《「お前ごときが魔王に勝てると思うな」とガチ勢に勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい》079 彼はまだ理解できない

とにかくフラムは必死だった。

頭で考える余地すらなく、気づけばが、自分のを守ろうといていたのだ。

きっとそれは、殺規則ジェノサイドアーツと呼ぶにはあまりに拙い一撃。

本來なら真正面から直撃をければ頭蓋骨ぐらい切斷できるぐらいの威力はあるはずだし、に侵させその部位の機能を奪う力も、まったく使いこなせていない。

しかし、今のフラムにとっては――そして今のオティーリエに対しては、十分すぎるほどに有効な一手だった。

「はぁ……はぁ……」

肩を上下させ、オティーリエと向き合うフラム。

もはや剣を振るだけの力は彼のその腕には殘っていなかったが、まだ戦意は殘っている。

一方でオティーリエは、顔の傷以上に、心に大きなダメージを負っていた。

「なぜ……こんな小娘に、殺規則ジェノサイドアーツが……!」

例えば、好きな人に嫌われたとき。

例えば、好きなものを失ったとき。

人は涙を流して悲しみ、嘆く。

けれどいつかはそれを乗り越えて、また歩きだす。

……なんて、そんなのは都合のいい幻想だ。

生存者バイアスである。

落者・・・は何も語らない、語るのは立ち直った人間だけ。

悲哀、悲嘆、どちらも――今のオティーリエに比べれば、あまりに“軽い”言葉だ。

「わたくしは……お姉様の隣に立つまでに……あれほど、努力したというのに……っ」

オティーリエは、片手で顔を抑えて聲を絞り出す。

そのとき、彼はようやく、部屋にってきたアンリエットの存在に気づいた。

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の目つきは、どこまでも冷めている。

「あ……おねえ、さま?」

その溫度のなさに気づかないオティーリエではない。

フラムに殺規則ジェノサイドアーツを放たれたとき以上の絶が、彼を襲う。

オティーリエからの敵意が消えたことに気づいたフラムは、柄を握っていた手から力を抜いた。

カラン、と音を立てて剣が床に落ちる。

ヘルマンは彼に近寄ると、震える手を見て悲しげな表をしながら、背中を控えめにぽんぽんと叩いた。

これで騒は一段落――したかのように思えたが、オティーリエにとっての地獄はまだまだこれからである。

『どうしてお前は、いつも私の言うことを聞いてくれないんだ』

言葉は無かったが、アンリエットの主張は一目瞭然だった。

ただでさえ顔の傷が痛くて、傷跡が殘ったら好きな人に嫌われるかもしれなくて、さらに自分とお姉様の絆をぽっと出のに奪われて苦しい思いをしているというのに、それに加えて、最の人から汚を見るような視線を向けられている。

『怖かったんです』

オティーリエは、そう言い訳したかった。

『お姉様が誰かに奪われるような気がして、怖くてたまらなかったんです』

は強者ではない。

なぜならば、強い人間なら他人に寄りかかる必要などないからだ。

そしてアンリエットは強者である。

だから一人で生きていくことができた。

それなら別に構わない、孤獨でいいのなら、そうやってずっと生きていてしい。

しかし彼は優しく、他者に施しを與えてしまった。

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一片のパンのかけらを渡したつもりだった。

けれどけ取った彼は、お腹いっぱいのごちそうをけ取っていた。

齟齬がある。

どこまでも噛み合わず、そのくせに距離だけは無駄に近い。

なぜなら二人は馴染だから。

それ以上でも、それ以下でもないのだ。

『ねえお姉様、どこにも行かないと、わたくし以外の誰のものにもならないと、言っていただけませんか?』

そんなオティーリエの強い意思は伝わらない。

いつまでも、どこまでも、平行線のまま。

けれど不幸なことに、

『お前には失した』

アンリエットの意思だけは、オティーリエに痛いほど伝わっている。

「ち……違いますわ、お姉様。わたくしは……わたくしは……っ」

「……もういいんだ、オティーリエ」

は優しく語りかけた。

しかしその聲はどこか、他人行儀に聞こえる。

なくともに――妹に向けるものではない。

「お姉様、聞いてください、わたくしはっ!」

「一週間の謹慎を命じる、部屋に戻るんだ」

「お姉様っ!」

「戻れと言っているッ!」

激しい怒鳴り聲に、オティーリエはびくんとを震わせた。

目には涙が浮かび、縋るようにアンリエットを見つめていたが、無論同などするはずがない。

あれだけ注意したにもかかわらず、二度も同じ命令違反を犯した。

つまり、二度ともアンリエットの面子を潰したのである。

“あなたが好きだ”というのなら、なぜ自分の言うことを聞いてくれないのか。

それは好意でもなんでもない、ただの我儘だ――アンリエットはそう斷じ、オティーリエを甘やかすのを一切辭めた。

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「う……ううぅ……ぅあ……っ」

の止まらない顔をおさえたまま、下を向いて彼は部屋を出ていく。

その姿を、ようやく気持ちの落ち著いたフラムは視線だけで見送った。

オティーリエが姿を消すと、アンリエットはフラムに向かって深々と頭を下げる。

「すまなかった!」

それは心からの謝罪の言葉だ。

もっとも、アンリエットに謝られたところで、なんの償いにもならないし、フラムの傷が癒えるわけでもない。

神が安定すると、今度はじわじわと覚が正常化していく。

つまり、今までは脳麻薬で軽減されていた痛みが、一気に押し寄せてくるということ。

「づ、う……」

腕の傷口を手でおさえながら、痛みに顔を歪ませるフラム。

裂傷だけでなく、踏みつけられ、毆られた部分ももちろん痛い。

謝罪は後回しでもいいので、とにかく今は、これをどうにかしてしかった。

「まずは治療が必要だな。醫務室に案する、ついてきてくれ」

アンリエットは部屋から出て、フラムを先導する。

ヘルマンに付き添われながら、彼は部屋を出た。

◇◇◇

そして手當てが終わると、ベッドの近くで椅子に腰掛けたアンリエットは、神妙な顔で口を開いた。

橫になった包帯だらけのフラムは、目を合わせず、天井を見上げながら話に耳を傾ける。

今の自分の姿をみてなにかひっかかるものがあったが、やはり思い出せない。

しかし、自分の中で強く存在を主張するその存在こそが、自分がをした誰か――それはなんとなく理解していた。

ヘルマンは、し離れた場所で心配そうにその様子を観察していた。

「何があったのか、最初から話してもらってもいいか?」

尋問を拒むつもりはない。

フラムが軍の人間を傷つけてしまったのは事実だ、黙ってやり過ごせる狀況でないことぐらい、記憶のない彼にだってわかっている。

「アンリエットさんが私の部屋を出たあと、すぐにオティーリエさんが來ました。もちろん逆らえるはずもなくて、彼についていったんです」

「見張りの兵はあらかじめ気絶させられていたんだな」

「だと思います、倒れてましたから」

アンリエットは大きくため息をついて、頭を抱えた。

兵士も彼の部下だ。

どう言い訳したものか、上司であるサトゥーキへの報告も含めて、今の彼はフラム以上に憂鬱な気分になっているのかもしれない。

「それから、さっきの部屋まで一緒に向かわされて、目の前に剣を投げられて、“握れ”と言われたんです」

「そして、握ったんだな?」

「はい……それで、決闘は立したと言っていました」

「滅茶苦茶だ」

似たような環境で育ってきたアンリエットが聞いても、やはりそれは無茶な論法だったらしい。

フラムはし安心した。

もしかしたら王國には剣を握ったら、無條件で決闘が立するというしきたりがあるのかもしれない――そう危懼していたからだ。

「私は一方的にオティーリエさんに斬られて、毆られて、蹴られました。そしてけなくなった私の首に、彼は剣を振り下ろして……そこで」

殺規則ジェノサイドアーツを使った、ということか」

「……そう、です」

やはり、気づかれていた。

あっさりとフラムにコピーされてしまったこともショックだったらしく、アンリエットの表がさらに曇る。

しかし、もし今、この場で剣を握らされたとしても、おそらく同じように殺規則ジェノサイドアーツを放つことはできないだろう。

「あのときは、とにかく必死で、がむしゃらでした。助かるならなんでもいいから、どうにかなってくれ、って」

死んでしまうかもしれない、そう思うとが勝手にいたのだ。

以前も、同じようなことがあったような気がする。

火事場の馬鹿力というやつだろうか、人間というのは死の危機に瀕するといつも以上の力を発揮できるものらしい。

フラムの場合は、それが他の人間よりも強力なのだ。

「……ガディオのやつめ、まさかわかっていたのか?」

アンリエットがぼそりとつぶやく。

言葉の意味がわからないフラムには、首をかしげることしかできなかった。

「あの、ところで……」

「ん?」

し會話が途切れたところで、今度はフラムが彼に問いかける。

「オティーリエさんは、どうなったんでしょうか」

「傷の治療は手配している。謹慎以外の処分に関しては、これからサトゥーキ様と話し合わなければならないな」

「いえ、そういうことではなくて。大丈夫なのかな、と」

「なにを心配しているんだ? 被害者である君が、オティーリエのを案じる必要などないはずだが」

フラムに、自分を傷つけたオティーリエのを案じる必要などないはずだ。

もそう思っている。

しかし――なにも心配していないアンリエットを見ていると、不安にならずにはいられない。

おそらく怒りゆえに、彼を突き放そうとしているのだろうが――

「自殺とか、しないですかね」

「ははっ、さすがにそれは大げさだ。確かに反省して落ち込みはしているかもしれないが」

「このままオティーリエさんと距離を置くつもりですか?」

「ああ、いい機會だし、そうしようと思っている。それがお互いのためだ。栄えある王國軍の副將軍として、今の彼には足りないものが多すぎる。いい加減に自立してもらわなければな」

よどみ無く言い切るアンリエット。

フラムの不安は膨らむ一方である。

は、先ほど部屋で話していたとき――『誠実ではない』、だから自分の気持ちを偽ってオティーリエをれるつもりはない、と言っていた。

確かにそれは正しい。

噓でり立つ関係よりも、多相手を傷つけても正直な方が健全ではあるだろう。

しかしそれは、アンリエットがオティーリエの気持ちを正確に把握していることが前提だ。

アンリエットが、もしそれを過小評価しているのだとしたら。

「あの、誤解されないように言っておきたいんですが、私はオティーリエさんを心配なんてしていません。嫌いですし、もう二度と會いたくないと思っています」

「それはそうだろうな」

「でも、どうしても気になるんです。アンリエットさんは……その、そんなことをして、本當に彼が自ら命を斷たないと思っているんですか?」

フラムはし苛立たしげに言った。

アンリエットは二十六歳、オティーリエは二十四歳。

二人はいい大人だ、だからこそアンリエットは彼が自立できると信じている。

しかし一方で、それは二人の関係が二十年以上も続いているということでもある。

され、深く付いたそのは、もはや人格と同化してしまっている。

「どういうことだ?」

「私、他人に依存する気持ちはよくわかるんです。よく思い出せないですけど、たぶん、私も同じ狀況だったんだと思います。なにもかもを失ったとき、私みたいに弱い人間は、誰かを支えにしないと立つことができませんから」

フラムはその存在を、今までよりも強くじていた。

脳の異の存在に気づいたおかげだろうか。

そして異に意識を集中させると、心なしかしずつ記憶をせき止めている栓が、小さくなっているような気もする。

「でも、オティーリエさんの場合は違います」

はしないし、やはり嫌いなことに変わりはない。

だが、今回の件に関しては、怒りを通り越して哀れに思えてしまった。

「たぶん彼、アンリエットさんへの想いが無いと、生きることすらできないんじゃないでしょうか」

「それはさすがに大げさだ」

「大げさなんかじゃありません」

きっぱりと反論するフラム。

誰よりも近くにいながら、そんなことにも気づけないアンリエットの鈍さに、フラムは苛立ちを隠せない。

もっとも、アンリエットがもっと鋭い覚を持っており、オティーリエの想いの深さを正確に把握できていたのなら、今のように中途半端な姉ごっこに興じたりはしなかっただろう。

普通の人間なら、その奈落に怖気づく。

不用意に手をばそうとは思わない。

「獨り立ちさせると言いましたが、もう遅いんです。そうしたいなら、何年も前にやるべきだったんだと思います」

「できるさ、オティーリエならな」

「そんなのは信頼じゃありません。殘酷な鈍さですよ」

「君こそ考えすぎだ、いくら彼でもまさかそんな――」

それでも認めようとしないアンリエットに、今度は現実が反論する。

ガチャンッ、と勢いよくドアが開き、ノックもなしに兵士がひとり、駆け込んでくる。

焦りを表に滲ませた彼は、息を切らしながらアンリエットに敬禮をした。

「騒がしいな、どうしたんだ?」

は疲れた表で振り向く。

「ほ、報告いたします、オティーリエ様が自室にて腹部に剣を突き刺し自殺を図りましたっ!」

「なっ――」

絶句するアンリエットに、

「だから言ったのに」

ぼやくフラム。

オティーリエの失の度合いを見れば、こうなることは火を見るより明らかだったというのに。

「すまない、話の続きはあとでさせてもらう」

席を立ち、兵士とともに部屋を出ようとするアンリエット。

そんな彼に対し、フラムは聲をかける。

「最後に一ついいですか?」

「手短に頼む」

振り向いたアンリエットに、彼は平坦なトーンで問いかけた。

「私の記憶を封じたの、アンリエットさんですよね」

証拠はない。

だが脳の異、それが他人から與えられたであることはわかる。

オティーリエがやるとも思えないし、そうなると自ずと可能は一人にまで絞られるのだ。

「なぜ、そう思ったんだ」

殺規則ジェノサイドアーツの応用だってことを理解したからです」

フラムは改めて、自分の脳に存在する異の存在を意識しながら言った。

「……その話は、またあとで詳しく聞かせてもらおう」

そう言い殘して、今度こそ部屋を出ていくアンリエット。

次から次へと目まぐるしく変わる狀況に翻弄され、気の毒ではあるが、元々は彼がオティーリエの気持ちを理解していなかったことが原因だ。

自業自得であり、同するようなことではない。

フラムはアンリエットの出ていったドアを見つめながら、「はぁ」と大きく息を吐いた。

記憶を封じた相手がわかった。

記憶を戻す方法も……見つかった、ような気がする。

確実に前には進んでいるはずなのだ。

しかし未だに、どうすれば、どこへいけば、なにをすれば自分が報われるのか、何もわからない。

憂鬱な表を浮かべるフラム。

ヘルマンはそんな彼に近づくと、いつの間にか用意していた皿の上に切り分けた果を、「……食え」と彼の目の前に差し出すのだった。

◇◇◇

本來、英雄同士の不用意な接は許可されていない。

城の中は見張りの兵士さえつければ自由に歩くことは許可されていたが、勝手に互いの部屋にることは許されていない――はず、だった。

しかしそれは、あくまで正規の方法で部屋から出た場合、である。

堂々と窓から出してみせたライナスは、そのまま壁を軽々と登ってエターナの部屋を訪れていた。

もちろん、見張りの兵士に気づかれるようなヘマをやらかすライナスではない。

「いきなり窓から來るから、変質者だと思った」

「んな格好してるエターナにだけは言われたくねえって」

水著のようなぴっちりとした格好に、上からローブを羽織り、エナン帽をかぶるという奇抜なファッション。

それはすでにエターナのシンボルマークになりつつあったが、変であることに変わりはない。

「それで、なんのためにここに?」

換」

「手紙のやり取りはしているはず」

「それだけじゃ伝わらない部分もあるだろ」

こうして言葉をわすのは久々だが、ライナス、エターナ、ガディオの三人は毎日メモを渡し合い、報を共有していた。

もちろんミルキットたちが出したこともすでに把握済みだ。

ただし、キリルに関してだけは他と違い警備が厳しいため、思うように接できていないのが現狀だが。

「んで、本題なんだけどさ」

「例の出作戦についてと見た」

「そうそう、詳細はこの間の手紙に書いてた通りだけどさ、どう思うよ?」

「殘念だけど、キリルの“リターン”は使えない。どうやら実験のついでで、わたしたちが魔族領に設置した転移碑とのリンクが切斷されているらしい」

「りんく?」

「キリルとあの石碑は繋がっていた。けれどそれがなくなった、つまり以前のように自由に転移することはできなくなる」

合流にさえ功すれば、キリルのリターンで魔族領までひとっ飛び――とライナスは思っていたのだが、そう甘くはないらしい。

ただし、彼とてそう簡単にいくとは思っていなかったようだが。

「仕組みはよくわかんねえけど、リターンで出は無理、と。そうなってくると、あとは地下通路か」

王城は跡の上に建っている。

特に地下にある牢獄なんかは、その跡をそのまま利用して作られた施設だ。

そういった跡の名殘なのか、普段は壁で塞がれているものの、地下に王都の方へと続く通路がいくつも存在するという事実を、ライナスは摑んでいた。

そして風の流れを調べることで、その実在も確認済みである。

「確かに、そっちは出路として使えそう」

「だろ?」

「でも、懸念はある」

「なにが心配なんだよ」

「王城に來てそんなに時間の経っていないわたしたちが知っていることを、サトゥーキが知らないとは思えない。王都につながる隠し通路なんて、真っ先に出に利用される可能を考えるはず」

すなわち、エターナは何らかの対策が打たれている可能が高い、と言っているのだ。

「そりゃありえるな。あーあ、地下通路は行けると思ったんだが、なかなかいい方法ってのは見つからないもんだよなぁ……」

「見つからないついでに、もっと落ち込む報をついさっき手にれた。聞きたい?」

「その前フリで聞きたいと思うやつはいねえよ……聞くけどさ」

現実逃避したって事が好転するわけじゃない。

ライナスはエターナの話に、真剣な表で耳を傾ける。

「フラムに関する話だけど」

「記憶が戻った……ってわけじゃなさそうだな」

「うん、違う。なにが起きたのかはわからないけど、フラムは隔離されてたあの部屋から、地下の牢獄に移されたと聞いた」

「牢獄だと? 捕まったってことか?」

頷くエターナ。

フラムが牢獄へ移されたのは、治療をけ、部屋に戻ってから數時間後の出來事だ。

正當防衛とはいえ、副將軍であるオティーリエを傷つけたことに対する罰である。

また、無意識とはいえ殺規則ジェノサイドアーツを模倣し、なおかつ脳で記憶を封じるアンリエットの“”の存在に気づいたフラムの危険を考慮した上での処分でもあった。

とはいえ、そんな事までは知らないエターナとライナスにとっては、“さらに出が困難になった”ことを意味する報でしかないのだが。

「あっちもあっちで大変みたいだな」

「キリルが知ったら荒れそう」

「つうか今度こそ暴れだすんじゃね?」

記憶を封じられ、人質にされていることを知った時點で、キリルはかなり激怒していた。

実力行使に出ないのが奇跡的だと思えるほどである。

「はぁ……フラムちゃんとの合流は難しくなるわ、リターンは使えないわ、隠し通路を使うのも難しそうだわで、出の難易度がどんどん上がってんな。しかも、王都にいるキマイラの數もどんどん増えてるみたいだしさあ」

「それは初耳」

「どういうわけか、王都の外からどんどん運び込まれてるみたいなんだよ」

「わたしたちの出を邪魔するため?」

「まさか、そのためにあれだけの數のキマイラをかすとは思えねえ」

「じゃあ、戦爭に向けての準備?」

「俺はそう睨んでる」

それも、あくまでただの予想に過ぎないのだが。

考えたって、サトゥーキの真意などわかるはずもない。

二人にとって重要なのは、キマイラが増えるほど、さらに出が困難になるという事実だけである。

「とにかく、まずは魔族たちが王都に來ないことにはな」

「本當に來るのかな」

「來るだろ、俺たちを助けたがってるはずだし。それに、インクちゃんがエターナに會いたがってるはずだろ?」

「それは間違いない」

エターナは自信満々に、を張って言い切る。

苦笑いするライナス。

二人の期待に応えるように、ネイガスたちが王都にったのは、その翌日の午後であった。

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