《「お前ごときが魔王に勝てると思うな」とガチ勢に勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい》040 限界を超える、その理由を

引きちぎられる腕。

霞む視界。

飛び散る

流し込まれる螺旋の力にかなくなっていく

しかし、目の前のオリジンの寫しどもを屠るには、右腕一本あれば十分だ。

「――――ッ!」

元まで潰され聲は出なかったが、フラムの気迫がピリピリと周囲の空気を揺らす。

ゴオォオオッ!

無音の咆哮と共に、片手でツヴァイハンダーを振り回した。

剣そのものの殺傷力、上乗せされたプラーナ、加えて生じた衝撃波。

全ての威力が積みに積み重ねられ、死者の上半が吹き飛び舞い散る。

「……はあぁっ」

ようやくが再生し、痛みが和らぎだすと、フラムは大きく息を吐いた。

部屋から出たばかりでこの有様だというのだから、先が思いやられる。

勢い良く出てきたのはいいが、さてここからどうしたものか。

フラムの目的は、この研究施設を潰すというよりは、ネクロマンシーというプロジェクト自を潰すことだ。

やはりオリジンなど信用すべきでない。

教會の力を削ぐことも兼ねて、どうにかしてダフィズを説得して、研究を諦めさせる。

あるいは――最終手段として、彼を殺すか。

ああ、しかしそれは、自分の都合のために決して悪人とはいえない人間を殺すことは、人として大切な何かを失ってしまう気がする。

それに、ダフィズさえ生存していれば、チルドレンやキマイラ、さらには教會上層部の報だって手にれられるはずだ。

やはり今必要なのは、彼が頭を冷やす時間だ。

ミルキットは人質に取られているし、今だってフラムは心配で心配で仕方ないが、おそらく彼は、人殺しにはなれない。

でなければ、死者を蘇らせるという優しい目的のために、オリジンの力を使おうだなんて発想しないはずだ。

彼は他者の命を尊ぶことができる、心の暖かい大人である。

だからこそ――自分の家族との暮らしを諦めさせるのは、難しい。

彼が頭を冷やすまでの間に、フラムも説得する方法を考えなければならない。

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一息ついている間に、敵が再び迫っている。

フラムは彼らを睨みつけると、今一度、大振りでそのを吹き飛ばし、道を切り開く。

施設にはさほど多くの人間は暮らしていなかったはず。

つまりここに集まった大勢は、教會の外――村から流してきた者たちだ。

ガディオとエターナ、インクが心配だが、今は他の誰かの心配をしている場合ではない。

先ほどの一撃で広がった隙間を疾走、ばされる腕と腕の間をくぐり抜けながら前へ、前へ。

そのまま進むと、丁字路に突き當たる。

左右を確認、右がり口の方向だ。

フラムは迷わず左折し、施設のさらに奧へと向かった。

逃げることが目的ではない、まずは時間をかせぐこと。

は前方に小さな影を二つ確認する。

死者――いや、赤子か。

どちらもハイハイをしながら近づいてくる、まだ自らの力で立つことはできないほどい子供……それを模した、の塊である。

だとしても、気分が悪い相手であることに変わりはない。

死者たちだってそうだ。

フラムは一見して容赦なく彼らをなぎ倒しているように思うが、それでも心はすり減っている。

どんなにオリジンにられているだけのだとしても、手に殘るは人間を切った時と同じなのだから。

それに、デインの部下たちと違って、元々のの持ち主はフラムの敵ではない。

罪のない人間を殺傷する――それを意識するだけで、頭がどうにかなってしまいそうだった。

だが、やらなければ死ぬのは自分の方。

そう何度も答えを出してきたはず。

鋭い目つきで、近づくにつれ、ゴギッ、と凄慘な音をたてながら歪んでいく子供を見據える。

よく見ると、彼らが接している床が、ぐにゃりと歪んでいるのが見えた。

ルコーのときもそうだったのかもしれない。

あれらもまた、死者たちと同じように対象を歪ませる力をもっており、悪意を持ってフラムに差し向けられたものなのだ――

「ふっ――!」

振り上げられた剣――それを勢い良く地面に叩き付け、プラーナをぜさせる。

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ゴオォオッ!

気剣嵐プラーナストームが炸裂し、暴風に巻き込まれた赤子たちは々になって吹き飛んだ。

獨特の臭気が廊下に満ち、の一部が床や壁に張り付く。

しかし片は、まだ生きているようにぐちゅりと捻じれ、そしてき続けていた。

向かう方向は一定。

來た道を引き返すように――不気味に蠢くそれらを見ていたフラムが前を向くと、二人のが立っていた。

「赤子……の人……もしかして、あの二人が母親?」

片は、母親の元に戻ろうとしているのかもしれない。

戻ればどうなるのだろう。

ルコーの死は放置してきたが、あの捻じれ蠢くがどうなったのか、その後をフラムは知らない。

ただ一つだけはっきりしていることは――戻ったって、ろくなことにならないということだけ。

なぜなら、オリジンは愚弄・・する。

あるときは眼球よくぼうを増させ人を殺した。

そして今は、せいめいを模倣して心を弄んでいる。

“貴様の願いを葉えてやろう”と神気取りで上から目線で見下しながら力を與える。

その末に待つものが破滅だと知った上で、剎那の幸福にを任せる人間を見て嘲笑っているに違いない。

だから――これはあの世で悲しんでいる魂の救済だ、そう自分に言い聞かせて――二人の母親を、斬り伏せる。

フラムはその場で立ち止まり、後ろを振り向いた。

先ほどまで壁にへばりつきながら細していた片は床に落ち、ぴくりともかなくなっている。

母親ほんたいが活を停止した影響だろうか。

「命がつながってる……いや、の一部だったってことかな。子供なんかじゃなくて、ただ分離しただけの、の塊だった……」

オリジンなりに、人に発生する妊娠という現象イベントを再現しようとしたのだろう。

子宮に細胞を異常増させ、生したの塊を、母親と父親の報を解析し、特長として継承させ、人の形を作り出す。

そして、産み落とすのだ。

すなわち――それは子供などではなく、一種の腫瘍サルコーマなのである。

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父親が死者で、母親が生者の場合も、父親が吐き出すに似たような機能をもたせると考えられる。

結局、産まれてくるのは人ではない。

新たな生命を作り出すためには、両親ともに正常な魂を宿している必要があるのだから。

思わず立ち止まり考えこむフラムだったが、新手の足音が聞こえてくる。

舌打ちをすると、死を越えてさらに奧へと進んだ。

そして研究所の最奧にある、いかにも怪しげなドアの前にたどり著く。

そこには鍵がかけられており、さらにはドアノブに無數の鎖が巻かれていた。

フラムは迷わず魂喰いで鎖を斷ち、ドアをぶち抜き、その向こう側――地下へと続く暗い階段を下っていった。

◇◇◇

カラン――ダフィズの手からナイフがこぼれ落ちる。

それは、部屋の外から戦闘の音が聞こえなくなった直後のことだった。

つまりフラムが離れていったため、人質を取る必要もなくなったということである。

そして彼はミルキットを解放すると、ふらふらとよろめき、デスクに片手を付いて頭を抱える。

自分の行いを、強く後悔するように。

ミルキットはそんな彼を、包帯の隙間から見える瞳で、彼にしては珍しく強く睨みつけた。

「ご主人様が死ねばそれで今の狀況が解決すると思っているんですか?」

本當は、フラムを追って外に出ていきたいぐらいだった。

しかしミルキットとて無駄死にはむところではない、求を抑え込み、ダフィズを糾弾する。

「……思っちゃいませんよ、僕だって。その場しのぎにすぎないってことぐらい、理解しています」

「だったらどうしてご主人様を追い出したりしたんです?」

「僕は、この研究に十年以上の月日を捧げてきたんですよ!? そして大切な人を取り戻した、家族だってできた! ここで諦めるということはっ、僕はここでその全てを――妻も、子供も、人生も、全てを失うということなんです! そんなの……そんなの、間違っているからって、“はいそうですか”とれられるわけがないじゃないですか……!」

それが例えまやかしだったとしても。

スージィが蘇り、人として過ごした時間。

妊娠を喜んで、立派な父親になれるよう勉強や準備に追われた時間。

そして、ルコーが産まれて家族として過ごした時間――それら全ては、ダフィズが実際に経験してきたものなのである。

「ルコーさんは……いえ、あれ・・は子供なんかじゃありません。正真正銘の化でした」

「あの子と會ったんですか?」

「はい。部屋を出た私たちに近づいてきたかと思うと、がぐちゃぐちゃに曲がりはじめたんです。最後はもう、人間の姿すらしていませんでした」

ダフィズは歯を噛み締め、機に置いた手を握りしめる。

「ずっと……予はあったんですよ。本當にこれでいいのか、うまく行きすぎじゃないか、いつか突然壊れるんじゃないか、って」

「じゃあ、どうして今日まで止めなかったんですか?」

「さっき言った通りですよ。ぶら下げられた餌が、あまりに魅力的だった。拒むことなんてできなかった。だから僕は、自分に問題はない、完璧だ、と言い聞かせて今日まで來ました。必要以上に自分に自信を持たないと、都合の悪いイメージが視界にりそうになってしまいますから」

それで、今までは問題なかった。

なくともフラムがやってくるまでは。

「ダフィズさん、他にコアの機能を止める裝置は用意されてたりしないんですか?」

「ありません。あったとしても、起するつもりはありません」

「なんでですか!? わかってるじゃないですか、もうダフィズさんの家族なんてどこにもいないのに!」

「僕が僕であるために……フラムさんには、死んでもらわなければ困るからです」

家族や研究の存在は、もはや彼にとってのアイデンティティである。

間違っている、と正論を突き付けられても、それを捨てることは自の死と同義。

どんなに醜い真似をしてでも、しがみつかなければ、ダフィズという人格を構する全てが壊れてしまうのだ。

そんな彼のふざけた言葉に、ミルキットは激昂した。

彼の服を両手でつかむと、至近距離で睨みつける。

ダフィズはふてくされたようにうなだれ、視線を反らしながら、気だるげに言った。

「そんな顔をされても、答えは変わりません。あなただって僕と同じ立場だったらそうするはずです」

それは逆もまた言えること。

ダフィズがミルキットの立場だったら、同じように――いや、もっと暴力的に喚くだろう。

理解している、だからこそ彼はミルキットに強く出ることはできない。

「もしご主人様が、この村にいる全員を倒して生き殘ったら、どうしますか?」

「ありえませんね。あいにく、ここはチルドレンやキマイラと違って兵を作り出すための施設ではありません。ですが――僕の妻、スージィは生前Aランクの冒険者でした。しかも今は、オリジンの影響を濃くけ、その力まで扱えるようになっている。勝てませんよ、フラムさんじゃ」

まだフラムとスージィ本人は遭遇していない。

だが、このままフラムが逃走を続けるのなら、やがて二人はぶつかり合うことになるだろう。

「ガディオさんやエターナさんだっています」

「彼らはこちら側・・・・の人間です、あなた方の味方ではない」

悔しげに沈黙するミルキット。

だって二人のことを信じたかった。

しかし、彼らはフラムたちに黙って姿を消し、シェオルを訪れていた。

彼らは死者とれ合い、王都では決して見せたことのない優しい表を浮かべていた。

そんな今のガディオとエターナを――ミルキットは、完全に信用することはできなかった。

「スージィは、フラムさん一人には負けません。絶対にね」

ダフィズは改めて宣言する。

「隨分と奧さんのことを信頼しているんですね」

「ええ、していますから」

悲壯あふれる笑顔で、彼は言った。

ミルキットはその表を見て、言葉を聞いて、理解する。

ずっと名前がつけられないでいた、自分の中にあるフラムに対しての思い。

んなネーミングをしてみたが、どれもしっくりこなかった。

ひたすらに盡くしたいと願う。

無條件で彼のことを信頼する。

そのの名前を――ようやくぴったりとはまるものを――ミルキットは、ようやく見つけた。

「だったら、ご主人様だって絶対に負けません。必ず打ち破って、また戻ってきてくれます」

「なぜ……そう言い切れるんですか?」

答えなどわかりきっている。

「スージィさんを信頼するあなたの気持ちをと呼ぶのなら――」

ミルキットはを張って、堂々と宣言した。

「私はそれ以上に、ご主人様のことをしているからです」

◇◇◇

階段を降りながら、一人ダフィズの部屋に殘ったミルキットのことを想う。

命が脅かされることはない、そう確信しながら、やはり気になってしょうがない。

今すぐ戻るか、しかしこんなに早く戻ってダフィズと話などできるわけもない。

ただ彼の無事を信じて、逃げうしかなかった。

「ここは……なに?」

階段を降りきった先にあったのは、長く暗い廊下だった。

左右の壁にはやけに頑丈そうな金屬製の扉が設置されており、鉄格子がつけられた出窓から中の明かりがれている。

奧にも別の扉があるようだが、まずは近場からだ。

フラムは近づくと、部屋の様子を覗き込んだ。

「なっ……」

絶句する。

そこで彼が見たものは――螺旋の子供たちスパイラル・チルドレンのように、顔がの渦となった、人間の姿だったのだから。

部屋の裝はフラムたちが泊まっていた場所と同じように整えられており、彼はソファに腰掛けて、ひたすら渦から赤いを吐き出して床を汚していた。

しばらくフラムが呆然とその様子を観察していると、視線に気づいた彼がドアの近くにまで歩み寄ってくる。

思わず後ずさり、背中がガタン、と別の部屋のドアにぶつかる。

ぶじゅっ、ぶじゅ。

壁越しに聞こえる微かな音を聞き取り、とっさに振り向いたフラムは、同じく出窓からこちらを見つめるの渦を、至近距離で直視する。

「いやっ!」

思わず甲高い聲でんだ。

「なに、これ……なんなの、ここ……ッ!?」

廊下の奧には同じような部屋がいくつも並んでいる。

よく観察してみると、その全ての窓に蠢く赤い顔が張り付いており、フラムを見つめていた。

肺が震え、うまく息ができない。

フラムは口を半開きにして肩を上下させさせながら、荒い呼吸を繰り返す。

そして口に溜まった唾を、ごくりとかしながら飲み込んだ。

「っは……はぁ……もしかして、蘇生に、失敗した人たち……なの?」

オリジンの影響が抑えきれずに、後戻りできなくなってしまった人たち。

しかしダフィズは、そんな彼らですら人間として扱った。

こんな地下に押し込められはしたものの、各々に部屋を分け與え、快適な暮らしができるように配慮したのだ。

◇◇◇

ビー、ビー、ビー――ダフィズの部屋にアラームが鳴り響く。

彼は機の上でる小さな水晶に視線を向けると、「ははっ」と力なく笑った。

「何の音ですか?」

「ああ、どうやら……あの場所に、フラムさんが足を踏みれてしまったようです。でしたら、もうスージィと戦う必要もないかもしれませんね」

「ちゃんと質問に答えてください、ダフィズさん!」

聲を荒らげるミルキットを無視して、ダフィズはる水晶に手を當てる。

そして三回、間を空けつつ魔力を流し込んだ。

すると音が鳴り止む。

それは地下への侵者を探知するシステムだが、水晶に流す魔力のパターンによって異なる作を行うことができる。

一回でアラームの停止。

二回で地下の急封鎖。

三回で――

◇◇◇

ガチャッ!

廊下を奧に進むフラムの周囲から、鍵が開く・・・・音がした。

そして、全ての部屋のドアノブが暴に捻られたかと思うと、中から次々と失敗した死者たちが出て來る。

その姿は、奧にいけばいくほど人の形を失っており、中には片手だけなのに異様なスピードで這い寄ってくる者や、十本ほどの手足を用に使いながら、蜘蛛のように移する者もいた。

さらには――先ほどフラムが降りてきた階段から、地上にいた死者たちが降りてくる。

はその場で剣を十字に振り、プラーナの盾を出する。

「これでぇっ!」

前方にいる死者たちは一掃できるはず――だった。

だが実際、倒せたのは目の前にいた一だけである。

目が前に突き出した右手を犠牲にして、渾の一撃を止めてしまった。

地下にいた失敗作たちは、地上のものとは明らかに違う。

確かに人間の蘇生という観點から見れば失敗かもしれない。

けれど、オリジンの力を使った兵として見た場合――こちらの方が、圧倒的に上なのだ。

數はせいぜい二十程度。

しかしそれでも、十分すぎるほどの脅威である。

ゾクッ。

フラムは背後から迫る脅威の気配をじ、橫に飛び退いた。

バシュッ!

直後、彼の二の腕を高速回転する力そのもの・・・・・がかすめ、を削り取った。

この程度ならばほぼ痛みは無い。

しかし、ここにいる敵全員が遠距離攻撃を使ってくるとなるとかなり厄介だ。

剣を構え、まずは奧に存在する異形たちを減らすため、地面を蹴るフラム。

すると彼らは橫一線に並び、さらに別の死者が上に乗り二段目となって、上への逃げ道も塞ぐ。

そして同時に――拳を引き、足を震わせ、の渦を蠢かせ――螺旋の弾幕を放った。

點ではなく、面。

目の前から圧倒的破壊力の壁・が押し寄せる。

「っ……反転リヴァー……しろぉサルッ!」

魂喰いを前に構え、反転の魔力を注ぎ込む。

だがそれだけでは全をカバーすることはできない。

ドガガガガガガガッ!

に命中した螺旋は、反転魔法により逆回転を行い、エネルギーを失って消えていく。

一方でそれ以外は、容赦なくフラムのを削り取っていった。

耳が吹き飛ぶ、頬が千切れる、柄を握る右の指が々に吹き飛び、剣で守りきれなかった左腕は蜂の巣にされていく。

主に左半――も足も、被害をけた部分は見事円形に抉り取られていたが、致命傷ではない。

フラムはにやりと笑う。

むしろ流れ弾で、背後の敵の數が減ってくれているはず、そう思ったからだ。

そして彼が振り向くと、そこには――けた螺旋の力を取り込み、次の撃を行おうとする死者たちの姿があった。

「噓でしょ――!?」

フラムの笑顔が引きつる。

が見たときには、すでに放たれる直前であった。

先ほどと同じような弾幕が、今度は逆方向からフラムを襲う。

今から全に魔力を広げるのでは間に合わない。

最低限を――頭部と心臓さえ守れば、すぐに死にはしない。

この際だ、手足は捨てる。

そのあとどうなるかは知らないが、今はただ、この瞬間を生き延びることだけを考えなければ。

ズドドドドドドドドォッ!

為すもなく、躙されるフラムの

撃ち抜かれ、貫かれ、ボロ布のように赤い斷片が宙を舞う。

「あ……ぎ、ぎぐぅっ……!」

さすがにこればかりは、裝備で痛みが軽減されていても辛かった。

意識までもが吹き飛びそうになる。

「みぅ、い……お……みる、き、……っと……おぉおおお!」

ただ彼のことだけを強く念じて、繋ぎ止めた。

死ねない、死なない、死んでたまるものか。

しかし、直前に魔力を宿した部位だけは辛うじて守られたものの――ドチャッ、と頭部以外の全だらけになったフラムのが、床に投げ出される。

“反転”で守っていたため、心臓は無事だ。

もっとも、手足は散り散りになってしまい、きは取れないが。

「ぁ……あ……はぁ……あああぁ……っ」

をよじって移しようとするが、それより先に化の手が彼に迫る。

右半だけが大化した異形の個――彼はフラムを持ち上げると、じわじわと再生していくを観察した。

そしておもむろに、顔のの渦に、を垂れ流す赤い左肩の切斷面を當てた。

ぐちゅっ。

フラムは、傷口ごしに、やわらかく生ぬるい気持ちの悪いが接しているのをじた。

「う……えぐっ……」

こみ上げる嘔吐

さらに化の口が激しく蠢いたかと思うと、再生したてのに鋭い何かが食い込んでいく。

咀嚼である。

彼らは、フラムのの再生を阻止するために、治った部分のを治った分だけ食らったのだ。

さらに右肩にもの渦が押し付けられ、他の部分にも次々と化たちが殺到する。

「が、あ……あぁぁっ、あっ……はっ……ひゃっ、は……ぎ……っ!」

彼らは、フラムを殺さない。

殺さず、きがとれないまま生かしておき、そして――いずれオリジンの本にまで送り屆けなければならない、そう考えていた。

絶え間なくが食い千切られる痛み、苦しみ、生理的嫌悪

それらを味わいながら、フラムは思うのだ。

よくもまあ――魔力とプラーナのたっぷり詰まったを、そんなに味しそうに食べられるよね、と。

ゴパァッ!

花開くように、一斉にフラムのを食らった化どものが破裂する。

はその衝撃で床に投げ出された。

雨のようにが降り注ぐ中、ようやく再生できた二の腕を必死でかしながら這いずる。

懲りもなく、別の化がフラムに手をばした。

をよじり、転がり、回避する。

肘、太ももまで再生――移速度はさらに早くなる。

彼らの攻撃は、そのきというより、執念に翻弄されて屆かない。

腕が全て再生すると、もう完全にフラムのペースだった。

もはやどっちが化なのかわからないような有様だが、ばされた手は剣で振り払い、放たれた螺旋の力はの一部をかすめながらも外れ、そしてようやく、廊下の一番奧にある扉までたどり著く。

しがみつくようにそれを開き、鍵がかかっていないことに心ほっとしつつ、隙間にり込ませる。

そしてすぐさま閉めた。

これだけ必死にやっても、できることは足が再生するまでの時間稼ぎだ。

「また、わけのわからない部屋に……」

中を確認せずにったのはいいものの、扉の向こうにあったのはやけにだだっ広い空間だった。

丸い部屋で、天井は高く、そして前方には深いが広がっている。

の上には金網の通路が続いているが、途中で途切れていた。

壁のどこにも扉らしきものは見當たらないため、この部屋が地下の最奧ということになるのだろう。

足が再生したところで、フラムは通路の上を歩き、下のを覗き込む。

その底には、ぼんやりと、何かがいているのが見えた。

目を凝らすと、の塊のような何かに、辛うじて人間の一部だと認識できる、手や、足、顔が付いたであることがわかる。

もう大抵のことでは驚かない。

「なるほど、さっきの失敗作より酷いものは、ここに捨てられちゃうわけだ」

もはや部屋を與えても無意味だと判斷された、哀れな死たち。

この地獄を作り出してもなお、ダフィズは自分の研究は間違いだと気づかなかったのだろうか。

「ああ、でも、そうまでしてでも続けたい気持ち……しわかる気はするな……」

自分だって、普通だったら諦めるような狀況にあっても、ミルキットのことを思えばまた立ち上がることができる。

他者を想う気持ちは、特に人を間違った方向に導くこともある。

けれどときには、能力の限界を越えた力を、自に與えてくれるのだ。

ガゴォンッ!

フラムが寂しげに下を覗き込んでいると、ドアが吹き飛んで、我先にと化たちが部屋に押し寄せる。

そして追い詰められたフラムは――あろうことか、自らそこを飛び降りた。

落下しながら、一人つぶやく。

「だったら私にだって……やって、できないことはないはず」

この狀況を、切り抜けるために。

可能を信じ、今の限界を、超える。

「はあぁぁぁぁあああッ!」

は剣を握ると、まずは・・・著地と同時にそれを底に突き立てた。

ゴオオォオオッ!

舞い上がる暴風が、死者たちを吹き飛ばす。

まずは気剣嵐プラーナストームで、スペースを確保。

「重力よ、反転しろリヴァーサルッ!」

そして、跳躍。

自らを縛るその力を反転させることで彼は高く飛び――そして天井に著地・・・・・した。

フラムを見上げる異形たち。

はすぐさま天井を蹴り、同時に魔法を解除し、高度分の威力を乗せて、化に最大の一撃を叩き込む。

「っつおりゃあぁぁぁぁああああああッ!」

ゴッ――ドガガガガガガガガァッ!

魂喰いを叩き付けられた床に大きなクレーターが生じる。

り口には周囲の壁面もろとも吹き飛び、大が空いていた。

さらに影響はその向こうにある通路にまで及び、床や壁が深く抉れている。

當然のように――その範囲にいた化は、ほぼ機能を停止していた。

中にはまだいているものもおり、が捻じれ化を始めようとしていたが、フラムが素早く切り伏せコアを破壊する。

「……発想次第、だよね。扱いづらさはあるけど、もっとうまく使いこなせれば、まだまだんなことができそうな気がする」

のは自分の手のひらを見ながら、“反転”という力の用さを実する。

そうこうしているうちにも、死者は次々と地下に降りてくる。

しかし、地上の死者たちは、フラムにれない限り傷を負わせることはできないのだ。

適切な距離さえ取って対処すれば、大した脅威ではない。

そう考える彼の前に、他の死者とは明らかに雰囲気の異なるが現れた。

「スージィさん……」

はAランクの冒険者だ、一筋縄でいく相手ではない。

オリジンコアの力をけているとなればなおさらに。

それに、彼の腕にはなぜか――倒したはずのルコーが、傷一つ無い姿で抱かれている。

もはやあれも、スージィにとっての“攻撃手段”の一種と考えるべきなのだろう。

フラムは剣を高く掲げ、プラーナを製する。

そして歩み寄る彼が間合いにったところで振り下ろし、剣気を放った。

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