。目を抉り取られた人間。腕の筋を開かれた人間。

様々な景が続いている。ざっと筒の數を數えただけでも百以上。

「彌一、この人たち・・・」

「まだ生きている。いや、『生かされている』。生命としては生きていても、人としてはすでに死んでいる。この人たちは死にたくても死ねず、強制的に生かされているんだ」

「いったい誰がこんな酷いことを・・・まさか、ユノちゃんも!?」

「いいえセナ様。先ほど全ての容を見てまいりましたが銀髪のは見つかりませんでしたので一応は安心かと、しかしこれはなんともくそ悪いですね・・・」

エルは怒気を孕んだ聲で言う。彌一もこの景にはくそ悪さをじる。セナも同じようにを表している。

すると筒の中の人がうっすらとだが目を開いた。その目はただひたすらに絶に染まっていていて虛ろな目が彌一たちを捕えている。

彌一は筒に歩み寄る。人は彌一が近づくとからっきしな力を振り絞って一言一言確かに言葉を紡ぐ。聲は聞こえないがその言葉は確かに彌一に屆いた。

ーーーーーー”殺して”、と

「・・・ああ、わかった」

彌一は一言そういうとレルバーホークを向ける。

パァンッ!

放たれた銃弾は、筒を貫通し、中の人の眉間を撃ちぬく。

靜かに腕を下ろし、彌一は靜かな怒気を振りまきながらセナとエルに言う。

「セナ、エル・・・この施設を破壊するぞ・・・!!」

「うん・・・!」

「了解ですマスター・・・!」

三人はそれぞれ散らばり、走り出す。

セナは蒼炎の業火で焼き盡くし、エルは銃弾で彌一と同じように眉間を撃ちぬく。彌一は【弾門】で片っ端から破壊していく。

やがてあっという間に施設は跡形も無くなり、所々で灼熱の焔が燃えている。

最後に彌一は魂を送り出す。

「《汝死を恐るる事なかれ・その命は生命の円環へと戻り・汝に救済を與える・紡がれる生命の縁は新たなる命を育む・迷える魂・汝の死に安らかなる眠りを》」

【浄化】を唱えると人々の心臓部分が燃え、やがて搔き消える。

これだけの大人數の魂を浄化したことなど彌一はない。その初めてのになんとも言えない複雑な気持ちが現れる。

「これが、人のすることか・・・?」

「酷い・・・許さない・・・!」

「マスター。このような事をする輩、生かしておけません」

「ああ、必ずぶっ潰す」

瓦礫や焔の余韻が殘なかで三人はを滾らせる。まるで人を道のように扱うその景にただひたすら憤りをじるしかない。

「な、なんだこれは!!」

「「「--!!」」」

その聲のする方に目を向ける。そこには白を著た小太りな男がいた。男は顔にを登らせ青筋を浮かべている。

「貴様ら!なんてことしてくれた!よくも私の研究材料を!!」

その言葉に彌一は直する。

「研究、材料、だと・・・お前がこの人たちをこんなことにしたのか?」

「それがどうした?この遂行なる私、ベルヘット・モーブラウンの研究の礎となれることは人類にとって最も栄譽のあることだぞ!!なのに・・・なのに貴様ら!!よくもやってくれたな!!」

「そうか・・・よくわかった・・・」

男の返答に彌一は靜かに頷きーーーー

「おとなしく死ね」

霞むほどの速度でレルバーホークを早撃ちクイックドロウ

マッハ五まで加速された弾丸は、プラズマを纏い、大気を焦がしながらベルヘットの眉間に吸い込まれーーーー

ガキンッ!

「なっ・・・!」

弾丸はベルヘットの目の前に発生した氷の塊に、質な音をたてて阻まれた。

氷の塊にぶつかった弾丸は潰れていて氷の方には一切の傷はない。

マッハ五の弾丸すら防ぐ高度に驚愕していると、突然発生した強大な気配に警戒心を最大まで引き上げる。

そしてベルヘットの橫の壁が破壊され、そこから恐ろしいほど強大な存在と魔力、そして凍気が荒々しく吹き荒れる。

「なにこの気配!?」

「これは・・・!?」

セナとエルは突如の強大な存在に圧倒される。吹き荒れる凍気のせいで姿は確認できないが、その存在だけでただ事ではないと本能的に察する。

そして彌一はこの気配に近いものを知っている。そう、それは五年前と同じーーーーー

「フェーズⅢ・・・神獣・・・!!」

五年前、たった一つの咆哮で國一つを災禍に沈めた魔。黒赤竜、ルバティアドラゴン。

それは、生學的に全く異なる進化を遂げ、その強大な力から”神獣”と呼ばれる存在の魔であるフェーズⅢの魔

そのルバティアドラゴンに迫る気配に彌一は愕然とする。

そして愕然とする彌一達の前に現れたのは一匹の巨大な狼だった。

高さは七〜八メートルほどで、その表は銀のしい並みで覆われており、そして同時に圧倒的な凍気を

纏っている。

圧倒的な凍気を纏った狼ーーーー氷狼が施設にってくると周りに霜が降り、溫度がグッと下がる。

彌一達はすぐさま距離をとり、構える。離れても屆く凍気を前にどうするべきかと考え、前を見據えた瞬間、さらなる驚愕が彌一とセナを襲い、圧倒的存在を前に直してしまう。

現れたのは氷狼と同じ綺麗な銀の長い髪をなびかせ

た年齢は四、五歳のだった。顔には不思議な模様の描かれた面をつけており、ゆっくりと機械じみた歩調で施設にって來る。

彌一とセナはそのに見覚えがある。面こそ被っているが彌一とセナが見間違えるはずがない。見間違えたりするものか、最娘のことをーーーーー

「・・・・・ユノ・・・!!」

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