《「お前ごときが魔王に勝てると思うな」とガチ勢に勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい》検死2 復讐者
大地を踏み砕き、エキドナの本に斬りかかるガディオ。
彼の敏捷はせいぜい2000を超える程度、今のエキドナならば簡単に避けられる數値だ。
しかし実際は、數値から想像される速度を遙かに凌駕していた。
プラーナでステータスが上乗せされているにしても、これは――とっさに赤い管を束ね、盾にして防ぐので一杯である。
「エキドナアァァァァァァァッ!」
彼の鼓を震わせる、狂喜の絶。
そして振るわれる、黒い鉄塊。
だが、エキドナを守るねじれた管は、オリジンの力が込められたもの。
細く長い糸のようにも見えるが、その強度はフラムが反転を使っても抑えきれないほどだ。
つまり筋力8000程度・・の斬撃ならば、必ず防ぎきれるはず。
仮にプラーナによる強化がされていたとしても、突破できるものではない――エキドナの口元に浮かぶ笑みは、そう確信しているからだ。
に満ちる、神より與えられし人智を超えた力。
彼は人の可能を否定し、オリジンに未來を委ねる。
ゆえに、人の命を軽視しすぎる。
「うおおぉぉぉおおおおおッ!」
振るわれた刃が、赤い管を両斷する。
エキドナの瞳が大きく開く。
戸う彼の表に、ガディオは満足げにニヤリと笑った。
そして無防備になった彼に向けて、次の一撃を仕掛ける。
「キマイラぁっ、私を守りなさぁい!」
エキドナがそう呼びかけると、周囲のキマイラが一斉に螺旋の力をガディオに放った。
「チィっ!」
直撃を食らうとさすがにまずい。
ガディオは後退する。
すると、周囲を人狼型キマイラが取り囲んだ。
すぐさま飛びかかってきた敵を、彼は大剣で串刺しにする。
もはや、オリジンの力がを強化していようが何だろうが関係ない。
殘されていたはずの壽命――その全てを使い果たす覚悟を決めた彼の剣に、貫けないものは存在しなかった。
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だが一を処理しても、次々と他の人狼型が群がってくる。
「ふうぅぅ――」
大きく息を吐くガディオ。
彼は生したプラーナを、腕から大剣へ、そして大剣からキマイラへと注いでいく。
刺し貫かれ、手足をばたつかせるそれは、もはやプラーナの弾と化していた。
そして迫り來る別の個に叩きつけ――発破。
ドゴォォオオオオンッ!
空中で弾け飛んだキマイラは、仲間たちを巻き込みながら盛大に弾ける。
しかし、彼らに死を恐れるという概念は存在しない。
視界を塞ぐ砂埃の向こうから、人狼型、さらには獅子型までもがガディオに突っ込んでくる。
怖気ず、彼は両手で大剣を高く構えた。
力と命を削ることによるプラーナ生。
だがそれだけでは説明できないほど強い力が生まれるのを、ガディオはじていた。
(お前たちが力を貸してくれているのか――)
すでにこの世には存在しない、キマイラに命を奪われた者たち。
この剣の本來の持ち主であり、親友かつライバルだったソーマ。
パーティでは唯一と言っていいほどの常識人で、影の大黒柱と呼ばれていたジェイン。
専門知識は優れていたが、ずば抜けた変人で、なにかと周囲を騒がせていたロウ。
ガディオの妻であり、いつだって明るい笑顔で自分を支えてくれたティア。
(待っていろ。エキドナを殺して、すぐにお前たちの所に行くからな)
全ての想いを載せて、刃に、周囲の景が歪むほどの力が込められる。
「はあぁぁぁぁぁぁああッ!」
その全てを、一刀に込め放つ。
気剣斬プラーナシェーカー――否、気剣《プラーナクラスター》である。
地面をえぐり、その衝撃波で近づくを破壊しながら進む気の塊。
それはキマイラの群れと衝突する寸前で、花が咲くように無數の刃に分裂した。
予想外のきに対応できず、次々と細切れにされていくキマイラたちの。
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獅子型ですらも例外ではない。
人狼型よりも頑丈なでも、ガディオの放った刃は容赦なく切り刻む。
「なんですのぉ、その力はぁっ!?」
エキドナは戦慄した。
反転の力を持ったフラムですら突破するのに苦労したキマイラのが、こうも簡単に破壊されるとは。
勇者であるキリルならともかく、ただの戦士であるはずのガディオが、なぜここまでの力を発揮できるのか。
「これが、人の命の可能とでもいいますのぉ!?」
人の可能を諦めた彼には、理解できない。
しかし目の前で繰り広げられる現実が、否定を許してくれない。
「巖刃タイタン――」
気剣プラーナクラスターで負傷したキマイラたちの傷は、すぐにねじれ、止される。
そして生としての特徴を失う代わりに、オリジンの影響を濃くしていくのだ。
デタラメに螺旋の力をばらまく厄介な片になる前に、ガディオはそれを叩き潰そうとしていた。
中段に構えた剣を、魔力により作り出された巖が包んでいく。
いつもなら數メートルの大きさで止めるところを、二十メートル近くにまで大化させる。
命を賭けて作り出したプラーナがなければ、抱えることすら出來ない重さである。
ガディオの両腕には、くっきりと管が浮かび上がっていた。
それを肩に擔ぎ――キマイラの群れに、叩きつける。
「轟気グランクラッシャァァァァァァッ!」
ズウウゥンッ!
巖の刃が大地に叩きつけられ、剎那の靜寂。
そして――ゴバアァァァァッ! 直後にプラーナが弾け、一帯に存在するあらゆるが高く高く舞い上がった。
家も、瓦礫も、無論キマイラやエキドナの分まで。
そして浮き上がったあらゆる質は、空中で々になるまで刻まれていく。
王都全を揺らすほどに轟く破壊音が収まったとき、ガディオの視界には、もはや何も殘っていなかった。
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刃を包んでいた巖も砕け、彼はその切っ先を、ちゃっかりと退避していたエキドナ本に向ける。
「はっ……はぁ……はは、ははは……どうしたエキドナ、これで打ち止めか?」
「ま、まだっ、まだですわ、飛竜型ぁ!」
想像を絶する威力に、彼は焦った様子で、空中に待機していた飛竜型に呼びかける。
指示をけたキマイラは、龍の頭部をぐぱぁっと四つに開いた。
その奧底で渦巻く力――人狼型や獅子型とは比べにならない螺旋が、さながらドラゴンのブレスのようにガディオに向けて吐き出される。
「螺旋には、螺旋を」
迫る強力な一撃を前に、弓を引くように腰を低く落とし、を捻り――
「はあァッ!」
刺突を放つ。
その先端から、プラーナの矢が放たれた。
迫る螺旋に比べると、それはあまりに細く鋭い。
しかし高速で回転することにより、周囲の空気を巻き込み、次第に竜巻のように渦巻いていく。
膨大なプラーナ生を前提として立する剣技、気穿旋槍《プラーナスピア》だ。
二つの力が空中で激しくぶつかりあう。
威力はほぼ同等。
つまり――勝敗は、込められた意志の強さで決まる。
心の勝負ならば、キマイラのようなり人形に、ガディオが負ける道理は無い。
打ち負けた螺旋が消失する。
だが衝突によって軌道が逸れたプラーナの矢は、飛竜型のではなく、翼を貫くに留まった。
「グギャオオォオオッ!」
空中でバランスを崩し、キマイラが地上に降りてくる。
まだ致命打には程遠い。
コアを抜き取るか、を完全に破壊しない限り、きが止まることは無いのだ。
巨がガディオに迫る。
彼も自ら、その強大な敵に立ち向かっていく。
前足が振り上げられ、鋭い爪が彼を襲った。
「ぐぅ……っ!」
ガディオは大剣でそれをけ止める。
命を捨てた彼でも、飛竜型相手となると一筋縄ではいかない。
だがこれを打ち倒さなければ、エキドナを殺すことはできないのだ。
殺さなければティアに、みんなに顔向けできない。
そう、殺さなければ――
(殺す、殺す、殺す、殺す殺す殺すッ!)
強い殺意が、ガディオにさらなる力を與える。
「ぬおぉぉおおおおおおッ!」
命を吐き出すように雄び、力ずくで前足を退ける。
そしてよろめく飛竜型の足に、気剣斬プラーナシェーカーを放った。
ザシュッ、とを撒き散らしながらダメージを與えるも、切斷には至らず。
「ならばあぁぁぁぁッ!」
一撃で足りぬのなら――と、目にも留まらぬ連撃を繰り出した。
気剣連斬プラーナストリームとも呼ぶべきその剣技は、命中のたびに傷を深くえぐり、ついには前足を切斷することに功する。
傷はすぐにねじれ、は止まるが、羽と前足を失った飛竜型は、その機力を大きく喪失した。
そしてガディオは今度こそ、修羅のごとき形相でエキドナと向き合った。
「次は……貴様の番だ、エキドナ」
「オリジンの力が……人に負けることなどぉ……そんな、そんなこと、あってはならないことですわぁ!」
「だからどうした。託を並べる暇があるならかかってこい」
「認めません、認めませんわあぁぁぁッ!」
人ではたどり著けない可能がオリジンにあったからこそ、彼は迷いなく実験のために人間の命を利用することができた。
だが、人の命そのものに、オリジンを超えるだけのポテンシャルが眠っているのだとしたら。
それを認めてしまえば、エキドナの研究の正當が失われてしまう。
誰かが罪を追求するわけでもないが、自が味わう敗北に、おそらく彼は耐えられない。
だから目の前に存在するガディオという存在を、彼は全力で否定しなければならなかった。
エキドナはコアよりさらに多くの力を引き出す。
すると顔面が醜く渦巻いた。
そしての渦から、吐き出されるとともに無數の赤いねじれた管が現れる。
それらは、何百と倒れているエキドナの姿をした分たちに突き刺さり、命を吹き込む。
「押し潰れろぉおおおおおおおッ!」
もはや口調を取り繕う余裕すらないのか、エキドナはそうんだ。
百近くの分たちが一斉にガディオに飛びかかる。
「今さら數で勝負か? コアの影響で脳まで腐ったか!」
笑うガディオ。
彼は剣を薙ぎ払い、一回転した。
そして吹き荒れるプラーナの嵐が、分たちを砕しながら吹き飛ばす。
一たりとも、彼のにれることは葉わない。
「まだですわぁ、私はまだ全てを出し切ってはいませんわぁッ!」
ぶじゅっ、とを撒き散らしながらエキドナは喚いた。
管を突き刺し分を補充、それら數十を束ね、巨人を作り出す。
西區を徘徊する巨人と同じ理屈だ。
単で葉わぬのなら、束ね、強大な個として立ち向かう。
しかしガディオは、『だからどうした』と言わんばかりに鼻で笑った。
「束ねたか。ちょうどいい、手間が省ける」
刃が巖を纏う。
それを邪魔するようにけない飛竜型が螺旋を放つが、軽々と避け、ガディオは分の集合に接近した。
「うおおおぉぉおおッ!」
そして巨巖の剣を、分に叩きつける。
キマイラの群れを砕くほどの一撃を、巨人は両手を差させガードする。
さすがの頑丈さだ、エキドナが自信を持つだけはある。
「おぉぉおおおおおおお――」
だがガディオの方も、ここで終わりではない。
両腕と刃にプラーナを注ぐ。
ぐぐ……と、巨人の腕がわずかに押された。
「このような木偶の坊でぇッ!」
さらに命を捧ぐ。
増していく圧力に、巨人のかかとが地面を削り、後退する。
「あなたの敵はそれだけではありませんわよぉ、ガディオ・ラスカット!」
エキドナの本は、力比べに集中するガディオに向かって管をばした。
無防備な背中に、敵意が迫る。
じている、わかっている、しかし――彼は振り向かない。
諦めたのではない、その必要が・・・・・無いから・・・・だ。
黒いコートを貫き、背中に突き刺さる無數の管。
そして注がれる、同化を強要する紅の猛毒。
このままいけば、ガディオのはエキドナと同化するはずだった。
「あははははっ! これで終わりですわねぇ!」
上機嫌に笑うエキドナ。
だが、ガディオはびくともしない。
むしろ、刺さった管の方が膨らみ――
「へ……?」
パァン! と風船のように破裂した。
プラーナが逆流し、の流を阻止したのだ。
もはや、ガディオを邪魔するものは何もない。
プラーナの生はさらに加速し、そのエネルギーは巨人の力を完全に凌駕した。
「そのような小手先の企みでッ、今の俺に勝てると思うなあぁぁぁぁぁッ!」
ズシャアアァァッ!
巖刃が、け止めていた腕ごと、巨を真っ二つに斬り裂いた。
大量のを撒き散らしながら、巨人を構していたエキドナたちが、バラバラになって地面に落ちていく。
切り札が破れた。
まだ分のスペアは殘っているが、これを使ったところでガディオを止められるかどうか。
エキドナは認めたくない。
しかし、もう認めてしまいそうだ。
――この男は強い。
そして、人の命はときに、オリジンの力を上回るのだと。
それでも、研究者としての挾持が、けれることを拒む。
理屈ではない、意地だ。
彼は再び管を突き刺し、分を寄せ集める。
「は……まだ懲りないとは、醜いやつだ」
消耗が激しい。
自分の命がそう長くないことを、ガディオは悟っていた。
おそらくエキドナも、そろそろ勝負を決めに來る頃だ。
次が――最後になる。
「私は死にませんわぁ。この素晴らしい力を、もっと味わっていたいですものぉ!」
束ねた分が、全て本に集まっていく。
大化し、変形していくエキドナの右腕。
それは分の一部を弓に、びる管を弦にした、巨大な出機構となった。
つがえる矢は、殘りの分全て。
人を寄せ集めただけの巨大な矢は、先端がオリジンの力によってねじれ、鋭利な矢じりを作り出す。
そして強靭な赤い管で作られた弦が自的に引かれると、ガディオに狙いを定めた。
「ならばその素晴らしい力とやらを、正面から打ち砕いてやろう」
そう言って、彼は地面に剣を突き立てる。
普段はあまり使わない技なのだが――威力という點においては、これに勝るものはない。
いかんせん使い勝手が悪く、こういう馬鹿正直にぶつかり合う戦いでもなければ、使いどころがないのだ。
ちょうど、今のような狀況でなければ。
刃から地面へプラーナが注がれる。
それはガディオの足元に留まり、破裂寸前の狀態にまで膨れ上がった。
準備はこれで完了だ。
彼は剣を引き抜く。
そして腰を落とし、低く構え、エキドナの弓と向き合う。
発想の愚直さで言えば、彼のあれも相當なものだ。
それは同時に、追い詰められているという証拠でもある。
向き合っている間にも、溫は失われていく。
近づく死。
エキドナと決著をつけられると思うと、その覚すらも心地よい。
『今度、時間ができたら、今までよりももっとすごい技を教えてもらえませんか?』
約束が蘇る。
まるで走馬燈のようだ。
いや――事実、そうなのかもしれない。
命の喪失を、脳が予しているのだ。
(すまないなフラム、最初から果たせない約束などわしてしまって)
無責任だが、あの場はそう返事をするしかなかった。
『パパ、今度はハロムとお外でいーっぱい遊ぼうね!』
次に思い出すのは、自分を父と慕う子供の姿。
こんなことなら、拒み続けていればよかった。
しかしそれができるほど、ガディオは己を捨てられない。
甘い男だ、と自分でも思う。
『もし、もしもだよ。あたしとガディオの子供ができたりしたら……名前、どうする?』
そして次に浮かんできたのは――自分に好意を寄せる、親友の元妻である。
復讐の日々は、あまりに長かった。
おそらく、一人では立しなかっただろう。
今日、この場所に自分が立てているのは、間違いなく支えてくれた人々の協力があったからだ。
――と言っても、今さらそんなものは言い訳にしかならないわけだが。
『……ごめん、面倒くさいよね、あたし。いいんだ、ガディオにはティアがいるから。一度だけでも、応えてくれたらそれで十分だよ』
あるいは、三人で歩む道もあったのかもしれない。
そして今を生きる仲間たちとともに、新たに冒険者として生きるのだ。
それこそが、正しい道だった可能もある。
だとしても――魂に刻まれた喪失は、時間で癒えるものではなかったのだ。
埋まらぬ空白に苦しみながら生きるより、『彼に報いるため』と自分を納得させて、もがく方を選んだ。
その選択に――後悔などはない。
「これで、終わりですわぁ!」
「ふッ!」
矢が放たれるのと、ガディオが地面を蹴るのは、ほぼ同時だった。
その足が大地を揺らした瞬間、そこに込められたプラーナがぜる。
気吼疾雷斬プラーナアサルトバースト――その衝撃は彼のを砲弾のように、急加速させた。
「ぎっ、いいいぃぃ……ッ!」
ガディオは臓が潰れそうな加速度に耐えながら、大剣を手に空を駆ける。
いや、潰れたって構いやしない。
どうせこれで終わりなのだから。
目は走り、鼻と耳からが溢れ、強く噛み締めた歯が赤く滲む。
時はゆっくりと進む。
放たれた矢と前進したガディオが衝突するまでに要する時間は、わずか0.1秒。
その剎那に起きたのあらゆる変化を、彼は克明にじ取っていた。
全の管がはち切れ、が飛び散る。
筋が斷裂し、激痛が走る。
しかし彼は、もう止まらない。
「づっ、ぎがああぁぁぁぁッ!」
刃が矢と接。
束ね捻れこの世に存在するどんな金屬よりもく強化されたその矢じりを、黒い刃が砕する。
そして竹を割るように、分の矢は真ん中から両斷されていった。
そのままの速度で、ガディオはエキドナに接近する。
振り下ろした刃を再び構え、勢いをそのまま、彼の上半にぶち當てた。
彼は瞬時に管で防ごうとするも、その程度で止まるはずがない。
「あ――」
言葉を発する時間など無かった。
大剣にれた瞬間に管は弾け、そしてエキドナのもまた――バシュッ、と消し飛ぶ。
下半だけになった彼を通り過ぎると、ガディオは著地する。
だが両足だけでは有り余るスピードを抑え込めず、ズザザッと數メートルり、剣を地面に突き立ててようやく停止した。
彼が止まったのとほぼ同じタイミングで、エキドナの下半が倒れる。
に取り込まれていたコアも、その付近に落下した。
「あ……あぁ……」
もはやガディオのに、力は殘っていなかった。
立っているのが一杯の狀態で、ゆっくりと振り返る。
そして、エキドナの死を見た彼は、口元に笑みを浮かべ――
「俺は……やったん、だな……ティア……」
崩れ落ちる。
そのまま、二度と目を覚ますことは無かった。
ガディオ・ラスカットは、ようやくみを果たしたのだ。
◇◇◇
「……くん」
誰かが俺のを揺らしている。
知っているの聲だ。
聞いているだけで、ひどく懐かしい気分になる。
「ガーくん」
俺をそうやって呼ぶなど、一人しかいない。
ティアだ。
しかし、彼はとっくにこの世にいない。
どうせ夢でも見ているのだろうと思い、俺はゆっくりと瞳を開いた。
目の前に、青い空が広がっている。
暖かな日が差し込み、頬を爽やかな風がでる。
どうやらここは――草原、らしい。
ほら、やはり間違いなく夢だ。
先程まで、俺は夜の王都にいたのだから。
「あ、やっと起きた。もう、ガーくんったらねぼすけさんだなあ」
突如視界に現れたティアは、こつんと人差し指で額を小突いた。
し痛かった。
まるで現実のように。
「なにその顔。まだ寢ぼけてるの? 気持ちはわかるけど、そろそろ目を覚ましてくれないと、あたしすねちゃいますよー?」
「……ティア、か?」
「それ以外、誰に見える? あー……ってそっか、そういうこと・・・・・・もあったんだもんね」
ネクロマンシーのことを言っているのだろうか。
なぜ死んでいたはずの彼が、それを知っているのだろう。
いや、夢だから當然と言えば當然なのか。
「大丈夫、ここには偽なんて存在しないから。失われたものだけど、だからこそ本なんだよ」
「ここは、どこだ? 俺は……」
言い終わるより前に、ティアが俺を抱きしめた。
らかな腕に包まれ、ぬくもりと、甘い匂いがいっぱいに広がる。
思わず泣いてしまいそうなほど、心地よいだった。
夢で――ここまで鮮明に、まで再現できるものなのだろうか。
「夢でもない。現実……っていい切るのも微妙だけど、確かに私はここにいる」
抱きしめられているうちに、どうでもよくなってきた。
これをずっと、俺はずっと、待ちんでいたんだ。
それが手にるのなら、夢でも現実でも、どちらだって。
「おつかれさま、ガーくん。もう終わったの、だから難しいことは考えないでいいんだよ」
終わった。
そうか、復讐は、終わったんだ。
エキドナは上半が吹き飛び、死んだ。
そして俺の命も、また――
だったらここは、そうか、そういうことなのか。
「ケレイナとの浮気とか、々聞きたいことはあるけど、頑張ったから心の広い私は許してあげよう」
「あれは……」
「わかってる、頼まれたんでしょ? それに、今日までガーくんを支えてくれたんだし、ケレイナには謝してるよ。でも、それとこれとはまた別の問題なのっ」
すねた彼の聲もまた、懐かしい。
こうして本・・の聲を聞いていると、ネクロマンシーはやはり偽だったのだと認識させられる。
なぜ気づかなかったんだろうな、俺は。
「本當はあそこで幸せになってしかったけど、ガーくんったらあたしのこと好きすぎるんだもん。そこまでされちゃ、待つしかないもんね」
「妻にするほどだったんだ、當然だろう」
「んっへへ。そういうの、すっごく嬉しい」
笑い聲が耳をくすぐるだけで、に満ちたが目から溢れ出しそうだった。
ここがどこかなんて、もうどうでもいい。
ティアがいる、それだけで十分じゃないか。
「さて、みんなを待たせると怒らせちゃうし、そろそろ行こっか」
「みんな……?」
「ソーマとジェインとロウだよ、みんなまた一緒にパーティを組めるって楽しみにしてたんだから」
そう言って、ティアは立ち上がる。
ああ、そうか、あいつらも待ってくれていたんだな。
ソーマには……々と言うことがあるな。
ジェインとロウにも面倒な絡まれ方をしそうだが、それもそれで、きっと楽しいはずだ。
「ガーくんっ」
ティアが俺に手を差しべた。
その瞳に、最高級のを込めて。
俺も彼の目を見ながら、自分の手を重ね――しっかりと握る。
もう二度と離さないと、強く誓って。
そして俺らは手を繋いで、ソーマたちの待つ場所へと歩きだした。
その途中で、ふと首を回して振り返る。
そこには、があった。
思わず足を止める。
向こうには、様々な人の姿が見える。
ケレイナやハロム、フラムを筆頭として、必死に生きる道を探す姿が。
もう俺の言葉が屆くことはないだろう。
それでも、何か言わずにはいられない。
「すまないな、俺は先に行かせてもらう」
そう一言だけ告げて、再びに背中を向けた。
そして、二度と振り返らずに、俺は仲間たちの元へと向かうのだった。
◇◇◇
とても悲しいお知らせがあります。
人が死にました。
名前は、ガディオ・ラスカット。
死因は、心臓をもぐもぐ食べられたことです、味しそうですね。
年三十二歳。
彼は幸せだったんでしょうか。
悲しい人生。
無意味な人生。
早く死ねば――
「……わたくしは、そうは思いません」
「その命は無駄などではなかった。なくとも、わたくしの命よりは遙かに」
「ですから、聖としてではなく、オリジン様の使徒としてでもなく……わたくしは一人の人間としてあなたを尊敬し、そしてその死を悼みましょう」
「ご冥福を、お祈りします」
「魔物になったので、ダンジョンコア食ってみた!」 ~騙されて、殺されたらゾンビになりましたが、進化しまくって無雙しようと思います~【書籍化&コミカライズ】
ソロでCランク冒険者のアウンはその日、運よく発見したダンジョンで魔剣を獲得する。しかし、その夜に王都から來たAランク冒険者パーティーに瀕死の重傷を負わされ魔剣を奪われてしまった。 そのまま人生が終わるかと思われたアウンだったが、なぜかゾンビ(魔物)となり新しいスキルを獲得していた。 「誰よりも強くなって、好きに生きてやる!」 最底辺の魔物から強くなるために進化を繰り返し、ダンジョンを形成するための核である『ダンジョンコア』を食い、最強を目指して更なる進化を繰り返す。 我慢や自重は全くせず無雙するちょっと口の悪い主人公アウンが、不思議な縁で集まってきた信頼できる仲間たちと共に進化を繰り返し、ダンジョンを魔改築しながら最高、最強のクランを作ることを目指し成り上がっていきます。 ※誤字報告ありがとうございます! ※応援、暖かい感想やレビューありがとうございます! 【ランキング】 ●ハイファンタジー:日間1位、週間1位、月間1位達成 ●総合:日間2位、週間5位、月間3位達成 【書籍化&コミカライズ】 企畫進行中!
8 121チートスキルはやっぱり反則っぽい!?
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Skill Chain Online(スキルチェイン・オンライン)『世界初のVRMMORPG遂に登場』 2123年、FD(フルダイブ)を可能にするVRギアが開発されてからニ年。 物語の様な世界に期待し、いつか來ると思い続けてきた日本のゲーマー達は、そのニュースを見た瞬間に震撼した。 主人公・テルもその一人だった。 さらにそこから、ゲリラで開催された僅か千人であるβテストの募集を、瞬殺されながらもなんとかその資格を勝ち取ったテルは、早速テスターとしてゲームに參加し、すぐにその魅力にはまってしまう。 體験したSCOの世界はあまりにも、今までの『殘念ソフト』と言われていたVRゲームと比べて、全てにおいて一線を害していたのだ。 來る日も來る日もβテスターとしてSCOの世界にログインする。 SCOの正式オープンを向かえていよいよゲームが始まるその日。SCO専用の付屬部品を頭のVRギアに取り付けて仮想世界へとログインした。 ログインしてすぐ、始まりの街で言い渡されるデスゲーム開始の合図。 SCOを購入する際についてきた付屬部品は解除不可能の小型爆弾だったのだ。 『ルールは簡単! このゲームをクリアすること!』 初回販売を手に入れた、主人公を含む約千人のβテスターと約九千人の非βテスター約一萬人のゲーマー達は、その日、デスゲームに囚われたのだった。
8 51休止中
ごく普通の一般高校生…でもないか… よくいる學校の地味ーズの[魔壁 勇] 天使より悪魔押しの廚二病… 異世界勇者ライフを満喫!…とおもいきや! とまぁ異世界系の小説です!初心者ですがよかったら! ※二作目で【我輩はモンスターである。名前はまだない。】を投稿中です。そちらもよかったら!
8 107いつか見た夢
ある日、突然妹が失蹤した。その妹のため、兄は裏の世界の住人になることを決意する。謀略と暴力が渦巻く世界に巻き込まれていった兄妹の姿を描いたアクション。ことの発端は、妹の友人にまつわるストーカー事件だった。 ※また、過去にあげた回は順次、見やすくしていっています。
8 62姉さん(神)に育てられ、異世界で無雙することになりました
矢代天使は物心ついたときから、姉の矢代神奈と二人で暮らしていた。そんなある日、矢代神奈の正體が実の姉ではなく、女神であることを知らされる。 そして、神奈の上司の神によって、異世界に行き、侵略者βから世界を守るように命令されてしまった。 異世界はまるでファンタジーのような世界。 神奈の弟ラブのせいで、異世界に行くための準備を念入りにしていたせいで、圧倒的な強さで異世界に降り立つことになる。 ……はずなのだけれども、過保護な姉が、大事な場面で干渉してきて、いろいろと場をかき亂してしまうことに!? 姉(神)萌え異世界転移ファンタジー、ここに開幕!
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