《「お前ごときが魔王に勝てると思うな」とガチ勢に勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい》011 過ごした時間は、無駄だったわけじゃない

フラムの腕はの渦に飲み込まれ、引き抜けない。

きが取れない彼に、オーガの拳が迫る。

どうあがいても腕が抜けないと言うのなら――取るべき手段は1つしかない。

「セーラちゃんっ、私の腕に回復魔法をかけて!」

「へっ!? でもそんなことしたら――」

「それでいいから、早くっ!」

だって、他人を傷つけるために魔法を習得したわけじゃない、フラムだってそれはわかってる。

だが、これは“私を救うためだから”、と目で必死に訴えかけた。

すると彼は自分の意思を押し殺し、手をかざす。

「リカバー!」

ヒールだけでは腕を消し飛ばすには回復量《・・・》が足りない。

ゆえに、高位の魔法を使う必要があった。

セーラの手から放たれたまばゆいはフラムの腕を包み込み、り込み、そして彼の腕を側から溶かした。

「あ、が……ああぁぁああっ!」

千切れかけた腕を、最後は自らの力で分斷し、から逃れるフラム。

さらに痛みで飛びそうになる意識を歯を食いしばって繋ぎ止め、転がりながらオーガの拳を回避した。

ゴオォッ!

フラムのを掠めたエネルギーは、向かいの壁に衝突し、ぐにゃりと渦を作り出す。

「おねーさんっ!」

「はぁ、はぁ、はあぁっ……っく、セーラちゃん……逃げよう!」

2人は並んで走り出した。

四つん這いのオーガは彼たちの後ろ姿を止まったまま見つめ――追跡を開始する。

さすがに二足歩行の全力疾走よりは遅い。

フラムとセーラは曲がり角を利用しながら、距離を離していく。

そうしている間にフラムの腕は再生し、痛みも消えていた。

「本當に大丈夫っすか?」

「へーき……とは言えないけど、っふぅ……でも、まだ、行けると思う……っ」

痛みをじる度に心がすり減っていく。

だが、削れた心は、エニチーデで待つミルキットのことを想うとすぐに蘇る。

を待たせたまま、死ぬわけにはいかない。

息が切れていたのは、痛みのせいだ。

走っているうちには元の調子を取り戻し、2人は最大速で施設を駆け抜けた。

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懸命に逃走を続けていると、いつの間にか、背後からオーガの姿は消えている。

「撒いたっすか……?」

「うん、たぶん。でもまだ警戒は必要かな」

「そうっすね、今度は至る所から聲が聞こえてくるようになったっす」

助けてくれ、助けてしい、そんな聲が四方八方から響く。

おそらく先ほどのと同じような、死を利用した罠が、施設の至る所に設置されているのだろう。

あのオーガは、能力だけでなく知能まで向上しているらしい。

ひょっとすると、この研究所での本來の目的は、能力向上の方だったのかもしれない。

「でもどうするっすか? このまま逃げるのは難しい気がするっす」

「あいつを倒さないことにはどうにもならないよね」

「おら、の攻撃魔法はあんまり得意じゃないっす。一番ダメージが通るのは、このメイスを使った攻撃っすから……」

「私も、剣が通らないとなると」

「今のおらたちで、どうにかして威力を上げる方法を考えるしか無いっすね。それか施設の何らかの裝置を利用するとか、っすかね」

確かにここまでに施設の実験裝置をいくつか見つけたが、どれも使い方はわからなかった。

もう壊れて、かなくなっているのかもしれない。

だとすると、探るべきは自分自の力を向上させるだろうが――そんな方法が、どこかに転がっているだろうか。

魔法で、ステータスを向上させる魔法が無かったっけ?」

「それも使えないっす、面目ないっす」

頭を下げるセーラ。

まあどのみち、そんなことをした所で強くなるのはセーラだけだ。

「だとすると――」

顎に手を當て、考えこむフラム。

しかし敵は、2人に反撃の手段を考える暇すら與えてくれない。

思案するフラムの耳に、先ほど聞いたばかりの重い足音が聞こえてきた。

音の方角は――前方。

「おねーさん、あいつが來たっす!」

前からにゅっと、不気味なの渦が顔を出しこちらを覗き込む。

そして2人の姿を見つけると、また四つん這いで追跡を開始した。

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「くっ、敵の方が施設の道を把握してるってこと!?」

2人は向きを変え、再び走り出す。

こうやって逃げ続けていてもキリが無い。

なんとか、どうにかしてあのい守りを貫かなければ。

方法は――この場で、すぐさま剣の威力を上げる方法を――

『俺たち冒険者は、時に自分よりも何倍もステータスが上の相手と戦うこともある。そういう時に、守りを砕くための手段というわけだ』

蘇る、旅の記憶。

歴戦の勇士であるガディオが語り、そして無茶だと知りながら、彼から教わったとある剣技。

「騎士剣キャバリエアーツ……」

「なんすか、それ?」

確かに教わりはした、だがステータスが0だったあの時のフラムには全く使うことが出來なかった。

けれど、今なら。

呪いの裝備の効果によってステータスが上昇している今の彼ならば、力をプラーナへと変換し、威力を上乗せするあの技を――使えるかもしれない。

ぶっつけ本番だ、失敗すれば死ぬかもしれない。

けど、どうせ、試さなければ死ぬ。

「あれなら、攻撃が通るかもしれない」

「方法があるんすね?」

「うん……一か八かの賭けだけど」

本當に、功するかなんて未知數だ。

そんな分の悪い賭けに、セーラのようなを付き合わせるのは忍びない。

だが勇敢なる彼は、完全にフラムを信用した表でこう言った。

「準備が必要っすか?」

任せるのか、一時的とはいえあの化の相手を、この小さなに。

「……し時間はしいかな」

それしかない、今は。

どんなにみっともなくても、しでもマシな未來を摑むために。

「だったら――おらがそれまでの時間は稼ぐっす!」

セーラはその場で止まり、メイスを構え振り返って、オーガと向き合った。

その覚悟は、無駄に出來ない。

フラムは彼の背中の後ろで、魂喰いを亜空間より抜き取る。

そして目を閉じ、両手で剣を握り、集中を開始した。

「さあ、かかってくるっす! いっそこのままおらが倒しちまってもいいっすよ!」

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セーラを障害と認識したオーガは、力を纏った拳を振るう。

それを紙一重でかわし、壁まで利用して駆け巡りながら、彼は縦橫無盡に立ち回った。

『基本の考え方は魔法と同じだ。に満ちる魔力を自らの手に摑み、それを力に変える。だが魔力と異なるのは、力を同じような覚で認識するのが困難な點だ』

師の言葉を思い起こし、に宿る力を、自らばした第三の手でつかもうと試みる。

だが――まるでそれは水のように、指の隙間から溢れて落ちてしまう。

『それは魔力以上に流的で、らかで、清らかで。ゆえに、それ以上に澄んだ明鏡止水の心が必要となる』

――意識を、さらに深く集中。

周囲の音が聞こえなくなる。

研ぎ澄ます。

自らの心を、波すら無い、穏やかな、明無、無音の水で満ちた空間そのものとなる。

「っぐ……!」

セーラはオーガの拳をメイスでけ止め、吹き飛ばされる。

壁に激突した彼は、背中に違和を覚え、咄嗟に自らの回復魔法をかけた。

その隙に、さらに敵が追撃をしかけてくる。

飛び退いて避けるが、さらに次が、避けた先にまた次が――その繰り返しで、彼しずつ追い詰められていた。

「おねーさん、まだ……っすよね! 大丈夫、まだまだ行けるっす!」

摑む――流れるそれを、手のひらの上で、留める。

功した。

しかしそこで浮かれてはならない、心を失えばまたそれはこぼれ落ちてしまうから。

次の段階へ移行する。

『一度摑んでしまえばあとは容易い。力を腕に移し、剣に宿す』

確固たるイメージを持たなければ発できない屬魔法と違い、プラーナは、一度摑んでしまえば使うのは簡単だ。

第三の手の上にあるプラーナを、実際のの腕へと満たす。

の中央から、肩へ。

肩から腕、腕から手のひら、手のひらから――明で、純粋で、ゆえに鋭利なその力が、魂喰いに宿った。

『純度の高いプラーナが満ちたのなら、あとは――』

うまくできたかはわからない。

けれど、確かに、力は宿っている。

「おねーさん……っ!」

倒れたセーラの直上より、オーガの必滅の拳が迫る。

は決して助けを求めないが、聲は震えていた。

誰だって怖い、あんな化に殺されかけていたら。

の子なら、まだいなら余計にだ。

心から彼謝して、フラムは全速で橫を通り抜け、オーガの首に向けて力の満ちた刃を振るう。

『自分自の力、全てをもって剣を振るえ』

これぞ、騎士剣キャバリエアーツ――

「せぇああぁああああああああっ!」

――未到・気剣斬プラーナシェーカー・イミテイション。

ブオォッ――ザシュッ!

フラムの振るう剣は、まだ完には至らない、その場しのぎの付け焼き刃だ。

ゆえに未到、ゆえに偽《イミテイション》。

だが、プラーナを宿した魂喰いは、どう足掻いても貫くことの出來なかったオーガの皮を裂き、そしてを斷ち、骨に當たる所まで切斷した。

ブジュルウゥッ!

オーガの顔の渦が回転を早め、大量のがバラまかれる。

痛みに苦しんでいるのか、つまり効いているということだろう。

「通った――なら、あとはおらに任せるっす!」

「セーラちゃん、お願いっ!」

フラムは剣から手を離し、オーガから離れた。

そして今度は、セーラがメイスを振りかぶって高く跳躍し、半端に刺さった剣を、上からぶっ叩く。

ガゴォンッ!

その衝撃によって刃はさらに深く沈み、ついにはオーガの首を切斷するまでに至る。

ずるりと頭部がり落ち、どすんと床に落ちる。

すると顔面の回転は止まり、あのを撒き散らす不快な音は、もう聞こえなくなった。

「は……へへ、さすがにやばかったっすけど……これは、やったっすね……!」

「はぁ、はぁ……頭を落とせば、死ぬと思いたいけど……」

降り立ったセーラが、頭部を失い、かなくなったオーガを見て勝利を確信する。

フラムは不安げに、大量のを流す切り口を観察していた。

死んでいるのならそれでいい。

だが、だったらなぜ、オーガは四つん這いの勢のまま、崩れないのか。

とにかくこいつは、自分の想像を遙かに越えた生きだ。

フラムは警戒を解かない、今の一撃だけでは仕留めきれていない可能を考慮して。

そして案の定――

「セーラ、ちゃん……はぁ、はぁ……逃げよう……」

「な、なんでっすか? 今ので倒して……って」

切り落とした傷口が、新たに渦を巻こうとしている。

「噓っすよね……首が、渦巻いて……っ」

そして、オーガは活を再開する。

普通なら死ぬだろう。

つまり普通ではないのだ、こいつはもはや、生としての常識が通用する相手ではない。

「早くっ!」

再び2人の逃避行が始まる。

角を曲がった所で、後ろからオーガが移する音が聞こえてきた。

今ならまだ、一旦撒ける。

それで呼吸を整え、再び気剣斬を放って――その方法も考えたが、仮にもう一箇所を切り落とした所で、果たしてあれの活が停止するだろうか。

さらに角を曲がり、曲がり、曲がり、追手が來ていない事を確認してから、2人は足を止め、壁を背もたれにして呼吸を整える。

「は……はぁ……お、おかしいっすよ……あれ、首を落としたのに……っ、が、流れてたのにっ……!」

「は、はは……それは、私も同じじゃない……」

「おねーさんは、呪いの力があるから……っすし」

つまり――あのオーガにも、心臓とは別に、何かが“生きる力”を與えているのだろう。

「核みたいなのが……はぁ……の中に、あれば……いいんだけど」

「どっちにしても、っすよ……この狀態じゃ、厳しいっす……はぁ……」

この狀態では、今の自分では。

その問いに対する答えをようやく絞り出した結果が、騎士剣だったのだが。

いや、確かに効果はあった、あるいはフラムが未でなければあのまま勝てていたかもしれない。

だがまだ力不足だ。

必要だ、今以上の力が。

付け焼き刃ではなく、確実に強くなる、その手段が。

「……ねえセーラちゃん。もう一回、賭けてもいい?」

「おらには、何も思いつかないっすから……賭けられる作戦があるだけ、おねーさんを尊敬っす」

「こんなとこでおだてたって何にもならないっての。じゃあ、まず最初の部屋まで戻ろっか」

「あの、おらが見てない場所っすか?」

「うん……見せたくなかったけど、非常時だから、仕方ないって割り切ることにする」

2人は記憶を頼りに、罠を避けつつ最初の部屋へと戻っていく。

頭部を失ったことが響いているのか、オーガの足音は遠くにあるまま近づいてこない。

與えられる時間は多ければ多いほど良い。

無事、敵に見つからないままたどり著くと、フラムはセーラに「できるだけ直視しないようにね」と忠告して、部屋にった。

そこは相変わらず酷い臭いと景で、壁にあった明かりを付けると、その慘狀はより鮮明になった。

「う……こ、これ……全部、死っすか……?」

「ごめんね、こんな場所に連れてきちゃって」

「い、いや……いい、っす。死とか、とか、見るのは……慣れてる、っすから」

教會の人間の仕事は、他者の怪我や病気を治療すること。

を見たことはあるのだろう。

それでも、これだけ積み重なっている景は初めてだろうが。

セーラの顔は悪い、それにオーガがいつここに來るかもわからない。

フラムは山に駆け寄ると、おもむろに死を引きずり出した。

「何をするんすか?」

「死漁り」

「し、死……漁り、っすか?」

「私だって嫌だけど、これだけの死があるなら、強力な呪いがかかった裝備が混ざっててもおかしくないでしょ?」

「まさか、それを使うつもりなんすか!?」

それ以外に、フラムは自分が強くなる方法を思いつかなかった。

呪いの裝備を集め、力を向上させ、さらに強力になった騎士剣を放つ。

そうすれば、トドメを刺すことは葉わないかもしれないが、手足を落すことはできるだろう。

手足さえ無くなれば、もはや追いかけることは出來ないのだ、あとは逃げればいい。

手にこびりつく、や、腐敗した、臓

強引に死かすと、それらが時折顔に飛んでくる。

フラムは顔をしかめ、手首でそれを拭いながら、必死に服や靴、アクセサリーなどを探し、スキャンをかけていく。

そんな彼の隣に、セーラは座り込んだ。

「セーラちゃん、下で待ってて」

「おらも……探すっす」

「でもそれはっ!」

「生き殘るための手段っす、おねーさんだけを頑張らせるわけには、いかないっす」

そう言いながら、目を細め、歯を食いしばって死していく。

「さっきから、セーラちゃんに助けられてばっかだね」

「おらこそ、おねーさんに助けられてばっかりっす」

「生きて帰ったらさ、一緒にご飯でも食べに行こっか」

「それは楽しみっすね、できればおらはミルキットさんの作った料理がいいっす」

「それでいいんだ」

「それがいいんすよ」

葉うかどうかもわからない約束をして、気を紛らわす。

何度スキャンを使っても、思うような呪われた品は見つからない。

いや、それは逆に、1つの裝備に呪いが集中しているという証拠かもしれない。

フラムはそう自分に言い聞かせる。

「……來たっすね」

足音が、遠くから近づいてくる。

ここは施設の一番端だ、付近の通路を通っていると言うことは、間違いなくじきにたどり著く。

もう時間はあまり殘されていない。

2人は、これが最後のつもりで、奧で引っかかっていたの死を協力して引っ張り出す。

腐敗はしているが、につけているものはまだ綺麗な方だ。

上著から順にスキャンをかけていく。

ネックレス、指、インナー、スカート――そして、ブーツ。

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名稱:神を憎悪するレザーブーツ

品質:エピック

[この裝備はあなたの筋力を257減させる]

[この裝備はあなたの魔力を330減させる]

[この裝備はあなたの力を885減させる]

[この裝備はあなたの敏捷を731減させる]

[この裝備はあなたのを氷結させる]

--------------------

その能を見た瞬間、フラムはすぐさま死からブーツをがし、自らの足にそれを通す。

ぐちゅりと、気持ち悪い覚はあったが、力は湧いてきた。

が燃えたらどうしようかと思ったが、そんなことは無いらしい。

マイナス効果がプラスへと変わる――反転の力がそのように作用するのだとしたら、果たして“この裝備はあなたのを氷結させる”、その効果はどういった形で現れるのか。

「おねーさん、見つけたんすね!」

「おかげさまで。まだどんな風に力が発揮されるかはわかんないけど、戦ってみればわかる、か」

現在、フラムのステータス総計、3396。

筋力、敏捷は500をゆうに越え、力に至っては1000を突破している。

れていた心音に余裕が出てくる。

今の自分なら、まだまだプラーナを製することができる。

「ありがとね、セーラちゃん」

「まだお禮を言うには早いっすよ、あいつを倒さないと始まらないっすから」

オーガは部屋の前にまでやってくると、強引に部屋にろうとする。

だがその巨大なでは、首以外の部位は通らない。

まるで別の生きのように首の切り口が中を見回し――2人を発見。

一旦後ろに下がったかと思うと、今度はり口の両端に手をかけ、力づくで広げていく。

そしてオーガが通れるほど橫に広くなったそこから、這いずるように部屋に侵すると、立ち上がって拳を構えた。

2人に向けて、まっすぐに前に突き出す。

ゴオォッ!

の山を削り取る一撃。

フラムとセーラはそれぞれ飛び避け、散開した。

オーガの狙いはもちろんフラムの方だ、だがそのきは先ほどとはまるで別人のように違う。

次のパンチが離れる前にあっという間に接近すると、すれ違いざまに魂喰いで斬りつける。

緑のに、薄っすらと赤い線が浮かび上がる。

筋力増加の影響か、刃が全く通らないと言うことは無くなったようだ。

さらにフラムはオーガの背後に回ると、今度はに新たに流れてくる力を意識して、背中に斬りつける。

同じくうっすらと刻まれる傷、そして――パキッ、と傷口周辺が凍りついた。

ぶじゅっ、ブジュルゥッ!

傷が凍りつくという慣れない覚に、首からが吹き出す。

首なしオーガはすぐさま振り向き、ラリアートするようにフラムに腕をぶつけたが、すでにそこに彼は居ない。

足の間から抜けまた背後を取り、「ふうぅ」と息を吐く。

そして今度は飛び上がり、まっすぐに剣を振り下した。

その刃に、プラーナを宿して。

未到・気剣斬プラーナシェーカー・イミテイション。

先ほどより威力を増した剣は、一刀にてオーガの太い腕を両斷した。

敵は悶え苦しむようなきを見せたが、すぐさま傷口が渦に変わりが止まる。

八つ當たりするように、また振り返って拳を振り下ろす。

フラムは後ろに大きく飛び退いて、それを悠々と避けた。

大ぶりの毆打で隙が出來た所に、今度は背後からセーラが接近。

「てりゃあっ!」

掛け聲と共に、メイスで凍った背中を毆りつけた。

バギィッ!

氷が割れ、オーガの皮も一緒に砕けていく。

この一撃はかなりダメージが大きかったのか、前のめりにバランスを崩す緑の巨

さらに足を氷結させるフラムの斬撃、追撃でプラーナを宿らせもう片足を切斷。

氷結した部分にはセーラが毆打を加え、氷を割ると同時に大きな傷を負う。

先ほどまでの優勢はどこへやら、オーガはみるみるうちに追い詰められ、そして――

「はああぁぁぁぁああああっ!」

ついにはフラムの未到・気剣斬プラーナシェーカー・イミテイションにより、最後に殘っていた左腕まで切り取られてしまった。

両手足を失ったオーガの傷口は、例によってすぐさま渦となり塞がったが、もはやきは取れまい。

「まだ生きてるっすよね……」

「トドメを刺しておきたい所だけど、どこを潰せばいいんだかわかんないし、このまま逃げた方がいいのかもね」

「そうっすね、何回繰り返すんすかって話っすし。さすがに疲れたっすよ」

セーラが久々に笑顔を浮かべたが、その表には力が無い。

フラムも似たようなもので、神的、的にも疲弊しきった2人は、背後で蠢く塊に一抹の不安を抱きながらも部屋を出ようとする。

しかしフラムは、ふと、その直前で足を止めた。

「……おねーさん」

「やっぱ、セーラちゃんもそう思う?」

「はい、部屋の空気が……いてるっす、よね。まだ、やる気っすか……?」

それも全が、である。

回転が――これまでで最大規模のものが、この部屋で、あるいは施設全を巻き込んで起きようとしている。

いわゆる、最後の力を振り絞って――というやつだろうか。

なりふり構わず、何もかもを巻き込んでまで、オーガは……いや、何者かの意思は、フラムを殺そうとしているのである。

回転は加速する。

この発が完了すれば、側に存在するありとあらゆる命は生存できないだろう。

フラムは一旦仕舞った魂喰いを、セーラは背負ったメイスを再び両手に握り、橫たわる両手足、そして頭部を失ったオーガに向かう。

するときのとれないはずのそれはふわりと浮かび上がり、計5箇所の渦が激しく回転し、をぶちまけた。

「てやぁぁぁあああっ!」

「おりゃあっす!」

2人は渾の一撃を、がむしゃらにそのに叩きつけた。

攻撃の通らないセーラは渦に向かって毆りつけるも、衝撃を吸収してまともにダメージを與えられない。

諦め、フラムの凍らせた傷口を叩くことに専念する。

一方でフラムは氷結と、プラーナとを互に織りぜ斬りつけ、どんどんオーガのれの果てを削ぎ落としていった。

それでもまだ、回転は止まらない。

次第に死や部屋に転がっていた備品が巻き込まれ始め、風がどす黒く濁っていく。

「どこまで斬れば……どこまでやれば止まるんだっての!」

「わかんないっすよ、もおぉおおっ!」

ズザザザザザザッ!

巻き起こる風は、さらに金屬で出來た壁まで破壊し、剝ぎ取る。

部屋も廊下も施設の中は全て滅茶苦茶になり、中に居る2人も次第にバランスを取るのが難しくなってきた。

傷口が広がるたび、そこが渦となって攻撃をけ付けなくなる。

オーガのはもう心臓を含め殆どの臓が喪失し、あとは腹部を殘すのみとなったが――それでも回転は止まらない。

「もうただのねじれたの塊じゃないっすか! いい加減に止まるっすぅ!」

「っく……止まれ、止まれっ、止まれえぇぇぇぇっ!」

斬りつけても、渦には刃が通らない。

フラムはプラーナを通し、今度は先端を突き刺す。

微かに、何かを突き破る覚があった。

――これなら行けるかもしれない。

そう確信したフラムは、さらに両手に力を込めて魂喰いを押し込んでいく。

「くうぅぅ……っ! あぅっ!?」

セーラが足をらせ、崩れ落ちる。

「お、おねーさん……が、頑張るっす! おらは……もうっ……」

「セーラちゃんっ!」

踏ん張れなくなった彼は、吹き荒れる嵐に流され、吹き飛ばされようとしていた。

あんな瓦礫や死が舞い上がる場所に巻き込まれれば、セーラはひとたまりもなく死ぬ。

何とか床のくぼみに指を引っ掛けて耐えているが、それも時間の問題だ。

浮かんだ汗で、じわじわと、指がっていく。

フラムは焦燥に背中を押され、さらにがむしゃらにんだ。

「ふぐうぅぅぅぅっ、う、ぁぁあああああっ!」

ありったけの力を込める。

プラーナも可能な限り注ぎ込んだし、呪いの力だって全てが枯れるほど出し切った。

だが、まだ足りない。

確かに刃はしずつ進んではいるが、これではセーラも、そして自分も助からない。

「ぁぁぁあああああああああ!」

生き殘るために、ありったけを。

力をひねり出せ。

無いなら出そうな理由を考えろ。

ほら、居るだろう大事な人が、帰りを待ってる人が。

そう、ミルキットが待ってる。

ああ、そうだ、あの子が待ってるんだ。

1人にしたら、だめだ。

それが例え共依存と呼ばれる関係だとしても、一緒に救われると決めたのだから。

死ぬわけには行かない。

が悲しむ。

死ぬわけには行かない。

の人生が救えなくなる。

だったら――脳裏に浮かぶ彼の姿を想い――ありったけを――何もかもを・・・・・、この剣に込めなければ。

「うわあぁぁぁぁあああああああああああっ!」

がねじ切れるほどの絶

の丈を超えたプラーナの行使に腕が裂け、が流れる。

傷が再生してもすぐさま新たな傷が生まれ、フラムには耐えず刃で突き刺されるような痛みを味わっていた。

――それでも。

が込めた諦めない力は、反逆の心は、天の悪意をも圧倒する。

ザシュゥッ――バキィンッ!

を貫通し、側にある、い何かが割れた。

その瞬間、施設全を覆っていた力は消え失せ、浮き上がっていた瓦礫や死が一斉に地面に落ちる。

「は……ぁ……あぁ……」

全力を使い果たしたフラムは、その場で膝から崩れ落ち、腕をだらんと垂らし、放心狀態で虛空を見上げた。

「あ……今度、こそ……倒し、た?」

もう、すらどこにも殘っていない。

渦巻くはなにもない。

ただ、床には割れた黒い水晶が落ちているだけだ。

それの正はわからないが、今はそんなことは後回し。

とにかく今は――を休めたい。

「や、やったっす……おねーさん、やっと倒したんすよ……!」

「はは……あぁ……そっかぁ……倒したんだ……あはは……はは……やるじゃん、私……」

自分を褒めてやらないとやっていられない。

倦怠に耐えられなくなり、フラムはその場で背中から崩れ落ちる。

セーラも力を失い突っ伏した。

冷たくい床のさえ、今の2人には心地よくじられた。

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