《「お前ごときが魔王に勝てると思うな」とガチ勢に勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい》063 賭命

重力に導かれ自然落下するガディオ。

彼は、上空より落ちてくる巨巖を見つめ再認識する。

人の命とはかくも偉大なものなのか、と。

プラーナとは、力――ひいては人の生命エネルギーを力へと変換したもの。

この手の武は、騎士剣キャバリエアーツに限らずいくつか存在している。

殺規則ジェノサイドアーツや正義執行ジャスティスアーツ――他にもあるが、それら全てには共通している事項があった。

再生可能なリソースを利用しているという點である。

例えば力、例えば、例えば魔力。

を休めることで回復することができものばかりだ。

しかし――ガディオは考える。

一度使ってしまえば二度と戻らない、取り返しのつかないにこそ、莫大な熱量が宿るのではないか、と。

コアの同時使用だってそうだ。

自らを犠牲とすることで、限界を越えた力を引き出している。

黒い鎧を纏ったガディオが著地すると、ズゥンッ、と地面が揺れた。

剣を握り、上を見上げる。

の空が落ちてくる。

人には到底対処できないほどの、規格外の質量で。

「圧倒的な力だが……力試しにはちょうどいい的だ」

彼はそう言って息を吐き、意識を集中させた。

自らのに・・・手をばす・・・・・。

そうイメージする。

満ちる力、それらを摑めばプラーナを生するのはたやすい。

しかし今回の目的はそうではない。

さらに奧――もっと深く――大事に大事に繭に包まれた、“源的概念”に手をのばすのだ。

指がを破る。

生じた隙間から、のように暖かい何かが流れ出す。

「ぐっ……」

苦しげに眉間にしわを寄せるガディオ。

痛みは力の証明。

むしろ歓喜し続行する。

流出したエネルギーを手で包み込み、さらに澄んだ、さらに強大なプラーナへと変換する。

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人には限界がある。

どれだけ鍛えようと、どれだけ決意を重ねようと、普通の人間には屆かない境地がある。

全力を盡くせば、ネクトには勝利できるかもしれない。

だがそれでは足りないのだ。

すでに彼の目は、自らの前に立ちはだかる壁のさらに向こう――ほくそ笑む白と、それを囲む異形たちの方を見ていた。

この程度で。

こいつ程度で・・・・・・、苦戦するわけにはいかない。

「がっ、ぐ……おッ、おぉおおおおおおおおおおああぁぁぁあああああッ!」

鎧の側、剣を振るう両腕の管が斷裂する。

側でブチブチと何かが千切れ、視界がレッドアウトし、の涙が頬を濡らした。

でいくつものアラームが鳴り響く。

“それは使ってはならない力だ”と。

しかし百も承知である。

忌だからこそ、到達してはならない境地だからこそ、彼は手を出したのだ。

「がああぁぁぁぁぁぁああああああああッ!」

落下する巖石に、振るわれる黒の剣。

ガゴォッ!

叩き込まれた鉄塊が、巨大な塊を陥沒させる。

その時、刃に満ちたプラーナが、管を張り巡らすように全に伝達した。

にも外にも余すこと無く網目狀に張り巡らされたそれは、導線である。

ガディオの意志により衝突點が炸裂すると、轟が巖全へと伝わっていく。

「オ……ォ……?」

バシュウッ!

気脈砕プラーナパルサー――その威力に、人としての意識を失ったネクトですら困する。

仮に破壊されたとしても、その破片をガディオに“接続”することで追撃しようとしていたからだ。

だが、その思は予想外の形で外れた。

砕かれたのではない。

“消滅”した。

跡形もなく、いくらかの砂埃だけを殘して。

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「は……あぁ……ぶっつけ本番の割には……上手く、いったものだ」

上手くいった割には彼ので汚れていたが、それは想定らしい。

特に痛みはじない。

“無い”わけではなく、痛覚が一時的に麻痺しているおかげ・・・だ。

いちいち使うたびに苦しんでいたのでは使いにならない。

それはガディオにとって、嬉しい誤算であった。

連続使用できるのなら、それに越したことはない。

「賭命・騎士剣キャバリエアーツ・サクリファイス。この力さえあれば、俺は――」

両足にプラーナを満たすと、ガディオは跳躍し、から出する。

そして、石畳を砕きながら平然と著地した。

「オオォォォォオオオオオ!」

予想外の力を使う敵を前に、ネクトは最初から全開で力を行使する。

接続コネクション――倉庫街に存在する巨大な建をいくつも空中に転移させ、ガディオに向けて出する。

すると彼は自らの刃に巖を纏わせ、巨大な剣に変えた。

「おおおぉぉおおッ! 巖刃タイタンッ、轟気災グランディザスタアァァァァァッ!」

命を削りながらそれを振り回し、竜巻を巻き起こす。

生じた力の奔流は、空中に浮かぶ建造や、彼に近づく一切の質を微塵に破砕した。

そのすさまじさは、その隙にれ、同化させようとしていたネクトを込みさせるほどである。

巻き込まれれば、化したそのでも無事ではすまないだろう。

ようやく嵐が止んだところで、彼はガディオのすぐ背後に転移し手をのばす。

その距離はほんの數十センチ。

すれば勝利は確定する。

しかし――その手をのばすよりも、ガディオの拳の方が早かった。

振り向きざまの裏拳打ちがネクトの頬に突き刺さる。

「オ、ォッ!?」

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彼のは吹き飛び、建の壁を貫通し、屋を転がる。

すぐさまそれを追うガディオ。

その飛翔速度を、彼の疾走が上回る。

ゴパァッ!

剣を振り下ろしただけで、建の半分が吹き飛んだ。

しかしネクトの姿はすでにそこにはない。

殘った半分と、ガディオの周囲の地面が接続され、を包み込むように押し寄せる。

出しようにも足がいつの間にか地中に埋まり、移すら困難な狀況。

さらにネクトは上空に建を転移、とにかく圧倒的な質量で敵を押しつぶす。

「この程度でえぇぇぇぇぇぇッ!」

命を削るということは、壽命を捨てるということ。

彼は未來を捨てる刃を地面に突き立て、まずは足にまとわりつく砕。

自由を取り戻すと、高く跳躍し――降り注ぐ瓦礫から瓦礫へと飛び移りながら上空へ出した。

「オオォオ――」

ネクトはすかさず力を行使する。

落下していた質が向きを変え、再び滯空するガディオに迫る。

「ふっ、はぁっ!」

目にも見えない剣さばきで、無數の剣気を出する。

気剣斬プラーナシェーカーを連発しただけなのだが、その一つ一つが宿すプラーナ量が通常のものとは段違いだ。

浮びあがる建を真っ二つに両斷し、貫通してまた別の建を、さらには地表にまで深い爪痕を殘す。

怒濤の攻撃を防ぎきったガディオ。

そんな彼を、何者かの影が覆った。

また背後に回り込んできたのか――そう思い振り向いた彼の目に映ったのは、巨大な石柱であった。

それはいくつもの建築や民家、そして大地を接続し、凝させ作られた、まさに質量の暴力。

見方によっては、ネクトが剣を振るっているようにも見える。

「ぬおおおぉっ!」

とっさに大剣で防ごうとするガディオ。

だが衝撃に耐えきれず、吹き飛ばされる。

その鎧はかなりの重量だ。

叩きつけられ、大きなクレーターが生じるその様は、隕石が落下しているようでもあった。

石柱はさらに上から落下し、ガディオを押しつぶそうとしている。

彼は起き上がると、そこから全力で駆けぬけた。

ズウウゥゥゥン――

落下の余波による風圧に、踏ん張りながら耐える。

そんな彼の背後に、転移したネクトが音もなく近づいた。

そして、肩に手を當てる。

「オォ、オオォォ……」

「しまった――!」

流れ込む力。

接続が始まり、ガディオは剣を握る右腕に違和を覚えた。

と、につけた篭手が同化を始めているのだ。

すぐさま振り返り、ネクトに拳を放つ。

転移して攻撃は空を切ったが、離れている隙に剣を手放し、ガントレットから手を引き抜いた。

ブチィッ!

すでに癒著していた皮が一緒に千切れ、鮮が彼の手を真っ赤に染める。

「ぐううぅ……ッ!」

痛みに顔を歪ませるガディオ。

だが放っておけばさらに同化は進行していただろう。

まだ右手が使えるうちに対処できたのが幸いだった。

彼は剣を拾い上げ、ネクトの姿を探す。

「ちぃっ、隠れたか」

遮蔽の影にを隠したのか、彼はどこにも見當たらない。

あるいは見えない場所から見えない場所へと転移でも繰り返しているのだろうか、気配も摑めず音も聞こえない。

「小賢しいな、ならば!」

両手で大剣を低く構え、腰をひねり――全力でフルスイング。

ブオォンッ!

三百六十度ぐるりと一回転すると、あたりには靜寂が満ちた。

そして一瞬遅れて、ゴバァッ! と周辺の瓦礫が全て吹き飛ぶ。

隠れ場所を失ったネクトは、上空に姿を現した。

そして自ら・・とガディオを接続し、高速落下した。

――イイィィィィンッ!

まるで弾丸のような速さで迫るネクト。

彼の拳は避けたガディオのギリギリを掠めて地面に著弾、周囲數メートルの地面を陥沒させた。

「戦い方を変えたか」

遠距離攻撃では仕留めきれない、そう判斷したらしい。

オリジンの力によって向上した能力に、さらに“接続”による加速を上乗せし、鋭い拳、そして蹴りを放つネクト。

避けようにも、干渉する接続の力によって、彼の攻撃はまるで導されたかのように曲がりくねる。

それを完全に防ぐのは、練の戦士であるガディオにも難しい蕓當だった。

だが命中すれば最後、それそのものの威力もさることながら、同化によってを破壊されてしまう。

なんとしてでも、當たるわけにはいかないのだ。

「アースグレイブッ!」

ここでガディオは初めて攻撃に魔法を使用する。

地中から三本の巖の槍がせり出し、後方と左右から鋭い先端がネクトを狙う。

彼は回し蹴りでそれを破壊、さらにその破片を接続しガディオに出した。

剣を振るいかき消そうとするも、直後、眼前からネクトの姿が消える。

「オオォォオッ」

後方への転移――耳元から不気味な聲が聞こえる。

「ふっ、アースピラー!」

ガディオの足元から、今度は巖の柱がせり出してくる。

それが彼のを打ち上げると、宙返りして今度は逆にネクトの背後を取った。

首を刈る黒刃。

彼はそれを空中に転移して回避するも、すぐさま跳躍したガディオが迫る。

「いつまでも逃げられると思うな!」

ネクトはその斬撃を右手でけ止めた。

ただ振るわれただけの剣は、辛うじて皮を貫通する程度だ。

「おおぉぉぉお――」

力を消耗し、プラーナを満たす。

を裂くも、刃は途中で止まる。

「おおぉぉぉおおおおおおおおッ!」

命を削る。

研ぎ澄まされたプラーナが、ついにその化したを突破する。

「オオォォォオオオ――」

け止めた右手が切斷され落ちる。

さらにガディオは連続してネクトのを切り刻み、頭を、左腕を、両足を――あらゆる部位を切斷する。

そして二人は重力に引かれ落下し、一方は著地し、もう一方はバラバラになって打ち捨てられる。

その、はずだった。

しかし振り向いたガディオが見たものは、すでに元通りの姿で、二足直立するネクトである。

全ての部位を“接続”し、治癒したのだ。

「あれだけ刻んでも、コアを摘出しない限りは倒れない、か」

ガディオは赤い視界で、を震わせ、接続部の調子を確かめるネクトを見據えた。

一撃放つごとに一年か二年か、とにかく壽命はんでいるようなのだが、未だ実はない。

もっと命から力を引き出せば、すぐにでも死ぬことはできるだろう。

だがそれは、キマイラと対峙し、必要に迫られたときまで溫存しなければならない。

今はこの出力のまま、速やかに心臓のコアだけを狙う。

「ふっ!」

まずは気剣斬プラーナシェーカーで軽く牽制。

ネクトは転移し、背後――ではなく眼前に現れる。

頭部に手がびるが、ガディオはを捻り回避。

そこから回転して二の腕に一閃。

だが直後に消失、空中に現れたネクトの飛び蹴りがガディオに迫る。

バク転して避けると、ズドンと赤い足が地面を穿った。

後退したガディオは剣を橫に薙ぎ、プラーナの刃をその場に滯空――すなわち賭命・騎士剣キャバリエアーツ・サクリファイス、繊月閃クレセントメイカーである。

彼に向かって腕をばしたネクトは、自らの手のひらに食い込む不可視の刃の存在に気づく。

すぐさま背後に転移。

だがそれは読まれている――

「拙い攻めだッ!」

即座に振り返り、心臓めがけて片手で刺突を放つガディオ。

それを後退しつつ、右手でけ止めるネクト。

し、食い込む剣先。

放つは気脈砕プラーナパルサー。

生命の奔流が異形のを張り――そして、ぜる。

「オオォォオオオオオオオオオオッ!」

右腕が肩まで消し飛び、ネクトはびを響かせた。

「くぅっ、踏み込みが甘かったか!」

を吹き飛ばすつもりだったガディオは悔しげだ。

しかし腕一本の差は大きい、今までのように互角の近接戦闘は演じられまい。

彼はさらに攻める。

剣を振り上げ、小細工なしの唐竹割り。

「オオォ、オオオォォオッ」

だが――剣筋がブレたわけでもなく、ネクトがいたわけでもないのに、その斬撃は命中しない。

「まだこんな手を殘していたかッ!」

ズザザザザザッ!

ガディオのが――いや、彼の立っている地面そのものが、後ろに向かって引き寄せられている。

飛び上がり別の場所に立てば問題は無いが、生じた時間を利用して、ネクトは天に手をかざした。

すると周囲の瓦礫が、そこに集まっていく。

それは天高くそびえ立つ柱、あるいは剣とでも言うべき、彼の持ちうる最大威力の一撃。

どうやら、お互いに長期戦はんでいないらしい。

ネクトはそれで一気に決著をつけるつもりのようだ。

見上げるガディオは、懐から青の水晶を取り出した。

『そういえば、これ。試しに一個だけ作ってみた』

それは別れる直前、エターナから渡されたものだ。

『魔法が封じ込められてる、うまく使えばガディオの剣技の威力をさらに高められる』

『フラムやライナスに渡さなくてよかったのか?』

『弓用には作ってないし、フラムには“反転”があるから大丈夫だと思った。あと……』

『まだ理由があるのか?』

『単純に、話すのを忘れてた』

とまあ、いかにも彼のらしい渡し方だったが、封じ込められた魔法の威力は疑うまでもない。

ついさっき、王都に突き刺さる氷塊を見てきたばかりなのだから。

ネクトが真正面からの力比べをむというのなら、けて立つまで。

「ありがたく使わせてもらうぞ、エターナ」

天高くそびえ立つネクトの石剣を前に、ガディオは両手でまっすぐ剣を構え、まず魔法を発する。

地面から浮びあがる巖が、その刃を包み込んでいった。

そして巨大な剣となる。

次に、プラーナ満ちる右腕でその刃を支えながら、エターナからけ取った水晶を剣のあたりにコツンと接させる。

それは量の魔力を通すことで発し、込められた氷の魔法がガディオの剣をさらに補強した。

「ふううぅぅぅぅ……」

ガディオは、巨大化した剣を構え、大きく息を吐き出す。

「オオオォォォ……」

一方で、ネクトの方も準備が整ったようである。

それはガディオに負けず劣らずの、デタラメな大きさだった。

重量を考えれば、高さで勝るネクトの方がはるかに有利だ。

しかし彼の腕力では、作り出したそれを振るう・・・ことはできない。

倒し、押しつぶすだけ。

それだけでも十分すぎるほどの威力である。

「オオォォオオオオオオッ!」

天にかざした手を振り下ろすと同時に、石柱の傾斜が開始する。

ゴオオォォォオオオ――

風が唸りをあげ、空気を震わす。

迫りくる超重量級の暴力を前に、ガディオもついに――その剣を薙いだ。

「はああぁぁぁぁぁぁぁッ!」

明な氷で形されたその刃は、くだけで空気を撹拌し、冷たい風が吹き荒れる。

「氷裝巖刃ガイアぁ――」

無論プラーナは最大量。

命も力も注ぎ込み、憎悪の刃が神意と対す。

「破砕撃ブレイカアァァァァァァッ!」

ゴッ――!

ぶつかり合う魂と魂。

まず得た力と、まず得た境遇と――彼らは互いに被害者であり加害者だった。

本當のしかったものは別にある。

進みたかった道ははるか彼方に、手をばそうとも隔てる奈落はあまりに広く、とっくの昔に手遅れだ。

ゴオオォォオオオオオッ!

両者、刀に亀裂が生じる。

行く末は死しかない。

なんと虛しい戦いか。

勝利の先にあるものが死と知りながら、そこまでしてなぜ彼らは必死でそれに食らいつくのか。

ガッ、ガガガガッ、ゴガアァァァァッ!

同時に刃が砕け、氷片と灰の礫が舞い落ちる。

しかし、壊れたのは一部だ。

ヒビは全に走っている、限界は確実に近づいている。

それでも、戦いはまだ、終わらない。

意志であり、意地であり――それは生きる人間を縛り付ける呪いだ。

だがそれこそが、人が人である証明でもある。

忘れればどれだけ楽か。

諦めればどれだけ救われるか。

妥協の先にほどほどの幸福があることは、誰もが理解しているのだ。

しかし、我を捨ててまで得たものに、いかほどの価値があるというのか。

追求する。

報われないと知っていても、立ち止まらず、自我を通す。

それが――この場に立つ、二人の人間を突きかす機である。

ゴシャアアアアァァァッ!

そしてついに、くしゃくしゃに、ぐちゃぐちゃに、砕け散る彼・の全全霊。

勝者は剣を振り抜き、込められた力の殘渣が無數の刃となって敗者を襲う。

「オオォォォォォォ……」

ネクトは――再び手足を斷ち切られ、力なく空中より落ちていった。

「はぁ……はぁ……はあぁぁっ……!」

食いしばる歯にもを滲ませながら、ガディオは落下點に向かって駆け出す。

空中で手足を接続したネクトは、両足でどうにか著地する。

しかしそのには、以前ほどの力は殘っていない。

鈍ったきで勢を持ち直す彼のに、容赦なく剣を突き立てるガディオ。

ズドッ!

背中まで貫通した刃は、そのよりコアを押し出し――に塗れた黒い水晶が、ことりと地面に落ちた。

が解けていき、口元と右の眼球だけが、元のネクトの姿を取り戻す。

「そう、か……あんた、は……」

ガディオに対話をするつもりなど無い。

剣を引き抜いた彼は、今一度それを高くかかげる。

「ぼく、たち、と……」

そして、ネクトが最期の言葉を言い切る前に、肩口に振り下ろす。

「い、っしょ……」

文字通り、真っ二つに両斷されるネクトの

ガディオはその斷面にコアを発見。

右手で顔を鷲摑みにして固定すると、篭手に包まれた左手で直接引き抜き、投げ捨てた。

も同じように、突き放すように廃棄する。

瓦礫と氷が散らばる大地に転がったネクトの亡骸は、最後の力で虛ろな瞳をガディオの方に向けると、ゆっくりと目を閉じた。

「一緒、か。勝手に仲間扱いするなと言いたいところだが――事実、そうなのかもしれないな」

そんな獨り言を呟くと、彼は落ちたコアと篭手を回収し、その場を去る。

はボロボロで、痛覚が戻ってきているのか全が焼けたように熱いが、まだ止まるわけにはいかない。

周辺は激しい戦闘で廃墟のような有様だったが、一箇所だけ無事な倉庫があった。

骨である。

ネクトは自分の死後のことなどこれっぽっちも考えていなかったのだろう。

いや、彼に限った話ではない。

ミュートも、ルークも、みな――やりたいことだけをやって死んでいった。

その生き様に関してだけは、心の底から“羨ましい”とガディオは思う。

自分も満足して逝けるのだろうか。

そのときが來るようにと強く祈りながら、マザーの隠れ家へと向かうのだった。

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