《「お前ごときが魔王に勝てると思うな」とガチ勢に勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい》096 ただ自己満足の末の絶頂がしかっただけのくせに綺麗事で誤魔化すあなたが背負うべきあらゆる罪科

「うわあぁぁぁぁぁっ!」

ミルキットはび、必死でフラムを突き飛ばす。

ガチンッ! とエキドナの歯が鳴った。

転がるフラムは一命を取り留め――ミルキットが助けてくれなければ、腕の一本ぐらいは簡単に持っていかれていただろう。

心の底から彼謝する。

とはいえ、危機はまだ去っていない。

魂喰いは折られ、もはや武として使うことはできないだろう。

さらに、どうやらエンチャントも効果を失っているようで、先ほどよりもが重い。

自由に収納することもできず、最低限の機能すらも殘っていないようだ。

もはや、ただの重りである。

ミルキットと出會ったあのときから、フラムはこの剣と一緒に戦ってきた。

相棒――と呼ぶにはいささか騒すぎる代だが、それでも著はある。

魂喰いとの出會いがなければ。

牢の中でグールに襲われたとき、これを握っていなかったら。

自分はもう、とっくに死んでいただろう。

ミルキットと絆を結ぶこともなく、オリジンに抗うこともなく、ただの奴隷の死として、ゴミ同然に捨てられていたはずだ。

ゆえに、手放すことに対する葛藤はあった。

しかしこの狀況における逡巡は、命にかかわる。

迷うことすら許されずに――フラムは、『ごめん、今までありがと』と心の中で剣に語りかけながら、その柄から手を離した。

再生能力はもう使えない。

今までは『どうせ治るのだから』と割り切って大膽にくことができたが、そうはいかない。

フラムは急に目の前に存在する異形が、恐ろしいものに思えた。

死・を、以前よりも近にじる。

「ミルキット!」

ショックは大きいが、落ち込んでいる暇だってない。

アイコンタクトで意思疎通を図るフラム。

ミルキットはそれを理解しうなずくと、二人同時に、エキドナの本とは逆の方向へ駆け出した。

そして合流すると、互いに手をばし、固く繋ぎ合わせ、敵との距離を取る。

「ありがと、助かった」

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「う、うまくいってよかったです」

かなり無茶をしたようで、聲が震えている。

フラムにとっても、武もなしに戦える相手ではない。

抱き上げてすぐにでもここから退散したいが――

「あなたがしい、あなたがしい、どうしてかしらぁ? この想いは――あぁ、オリジンから流れ込む想い・・ですの!」

そう簡単には、逃してくれそうにない。

巨大な顔が再び背後から迫る。

口が開くと――フラムはミルキットの方に飛び込み、彼を抱きしめながら転がる。

二人は道端に設置された店に突っ込んだ。

が赤い管を差し向ける。

歯を食いしばり、フラムは立ち上がり同時にミルキットを抱き上げた。

そして前方の城壁まで疾走し、重力を反転し高く跳躍。

管はそんな彼の足元を刺し貫く。

しかし、エキドナの足の間からびる管は一本や二本だけではない。

「どんなに満たしても足りないのは、あなたがいるからですのぉ? あなたを刺し貫けば、私は今より満たされますのぉ!?」

今度は複數本が、壁際を飛び上がるフラムを狙う。

は壁を蹴り、それを躱した。

すると三度みたび、不気味に笑う巨大なエキドナの顔が迫る。

慌てず、落ち著いて反転解除。

自然落下して回避。

そして、ようやく著地すると、脇目もふらずに走り出した。

「私を拒まないでぇ!」

目を剝き、口から涎を撒き散らしながら、四つん這いの本が喚く。

「そんなの無理に決まってんじゃん!」

愚癡っぽく言い捨て、フラムはひたすら前進した。

その背中を追う巨大な顔が、突如十字に裂けた。

誰かが斬りつけたわけではない、自らの意志で分裂・・したのだ。

そして四つに別れた頭部は、ぐにゃりと形を変えて、四人のエキドナとる。

どうやら最初から、あの巨大な顔は四人分を寄せ集めて出來たものだったらしい。

無論、理屈などわかるはずがない。

地面に降り立った四のエキドナは、やけにきれいなフォームで疾走し、フラムたちの追跡を開始する。

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「どうせ無駄ですわぁ」

「何人死んだと思ってますのぉ?」

「他の出口も全て封鎖されていますのよぉ!?」

「逃げたって無駄なのにぃ、逃げる必要なんてありませんわぁ!」

それぞれのエキドナが言葉を発し、猛スピードで近づいてくる。

フラムは走りながら、足元に魔力を集中――狙いを定め、地面を反転させた。

地面がえぐり取られ、ぐるんと裏返る。

巻き込まれたエキドナの足がぐにゃりと、曲がってはいけない方向へ折れ、のしかかる地面の重さに耐えきれずちぎれる。

「きゃはぁんっ!」

聲をあげ、倒れた。

「よしっ!」

殘り三――と喜ぶフラム。

だが、その傷口はすぐにねじれ、出が止まる。

そして倒れたエキドナは、そのまま手足を使って、まるで蟲のように移を始めた。

その速度は、二本足よりも遙かに早い。

どこまでも人間を捨てている。

あれが彼の理想とでも言うのだろうか。

やはり最初から、キマイラなどという化を生み出した時點で、彼はイかれていたのだ。

フラムは路地へのり口を見つけると、そこにっていく。

數の暴力に押しつぶされることだけは避けたい。

ゆえにできるだけ狹い道を選び、曲がりくねりながら進む。

しかしスピードは相手の方が上、全く引き離せない。

「どこまで走れば……っ!」

「また來ましたっ!」

特に蟲のように移するエキドナがやっかいだ。

地面だけでなく壁を這って、本當に蟲そのものとしか言いようのない勢で移している。

背後から迫り、手をばしてくるそいつに、フラムは反転の魔力を込めた回し蹴りを放つ。

オリジンの力の満ちたそのにはよく効いているようで、ブーツが顔面に突き刺さると、彼は普通に吹っ飛んだ。

だがすぐに起き上がり、しつこく追跡を続ける。

フラムがその一にばかり気を取られていると――真橫の壁から、かすかに何かが削れる音がした。

が危機を告げる。

確証は無いが、すぐに重力反転で跳躍。

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直後、さきほどまでフラムがいた場所を、無數の赤い管が串刺しにした。

間一髪だ。

どうやら管で繋がった分の視界を利用して、本もフラムの位置を把握しているらしい。

さらに背後から迫るエキドナは、壁を這って浮き上がった彼を追ってくる。

本當は反転解除して路地を走り続けたかったのだが――仕方ない。

そのまま屋の上にあがる。

すると案の定、そこには十近くのエキドナが待機しており、まだ著地もままならないフラムたちを取り囲んだ。

「逃しませんわぁ」

「逃げられませんわぁ」

「誰もぉ」

「もう、この王都からはもう出られませんのよぉ?」

人間だったときと変わらぬ口調で、エキドナたちがそう宣言する。

「いちいち分けて言わなくても……!」

――それぐらい、わかっている。

気の抜ける聲が、余計にフラムを苛立たせた。

仲間もいなければ、武もない。

再生能力もなく、ステータスも下がり、エキドナの分一人分すら倒せない今のフラムが、逃げ切れないことなど、見えた結果であろう。

否定はできない、しかし許容もできない。

ここで諦め、ミルキットの命を放棄することなど、あってはならないのだ。

無理を承知の上で突っ込むか、それとも自分を犠牲にしてミルキットだけでも逃がすか――

そんなフラムの苦悩を打ち砕くように、

「フラム、走れッ!」

の聲が響いた。

的にく。

なぜならその聲は、その言葉は、フラムにとって無條件で信頼できるものだったから。

「おおぉぉおおおおおおおッ!」

続けて野太い雄たけびが聞こえたかと思うと、彼の前に立ちはだかるエキドナの脳天に、黒い大剣が叩きつけられた。

黒いコートがはためき、直撃をけた彼は紙人形のように潰れる。

さらに満たされたプラーナが弾け、彼の眼前に存在するもの全てを吹き飛ばした。

扇形に広がる嵐に巻き込まれ、軽く民家が數棟消滅する。

その威力は、フラムが今まで見てきたどの騎士剣キャバリエアーツよりも強力だった。

どこから、それだけのプラーナを引き出しているのか。

疑問はあったが、それよりも彼が來てくれたことが、フラムにとっては何よりの救いである。

「ガディオさんっ!」

力ずくで開かれた突破口を駆け抜けるフラムは、希に満ちた表でその名を呼んだ。

大技を放った彼の背後からエキドナが迫るも、気配を察知し振り向きざまに一閃。

はあっさりと真っ二つにされた。

だが、いくら斬ろうと、エキドナの數はあまりに多い。

を潰さない限り、際限なく湧いてくるのだろう。

彼は殲滅を諦め、ミルキットを抱えて走るフラムと合流、同時に地上へ飛び降りた。

「無事でなによりだ」

そしてガディオは、微笑みそう告げる。

「ガディオさんこそっ! 他のみんなはどうしたんですか?」

「わからん、リーチの屋敷から出するときにバラバラになってしまったからな」

なくとも死んだわけではないことを知り、フラムはほっと息を吐き出す。

二人は同時に路地の前後を確認、左側からエキドナが接近しているのを確認すると――

「突破するぞ」

ガディオは自らそちらに向かっていった。

ある程度の距離まで近づくと、大剣を振るい、気剣斬プラーナシェーカーで分を両斷する。

放たれる気の刃はあまりに巨大で、エキドナどころか、両側の壁にも深くを刻んでいた。

その背後から、さらに四の分が現れた。

彼はその姿を見るなり、素早く十字に剣を振るい、二本の刃が差する點に切っ先を突き立てた。

そうして生まれたのは、路地を埋め盡くすほど巨大なプラーナの盾だ。

「ふんッ!」

両腕に力を込め、追加のプラーナを注ぎ込むと、それを推進力として盾は前進を開始する。

両側の壁を砕き、建を破壊しながら、分たちを押しつぶす。

もちろんエキドナたちも突破してガディオに迫ろうとしたが、それ以上に強大なプラーナのに阻まれている。

「す、すごい……」

フラムの気のせいなどではない。

やはり、不自然に強すぎる。

以前から戦闘に関しては、他の英雄と比べても抜きん出た能力を発揮していたが、今日のガディオはさらにその上を行っている。

プラーナの生とは、いわばステータスにおける力の値を、筋力の値に上乗せするようなものだ。

継戦能力を捨て、一時的な火力を増強する――しかしそれは、無制限に強くなれる魔法の力ではない。

限界を越えた先にも、別の限界は存在する。

それをさらに越えたいというのなら、プラーナが力を代償に生されるように、人は何かを犠牲にしなければならないだろう。

「ガディオさん、なんだかいつもより……活力に満ちているように見えます」

ミルキットは、彼の背中を見ながらつぶやいた。

確かに言われて改めて観察してみると、フラムからも見てもそう思えなくもない。

彼の背中を追って走る。

そので、不安が膨らむ。

今の狀況は、絶的でありながら、しかしガディオにとっては待ちんだ時なのかもしれない。

合法的に、正々堂々と、ティアや仲間たちの仇であるエキドナを殺せるのだから。

そしてそのためなら、彼はどんな代償だって支払うだろう。

「フラム、先にある角を左に曲がれ。そのまま真っ直ぐ進めば、門の前に出るはずだ」

「エキドナは……」

「俺が引き付ける」

「じゃあガディオさんは、どうやって出するんですか?」

フラムの問いを、ガディオは「はっ」と軽く笑った。

「エキドナを殺って外に出る。それ以外に何かあるか?」

そしてさも當然のことのように、彼は言う。

どんなにガディオが経験富な戦士だとしても、今の王都から逃げ出すのは容易ではない。

あんな化と戦っていてはなおさらだ。

確かに彼が囮になれば、フラムは無事に外に出られるだろう。

だが、互いに協力しあえば、三人が全員生き殘る確率は、格段に上がるはずである。

フラムは武を失っているとはいえ、反転能力を使ったサポートなら可能だ。

普通なら、そうするべきだ。

しかし――今のガディオの、殺意と歓喜のり混じった表を見てしまうと、フラムには『一緒に逃げましょう』とは言えなかった。

「俺は今日まで、この時のために生きていた。それがようやく葉うんだ。ここで逃げれば、俺は自分の人生を否定することになる」

まるでフラムの心のを読んだように、彼は言った。

フラムたちと出會い、ケレイナやハロムと絆を深めることにより、彼には多の“生への執著”が生まれつつあった。

だがそれは、復讐の念を上書きできるほどのものではない。

妻であるティアを、親友であるソーマを、そして仲間たちを殺したエキドナを殺すためならば――命など、いくらでも捧げてみせる。

その覚悟は揺るがず、今も彼の心の中に、呪いのように居座り続ける、

フラムでは、その呪いを反転させることはできそうにない。

「あの……ガディオさん」

「なんだ?」

だからそれは、悪あがきだ。

無駄だとわかっていても、しでも彼を繋ぎ止められるように、フラムには伝えなければならないことがある。

それに、ガディオがエキドナに勝利して、生き殘り、すぐに王都を出て追いかけてくる可能だってあるのだ。

そう、敗北を決めつけるのはまだ早い。

確かに相手は強大で、仮にフラムが萬全の狀態だったとしても、勝てるかどうか怪しい相手だが――ガディオなら、それでも。

「今度、時間ができたら、今までよりももっとすごい技を教えてもらえませんか?」

「騎士剣キャバリエアーツのことか? それなら今の段階で十分に使いこなせているだろう」

「でもっ、ほら、剣が無くても使えるとんでもない技とか、まだあるかもしれないじゃないですか!」

まるで子供のような発想に、ガディオは苦笑いを浮かべる。

同時に、彼の手の甲にエピック裝備の所有を示す刻印がないことに気づいた。

「そういえばフラム、剣はどうした?」

「それが……エキドナに、折られてしまって」

「なるほど、あれほどの剣が折られるとは、エキドナは相當の力を手にれたらしいな」

「だからこそ、こういうときでも戦える方法が知りたいんです」

「無いわけではないが……」

「だったらそれを!」

「……ふっ。そうだな。ああ、約束しよう。戻ったら必ず稽古をつけてやろう」

それを聞いて、フラムの表はぱっと花が咲いたように明るくなった。

対照的に、ガディオの表は罪悪に微かに曇る。

「それじゃあ、またあとで」

頭を下げるフラム。

ミルキットも、彼の腕の上で禮をした。

しかしその瞳は恨めしげで、『ご主人様を裏切らないでくださいね』とガディオを責め立てているようにも見える。

「ああ、またあとでな」

彼はミルキットの視線から逃げるように目を逸らし、そう返事をした。

そして二手に分かれ、走り出す。

フラムとミルキットは路地を回り込み、再び門の方へと。

ガディオは王都の大脈、中央區のど真ん中を貫く大通りへと――

「本當に……これで、正しかったのかな……」

薄暗く狹い道を駆け抜けながら、フラムはそうこぼした。

「今のガディオさんは、誰にも止められません」

を噛む主をめるように、ミルキットが言う。

確かに誰にも止められない。

しかし、ついていくことぐらいはできたはずだ。

邪魔だと言われても、復讐の手助けをして、しでも生き殘る確率を上げて――もっとも、その分だけミルキットを危険に曬すことになるわけだが。

つまり、フラムはミルキットとガディオを天秤にかけてしまったのだ。

そしてする人を選んだ。

殘酷に、正直に、自らの意志で。

それを『間違いではない』と思えてしまう自分の薄さが、今は恨めしい。

たとえ正しいと思える選択だったとしても、悔やまずにはいられない。

そうやって走っているうちに、最初にエキドナと遭遇した壁沿いの通りに出た。

すでに彼の姿はそこにはなく、分が追ってくる様子もない。

そのまま門に近づくと、無數の死が倒れているのが見えた。

いや――死ではない、エキドナ・・・・だ。

様々な服裝をしたエキドナが、捨てられたようにぴくりともかず打ち捨てられている。

その數、軽く見渡すだけでも數百

「だから……中央區は、やけに靜かだったんですね」

全員がエキドナに殺され、管を突き刺され、エキドナへと変えられた犠牲者たちだ。

どうやら管が刺さっていなければ、活できないようである。

しかしこの有様では、もはや誰が死んだのか判別するのは困難だろう。

それらを乗り越え、二人は前に進む。

そして、王都と外を隔てる門の手前で足を止めた。

振り返ると、門から王城まで、大通りが真っ直ぐにびていた。

石畳の上には、倒れる人形のようなエキドナと、普通の死が無數に転がっている。

また、殘る數ない生者を探して、地上では片にられた死者と人狼型キマイラが徘徊し、空中には獅子型と飛竜型のキマイラが飛び回る。

街を燃やす炎は空を暗く茜に染め、さらに黒煙が高く高く舞い上がる。

「オリジン……!」

フラムは憎しみを込めて、吐き捨てる。

そして最後に、大通りの真ん中でエキドナと戦うガディオの姿を見て――あふれそうになる涙を振り払うように、背中を向けた。

門をくぐり抜け、外に出た瞬間に空気が変わる。

満ちていた死の匂いが薄れ、爽やかな草原の風がフラムとミルキットの頬を凪いだ。

開放を得るとともに、うまく言葉では表せない喪失が去來する。

フラムだけではなく、ミルキットも同じことを考えていたのか、寂しげに目を細めた。

だが、王都からキマイラが追ってこないとも限らない。

いつまでもここで、立ち盡くすわけにもいかないだろう。

「行きましょう、ご主人様。どこへかはわかりませんが」

「大丈夫。きっとどこかに、安全な場所があるはずだから」

そんな不確かな希め、二人は広い世界へと足を踏み出すのだった。

◇◇◇

一方で、王都に殘り大通りに出たガディオは、エキドナの本と対峙していた。

「あらぁ? 誰かと思えばぁ、奧さんも親友も仲間も誰も守れずにのうのうと生き殘った、負け犬英雄様ではないですかぁ♪」

「ずいぶんと口が達者になったな、エキドナ」

「おかげさまでぇ、今はとぉっても気分がいいんですのよぉ?」

別にコアで格が捻じ曲がったわけではない。

エキドナの本は、最初からこうなのだ。

でなければ、良心の呵責もじずに人実験を行ったり、制もできないキマイラを野放しにしてティアたちを殺したりはできないはずである。

「それは俺も同じだ。貴様を殺すために、これまで生き恥を曬してきたのだからな!」

大剣を擔ぎ、ガディオは地面を蹴る。

空を切り、押しつぶすようなプレッシャーを纏い接近する彼を前に、エキドナは管で繋がった分たちを差し向けた。

立ちはだかる複數の壁を、ガディオの刃が消し飛ばす。

れた瞬間ににプラーナが注がれ、まるで反転したかのように破裂したのだ。

「気合がっていますわねぇ、ですが最初からそんなに飛ばして大丈夫ですのぉ?」

を破壊され、接続先を失った管は、付近に倒れているエキドナの姿をした死に突き刺さる。

するとまるで命を得たかのように死は起き上がり、ガディオに向かって走り出した。

「見ての通り、スペアはこれだけありますのよぉ?」

「ならば本を潰すだけだッ!」

群がる分を強引にかき分け、ガディオは宣言通り本薄した。

振り下ろされた刃に、エキドナは足の間からびる管を絡める。

「ぐっ……!」

「人間ごときが、オリジンの力に勝てると思いましたのぉ?」

は挑発するように笑った。

そしてさらに別の管をガディオにばし、突き刺そうとする。

「理屈など関係ない。俺は、貴様を殺すッ! ただ、それだけだあぁぁぁぁぁッ!」

賭命・騎士剣キャバリエアーツ・サクリファイス――命を削って作り出されるプラーナが、管を弾けさせ、拘束を解く。

「これは……っ!?」

迫る刃を前に、初めてエキドナは余裕をなくした。

そして彼のを貫こうとしていた管を防に回し、その一撃をけ流す。

大剣は地面に叩きつけられ、ゴバアァッ! と地面をえぐり、そしてその向こうにある建をも巻き上げ破壊した。

「あなた……ふふふっ、そういうわけですかぁ。文字通り、私を殺すことに命を賭けてらっしゃるのねぇ?」

エキドナは、その力の源泉を即座に理解し、あざ笑う。

「かわいそうに、やはり人のではぁ、命を使ってもその程度の力しか出せませんのねぇ」

「強がると口數が増えるのだなッ!」

続けざまにガディオは剣をなぎ払い、プラーナの刃をエキドナに放つ。

すると彼はいくつかの管を束ね、それを盾とすることで攻撃を防いだ。

すかさずガディオは飛び出し、距離を詰める。

しかし遠方から迫る殺気をじ取ると足を止め、飛來する螺旋の力・・・・を剣でけ止める。

「ぐっ……キマイラか!?」

飛竜型の撃をどうにかけ流す。

だがいつの間にか、彼は無數のキマイラに囲まれていた。

まるでガディオを狙って、この場所に集結したかのようだ。

「私にはぁ、可い子どもたちがいますのぉ。コアを取り込んだ今はぁ、その存在を以前よりも近くにじますわぁ!」

同じコアを持つものとして、エキドナとキマイラたちは意志を共有していた。

に生み出された子供であるキマイラたちは、その指示にある程度、従うのである。

「くうぅっ、エキドナあぁぁぁッ!」

「あっはははははぁっ! 卑怯だなんて言わないでくださいねぇ? あなたがたとて、さんざん仲間とともに戦ってきたのですからぁ!」

エキドナの嘲笑響く中、四方八方から螺旋の弾丸が放たれる。

ガディオは地面に剣を突き立て、気円陣プラーナスフィアを放つ。

すると自らの周囲數メートルに存在するが、問答無用に吹き飛んだ。

もちろん螺旋の弾丸も消えるが、しかし弾幕はそれで打ち止めではない。

次々とタイミングをずらして次の弾が出される上に、エキドナの分も迫ってくる。

「隙だらけ、ですわぁ」

加えて、エキドナの本までもが赤くねじれた管をばした。

飛び上がり、を捻り回避を試みるが、弾丸がコートのみならず、彼の手足に傷を刻む。

著地と同時に剣を叩きつけ、気剣嵐プラーナストームで前方に存在する人狼型とエキドナの分を破壊。

だが直後、別の分が立ち上がり、さらに建の影から新手のキマイラが現れた。

まるで王都に存在する戦力を全てガディオを狙うことに費やしているかのような、數の暴力。

これだけ引き寄せられたなら、フラムのみならず、他の生存者も何人かは逃げられただろう。

だが、ガディオの限界も近い。

頭を狙う螺旋の弾丸を剣の腹でガードするも、その威力に押されてよろめく。

側方から迫る赤い管。

これだけはけてはならないと、強引に地面を蹴って後方に宙返りをして、どうにか回避。

不安定な勢を狙って、獅子型が爪による強襲を仕掛けてくる。

剣を振るい迎撃。

だが浮き上がった今のガディオは當然のように押し負け、吹き飛ばされた。

「があぁっ!」

壁に叩きつけられ、頭を強打する。

揺れる意識。

すぐに立ち上がるものの、足元が覚束ない。

當然、攻撃の手は緩まらず、顔を上げた瞬間、そこには視界を埋め盡くすエキドナの顔面があった。

彼のを飲み込むほど大きく、口が開く。

「あ……ああぁっ!」

顔を苦痛に歪めながらも、側方に跳躍し、顔から逃れる。

よろめくガディオに、次は複數の管が迫った。

「おおぉぉおおお!」

がむしゃらに剣を振るい、プラーナの嵐で吹き飛ばす。

本來、その程度できを止めるものではないが、エキドナもさほど力を込めていなかったのか、管は散り散りになって逸れていった。

攻撃の直後、無防備になったガディオの

その目の前に――エキドナの本が、立ちはだかる。

とどめを刺すのは分でもよかったのだが、『どうせなら自分の手で殺したい』という彼の趣味の悪さが、合理を上回ったのだろう。

「エキ……ドナ……ッ!」

「哀れな男ぉ♪」

は手刀の先端をガディオのに當て、ぞぶりとに沈ませた。

そしてで脈打つ心臓を摑む。

「か……がっ……!」

目を見開き、震えるガディオの

それを見て満足気に笑うと――彼は握った心臓を、一気に引き抜いた。

脈打つ新鮮な臓は、今の彼にとってとても味しそうに見えるらしい。

口に運び、顔をで汚しながら、ぐちゅりと噛みちぎる。

「さようなら、ガディオ・ラスカット。きっとあなたの人生はぁ、今日この日に、私の心とお腹を満たすためにあったのですわぁ」

勝ち誇るエキドナ。

返事を期待したものではない。

心臓を引き抜かれてしまえば、普通の人間は死ぬのだから。

そして背中を向け、ガディオから離れていった。

「ふ……ふふ……」

しかし――聞こえてきた笑い聲に、足を止める。

振り向くと、ガディオが、肩を震わせて笑っていた。

「ふ、はは……あははは……っ!」

つまりこの場合、彼は普通ではない・・・・・・ということだろう。

わかりきったことだ。

普通の人間であれば、これだけの敵に囲まれればとっくに諦めている。

復讐なんて投げ出して、命乞いでもするかもしれない。

だが彼の場合は違った。

復讐に賭ける想いは、自らの命をも凌駕する――

「くははははははははっ!」

がガディオのに管を刺し、自らと同じに変えていれば、戦いはそこで終わっていた。

あるいは心臓ではなくを喰らえば、二度と活出來ないほどに手足を潰せば、エキドナは勝利していただろう。

だが彼は自らの力に酔うあまり、心臓を抜き取るという行為に出てしまった。

は知らないかもしれないが――ガディオは、心臓なしでも人の命をつなぎとめる方法を知っている。

無論、限界はある。

數分か、長くても十數分程度しか保たないだろうが、それでも――

「どうして……人間のくせに、心臓を失って生きていますのぉ!?」

「禮を言うぞ、エキドナ」

――死ぬとわかっているのなら、命を賭けることに躊躇いなどない。

賭命・騎士剣キャバリエアーツ・サクリファイスは、確かに強力な力だ。

しかし人間という生の本能は、どうしても自分を生かそうとする。

どこかで、力の使用にセーブをかけてしまうのだ。

だが、心臓を失った今のガディオには、本能のストッパーなど存在しない。

「これで俺は、気兼ねなく命を使い切ることができるッ!」

彼は狂喜する。

人生における強さのピークが、復讐を遂げるこの瞬間であることを。

そして、本當の意味での――ガディオ・ラスカット、最期の戦いが幕を開けた。

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