王城に併設された兵舎。

その外では、激しい剣戟の音が響いていた。

黒いコートをはためかせた大柄な男が、強く地面を蹴り飛び出す。

その速度を乗せて振り下ろされる斬撃を、白い軍服のは刃渡り七十センチほどのブロードソードでけ流した。

「加減は必要ないぞ、ガディオ！」

「そちらも出し惜しみはするな、アンリエットォッ！」

黒い大剣が薙ぎ払われる。

アンリエットは素早く飛び退き、剣を構える。

「ふっ、ならば先に使わせてもらおうか！」

意識を集中させると、彼の心臓が激しく脈打つ。

送りされる大量の。

最も高い熱を孕んだそれが右手に達したとき、アンリエットの手のひらが突如裂けた。

そこから染み出すが柄に染み込み、そして幅広の刃に赤いラインを描く。

「蛇咬アングイス！」

彼が剣を振るうと、その剣先の軌跡がのに染まる。

放たれたは刃となってガディオに向かって飛んでいく。

「はあぁッ！」

ガディオは、後退し距離を取りつつ大剣を薙ぎ払う。

繰り出す剣技アーツは気剣斬プラーナシェーカー、プラーナの刃が蛇咬アングイスとぶつかり合う。

だが――アンリエットの放つそれは、さながら毒蛇のように彼の一刀をするりと躱した。

「ちぃッ！」

舌打ちをしたガディオは、迫る刃をコンパクトに振り下ろした大剣で斷つ。

速度と正確を重視した一刀は、今度こそアンリエットの攻撃を確実に捉えた。

力を失い、赤い靄となって消える蛇咬アングイス。

一方で彼は気剣斬プラーナシェーカーをの満ちたブロードソードで真正面からけ止め、防ぎ切る。

「騎士剣キャバリエアーツ――久々にけたが、やはり重い・・な」

「貴様の殺規則ジェノサイドアーツは、相変わらず摑めん」

將軍と、伝説の冒険者。

普通ならわることのない二人だが、実は何度か、巨大モンスター討伐の依頼で顔を合わせたことがあった。

依頼と言っても、それを出したのは國である。

つまり、ガディオは傭兵として雇われていたわけだ。

もちろん當時は協力してモンスターに立ち向かったが、二人はお互いの剣を見て、ずっと思っていた。

いつか彼／彼と手合わせしたい、と――

そしてついに今、それが葉ったのである。

「私はお前ほど格に恵まれていないのでな、ならば厄介さで打ち勝つしかあるまいよ」

殺規則ジェノサイドアーツは元々、王國と敵対していた帝國と呼ばれる國家で生まれた技だ。

とは、人間にとっての力の源である。

力があろうと魔力があろうと、それがなければ人は生きていけない。

つまりに宿る力は、プラーナや魔法を凌駕するはずだ――そうして生まれたのがこの剣技であった。

刃に滴るに己の意志を導通し、命を刈り取るために放つ。

つまりは人殺しのための技、ゆえに殺規則ジェノサイドアーツ。

「剣を握るために生まれたかのような質・・をに著けておいてよく言う」

しかし、その技の発にはが必要だった。

一般的には、柄に“弾倉ブラッドカートリッジ”と呼ばれる、で満たしたカプセルをセットしなければ使用できない。

刃をで濡らせば使えないこともないが、技を放つたびにを捧げていたのではキリがないのである。

しかし、アンリエットの剣には、弾倉ブラッドカートリッジは存在していない。

なぜならば――彼は自のに巡るの流れを、自在にることができるからだ。

ガディオがプラーナで能力を強化するように、一時的にの巡りを加速させてのスペックを引き上げることすらもも可能だ。

それが彼の“質”。

そしてのでありながら、將軍にまで上り詰められた理由の一つである。

「さあ、次も行くぞガディオッ！」

アンリエットは剣を地面に突き立てた。

「潛蛇咬セルペンス！」

そして剣先より放出されたが、地中を潛行してガディオに接近する。

だがその姿は目視できない。

彼は大剣を高く掲げると、全力で地面に叩きつける。

ゴバアァッ！

地面がえぐれ、潛蛇咬セルペンスも一緒にかき消される。

さらに、砂礫を巻き込んだ暴風がアンリエットを襲った。

「さすがだな英雄！」

アンリエットは実に楽しそう言いながら、飛び退き回避した。

ガディオも悪い気はしない。

狀況が狀況なだけに素直に沒頭はできないが、強者との戦いというのはいつだって心が躍るものだ。

それが命の奪い合いではないのなら、なおさらに。

「まだまだ本気を出したつもりはない」

「ははっ、それは最高じゃなか！」

アンリエットはガディオとの距離を一定に保ちながら移する。

一方で彼は、腳部にプラーナを集中、矢のように飛翔し、アンリエットに薄する。

それを見て彼は目にも見えないほど素早く剣を振るうと、無數の蛇咬アングイスを出。

ガディオは線ではなく面で――素早く十字に大剣を振り、その中央にプラーナを注ぎ込むことで盾を作り出す。

打ち消されるアンリエットの殺規則ジェノサイドアーツ。

さらに接近した彼は、橫一文字で彼の腳部を切り結ぶ。

すると彼はぴょんと跳ね、後ろに回転しながら曲蕓めいて避けてみせた。

そして著地と同時に流加速、強化した腳力でガディオの懐に飛び込む。

「速さは私の方が上のようだな！」

「ぐっ！」

筋力で劣るアンリエットだが、敏捷ではガディオに勝っている。

大剣を立てて防ぐ彼に、彼は怒濤の連撃を仕掛けた。

それに加えて彼は、地中より迫るなにか・・・の気配をじ取る。

とっさに後退。

直後、地面からの針が飛び出す。

「先観だな、ガディオ！」

「一匹だけではなかったか！」

針はやはり、生きた生のようにガディオの足を狙って追尾する。

「はああぁぁぁぁぁぁぁああッ！」

ゴオォッ！

気合のった雄びをあげ、プラーナを放出するガディオ。

周囲に強い風が吹き、迫る潛蛇咬セルペンスもかきけされる。

「ははっ、気迫だけで吹き飛ばすとは！」

あくまで今のは急手段だ。

プラーナの消耗が大きく、そう連発できるものではない。

しかしそこまでしてでも、殺規則ジェノサイドアーツによる一撃は避けるべきものなのだ。

なぜなら――

「だが二度目を言わせてもらおう」

「なに？」

「これも先観・・・だ」

不敵な笑みを浮かべるアンリエット。

するとガディオの背後で地面が蠢き――地中から、細いの針が飛び出した。

それは彼の左ふくらはぎを直撃、

「……なっ、三目！？」

ちくりと鋭い痛みが走る。

ガディオは悔しげに表を歪めた。

これで――左足は使え・・・・・なくなった・・・・・。

確かに殺規則ジェノサイドアーツは騎士剣キャバリエアーツに比べて威力で劣るかもしれない。

人殺しのための技にしては、正義執行ジャスティスアーツよりも殺傷力が低いかもしれない。

だが、一度でも相手に傷を負わせることができれば、に潛り込んだによってその部位の機能を封じることができる。

それが他にはない、何よりの強みだった。

「では、そろそろ本気で攻めさせてもらおうか」

今度はアンリエットの方から接近する。

まずは刺突。

ガディオは刃の腹でガード、だが、続けて繰り出される鋭い突きをさばくのは難しい。

的確な防を続けていた彼も、じわじわと推され――で満ちたブロードソードの刃が肩をかすめる。

するとガディオの左腕から、がくっと力が抜けた。

「もらった！」

殘る右腕に向けてアンリエットは剣を突き出す。

だが彼の中には油斷があったのか、そのきは今までに比べると若干オーバーアクションだ。

見極めは容易であった。

ガディオはをそらして刃をかわし、大剣を手放しアンリエットの腕を摑む。

そのまま強引に引き寄せ、彼の勢がし崩れたところで、すれ違いざまに腹部に膝蹴りを叩き込んだ。

「がっ！？」

「勝ち誇るにはまだ早かったな」

これが本當の戦いなら、アンリエットは隙など見せなかっただろう。

「楽しいんだから仕方ないだろう……！」

彼は四つん這いになりながら、額に汗を浮かべ、大きく深呼吸をした。

かなりきつい一撃だったようだ。

だが、その表は笑顔である。

アンリエットはすぐさま立ち上がり、剣を握りガディオと向き合う。

一方で彼は左半を引きずりながら、地面に落ちた大剣を拾い、同じように構え視線を合わせた。

そして、戦いが再開しようとしたそのとき――アンリエットの視線が、ガディオの後ろに立つの姿を捉えた。

ついでに、その隣に立つ大柄な男も。

「……ヘルマンめ、外に出すなと言ったはずだが」

「どうしたアンリエット、來ないのか？」

「これ以上は続けられそうにない、規律違反・・・・になる」

「規律……？」

怪訝な顔をしつつ、ガディオは振り返る。

「なぜフラムがここに」

「うちの部下に聞けばわかるだろう。そういうわけで、決著は持ち越しだな」

ガディオたちは、フラムとの接をじられていた。

戦いを見學するだけなら接とは言えないかもしれないが、不祥事を起こしたばかりのアンリエットとしては可能は排除しておきたい。

アンリエットはガディオのに殘ったの力を解除する。

「仕方あるまい」

剣を背中の鞘に収め、フラムの橫を通り過ぎて兵舎に戻るガディオ。

一瞬だけ二人の目が合うが、特に言葉をわすことはない。

しかしフラムはなにかをじたらしく、彼の姿が見えなくなるまでその背中を目で追っていた。

「ヘルマン、彼を外に連れ出すなと言ったはずだが？」

聲をかけられ視線を前方に戻すと、すでに不機嫌顔のアンリエットが目の前にいた。

「……退屈そうだった」

「それで連れ出すやつがいるか！」

彼が聲を荒らげると、フラムはびくんとを強張らせた。

を舐められた記憶が蘇る。

オティーリエほどではないにしても、アンリエットも十分にフラムにとってはトラウマだ。

「あー……フラム・アプリコット」

「な、なんでしょうか」

彼にもそれだけのことをしてしまった自覚はある。

アンリエットは怯えるフラムに、気まずそうに聲をかける。

「なぜ、ここに來た？　ヘルマンに連れてこられたからか？」

「剣に興味はあるかって聞かれたんです、だから“はい”って言ったら、ここに……」

一度はヘルマンの部屋に連れて行かれたが、そのあと違う剣であることに気づいた彼が、ここまで案してくれたのである。

そして、しばらく二人はアンリエットとガディオの戦いを見學していた。

「あの、が飛んでいくやつ、なんだったんですか？」

「今はそれを説明している場合では――」

「……殺規則ジェノサイドアーツ」

「じぇの……？」

なぜか代わりに答えるヘルマンに、アンリエットは頭を抱える。

仕方ないので、彼は手早く説明だけ終わらせることにした。

「自分のを使った剣のことだ。に自分の意志を導通させ、外に排出されたことによって死につつある彼らをい立たせ、従える」

「を……従える、ですか」

「覚の話だがな、それだけ強い意志が必要だと言うことだ。あとは“敵に向かえ”と指示を出してやれば――」

殺規則ジェノサイドアーツの出來上がりだ。

もっとも、口で言うのは簡単だが、実際は初歩の技をにつけるだけでも一年はかかるのだが。

「さあ、説明は聞いたんだ、もう十分だろう？　ヘルマン、彼を部屋に送るんだ。あと、二度と勝手に連れ出すんじゃないぞ」

「……わかった」

ヘルマンはしょんぼりとしている。

「あの、そもそもなんで、私は部屋から出たらいけないんですか？」

聞いても無駄だとは思っていたが、今回ばかりは問わずにはいられなかった。

アンリエットの戦いを見ていたフラムは、ふと一つの可能に気づいたのだ。

彼の殺規則ジェノサイドアーツには、どうやら人間のの機能を封じる力があるらしい。

それを使えば――あるいは、フラムの記憶を封じることもできるのではないか、と。

という、明らかに敵対的な行為。

そして口をつぐむ瞳の濁った將たち。

まあ、アンリエットについてはさほど汚れた目をしているわけではないが――それでも、信用はできない。

フラムの問いかけに、彼は困った顔で考え込んだ末に答えた。

「危険だからだ」

「なにがです？」

「王都は未曾有の災害に見舞われ、現在復興作業の真っ最中だ。無論、治安も悪化していてな。どこにどんな悪黨が潛んでいるのかわからない、だから勝手に出歩かれると困る」

「あなたたちの方が危険じゃないですか……」

彼はあまりにストレートな表現でアンリエットを非難する。

「昨日の件については、本當に申し訳ないと思っている」

アンリエットは、素直に頭を下げて謝るしかなかった。

「私は、さえ見なければ大丈夫だ。オティーリエにも反省するように伝えてあるし、再発は絶対にさせないと誓おう」

「騎士団長って人はどうなんですか？」

「申し訳ないが、ヒューグに関しては行を制限できる立場にない。だが、君がいるうちは二度と立ちらないよう念は押してある」

対応は、真摯だ。

確かに最初にを舐められたときも、正気に戻ったアンリエットは心の底から申し訳なさそうな表をしていた。

フラムのさえ見なければ、たぶんまともな人なんだろう。

「それでも足りないというのなら、飲める條件は飲もう。だから今日のところは部屋に戻ってくれないだろうか」

別にフラムは戻らないつもりではない。

記憶のない今の狀態で、ボロボロだという王都に放り出されても困るし、ここに滯在する以外の選択肢は無いのだ。

しかし、條件を飲んでくれるというのなら――

「じゃあ、一つだけお願いしてもいいですか？」

フラムはし無茶だと理解しつつも、注文をアンリエットに押し付けた。

◇◇◇

ガリ、ガリ、ガリ――部屋の奧からなにかを削るような音が聞こえる。

しかし、姿が見えるのは、出り口に耳をぴたりとくっつけたインクだけだ。

彼は覚を研ぎ澄まし、接近する兵士がいないか探っていた。

そして同じ部屋で寢泊まりしているミルキットは――

「ふぅ、ふぅ……」

息を切らしながら、ガリガリとスプーンで壁を削っていた。

手は真っ赤で、握りしめた柄も曲がっていたが、それでも彼は一心不に手をかし続ける。

ガリ、ガリ、ガリ――その先にある無人の部屋を目指して、クローゼットの壁にをあけているのだ。

ネイガスから最初の手紙をけ取って一週間が経過した。

やはりこの建からの出に関しては、彼からの助力をけるのは難しいらしい。

つまり、二人は自力でケレイナを助け出し、ここから逃げなければならない。

二人は連日話し合い、獄計畫を練った。

まずミルキットとインクのいる部屋には、鍵が存在しない。

外側からしか開けない仕組みになっており、それが“部屋の前に見張りの兵すら置かない”という油斷に繋がっていた。

事実、二人にはその鍵を突破する方法はなかった。

そこでミルキットが思いついたのが、隣の部屋に続くを開ける、という案だった。

インクは無茶だと反対したが、ミルキットはできると斷言して聞かない。

なにも、ただ勇み足で鼻息を荒くしているわけではないのだ。

彼は、ここに壁の薄い部分があることに気づいていた。

それが現在、彼がを開こうとしている場所――ホコリの溜まった、クローゼットの中である。

ホコリがあるということは、つまり長期間誰も足を踏みれていないということ。

今まで何度か兵士が抜き打ちで部屋の見回りに來たが、そこまで見た者は一人もいなかった。

つまり、音にさえ気をつければ、ミルキットの行に気づく兵士は誰もいない。

「あと、し……っ」

今日も朝からずっと、くすねたスプーンを握りしめ、作業に沒頭していた。

一週間近く力仕事を続けた手はマメだらけだし、腕は筋痛でうまくかなかったが、その先にフラムが待っていると言い聞かせてに鞭を打つ。

開きかけたは、その果に他ならない。

人が通れるサイズまで広げるのにはまだ時間がかかるだろうが、貫通はそう遠い未來ではなさそうである。

そして、その翌日――ついに、は隣の部屋にまで屆いた。

そこから広げる作業は、掘り進める作業に比べればそうとう楽だ。

さらにその次の日になると、の子一人が通れる程度の直徑になり、ついにミルキットとインクは隣に部屋に到達した。

薄暗く、埃っぽいこの部屋は、おそらく置として使われているのだろう。

「やったね」

薄暗いその場所で、二人は音を立てないように軽くハイタッチをする。

「インクさんのおかげです」

「私は何もしてないって」

「それはありえません。私一人じゃ、絶対になにもできませんでしたから」

謙遜するインクだが、彼の役割もかなり大きい。

その優れた聴力で見張り役をするのはもちろんのこと、兵士の足音を聞き分け、この施設の簡易的な地図まで作ってみせたのだから。

かすかに聞こえてきたハロムの泣き聲のおかげで、ケレイナたちの居場所も知ることができた。

インクがいなければ、出計畫は早々に頓挫していただろう。

「あんま褒めないでよ、恥ずかしいから。さて、まだ近くに兵士はいないみたいだから……試してみる？」

「はい、やってみます」

ミルキットは置の出り口に近づくと、鍵がついていることを確認して、ほっとをなでおろす。

そして音を立てないようゆっくりとひねり――カチャ、と解錠した。

生唾を飲み込み、ごくりとが上下する。

張で手汗のにじむ手のひらで、二、三度ほど開けたり握ったりを繰り返し、ドアノブに手をおいて、扉を開く。

「開いた……！」

ちゃんと扉がくことを確認すると、ミルキットはすぐさま閉め、施錠した。

「ふっふっふ、これで私たちの出路は確保できたね」

「第一段階功、ですね」

必要なことだけ確認すると、二人はを通って元の部屋に戻る。

そして並ぶベッドにそれぞれ腰掛け、今後の作戦を練ることにした。

「問題は、こっからどうやってケレイナたちを助けて、この施設から出るか、だけど……」

「二階なんですよね、ここ」

「みたいだね。階段の位置はわかってるし、そこを降りたらすぐに出口はあるみたいだから、ケレイナさえいれば勢いでいけちゃう気がする」

ケレイナの実力は未知數だが、元Ａランク冒険者なのだ。

腕がなまっているとはいえ、そこらの兵士には負けないだろう。

「ケレイナさんの部屋の鍵を、どうやって手にれるのか……」

「一番手っ取り早いのは、後ろからぶん毆って奪っちゃうパターン」

「そんな力、私にはありません。それにもし奪えたとしても……どれが部屋の鍵なのか、わからない可能もありますよね」

「あ、確かにあいつら、鍵をあけるときにいつもジャラジャラ言わせてるよね」

正解の鍵を見つけるまでに、ランダムの高いタイムロスがあるのが怖い。

遅れれば、異変を察知した別の兵士が救援に來てしまう可能もある。

「うーん、だとするとやっぱあれかな」

「あれ？」

「食事の時間にさ、鍵を開けて見りの兵士も一緒に部屋にってるみたいなんだよね。そこで強引に合流しちゃえばいいんじゃないかな」

「でも部屋には兵士も一緒にいるわけですし、すぐに助けを呼ばれてしまいませんか？」

「そこはケレイナに任せちゃえばいいんだよ。あっちがけないのは、私たちが人質になっているから。そして私たちが自由に出できないのは、ケレイナたちが人質になってるから。そうやって雁字搦めにして逃げにくくしてる」

「なるほど、そのしがらみさえ無くなれば、ケレイナさんは遠慮をする必要がなくなるわけですね」

「そゆこと」

つまり、ミルキットとインクさえケレイナの部屋にたどり著くことができれば、出は功したようなものなのだ。

見えてきた希。

二人の表も、自然と明るくなる。

「あとは、食事の時間に兵士たちがどういうきをするのか音で把握できれば、すぐにでも逃げられると思う」

「そしたら、ご主人様にまた會えるんですね……！」

「ミルキットはいつもそればっかだよね、そんなにフラムのことが好き？」

「はい、大好きですっ。インクさんだって、エターナさんのことが好きなんですよね」

無邪気に、さも當然のことであるかのように問いかけるミルキット。

するとインクの顔が、みるみるうちに赤くなっていく。

「はあぁっ！？　ない、ないからっ！　私はただ、エターナに遊ばれてるだけだし！」

「そうでしょうか、エターナさんもインクさんのことが好きなんだと思いますよ」

「なんで言い切れるのさ？」

「薬が屆いたじゃないですか」

ミルキットは、テーブルの上に置かれた薬の包み紙を見ながら言った。

「普通は、薬なんて送れないと思います。きっとエターナさんが頼み込んでくれたんですよ、インクさんを助けたい一心で。それってつまり、インクさんのことが好きってことじゃないんですか？」

「それは……いや、まあ、その、えっと……ミルキットに言われなくても、わかってる、し……私も……それなりに……は」

「好きなんですね」

追い打ちをかけられて、インクは耐えきれずにぼふっと枕に顔を埋めた。

その様子を見て、口元に手を當てながら肩を震わせるミルキット。

「そういう無駄話はいいから、計畫立てようよぉ……」

インクはくぐもった聲で、弱々しく懇願した。