《「お前ごときが魔王に勝てると思うな」とガチ勢に勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい》036 噛み合わない歯車

誰だって漠然とした不安を抱いて生きている。

その大きさに差異はあれど、人は単純に幸福を謳歌できるほど、脳天気になれる生きではない。

むしろ、幸せになればなるほどに、それを喪失する恐怖と戦わねばならないのだ。

手にれなければよかった、そう悔いても、もう遅い。

隣に座るクローディアが、エターナの頭をに抱きしめた。

あの頃に比べるとずいぶんと老いてやせ細っているが、深い部分では何も変わっていない。

心が安らぐ、脳が溶けるようだ。

思考を放棄すると、どこまでも沈んでいけそうな気がした。

そうやって甘えていると、キンダーが「いつまでもエターナは子供だな」と嬉しそうに言った。

の子供時代に、明確な終わりはなかった。

ある日、突然に外の世界に投げ出されて、一人で生きていくことを強いられてしまったから。

だからこそ、いともたやすく回帰する。

この年になって親に甘える恥ずかしさもなく、あっさりと子供の頃の自分に戻っていく。

フラムたちに黙って會を繰り返す後ろめたさも、再會できた喜びにかき消された。

そこは王都の、とあるホテルの一室。

教會が借りているその部屋で、エターナとキンダー、クローディアの二人は失われた親子の時間を取り戻していた。

しかし今日はし趣が違う。

三人と向かい合って、白の男が座っていたからだ。

さらには、一歳ほどの小さなの子を抱えている。

親の死を乗り越えて人は強くなると言います。ですが、死なないのなら、それに越したことはない。僕はそう思うんです」

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彼は言った。

銀縁の眼鏡をかけた、短髪の、ひ弱そうな、三十過ぎの男――ダフィズ・シャルマス、ネクロマンシーの研究リーダーである。

母ののぬくもりに溺れながら、エターナはぼんやりと彼の言葉を聞く。

「彼を見てください」

ダフィズは、隣に座る、自よりも若いをエターナに紹介する。

「スージィは、僕の馴染で、しお恥ずかしい話なんですが……期から、結婚を誓いあった仲でした」

「そこから話す必要があるのか?」

顔を赤くしてツッコミをれるスージィ。

口調は男勝りで、格もダフィズよりも大きい。

「ま、まあ……念のためだよ」

彼は恥ずかしそうにしていたが、それでものろけたい求を抑えきれないのか、頭を掻きながら話を続ける。

「それは互いが長してからも変わらず、仕事について一人前になったら必ず――と、當時の僕たちは、明るい未來を確信していたんです。しかし、結婚を目前に控えた時、その事件は起きました」

ダフィズの表から笑顔が消える。

當時の記憶は、今でも鮮明に忘れられることなく、脳に刻み込まれていた。

「スージィはAランクの冒険者だったんです。そんな彼に嫉妬した他の冒険者が罠にはめて、暴した挙句に、殺しました。町に戻ってきた彼の死は、それはもう酷い有様で……僕はその場で崩れ落ちて、死にしがみつきながら三日三晩泣き続けました」

途中で腐敗が始まり、異臭が周囲を包んだが、それでも彼は離れようとはしなかった。

その臭いすら、スージィのから発せられたものだと思うと、おしく思えるほど、當時の彼は病んでいた。

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「それから僕は、絶のどん底で、スージィの死とともに死んだような生活を送りました。そんな僕に希を與えてくれたのが、オリジン教だったんです。すがるものを失った僕はずるずると宗教にのめり込んでいき、そして気づけば、オリジンコアの研究に攜わるようになっていました」

元々、冒険者として才能を開花させていくスージィに置いていかれないよう、勉學に勵んでいたのだ。

その努力が、彼の死後に報われたのである。

「そこで研究をしていくうちに、僕は気づきました。この力があれば、死者を蘇らせることができるのではないか、と。そして論文を書き上げ、樞機卿に提出すると――なんと、今後の教會を擔う、チルドレンやキマイラと並ぶ大規模プロジェクトの一つとして採用されたんです。そうして生まれたのが、僕らのチーム、ネクロマンシー」

チーム立ち上げから現在に至るまで、様々な苦難があった。

しかし彼らは十年を超える研究の後に、ようやくゴールと呼べる場所のすぐ近くにまで到達したのである。

「目指すものは、死者の完全なる蘇生。オリジンの影響をけ異形と化すのではなく、元の人間としての人格や命を取り戻すための研究。オリジン教にのめりこんだ僕がこんなことを言うのは変な話ですが、神様や教會の都合なんて、本當にどうでもよかった。僕はただ単純に、スージィを蘇らせたいだけだったんですよ」

そのために、死者を蘇らせるだけではなく、腐敗したを再生させる手段を編み出す必要もあった。

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この研究は、あくまで私

スージィの蘇生にこだわるあまり、必要以上に完まで時間がかかってしまったことは、研究員たちに対して申し訳ないと思っている。

だが、隣に座るスージィ――そして彼の膝の上に座る二人の娘・・・・、ルコ―の笑顔を見ていると、“やってよかった”と、心の底から思うのだ。

「クローディア氏とキンダー氏の蘇生は、我々の研究の完に必要だったからです。蘇生しても、その人格がオリジンに乗っ取られてしまっては意味がない。その抑制のために、人実験に関わったことのあるお二人の知識が必要になった。ですから、決して離反した英雄を貶める意図はないと、ここに明言させてもらいます」

「……なら、どうしてガディオの奧さんまで蘇らせたの?」

エターナはぽやっとした口調で問う。

ティアとの間に面識はなかったが、すでにダフィズから彼を蘇生したという話は聞いていた。

ガディオを篭絡する意図が無いというのなら、彼は一何のためにティアにオリジンコアを埋め込んだのか。

「元々、ティアさんのはキマイラの研究所に保存されていました。殺害後に、エキドナが回収していたようです。Sランク冒険者ですから、いつか素材・・に使おうと思っていたんでしょう。ですが、僕はあるときたまたま、ガディオさんの過去を知ってしまいました。それを聞いて、どうにも他人事だと思えなかったんです」

ダフィズという男は、とても不思議な人間だった。

教會の人間だということも、ネクロマンシーの関係者であることも包み隠さず、エターナの前に堂々と姿を現した。

ステータスも平々凡々としており、オリジンコアを取り込んだ形跡もなく、的には本當にただの一般人なのだ。

しかも、こちらの問いかけに、ほぼ全て答えてくれる。

噓をついているようにも見えない。

いや、そもそも――教會で人実験に関わっているとは思えないほど、気弱で、お人好しな面構えをしているのだ。

そして妻や子供と戯れる姿は、幸せな家庭を築いた父親そのもの。

それゆえに、エターナは彼に、敵意を抱くことができなかった・・・・・・。

「妻を失う苦しさは、僕も味わってきましたから」

その喪失を思い出し、暗い表を浮かべるダフィズ。

するとスージィは黙って、彼の手を握った。

それを見て、ルコ―が“自分も混ぜて”と言わんばかりに手をばす。

「今回の提案・・・・・は、あくまで提案でしかありません。もしエターナさんがそれをまなかったとしても、いずれ完全にオリジンの影響を斷ち切れた暁には、キンダー氏とクローディア氏を完全に自由にすることを約束します」

「何のために? そんなことをしても、メリットなど何も無いはず」

エターナの言葉に、

「僕の研究で誰かが幸せになるのなら、それ以上にむことなんてありませんよ」

ダフィズは、そう笑顔で言い切った。

◇◇◇

エターナはホテルを出ると、徒歩で家に戻っていく。

沈んだ、紺に染まる空。

今日はインクがようやく部屋から出られるようになった記念に、いつもより豪華な料理を作るらしい。

だというのに、手伝いもせずに、こんな場所を歩いている自分――エターナは自己嫌悪する。

「誰かに頼られるほど、立派な大人にはなれてなかった」

どんなに偉そうなことを言っても、大人っぽく振る舞っても、中が伴わなければ意味がない。

今まさに、エターナは、フラムたちを裏切って自分のに溺れている。

しかし……やめられないのだ、どうしても。

魔王討伐の旅に出る前、エターナはキンダーとクローディアの居場所を探した。

そしてたどり著いた場所は、名前が刻まれただけの墓石の前だった。

は崩れ落ち、涙を流す。

ああ、もう會えないのか――その実が湧いてきて、五十年前に置き去りにしてきた喪失が、一気に彼を包み込んだのだ。

本當はずっと會いたかった。

會って、抱きしめてもらって、たくさんお話をして、ただそれだけの時間を、しでも過ごすことができればいいと思っていた。

それは、彼にとって、こぼれ落ちた夢だったのである。

ありふれた正義のために、夢を捨てることなどできない。

気づけば、もう家の前だ。

エターナはその場に立ち止まり、ぼそりとつぶやく。

「……ごめん、みんな」

それは現在行っている裏切りに対する言葉なのか、あるいは未來の――

玄関を開き、「ただいま」と告げた彼を真っ先に迎えたのは、インクだった。

はエターナの聲が聞こえた瞬間に立ち上がり、「おかえりっ」と無邪気な笑顔を向ける。

心が痛んだ。

握りつぶされ、死んでしまうほどの苦痛だった。

「もうごはんの準備はできてるんだって、早く食べよ? あたしおなか空いちゃった」

エターナが黙って出かけるようになってから、四日が過ぎた。

インクは何も聞いてこない。

フラムとミルキットも、初日以降は詮索しなくなった。

みな、エターナを信じているからだ。

吐き気がして――いや、いっそ反吐を吐いて苦しみたい。

だが、いくら頭のなかで自分を責めたところで、そんなものは免罪符にすらならない。

しでも悪いと思うのなら、話すべきだ、明かすべきだ。

「いい匂いがする、私もお腹が空いてきた」

しかし、彼は何も言わない。

家に上がると、インクの橫を通り過ぎて、フラムとミルキットの待つ居間にる。

「ねえ、エターナ」

そのすれ違う瞬間、インクは彼の名前を呼んだ。

エターナは足を止め、振り向く。

「どうした?」

「……あ、いや……ううん、なんでもない」

はそう誤魔化した。

何も聞かなかったとしても、信じていたとしても、気づいていないわけじゃない。

特に、視覚が失われた影響か、聴覚の発達している彼は、エターナの聲に滲むの揺れにも気づいているはずだ。

それを、れてはいけないと、あえて見て見ぬふりをしてくれている。

健気な善意。

エターナは今日も、それを踏みにじる。

無論、そんな彼に、ミルキットが気合をれて作った料理の味などわかるはずもなかった。

◇◇◇

エターナが忽然と、誰にも話さずに姿を消したのは、その翌々日の朝のことである。

殘されていたのは、一番最初に起きたミルキットが見つけた、テーブルの上にあった書き置きだけ。

『二、三日で戻る』

そう簡潔に記されたメモ程度で、フラムが納得するわけもない。

は家を飛び出し、ガディオの屋敷に向かった。

一緒に旅をしていた彼なら、何か知っているかもしれない、そう思ったからだ。

しかしガディオもまた、エターナと同じように家を出ており――殘されたのは、メモよりかはいくらか丁寧な、一通の手紙だけだったという。

「死んだはずの奧さんのところに行っちまったよ」

ケレイナのそんな返事を聞いて、フラムは一瞬どきりとした。

まるで死んだかのような言い方だったからだ。

しかし彼は続けて、力なく笑いながら言った。

「あたしにも事はわかんないよ。ただ、死んだはずのティアが蘇って、いきなりここを訪ねてきたんだ。あいつは今、ティアが住んでるっていう施設にいるらしいけど……どこにあるんだかねぇ」

「死んだ人間が、蘇る……もしかして」

「心當たりがあるのかい? でも、そっとしておいてやった方がいいんじゃないかな」

「どうしてそう思うんですか」

「あれは確かにティアだった。ずっと一緒に過ごしてきたあたしやガディオが斷言するんだ、間違いない。あいつはさ、六年前からずっとティアのことを想い続け、そして自分自を責め続けてきた。それがやっと報われたんだ、部外者が口を出すことじゃない」

ガディオとて、ティアの蘇生が教會やオリジンに関わっていることぐらい気づいているはず。

エターナだってそうだ、気づいているのに、親しい人に自分の口で伝えなかった。

それは――罪悪の表れではないだろうか。

「私は、違うと思います。手放しで喜べるなら、堂々としたらいいんです。二人とも、どこかで後ろめたさや不安を抱いているから、手紙なんかで誤魔化そうとしたんじゃないですか?」

「仮にそうだったとして、あたしにはどうしようもないよ。ガディオからティアを奪うような真似はできやしない。あの二人の仲の良さを、一番近くで見てきたんだから」

ケレイナには、自信もその気もさらさらないようだ。

元から今は一般人である彼を巻き込むつもりはない。

軽く別れの挨拶をわし、フラムはガディオの屋敷を離れ、東區の町並みを歩く。

早朝からガディオやエターナが歩いていれば、否が応でも目立つはずだ。

地道に聞き込みでもして報を集めるか――

「エターナさんとガディオさんが自発的に姿を消した。その原因が同一だと仮定すると、エターナさんも親しい相手が蘇ってたのかな。だから、私たちに話さずに出かけるようになった……」

――いや、その前に、インクが聞いたという、おじいさんとおばあさんの話し聲が気になる。

エターナの様子がおかしくなったのは、あの出來事以降だったはず、つまりその二人こそが教會の手によって蘇った、彼の関係者。

まずはその人が誰なのか、特定するところからだ。

フラムは真っ直ぐに家に戻り、まずはインクから話を聞くことにした。

は自宅の居間でミルキットとともに椅子に座り、不安げな表で黙り込んでいた。

帰ってきたフラムの姿と足音に、二人の表が明るくなる。

「おかえりなさい、ご主人様」

「おかえりっ、どうだった?」

ミルキットとインクの顔を見ると、フラムの心も軽くなる。

しかし収穫はないどころか、狀況はさらに悪化しているのだ、ホッとしている場合ではない。

「ガディオさんもいなくなってた」

「そ、そんなっ! エターナさんと同時にいなくなるなんて……」

「もちろんこれから探すつもりだけど。ねえインク、エターナさんから、昔の友達とか、家族とか……そういう人の話を聞いたことはない?」

「なんで?」

インクが首を傾げると、黒のポニーテールがふわりと揺れる。

元々螺旋の子供たちスパイラル・チルドレンの一員だった彼に、隠す必要はあるまい。

「今回の一件、どうも教會のネクロマンシーってやつらが関わってるらしくてさ。その研究が、死んだ人間を蘇らせるものなんだって」

「つまり、エターナさんは死んだ誰かについていって、姿を消したということですか?」

「その可能が高いかな、ガディオさんの方も死んだ奧さんが急に現れたって話みたいだから」

そしてサティルスもまた、何らかの目的で教會に蘇らせられたのだろう。

ダボダボのシャツを著たインクは、床についていない足を揺らしながら言った。

「エターナは、何十年も前にこの家に住んでたことがあったんだって」

「何十……? あ、あれ、エターナさんって何歳、なんですか?」

「あの人が年齢不詳なのは今に始まった話じゃないから、あんまり気にしない方がいいと思う。それにしても、エターナさんがここに住んでたなんて。じゃあ、意味もなく不法侵してたわけじゃなかったんだ」

「不法侵は不法侵だと思いますが」

「そのあたりはさておき、そこであたしみたいに人実験をけてたエターナは、親代わりの男二人組に育てられてたらしいよ」

エターナが人実験の被験者だったことを知らされ、さすがに二人は驚いた。

そしてフラムは推察する、彼の年を取らないは、その結果なのかもしれない、と。

あるいは人間にしては膨大な魔力の量も、その影響である可能がある。

「で、フラムたちと魔王討伐の旅にでる前に、王都近くの村で墓參りをしたって言ってた。夢に見るぐらい大事な人だったみたいだから、もし本當に生き返ってたらついていっちゃうかもね」

インクは興味なさげに言ったが、その表には寂しさが浮かんでいる。

この家に來てから、大半の時間をエターナとともに過ごしてきた。

なからず、彼には心をひらいていたはずだ。

そんな相手に何も言わず姿を消すなど、大人のすることではない。

「そういえばし前に、リーチさんがこの家の前の持ち主に會ったって言ってたな……」

「それが、死んだはずのエターナさんのご両親ということですか?」

「タイミングからしてその可能が高いと思う。インク、報提供ありがとね。とりあえず私はリーチさんとこに行って、話を聞いてみようと思う。ミルキットもインクも、今は守る人がいないから、戸締まりをしっかりして、家から絶対に出ないようにね」

フラムがそう忠告すると、二人は素直に首を縦に振った。

満足気に微笑んだ彼は、家を出て、再び東區へと向かう――

◇◇◇

通りを真っ直ぐ進めばそのまま東區にたどり著くが、地元の人間しか知らない近道を使えば時間が短できる。

いつもは治安の悪いその道はあまり使わないのだが、一秒一刻でも時間の惜しいフラムは、珍しくその路地を利用していた。

午前中にもかかわらず、日も當たらず、影で覆われた、ひと気のない一本道。

そこを歩いていたフラムは、ふと足を止めた。

そしてその場でごと振り返り、魂悔いを抜き、誰もいない虛空に向かって剣を振る。

フォンッ!

一見して無意味に見えるその行、しかしその漆黒の刃は、突如その場に現れた青髪の年の首にぴたりと當てられていた。

「あっは! 最初に見たときとは比べにならない反応だねッ!」

ネクトは顔一面を覆ったの螺旋を歪ませながら言うと、その場から姿を消した。

ゾクッ――背後に寒気をじたフラム。

しかしすでに、ネクトの冷たい手のひらは、彼の首に當てられている。

「繋がっちゃえコネクション!」

「反転してリヴァーサルッ!」

バヂィッ!

咄嗟に発した反転魔法がネクトの“接続コネクション”を弾く。

ごと吹き飛ばされた彼は、の滲む右手を見て、人間の顔に戻ってにたりと笑った。

フラムは彼を睨みつけ、切っ先を首に突きつける。

「なるほど、確かにこれはめるわけだ。最初は“脅威ではない”という意見が多數を占めていた。けれど今は違う、勇者と同じさ、彼らは転生を恐れてる、だから――」

「無駄話はいいから、何の用事かだけ言ってよ」

「殺さないんだ?」

「殺せる気がしないだけ」

ガディオですら殺しきれなかった年を、フラム程度の実力で圧倒できるはずがない。

ネクトのその余裕たっぷりの表は、決して演技などではないのだ。

その上で、フラムを殺さない程度に仕掛けてきた――間違いなく、遊ばれたのだろう。

「そういうものわかりの良さも、お姉さんが長した証拠だよ。いやあ、厄介だ、これは結論が出るまでにまだまだ時間がかかりそうだ」

「無駄話はいいって言ったはずだけど」

「はぁ……せっかちだなあ。誰かさんが前の拠點を臺無しにしたせいで、こっちは引っ越しで大忙しだったんだからね? これぐらいの戯れは許してしいよ。わかった、じゃあお姉さんのリクエストに応えて、単刀直に言うね」

スキンシップを諦めたネクトが、ふいに真剣な表になる。

そして、冷たい聲で告げた。

「ネクロマンシーを潰してくれないかな」

チルドレンとネクロマンシーは、同じ教會のプロジェクトだったはず。

だというのに、この年は、それを潰してくれと言う。

「……どういうこと?」

全く意図が読めない。

彼らの思考は常人のそれとは違う、予測しようにもてんで見當がつかない。

柄を握る手のひらに汗が滲む。

フラムは目を細めて、ネクトを睨みつけた。

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