“共シンパシー”に特に制限はない。

格、別、年齢――全てを無視して、繋げた人間の人格やステータスを混ぜ合わせるのだ。

ゆえにフラムたちの前に立ちはだかる人間たちは全て、正真正銘Ｓランク級の力を持った人間たち。

うち十人ほどが彼の方を向くと、ほぼ同時に手を天にかざし、魔法を発させる。

無數のの剣が浮き上がり、周囲を白く照らした。

マリアもよく使用していた“ジャッジメント”だ。

魔力４０００と言えば、彼とそう変わらない。

聖並の威力をめた輝刃が――手を前に振りかざすと同時に、フラムたちに向けて放たれる。

「アイシクルブレード！」

「リ、リヴァーサルッ！」

「おおぉおおおおおおおおッ！」

誰かが誰かを守る余裕など無い。

エターナはジャジメントと同じ大きさの氷の剣を五本浮かべ、の剣を迎撃する。

フラムは自分に迫る魔法を一つ反するので一杯だった。

そしてガディオは、あえて前に突っ込んで、下をくぐり抜け魔法の使い手に薄する。

バシュウッ！

ジャッジメントがエターナのアイシクルブレードとぶつかり合う。

高エネルギーの魔力塊が衝突すると、空中でお互いに弾けながら消滅した。

氷が蒸発し、生じた水蒸気によってあたりは白いモヤに包まれる。

フラムが反したの剣は、敵のうちの一人に命中した。

だが腕を焼いただけで致命傷にはなっていない。

ズドドドドドドドドォッ！

そして殘りの、誰にも命中しなかったものは地面に著弾、三メートル大のクレーターを作り出した。

「ふんッ！」

ガディオが振り下ろした一撃を、三十代ほどのが軽に避けた。

外見にそぐわぬ素早いきに彼は戸うが、気を取られずすぐさま追撃を仕掛ける。

すると両側から別の人間――髭を生やした中年の男と、ピンクのスカートを揺らす十歳にも満たぬ子供が彼を強襲する。

「ちぃっ！」

男の拳をギリギリで避けると、その風圧でガディオの頬に傷が刻まれた。

の子の攻撃は大剣の腹でけ止め――

ガゴォンッ！

その重さに耐えきれず、彼の巨が押し返され後退する。

かかとで踏ん張り倒れはしなかったが、すぐさま背後から別の男がガディオに迫った。

「ガディオさんが、ただのの子に押されてる……！？」

あのステータスはハッタリなどではない。

その驚異的な力を前に、フラムは唖然とする。

「フラム、気を抜いちゃだめっ！」

「っ！？」

狙われているのはガディオだけではないのだ。

フラムの前方からも、軽裝ではあるが冒険者らしき風貌をした男が接近する。

繰り出される短剣による鋭い刺突。

を捻り避け、その手首をつかもうと腕をばすが、相手の方がきは早い。

すぐに彼は手を引き、次の攻撃を繰り出す。

正確に頭部や心臓を狙ってくる相手に、フラムはガントレットで払い除け対応した。

「っ、く、はっ、あ……！」

今のところはどうにかしのげているが、この距離ではいつまでも相手のペースのままだ。

フラムは脇腹に向けて放たれた狙いの甘い攻撃を、あえてけた。

突き刺さる刃、鈍い痛みに彼は顔を歪める。

だが、短剣がに沈んだことできは鈍る。

そこで相手の腹を足裏で蹴りつけ――よろめき後退した相手を前に、すかさず魂喰いを抜く。

繰り出すは橫薙ぎの斬撃。

握力を強め、構えた瞬間、彼は背後・・に強い衝撃をじた。

「あ、がああぁぁああっ！」

何かが突き刺さり、貫通する。

思わずんでしまうほどの“熱”が脳に流し、不快な匂いが鼻をつく。

別の敵がフラムの後ろに回り、の剣を突き刺したのだ。

つまりそれは人間の――自分の・・・・が焼ける匂いだった。

彼は前方によろめく。

そのちょうどいい高さの顔面に、男の膝が叩き込まれる。

「っぶ、が……っ！」

鼻を吹き出しながらのけぞるフラム。

その顎下を狙って突き出される短剣。

彼は自らのきに逆らうことなく、その勢いを利用してバク転を試みた。

銀の刃はフラムの急所を捉えることなく、部の上を通り過ぎ空を切る。

彼の両腕が、死とでぬめる地面についた。

の剣が突き刺さった左肩に、思うように力がらない。

しかし背後からは、先ほどの魔法を放った老婆が、Ｓランク冒険者特有の素早いきで迫っている。

「つああぁぁぁあッ！　リヴァーサルッ！」

び、気合で腕に力を込め、同時に重力反転・・・・。

浮き上がったフラムのは、さらに反転した重力によりふわりと宙を舞った。

不安定で無防備な彼を狙った老婆の毆打は、先ほどまで彼のいた場所を空振る。

その頭上を通り過ぎ、背後に著地したフラムは、

「ごめんなさいっ！」

再び魂喰いを握り、水平に振って罪なき老婆の首を狙う。

彼はそれを、振り向くこと無く回転しながら飛び避けた。

しかし剣先はその頸脈をえぐり取る。

バチュッ！

吹き飛ぶ片。

老婆の首から大量のが吹き出す。

あの出量なら長くは持たないはず――ならば放置しても、と短剣を構える男の方に意識を集中するフラム。

しかし、老婆は自らの手のひらを傷口にかざすと、口をパクパクとかした。

すると淡いの粒子が無數に現れ、出を止め、傷を塞いでいく。

「回復魔法まで使うの！？」

確かに屬魔法だが、そこまで使いこなすとは。

つまり一撃で致命傷を與えなければ、いつまでも敵は減らないということ。

復活した老婆は、短剣を持った男とともに再度フラムに攻撃を仕掛けた。

一方でエターナは、水で作られた犬に乗り、可能な限り敵と距離を取りながら魔法での攻撃を繰り返していた。

「アクアプレッシャー」

かざした手のひらの周囲から、直徑だけで人の大きさほどがある水の塊が出され、近づこうとする敵を押し返す。

ガディオにしてもそうだが、この敵の數を前に“勝つこと”は不可能であることを彼だって知っている。

大量の死が転がる広場だが、まだ戦っている冒険者もいれば、完全に錯し逃げるべき方角すらわからない一般市民や、腰を抜かしている者だっている。

この混の中――まずはまともな人間が逃げる時間を稼ぐこと、それこそが第一の目的だった。

戦うことを最優先にするのなら、こうしてばらけて戦う必要はないのだから。

実際、エターナたち三人が敵の気を引くことで、彼らに対する攻撃もかなり緩んでいた。

「アクアゴレム、ゴー」

さらに五メートルほどの水の巨人を作り出し、相手にけしかける。

腕を振り回しても大した傷は與えられないが、時間稼ぎとしては十分な働きができるはず。

そう期待してゴーレムを作り出したエターナ。

だが、他の冒険者と戦っていた敵が突如手を止め、一斉にゴーレムに向けて球を放った。

水でできたは為すもなく、高熱で蒸発する。

「どいつもこいつも灑落にならない」

愚癡りながらもきを止めずに逃げ回るエターナ。

だが、いくら彼とはいえ、四方を囲まれれば逃げ切れない。

前方からが迫る。

はエターナ本人を狙って拳を突き出すが、直前で乗っていた水の犬が変形し、彼のを高く放り投げる。

さらに拳から、そして顔面に張り付くと、口から侵し気道を埋め、呼吸を止めた。

「まずはひとり、ざまあみろ」

微かに口元に笑みを浮かべるエターナ。

しかし空中を舞う彼の二の腕を、どこからともなく飛んできたの剣が掠めた。

「づぅっ……」

タイツにがにじむ。

さらに別の方向からも、今度は無數のの機雷が放たれ、空中できの取れない彼は――

「フェアリーオンアイス」

手を振り払い、空中に幅一メートルほどの氷のレールを作り出した。

その上をり、地上から放たれる魔法を避けていく。

レールが途切れれば別のレールを作り出し、そちらに飛び移る。

途中でスピンもえながら敵を翻弄し、さらに合間を見ては鋭く尖った水の槍を出する。

彼のその様は、まるで妖が踴っているようであった。

その時、しびれを切らした妙齢のが、地獄の上に作り出されたステージ上を舞う彼に直接危害を加えようと飛びかかる。

「考えが甘い、短絡的」

辛辣に批判しつつ、エターナがパチンと指を鳴らすと――突如、氷のレールが砕け散った。

そして鋭い破片が、彼に飛びかかる不屆き者に向けて殺到する。

それに気づいたは慌ててのを張り防ごうとしたが、その程度で“永遠の魔”の氷は止まらない。

シールドを貫通した氷片が、彼のにいくつも突き刺さる。

「これでふたり――」

その死を確信し口角を上げるエターナ。

だが直後、地上から見上げるオーディエンスのうち數人が天に手をかざすと、の粒子が墜落するに集まっていく。

「……冗談きつい」

みるみるうちに傷は癒え、は何事もなかったかのように立ち上がった。

エターナは地上に降りると、再び水の犬を作り出し、その背中に乗って移を開始する。

彼の視線の先には、五人の敵に囲まれながら戦い続けるガディオの姿があった。

「巖刃タイタン――縋崩斬ブレイドオォォォォォォッ！」

戦士の咆哮が空気を震わせる。

彼は全力でプラーナを生し、その手に握る二階建ての家屋より巨大な“巖の剣”をぶん回した。

ゴオォオオオッ！

れたものは、ただそれだけで片と化す必殺の一撃。

彼を囲んでいた敵のうち二人が避けきれず、吹き飛んだ。

しかし殘り三人は高く飛び上がって避け、無傷である。

うち一人の男が、自らの武――両手斧を手に、大きな隙のできたガディオに斬りかかった。

ミュートによって“共振”された人間のうちの多くは、一般人である。

彼らは武を持たず、素手か魔法で攻撃するしかない。

また、その高すぎるステータスにがついていけないらしく、無茶な素手による毆打によって、腕が骨折している者もちらほらと見けられた。

もっとも、そんな痛みなど全くじていない様子で彼らは攻めて來るわけだが。

しかしいずれ自滅すると考えれば、相手にする優先度は自ずと低くなる。

問題は、高ステータスの元・となったＳランクの冒険者だ。

フラムが相手にしている短剣の男、そしてガディオが向き合っている斧の男。

他にも三人ほど――その誰もが未だ無傷で、適した武を手に、容赦ない攻撃を繰り返している。

せめて彼らさえ仕留めることができれば、ある程度は楽になるのだが――

ガギィンッ！

ガディオは柄を握り、刃の腹を手首で支えながら、振り下ろされた斧をけ止めた。

重の乗せられたその一撃は、筋力の差があるとはいえ、完全に抑え込むのは難しい。

ザザ……と後ずさるガディオのソールレットが地面をえぐる。

男の攻撃を止めている間にも、他の敵の攻撃が止まるわけではない。

ジュッ――鎧に直撃したの剣が、何かを焼くような音を立てる。

しかし彼の纏う漆黒の鎧は、レジェンド品質ではあるが素材は一級品だ、それしきで破壊されることはない。

「ふンッ！」

両腕にプラーナを満たし、斧を押し飛ばす。

すかさず著地點を狙い追撃を繰り出すガディオ。

ドゴオォオッ！

漆黒の刃が地面を叩くと、彼の前方が扇形に吹き飛ぶ。

だが相手はそれを読んでいたかのように、橫に飛びでそれを避け、さらに著地と同時にまた仕掛けてきた。

「やはり早い――！」

本來、あれだけ大きな斧を使っているのだ、彼も筋力特化のパワーファイターだったはず。

しかし共振シンパシーによって他の冒険者の敏捷を得たことで、パワーとスピードを兼ね備えた強力な戦士と化している。

その軽なきを仕留めるのは、ガディオの力量をもってしても容易なことではなかった。

斧を剣でけ止め、その間にいつの間にか増えた周囲の敵が攻撃を仕掛ける――そんなチームプレイに、じわじわと彼も追い込まれていく。

立ち向かっていた冒険者たちも一人、また一人と倒れ、フラムたちの負擔は増える一方だ。

一般人の避難は進んでいるが、いつまで抑え続けられるか。

「っく、はっ、ああぁっ！」」

いつの間にか増えた一人を含め、同時に三人を相手にするフラム。

短剣の切り傷が無數に刻まれ、シャツはもうボロボロだ。

しかし、傷はその都度癒えるためあまり殘っていない。

致命傷さえ防げば死ぬことはない――その特を利用して、フラムもとにかく時間稼ぎに徹していた。

だがその限界も近かった。

「こ、はっ――」

老婆の拳がフラムの腹にめり込み、口から明の飛沫が舞った。

肩をれて押し込まれた毆撃は彼のを持ち上げ、吹き飛ばす。

さらに中年の男が浮いた彼を追うように跳躍すると、高い位置からその腹に掌底を打ち込んだ。

「ぶ、ぇ……っ！」

地面に叩き付けられ、バウンドするフラムの。

臓が破壊されたのか、口から赤い鮮が吐き出された。

すぐに治癒はされたが、頭部への衝撃と痛みに一瞬だけ意識が霞む。

もやがかった視界に見えるのは、三人が作り出した無數のの矢だった。

避けなければ――そう思いをかすフラムだが、

「ぁ……あ……っ」

にこまり、怯えるの子を見つけてしまう。

このままでは彼も魔法の餌食となり命を落とすだろう。

見捨てるわけにはいかなかった。

フラムは立ち上がり、放たれる矢の雨と向き合う。

こんな量を防ぎ切れるわけがない。

だが迷っている暇はないのだ。

素早く剣を十字に振り、プラーナの盾を展開する。

ガガガガガガッ！

最初の數発程度なら耐えられた。

しかし次第に盾は形を失い、貫通した矢がフラムの頬をかすめる。

もう一度盾を生するには時間が足りない。

とっさに彼は怯えるを抱きしめ、庇った。

ドドドドドドッ！

絶え間なく降り注ぐ殺意の奔流。

「ぐっ……が、ああぁぁぁ……！」

突き刺し貫き焼き盡くす。

數え切れない數のの矢がフラムの背中に命中し、耐え難い苦痛を與える。

裝備により痛みが軽減されていなければ、とっくに意識は失っていただろう。

それでも、まともな人間ならば泣きんでいるところだ。

一部の先端はにまでり込み、肺などの臓までもを焼いている。

「あっ……あ、は、ひ……か、ひゅっ……」

酸素がうまく取り込めない。

息を吸っても吸っても苦しかった。

噛みしめるにが滲む。

フラムの腕の中で怯えるは、目を見開いて自分を守る彼の姿を凝視していた。

そして矢が打ち止めになった瞬間――

「に、逃げてっ！」

解放されたは、一目散に駆けていった。

フラムはすぐさま背後を振り向く。

案の定、三人が同時に迫ってきていた。

迎撃しようにも力がらず手足が震える。

これでは剣で対応するのは無理だ。

フラムを囲むように前方三方向より迫るあの三人――左右に素手の老婆と男、中央には短剣を持った冒険者。

一方でフラムは魂喰いを地面に突き刺し、それを杖にしなければ立てないほどボロボロの狀態。

だが引きつける。

限界まで、その拳と刃が急所を穿つ直前まで近づかせてから――コツン、と爪先で地面を弾いた。

「リヴァー……サル」

ガゴォッ！

フラムの前方約五メートル、深さ約二メートルの地面に反転の魔力が満ちる。

魔法により切り取られた巨大な巖板――その表と裏が高速でれ替わる。

ゴオォオオッ！

轟音とともにき始めるそれの上から、左右の二人はギリギリで飛び退いた。

しかし短剣を手にした男は間に合わない。

巻き込まれ、下敷きになり、バチュッ！　という音だけを殘して、見えない場所で圧死する。

「私も、これで、一人……ッ！」

地面から剣を引き抜き、構えるフラム。

その額には汗が浮かび、肩は上下する。

先ほどの攻撃を避けた二人に加え、さらに他の冒険者との戦いを終えた三人がこちらに向かってくる。

「まだまだぁッ！」

自分に言い聞かせるようにび、フラムは前進した。

◇◇◇

「はっ、はっ、はっ」

路地を駆け抜けるミュート。

しかし彼の逃避行は、そう長くは続かなかった。

ヒュオッ！

彼のきを予測した上で、足を狙い放たれるライナスの矢。

その的確な一は、あっさりとミュートのふくらはぎに命中した。

「あぅっ！」

はバランスを崩し転ぶ。

傷口はすぐさま渦巻き、矢は吐き出されるように落ちた。

痛みも一緒に消えたのだろうか、また立ち上がると、ミュートは駆け出す。

接近するライナスは、これ以上は矢を無駄には出來ないと、弓を背負い、両腰に刺した短剣のうち一本を右手に握る。

そして屋の上から下り、ミュートの前に立ちはだかった。

「鬼ごっこはここまでだ、お嬢ちゃん」

「私、まだ、死なない」

「君が他人を殺してないんなら、そのみもけれてもよかったんだがな」

ライナスは前進し、ミュートに接近する。

彼は“共振”を発しようと手をばした。

しかし瞬時に彼は目の前から姿を消し、背後に現れ素早く首に短剣を突き刺し引き抜いた。

「あ……」

損傷した脈より大量のを吹き出すミュート。

彼は傷口を抑えると、よろめきながら、それでもライナスから逃げようと前へ進む。

「厄介だな、その」

その様子を見ていた彼は、すでに傷が塞がっていることに気づいた。

「首を切ってもダメなのかよ、楽に逝かせてやるつもりだったんだが」

「いや……死ぬ、いや……！」

「恨むなら君をそんなにしたマザーを恨むんだな、普通の人生を奪ったのはあいつだ」

「ちが、う……マザー、おか、さん……恩、返す」

「……すまん、そりゃそうだよな。生まれてからずっと一緒にいたんだ、だってあるだろう」

例えマザーがミュートたちの不幸の元兇だったとしても、彼に育てられてきた彼には関係のない話だ。

重要なのは、記憶と、事実と――周囲が何と言おうが、マザーはチルドレンにとって本當の親なのである。

「今度はコアを貫く、恨むなよ」

「私……私……」

短剣を構えるライナス。

するとミュートはポケットに手をれ、黒い水晶を取り出した。

オリジンコアだ。

「何をしてんだ？」

「死ぬ、いや。生きたい、でも……」

に近づけ、逡巡するミュート。

「私、み、葉える」

言葉とともに決意を固める。

そして水晶を今度こそに當てると――ずずず、とにり込んでいった。

直後、ミュートのに異変が生じる。

彼がを痙攣させはじめたのだ。

「あ、あがっ、が、がっ……！」

をのけぞらせ、目を剝き、口の端から涎を垂れ流す。

さらに瞳から止めどなくの涙が流れ出したかと思うと、彼の顔はみるみるうちに赤黒く変していった。

「お、おいあんたっ！」

「さよ、なら……みん、な……」

手足の指先から順番に、爪が落ち、皮が剝がれ、が吹き出し、が捻れ始める。

赤い繊維を束ねたような筋質が剝き出しになり、ミュートは人とはかけ離れた姿に変貌していった。

「なんだよ……何をしたんだよッ！」

「まざー……」

危険を察したライナスは、急いで弓を構えると、風の魔力を込めてそれを放つ。

「ゲイルショット！」

ヒュゴオォォオッ！

周囲の大気が渦巻き、轟音が響くほど強烈な攻撃。

しかしそれを、彼は手でいとも簡単にけ止めた。

「そんな簡単に！？」

風の刃がその腕を切り裂こうとするも、傷一つらない。

やがて全のねじれは頭部にまで及び、最後に彼は――

「きり、る……」

涙を流し、友達になれたかもしれないの名を呼び、意識を手放した。

顔面の顔が剝がれ、その下からは筋や骨ではなく――やはり手足と同じように、赤い繊維質のが現れる。

そして全を捻れたそれ・・に包まれた彼は、完全にオリジンに支配された。

その対価として、王都に傷跡を刻むには十分すぎる、膨大な“力”を得て。

「オ……オオォォ……オオオォォオオオオ――！」

ミュートだったものに、口と呼ばれる機関はない。

どこからともなく“聲”を発し、響かせる。

その甲高い咆哮は、自らの生誕を喜んでいるように聞こえた。