《「お前ごときが魔王に勝てると思うな」とガチ勢に勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい》058 群

目を覚まし醫務室を出たエターナは、すでにライナスの姿がないことに気づくと、盛大にため息をついた。

すでに起きていたガディオは、彼を見て苦笑いを浮かべる。

「ガディオ、ライナスが出ていったことに気づいてたなら止めてくれたってよかったはず」

「俺が止めて大人しく留まると思うか?」

「……そりゃそうだけど。でも、結局はフラムの予想通りだった」

外から微かに聞こえてくる兵士のび聲。

おそらくはネクトが、配備された兵を殺しているのだろう。

それはライナスが外に飛び出したのとほぼ同時に始まっていた。

つまり――フェアプレーのつもりなのか、彼はフラムたちがギルドから出てくるのを待っていたわけである。

彼らがそういった行に出た理由は、ミュートが死んだからだけではない。

王都の人々に自分たちの存在を刻み込む、その目的は昨日の時點で果たされたからである。

すでに避難を始めた住民もおり、殘った者も屋に閉じこもったまま表には出てこない。

結果的に、出歩いているのは兵士ばかり――そんな場所で無差別に暴れたところで、彼らのもう一つの目的である“時間稼ぎ”が果たせなくなるだけである。

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ならば殘り一日、マザーの居場所を探そうとするフラムたちを妨害するだけでいい。

ただそれだけで、彼らの未練は解消・・されるのだ。

「おはようございます、どうかしたんですか?」

エターナからし遅れて醫務室から出てきたフラムは、まだ寢ているイーラやスロウに気を使ってか、小さめの聲で二人に聲をかけた。

「ライナスがもういなかった」

呆れ気味なその言葉を聞いてフラムは、

「ああ、やっぱり」

と納得する。

もそんな予はしていた。

そもそも昨日の段階で、彼はマリアを探しにいきたかったはずなのだ。

今朝まで待ってくれただけマシだったのかもしれない。

「それと、ご丁寧にギルドの郵便けに例の手紙が屆いていたぞ。見るか?」

ガディオはテーブルの上に置いてあった手紙を手に取ると、二人に見せるように持ち上げた。

それをにらみつけるエターナ。

「どうせ殘り一日で、“芽吹く”とか“花開く”とかそんなポエミーな言葉が並んでるだけ」

「ま、まあ、一応見てみましょうよ」

フラムが苦笑しながら提案すると、ガディオは封を切った。

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そして中から白い紙を取り出し、読み上げる。

「殘り一日、芽吹きのときは來た、撒かれた種子たちは大きな産聲をあげ、やがて花開く。しかしそれすらも、私たちを包む大いなるの一片にすぎない……だそうだ、當たりだなエターナ」

「ワンパターン、センスがない」

「あはは……」

相変わらず辛辣である。

しかし手紙の容が何であろうと、フラムたちがやるべきことは変わらない。

王都に放された赤子を探し出し、殘りのチルドレンを撃破、そしてマザーを見つけ出す。

そのためには手分けをして探索しなければならない。

「ここからどうする、ガディオ」

「もしライナスが、マリアを探すために西區でいてるとすれば、俺とエターナでそれぞれ中央區と東區を調べることになるな」

「私はどうしたらいいんです?」

「ギルド――というより、スロウの護衛だ。あいつを狙っているのがルークなら、相がいいと言っていたフラムが適任だろう」

「わかりました、それじゃあ私はここで待機しておきます」

がいいと言っても、おそらく彼も二つ目のコアを使ってくるはずだ。

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そのとき、果たしてフラムの反転がどこまで通用するのか――現時點では全くの未知數である。

しかし、敵は赤子が二にチルドレンが二名。

つまりこちらの數と同數なのだ。

もしも同時多発的に戦いが始まったとしたら、助けを求めるのは難しい。

どうにかして、自分ひとりの力で打ち倒さなければならないのだ。

プレッシャーに、フラムの表が強ばる。

そんな彼を見かねて、エターナはおもむろに人差し指で額を突いた。

「あぅっ……な、なんですか?」

張はよくない、リラックス」

「無茶言いますね」

しかし先ほどよりも表は若干緩んでいる。

リラックスはさすがに無理だが、気負いすぎないように、とフラムは自分に言い聞かせた。

「じゃあ、割り振りは私が中央――」

「いや、すまないが中央區は俺に行かせてくれ」

ガディオはエターナの言葉を遮り言った。

「んー? 東區は土地勘のあるガディオのがいいと思ったんだけど、それが希なら仕方ない」

あっさりと引き下がる彼に、ガディオは「すまん」と頭を下げる。

なにか気になることが、あるいは中央區には何かがある――そんな予めいたものがあるのかもしれない。

どうせマザーの居場所の手がかりなどないのだ、勘に頼ってみるのも悪くはないだろう。

「ならさっそく出げ、き――」

ドォンッ!

そのとき、南の方から低く鈍い音が轟き、地面が揺れる。

二度も話を遮られたエターナは、不満げな表をしている。

だが落ち込んでいる暇はない。

三人はすぐさま外に出ると、音の鳴った方角の空を見上げた。

離れた場所で、天に向かって白い煙が立ち上っている。

様子を見ていると、さらに続けざまに、同じ場所からドンッ、ドンッ、と激しい炸裂音が響いた。

「もしかしてライナスさんが誰かと戦ってる?」

「援護にいかないと」

「いや、そうは言っていられないようだ」

ガディオは東側を見ながら言った。

そちらでも同じように、煙が立ち上っている。

遠いため音は聞こえないものの、何らかの戦闘が行われていると見て間違い無さそうだ。

「どこもかしこも騒がしい」

「どうやら本格的にき出したようだな」

「今日がお互いに正念場ですからね」

「好きにさせるわけにはいかない、予定通り東區の方にはわたしが向かう。ガディオは予定通り中央區で、マザーを探すといい」

そう言って、エターナは早々に走り去っていった。

「一人で大丈夫なんでしょうか」

「フラムが倒せたなら自分もできるはずだと思っているんじゃないか?」

それはまだ赤子が小さかったからで、今日はまた勝手が違うと思うのだが。

しかし実際のところ、戦力が足りていないのも事実だ。

人員を分散させなければ対応は難しい。

「エターナの言葉に甘えて、俺も予定通り中央區に向かわせてもらう。フラムは――」

「はい、スロウの護衛は任されました」

「ああ、頼んだぞ」

重たい鎧で地面を蹴り、ガディオは中央區に向かって駆けていく。

殘されたフラムはその場で深呼吸をすると、

「さて、ルークはいつ現れるのかな」

魂喰いを抜き、年の襲撃を待った。

◇◇◇

し時間は遡る。

それはライナスが“敵”と遭遇するし前。

彼は聞こえてくる兵士のび聲を頼りに、ネクトの追跡を行っていた。

距離はしづつまっている。

なぜきが読まれているのか――そんな焦りがあるのか、殺し方も次第に雑になってきた。

「このまま捉えさせてもらう!」

持ち前のスピードで、狹い路地を空するように駆け抜けるライナス。

しかし彼にも焦りはあった。

こうして追われていることを承知で、まるで手がかりを殘すように兵士を殺害しているということは、ネクトにも目的地があるということ。

あるいはどこかにライナスを導している可能もある。

その前に追いつき、思を臺無しにする。

そう意気込む彼はついに兵士に手をばすネクトの姿を目視する。

弓を構え、矢をつがえ、音速の一を放つ。

「もう來たのか!?」

ネクトは驚いた様子で“接続”し別の場所に転移、出された矢はなにもない壁に突き刺さった。

突然巻き込まれた兵士は唖然としていたが、見たところ怪我はない。

命は救われたようである。

ライナスは彼の目の前を通り過ぎ、ネクトへの攻撃を続ける。

「俺を甘く見すぎたな、年っ!」

「ちぃっ!」

連続転移で離れようとするネクト。

地面を蹴って疾走し食らいつくライナス。

二人の追走劇はライナス優位で進んでいたが――とある場所でネクトが足を止めた。

「本當はもっと楽にここまで導するつもりだったんだけどな」

疲れた様子で吐き捨てる。

ライナスは苛立たしげに言い返した。

「俺も、目的地に付く前に足止めするつもりだったんだがな」

結局、思通りにここまで到達してしまった。

「で、ここは何なんだよ」

「君が戦わないといけない相手がいる場所」

「……例の赤子か」

「その通り。ここにいるってわかってるのに、放ってはおけないよね?」

黙っておけばさらに力を蓄えられたものを。

なぜネクトはあえて自分をここまで連れてきたのか――ライナスは彼をにらみつける。

「僕にはさ、死ぬ前に決著をつけておきたい相手がいるんだ。だから君とやり合うわけにはいかない」

「フラムか」

「いいや、ガディオ・ラスカットだよ。彼には初対面でこっぴどくやられたからね、リベンジマッチってやつ」

インクを巡る戦いにおいて、手痛い一撃を食らったことはまだ忘れていない。

あのときは勝てなかったが、二個目のコアを使えば圧倒できるはず。

その自信が、ネクトにはあった。

そして一度は負けた相手を打ちのめした、その優越に浸りながら化り果てる――良い末路だ、と彼は自畫自賛する。

「俺がここで逃さない、つったらどうする?」

言って、ライナスは弓を引く。

一方でネクトには余裕がある。

「無理だよ。言っておくけど、理が無い分“第三世代”は下手すると僕らよりタチが悪いからね?」

「だからどうしたって――」

言葉が止まる。

風に乗って、異様に生臭い匂いが流れてくる。

風上の方角へと視線を向けると、一箇所だけ違和のある家があった。

西區にしては大きな建だ、商人が倉庫にでも使っているのだろうか。

しかし妙なのは、その周囲を取り囲むように兵士が立っている、ということだ。

なぜあの家の周りにだけ、あんなに沢山――ライナスが訝しげな表をすると、ネクトはにやりと笑った。

「ほら、気にせずにはいられない。そして向けた敵意に気づかれたら最後、そう簡単には逃げられないのさ」

兵士たちが一斉にライナスの方を向く。

生気のないその瞳に、彼は薄ら寒いものをじた。

明らかに正気ではない、何かに――おそらくはその赤子とやらにられている。

二人の兵士が、腰に提げた剣を抜いた。

そしておもむろに向かい合うと、同時に振り上げ、斬りつけ、頭頂から関節までを一直線に両斷する。

互いに斬られた兵士のが開いた・・・。

側からは、でもなければ蔵でもなく――十センチほどの赤ちゃんが數十、我先にと這い出てくる。

手足を使ってハイハイしながら、石畳の上を、さらには壁を重力を無視して移し、ライナスの方へと近づいてくる。

昆蟲の生誕を思わせるその景に彼は、“あれは殺さなくてはならない存在だ”と本能で判斷し、すぐさま矢を放った。

矢は途中で弾け、複數の破片が流星のように地上に降り注ぐ。

一つ一つに風の魔力が篭ったそれは、著弾すると同時にぜ、激しく風を撒き散らす。

局地的な嵐により、生まれ落ちた赤子は破壊され、と中を撒き散らす。

側まで功に作られたその悪趣味なミニチュアに、冒険者としてのキャリアの中で、大抵のものには慣れたつもりだったライナスですら嫌悪を覚えずにはいられなかった。

「それじゃ、健闘を祈るよ」

そう言い殘してネクトは去っていく。

彼の言ったとおり、ライナスはあれ・・を放ってはおけなかった。

「くそっ、くそっ、くそぉおっ!」

兵士たちは次々と仲間のを斬りつけ、そして側から小さな赤子を生みだす。

ライナスはやけくそ気味に、複數の矢を放ちそれらを屠った。

幸い、一はそれほど強くなかったため、比較的あっさりと処理することができたが、しかし神的な疲労は計り知れない。

いくらなんでも、趣味が悪すぎる。

「なんでもありかよ……ッ!」

倒れる兵士、そしてバラバラになった死にライナスは近づく。

もういてはいなかった。

何のために生み出されたのかもよくわからないだったが、人間を意図的に冒涜しているような意志がじられた。

そして、兵たちが取り囲んでいた倉庫の口の前に立つ。

生臭い匂いは、この側から漂っていた。

らないわけにもいかないよな……」

意を決して、木製の、両開きの扉からし距離を取って、弓を引く。

意識を集中、魔力を伝搬、とびきり高い威力をぶち當てて、扉ごと壁を破壊した。

飛び散る木片と砂埃。

そして開いたから見えたのは、その余波により傷つき爛れる、巨大な赤子の顔半分。

それなりの大が空いたはずなのだが、顔全すら見ることはできない。

ライナスの矢によってその顔は傷を負っていたが、えぐれた部分は蠢くと、捻れ、その側からまるで蛆蟲のように大量の小さな赤子が這い出てくる。

「またこのパターンかよっ……!」

愚癡り、弦を引くライナス。

彼の足元に、再び巧なミニチュアが迫った。

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