《魔がない世界で魔を使って世界最強》彌一理ぶっ飛び事件

銀郎族の集落を出発してから2日後、夕方になってはしまったが目的の都市グーデンタームが見えてきた。

グーデンタームは今まで見てきた街の中でも最も大きく頑丈なつくりの城壁で覆われており、遠目からでも松明を持った多くの兵士が確認できる。世界最大級のカジノ都市とあって守りは強固なのだろう。

「おっきい! パパ! すっごくおおきいね! 」

「そうだなぁ~。ここまで大きい城壁は初めて見る。王都よりも大きいかもな」

「彌一、街検査の列あれじゃないか? 」

「げっ! だいぶ待つことになりそうだな」

街が見えてくると彌一たちと同じく街にろうと街検査を待っている人の列が見えてきた。この調子でいけば夜まで掛かってしまうだろう。

「まいったな、どうするべきか.......とりあえずエルに遅くなるって送っとくか」

ポケットからスマホを取り出してエルに『街検査に時間がかかりそうだから送れる』とラインを送る。

するとすぐに返事が返ってくる。

容は『了解しました。すぐに対処いたします』

「え? 」

「どうしたの彌一? 」

「なんかすぐ対処するって......」

「え? どういうこと? 」

「さぁ......? 」

よくわからないままとりあえず街検査の列に並ぶ。列に並ぶと當然のごとく注目されてしまう。

彌一はそっとさりげなくセナたちを隠すように前に立つと軽く威圧を飛ばす。途端に鬱陶しかった視線が消え失せ、視線を送っていた人たちが一斉に目を伏せる。

煩わしかった視線が消えて彌一がふんっと鼻を鳴らすと、セナがそばに寄ってくる。

「ありがと彌一」

「ん? なんのことだ? 」

「くすっ....んん、なんでもない」

そう一言いうとセナは微笑んで彌一に寄りかかる。彌一はセナには隠し事ができないなと苦笑いしながら気長に順番を待つ。

近くの巖に腰掛け、構ってと腕をばしてくるユノを膝にのせて相手をする。健たちも近くの巖に腰掛けてあくびをしながらゆったりと順番を待つ。

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すると10分くらいたっただろうか。こちらに向けて何名かの兵士が駆け寄ってきた。

そして兵士の中から兵士が出てくると、キョロキョロと列を見渡し、彌一たちを見つけると駆け寄ってくる。

「えっと君、ちょっといい? 」

「え? はい...」

そういうと兵士はほっとしたような表をつくると、彌一に歩み寄りーーーー

「はい。拐の現行犯で逮捕」

「..................え? 」

両手を鮮やかな手際で拘束された。

何が何だかわからない彌一は咄嗟に避けることもできず、縛られてもなお呆けた顔をする。健たちも「え? 」と彌一と同じように呆けた顔で固まる。

「え? じゃないわよ。黒いコートを著た男が銀髪の拐してると通報があったの。言い逃れしても無駄よ」

「え? ......は、はぁああああああ!? ま、まってくれ! 俺は拐なんかしてない! 第一この子は俺の娘だ!! 」

に覚えのない罪を著せられ彌一は揺しつつも正直に話す。ユノはきょとんと首をかしげている。

そんな彌一に兵士は「はいはい」と適當に流す。

「君の年でこんな年の娘がいるわけないでしょ。それにこんなに可い子とあなた似てないし。とにかく付いてきてもらうわよ。あっ、もちろん後ろのあなたたちも一緒にね」

言いたいことはまだある彌一だが、兵士は有無を言わせず彌一を連行する。

この程度の拘束彌一にとってはなんの問題にもならないのだが、ここで逃げ出したりすればこれから街にろうというのに面倒なことになる。

結局彌一にできたことといえば、

「ご、誤解だぁあああああああーーーーーー!!! 」

ぶことだけだった。

それからしして彌一たちは街の中の広場に來ていた。

あの後いろいろと聞かれたが、彌一は何もしていないのですぐに拐ではないと理解してもらえて無事釈放された。ユノが彌一に対してパパと呼び、とてもなついている様子から拐ではこうはならないと思ってもらえたのだ。

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そして不幸中の幸いというか、不本意とはいえ夜になる前に街の中にることができた。あのまま待っていれば今頃まだ列の中間あたりだっただろう。

さて、ここで先ほど彌一を拐犯と通報したのは誰なのかという問題が殘る。それは今目の前にいる人間、いや古霊種族エルフを見れば明白。

「.......さて、エル。....これはいったい何の真似だ? 」

「こうしたほうが早く街にれると思いましたので」

「でしょうね!? 本人の世間を気にしなければな!! 」

なんの悪びれもなく答えるエルに彌一は聲を荒げて怒鳴る。無罪とはいえそれが証明されたのは連れていかれてからのこと、つまり連行された現場を見ていた人は彌一が無罪ということは知らない。あの時の周りの人の視線は地味に痛かった。

「もっと別の対処の仕方はなかったのかよ......あのままじゃ俺はロリコン扱いだったぞ」

「ユノ様が無実だということをすぐに証明してくださるだろうと計算してのことです。さすがですユノ様」

「? ユノのおかげ? 」

「ええ、ユノ様のおかげですよ」

「うん! ユノがんばった! 」

ユノの頭をよしよしとでるエルはとてもうれしそうだ。ユノの頭をでるのが好きなエルは3日間頭をでられなくて寂しかっあたのだろう。

子貓の様に可らしく目を細めるユノを見ていると彌一も怒る気力もなくなってはぁ、と疲れたようにため息をらす。

「はぁ.....とにかくこう心臓に悪いことはしないでくれよ」

「ふふっ、すみません。ですが私も思うところはあるのです。確かに私はマスターの命令最優先ではありますが、.......溫泉りたかったな、と」

「ごめんなさい」

   彌一たちが集落で溫泉にったのを知ったのはセナからのメールの時。

彌一の命令第一とはいえエルもである以上溫泉は惹かれるのだ。移中は簡易の風呂だったので広々とした風呂にはりたいと思っていたので以外にもに持っていたりする。

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「また今度埋め合わせというかなんでも一つ聞くから」

「本當ですか?」

「ああ、無理のない範囲ならな」

エルは顎に手を當てし考えた後

「すぐには思いつかないのであとでもいいですか?」

「わかった。思いついたら言ってくれ」

「ありがとうございます」

彌一の提案でエルは機嫌を取り戻したようで、嬉しそうにほほ笑む。

取り敢えず問題は収まったようなので本題に移る。

「エル。宿屋の方に案してくれ」

「了解しました。皆さん付いてきてください」

エルは気を引き締め直すと、全員を連れて歩き出す。

進んでいくのは表通りから外れた細い脇道。表通りの華やかな空気とは一変して暗く近寄りがたい空気が漂う。

   エルの先導でその脇道を奧へ奧へと進んで行くと、やけに扇的な裝の妖艶なたちがチラホラと見える。たちは彌一たちを見ると投げキスやら元を寄せてウィンクなどを向けてくる。

   どうやらここは娼婦館が立ち並ぶエリアらしい。健と雄也居心地悪そうに顔を赤くし、彩と凜緒も同じく赤くして顔を伏せる。

   そして彌一はというと特に気にすることなく、逆にユノの教育に悪いとユノを抱っこして視界を塞ぐ。セナと言う絶世のの嫁がいるのに今更そこいらの人程度では揺することはない。

   だからセナさん組んだ腕をギチギチと締め上げるのやめてください、と思う彌一だった。

   そしてそんな娼婦館エリアを抜けると、暗がりにぽつんとロウソクの火が燈る扉が見える。扉の上には

宿屋を示す記號のみ。

「もしかしてここか?   」

「はい。ここは書類上『存在しない』隠れ宿屋なのです。これからの我々の事を考えればもしもの時に便利ですし」

「なるほどな」

   確かに荒事も想定されるわけで、そうなれば宿も普通の宿屋じゃない方が良いだろう。

「それではりましょう」

   古びた扉を開けて中にる。

   裝は外とは打って変わって意外にも綺麗だった。    

   暗いの落ち著きのある木材に、調度品一つ一つにまで細かい職人の技がり、ロビーを薄暗く照らす松明が落ち著いた高級を醸し出している。

「ようこそおいでくださりました」

   すると付の奧から一人の老紳士が現れ軽く會釈する。どうやら従業員のようだ。

「予約しておいたエルネウィアです」

「はい、部屋は大部屋2つご用意しております。これが鍵になります。どうぞお寛ぎください」

   老紳士はエルに2つ鍵を渡すと再び奧に戻ってしまった。どうやらここは老紳士一人しかいないのか、人の気配がしない。

   老紳士が消えると2階の大部屋に移する。男子は203號室、子は204號室で子は荷を置くと男子部屋に集合する。

   全員が適當に座るのを確認すると、エルが仕れた報を話し出す。

「まずはカーネ様のおっしゃっていた銀狼族ですが、ケーティア様だということがわかりました」

「!?   本當か!」

「はい。ただ、珍しい銀狼族と言うことで厳重な報規制と警備が付いているらしく居場所まではわかりませんでした。すみません、もうし時間があればわかったのですが」

「いいや十分だ。第一目標が達できたんだ、あとは取り戻すだけだ」

   ケーティアがここにいると言うことが証明されたのは嬉しい。最悪なのはその銀狼族がケーティアでなかった場合だったのだが、それも杞憂に終わった。

   とそこで彩が手を挙げる。

「でもなんでまだここにいるのかしら?こう言ってはなんだけど、そんなに貴重なら直ぐに誰かに買い取られてもおかしくないのに」

   確かにそれもそうだ。ここは多くの資産家や有権者が娯楽目當てで集まる街。いくらでも買い手は居るだろう。

「それなのですが、どうやらケーティア様は二日後に行われる奴隷オークションの目玉商品として出品されるそうです。ですのでそれまでは運営側も売る気はないようです。しかもそのオークションは裏カジノと呼ばれるVIPだけが參加できるカジノのオークションらしいのです」

「くそっ、よりにもよって裏オークションか.......」

   オークションまでにされるとなると潛するのも容易ではない。

   しかしオークションなのは好都合。オークションであれば買い取れば余計な荒事になることもなくなる。

   そうなると次の行方針は決まった。

「よっし、ーーーーカジノに遊びに行くか!」

『.........はい??』

   突然のカジノ宣言に、全員目が點になる。しかしエルだけは彌一の言葉を予想していたのか頷いている。

   取り敢えず雄也が手を挙げる。

「彌一、今の話聞いてた?あと二日しか時間がないんだけど」

「ああ、わかってる。だから急いでカジノに遊びに行くんだ」

『???』

   彌一の説明に、より疑問が浮かぶ。全員の反応を苦笑いで見ながら足りない補足をする。

「今回は救出するにしても時間的に厳しい。だから堂々とオークションでケーティアを買い取って救出する」

「でもオークションは裏カジノなんでしょ?どうやってるの?」

「カジノで稼ぎまくればいい。カジノの運営側も無視できないほどにな」

   カジノや賭博場では稼ぎすぎてはいけない。運営に目をつけらる程の勝ちを続けてしまうのは、その後の報復を考えなければいけないからだ。

   このグーデンタームは古くから続く金とが渦巻く世界一のカジノの街。當然闇も沢山抱えており、その後の報復などゴザらだろう。

   だが今回はそこを逆手に取る。

「俺たちが勝ちを続ければいづれ運営からコンタクトがあるだろう。そこでちょちょいーっと暗示を掛ければ、あとは無事オークションに參加できるというわけだ」

「なるほど」

   一応納得したのか全員頷く。ユノは何のことかサッパリと言ったようにキョトンとしている。

「そう言うわけでエル、まずはカジノに行くための服を調達したい。どこがある?」

「でしたらカジノの中にある仕立て屋がおすすめです。カジノの中にはレストランもあるので夕食を食べてからにでも行きましょう。ちなみに私は『アルテール』という中華料理屋に行ってみたいです」

「おお!いいっすね!餃子!チャーハン!小籠包!彌一、すぐ行くぞ!」

「ちょっと健、はしゃぎ過ぎよ。ちゃんと野菜も食べなさい」

「ママ!ぎょーざっていうのたべてみたい!」

「うん、じゃあ晩ご飯はそこで食べようね?私も中華料理作ってみたいから食べに行きたい」

「お前ら目的忘れてないか....?」

   久々の中華料理と聞いて浮かれるみんなに、彌一はため息をつきつつも心ちょっと楽しみである。中華料理など異世界に來てからは食べていないから懐かしいのだ。

「それじゃあ各自必要なもの持って10分後にホーム集合な?」

『了解』

   子が部屋から退散すると、男子組も荷整理をし、特に必要なものはないのですぐに出る。

   程なくして子も集合しいよいよ夕食のため街の中心にあるカジノ區へ向かう。

   グーデンタームは上から見ると三つのエリアに分けられる。

   一番外の最も広いエリアは一般住宅や商業區が並ぶ市街區。

   次に市街區の側は、貴族や有権者、資産家が住む中區。

   そして一番中央に位置するのが今回の彌一たちの目的であるカジノ區。

   そんなカジノ區のり口に彌一たちはやって來ていた。

   カジノ區は巨大なドーム狀の建で出來ており、區が一つの巨大な施設となっている。

「はい。書類検査は以上です。それでは一人七萬ネクト、合計五十六萬ネクトをお支払い下さい」

「はい。五十六萬ネクトです」

   カジノ區にるためには高い場料が必要になるのだが、彌一はちょうどの金額を袋に詰めて渡す。

「それではようこそ!夢との渦巻く世界最高のギャンブルへ!今宵が貴方達にとって最高の一夜となることを保証いたします!」

   バッと両手を広げ大げさに演技する青年が扉を開ける。

   そして飛び込んで來たのは、煌びやかな世界。

「わ〜っ!」

「すごい.....!」

   飛び込んで來た景に一同聲をらす。

   一言で言えばそれは一つの街だった。

   口のゲートから見えるだけでも様々な建が並んでいる。街路には花や噴水がありそれをキラキラ輝く街燈が照らす。

   そんな一つの街のような奧まで続き、その街全てを大きく高い天井が全て覆う。天井にはガラス窓が使われており、キラキラ輝く街並みを月明かりが優しく照らしている。

   ここはカジノ區の中にある商業エリア。ギャンブルに挑む者が準備をする場所である。

「パパ!パパ!きれい!とーってもきれい!」

「そうだな、想像以上でビックリだ」

   ぴょんぴょんはしゃぐユノに彌一も頷く。ここまでの施設は異世界で初めてだ。いや、地球でも見たことない。

   そのまましばらくカジノ區のスケールの大きさに驚愕していると、エルが歩き出す。

「さぁ、皆さん行きますよ。腹が減っては戦は出來ぬ、です。しっかりと食べていきましょう」

「そうだな!よし!飯だー!」

   エルの案でゲートから歩いて二分程度の中華料理店にる。

   赤い柱に龍の模様、円形のテーブルまで想像していた中華料理店と同じだった。

   なぜ地球と似てる?という疑問は取り敢えず置いといて、今は食事優先。

   大きめのテーブルに案され五分くらい待っていると、すぐに料理が運ばれて來た。

   餃子、チャーハン、海老チリ、北京ダックなどとにかく次から次へと出てくる。そしてテーブル真ん中の回転する臺に料理が所狹しと並べられると、どうやら全て揃ったらしい。

   味しそうな匂いを漂わせる料理を前にユノや健は待ち切れないといった様子。

   そんな二人に苦笑いのまま、彌一は手を揃えて合掌。

「それじゃ、いただきます」

『いただきます』

  合掌と同時に全員自分の好きなを取って口に運び、その味しさに頬を緩ます。

   彌一もまずは近くにあった海老チリを取って食べる。

   噛むと海老のプリッとした食が返ってくる。そして直ぐに海老本來の甘い旨味が口いっぱいに広がり、かと思えばピリッとした辛さが広がる。

   カジノ區に並ぶ店は全て一流の高級店で、どの中華料理をとっても高級店に相応しい味しさだ。

「パパ、それなーに?」

「ん?海老チリだよ。海老にし辛いソースをつけた料理だ」

「ユノも食べたい!」

「うーん、ユノにはちょっと辛いかもな」

「だいじょうぶだもん!パパちょーだい!」

「わかったわかった」

   ユノの分の海老チリを取り分けてやると、ユノが小さな口を開けてこちらを向く。どうやら食べさせてしいようだ。

「ほら、あーん」

「あーん!」

   パクッとし小さ目の海老を食べてしばらくモグモグすると、ユノ顔が徐々に赤くなり目にうっすらと涙を浮かべる。まだユノには早かったようだ。

「ほら言わんこっちゃない」

   水のったコップを持ってユノに飲ましてあげると、ユノは顔を赤くしながらもコクコクとゆっくり飲む。

「ユノ大丈夫か?」

「う、うん....へいき、だもん。からくないもん.....」

   辛いのが悔しかったのか涙目で見栄を張るユノ。そんなユノを彌一は頭をでてめ、代わりに行く前に食べたいと言っていた餃子を渡す。

   若干警戒しつつも餃子を一口食べると、両目を見開きキラキラさせて夢中で餃子を食べ始めた。

「はい、彌一もしっかり食べてね?」

「お、小籠包。ありがとセナ」

   小籠包を食べたいと思って小籠包を見ると、いつの間にかセナが小籠包を取り分けて彌一に差し出す。流石正妻、夫のことならなんでもお見通しということか。

   そうしてあれほどあった料理が、三十分後にはすっかり綺麗さっぱり無くなってしまった。

「うはー食った食った」

「ちょっと、お行儀悪いわよ健。ほらほっぺにソース付いてる」

「ん?おお、サンキュー彩」

   なんとも自然な流れで彩が布巾で健の口元を拭う。

  それを全員暖かい目で眺め、一息つくと支払いを済ませて店を出る。ちなみに代金も高級店だった。

「さて、夕食も食べましたし、服を買いに行きましょう。これからいくところは世界中の資産家や有権者が集まる場所、キチンとした服裝でなければカジノ施設へはれません」

   そういうことで一同は次のお店へ。中華料理店などの食事処が並ぶエリアを離れ、服の仕立て屋やアクセサリー店などが並ぶエリアへ。

   どこもかしこも高級店ばかりで、地球ではこういうところに縁がなかった健たちはとても居心地が悪そうだ。しかし彌一と雄也は自然で歩く。

   魔師は貴族も多いので、彌一はパーティーなどで必要なを買いに高級店に行くことはよくあった。しかし雄也はごく普通の一般人。

   やはりイケメンは違うのだろうかと思う彌一だった。

   そしてそんな高級店の一つにると、すでに予約をれていたのか、店員に奧の部屋へと通され、一人一人に専屬のコーディネーターがついた。

   準備ができたら控え室に集合と言って全員バラバラに別れる。その際ユノは彌一に付いて行こうとしたのでセナに預けた。

ーー四十分後ーー

「もう懲り懲りだ.........」

「うん、まさかここまで時間がかかるなんてね.......」

「ああ、男の俺らでも三十分近くかかったんだから子なんか相當だろうな..........」

   控え室では健、雄也、彌一がソファーに腰掛けグッタリとしていた。

   三人とも長い時間を掛けてのコーディネートに疲労困憊の様子。

   健は黒のダブルスーツでそれに合わせて髪をオールバックにしている。雄也は白のスーツで爽やかな雄也の印象にピッタリだ。

   そして彌一は黒の禮服なのだが、まだ著慣れないじの殘る健や雄也とは違って意外にもしっくりくる。

「なにかと昔から社界なんかに行く機會が多かったからな。魔師には貴族も多くいるし」

「なーるほどな」

   とそんな時扉がノックされる。どうやら子の方も終わったようだ。

   「パパー!」

   明るい聲で抱きついて著たのは白いミディ丈のふわっとしたワンピースドレス姿のユノ。頭につけた花柄のカチューシャがユノの花のような笑顔と相まってとてもらしい。

   ユノはにへらとちょっぴりお化粧をした笑顔を向けるとその場でくるりと回ってみせる。

「パパ、どう?」

「めちゃくちゃ可いぞ!よく似合ってる!どこのお姫様かと思ったぞ!」

「ほんと!?やったー!パパにかわいいっていってもらったー!」

   可い娘のドレス姿に彌一パパはユノを抱きかかえてその場でくるくる回りだらしなく頬を緩める。

   そんな親バカ全開の彌一が暴走していると、今度はエルと彩がってきた。

「ごめんねー遅くなって.....ってなにやってるの彌一君.......?」

「見てくれよ彩!うちの娘が可いすぎる!」

「マスター!ユノ様をもっとこっちに!」

   この主人に従者あり、とドレス姿のユノを見た瞬間にカメラを構え激寫するエル。

   そのエルは淡いグリーンのロングドレス姿だ。そしてこのドレス、のラインがハッキリと出るようなタイプのドレスなので、激しいボディラインが丸わかりで、その上背中と元が大きく開いているので、正直目のやり場に困る。

   二人の親バカに引き気味の彩は、膝下程度のロングドレスで、その上から七部丈のカーディガンを羽織っている。

「お、彩綺麗じゃないか。意外に似合ってるぞ」

「い、意外にってなによ..........でも、あ、ありがと......」

   顔を俯かせる彩の耳が真っ赤になっていて、いつもなら彌一ははやし立てるところだが、今はそれより大切なものがある!と一心不でエルと寫真を撮りまくる。

するとまた扉がノックされ、凜緒がってきた。

凜緒はフィット&フレアーラインのドレスだ。普段はまっすぐにおろしている長い艶やかな黒髪も今は元で纏められて前に垂らされている。軽く赤いルージュを引いたは大人っぽさを引き立て、凜緒の黒い艶やかな髪と相まってお淑やかな淑となっている。

「ど、どうかなやいくん...?私こういうの著たことなくて.....へ、変じゃない...?」

頬を赤くして恥ずかしがりながらも凜緒は絶対に聞きらすものかと彌一の目を見る。そんな凜緒に彌一は頬をし赤くする。

いつもの凜緒の雰囲気とはまた違った様子に彌一も目を引かれ、頬をかく。

「その、なんだ.....いいと思うぞ?似合ってる」

「.......!ほんと!?よかったぁ~....」

彌一が褒めると凜緒は安心したようにをなでおろす。初めてのドレスで張していたようだ。

凜緒もそろうと殘るは彌一の本命のセナのみ。最の嫁のドレス姿に心踴らせながらその時を待つ。

   そしていよいよその時がやって來た。

   ドアが開きセナがってくると彌一は息を呑む。

   セナはコーンフラワーブルーのスレンダードレスで、海のように流れる蒼髪を上品な月形の髪留めでアップに纏めている。さながらそれは靜かな海に映る月のよう。覗くうなじも上品さと香を醸し出し、チャイナドレスのような深くった裾のスリットからチラリと覗く腳が艶めかしく思わず視線が吸い寄せられる。いつもの可憐さとは違い大人のとしての香のギャップからセナの魅力がより引き立てられている。

   セナは彌一を見るとし照れつつもはにかみ、彌一に歩み寄る。

「おまたせ。どう彌一?似合ってる.......彌一......?」

   といつもならここで『綺麗だ』や『してる』の一言でも言うような彌一が無言でいることに、セナが不思議そうに首をかしげる。

   他もどうした?と不思議そうに聲をかけようとするが、その先に彌一がき、そのまま目の前のセナを抱きしめると、自然な流れでキスをする。

『ーーーッ!?』

「んんっ!?」

   突然の彌一の行に全員瞬時に凍りつく。セナも何が何だかと言うような表で彌一を見るが、彌一はお構いなしに濃厚なキスを始めた。どうやら彌一さん、完全に理が飛んだらしい。

   周りで全員が見ているのに彌一はやめようとせず、それどころかより一層激しくセナのに大人のキスをしていく。

「ちゅっ、んんっ!.......んぁっ、んっ!ま、まって彌一!みんなが、見て、る.......んんっ!!」

   周りで全員がキスを見ている事にセナが恥心で顔を赤くし、彌一を止めようとするが、彌一は止まらない。

   やがてセナが恥心とキスのせいで立っていられなくなると、彌一はそのままソファにセナを押し倒す。彌一は顔を離すと、上気したセナの頬に手を添え潤んだ瞳を覗き込む。セナも激しく熱的なキスにやられ、今はもう彌一しか見えておらず、お互いに二人だけの世界で見つめ合う。

   するとここでようやく彌一が口を開く。

   セナの耳元に顔をうずめて赤く染まった小さな耳に甘く囁く。

「セナ、綺麗だ。いつもとはまた違ったっぽさがあって、思わず襲っちまいたいくらいに」

「〜〜ッ!!」

   甘く囁く聲がセナのを震わせる。今までにないほどの積極的な彌一にセナのはバクバクと高鳴り、今にもけてしまいそうになる。

「なぁ、セナ.......いいか?」

「!........うん、いいよ。.....きて?」

   彌一の首に腕を絡め、そっと目を瞑る。そのまま彌一は顔を近づけていきーーーーーーーー

『って、いいわけあるかぁあああーーーー!!!』

「ごはっ!!」

   側頭部に強い衝撃が走り、彌一がボールのように飛んでいく。

   顔を真っ赤にし、ぜぇはぁぜはぁ、と息を荒くして拳を引っ込める彩、健、凜緒。二人の世界に呑まれ我を取り戻した三人が彌一を全力でぶん毆ったのだ。一般人であれば即死の威力で。

「ふ、ふ、二人とも何やってるのっ!!!」

「そうだよ!!やいくんはともかくセナも止めてよっ!!」

「そ、それは、彌一がいつもより激しくって......」

「エルおねぇちゃん〜、みーえーなーいー!」

「ユノ様にはまだ早過ぎます」

    エルに視界を遮られ講義の聲を上げるユノだが、ユノを溺するエルはユノの教育のために絶対に手を退けない。子供には早すぎる。

    すると倒れていた彌一が「う、う〜ん.......」と頭を抑えながらを起こす。

「いててて.......い、いきなり何すんだお前ら......」

『それはこっちのセリフだ!!』

   全員が総出でツッコミをれる。

   結局その後、三十分近く彌一は怒鳴る彩と凜緒、ユノの教育に悪いと怒るエルに正座で反省させられ、“彌一理ぶっ飛び事件”として書類送検された。

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