《「お前ごときが魔王に勝てると思うな」とガチ勢に勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい》099 incompleted:『検死終 最の人』

とても悲しいお知らせがあります。

人が死にました。

名前は、ミルキット。

死因は、潰されたことです。

年十四歳。

はなんのために生まれてきたんでしょうか。

出會いを経て生きる意味を得たようなことを言っていましたが、全て無意味でしたね。

とても人間らしくて、私は嫌いです。

私は嫌いです。

嫌い、嫌い、大嫌い。

ご冥福を、お祈りしたかったのに。

だから、ご冥福をお祈りします。

◇◇◇

マリアは、酷く冷めた心で事態を俯瞰する。

思えば、教會に裏切られたあのときから、心が溫度を取り戻すのはライナスと一緒にいるときだけだった。

それはある意味で、冷靜かつ頭が冴えている狀態だとも言える。

だから思うのだ。

オリジンは、おそらく神などではないのではないか、と。

いや、彼にとっては世界を滅ぼしてくれるのなら何でもいいのだが。

しかし本來、フラムの拉致さえうまくいけば、“反転”への耐付與は完了する。

あとは封印の完全なる解除を済ませ、この世に存在する生命を全て絶やしにすればいい。

だというのに、わざわざミルキットを殺そうとするのは――いわば、オリジンの趣味だ。

それでは神というよりは、むしろ――と、思考に耽りながら歩く。

そんな彼の頬を、何かがかすめた。

前方の木に突き刺さったそれは、氷の矢である。

「エターナさん、やはり來たんですね」

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マリアは顔も見ずに彼の名を呼ぶと、振り返る。

そこに立っているのは、予想した通り、左手を前にかざすエターナだった。

「そういう、他人を見下してってるような言、ムカつく」

の利き腕は右のはずだが――今は、その右腕が存在しない。

代わりに、包帯で巻かれた切斷面があるだけであった。

「買いかぶりすぎですよ」

「街道での戦闘の形跡を殘したのはわざと。おそらくマリアは、王都から出した私たちの位置を把握してた」

「ですから買いかぶりすぎです。ところで、わたくしなどに構っていていいのですか? 今頃、ミルキットさんたちが生き埋めに――」

「白々しい、助けたところは見てたはず。もちろんケレイナやハロム、その他の人たちも。お前の思通りに全員が生きている」

マリアは「ふふっ」と聲をあげ、軽く肩を震わせた。

「殘念です。オリジン様はフラムさんの大事な人である彼の死を、心待ちにしていたというのに」

「そのくせ助けようとする、その行が理解できない」

「わたくしは世界を滅ぼしたいだけですわ、そのために必要なピースを集めているのです」

「必要でないピースなら、取りこぼしていいとでも?」

は答えない。

それに対し、エターナは明らかに苛立ちをわにして、噛み付くように言った。

「悪人になるなら、いっそなりきってしまえばいい。そうやって半端に善意を散りばめるから、それに期待して巻き込まれて、傷つく人間が増える。お前がやっていることは、純粋な悪よりもずっとタチが悪い」

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それはずっと前から思っていたことだ。

どれだけ悪行の中に善を散りばめようが、悪は悪である。

だが善の部分だけを切り取って、『彼は悪くない』と言う阿呆がいるかもしれない。

いや、実際にいた。

そういう人間は、阿呆だが、往々にしていいやつだ。

彼も例外ではない。

そのいい人間の人生を、彼はもてあそんでいるのだ。

許せるはずがなかった。

「念願を果たして逝ったガディオの死を穢したくせに、想いを寄せ続けたライナスを裏切ったくせに、何千人、何萬人という人々の心をもてあそび、命を奪ったくせに――予防線を張るように、善人面するな!」

エターナは怒りをむき出しにして、聲を荒らげる。

いつもは表現の大人しい彼の言葉は、マリアのに突き刺さった。

「……」

何も言えるはずがない。

どこまでも正論で、しかし間違っていることを理解しながら、その道を突き進む彼はとうの昔に気づいている。

それでも、止まるつもりはなかった。

ライナスを手に掛けたマリアの道は、もはや誰にも修正することなどできないのだ。

過ちだとしても、せめてしでも多くの人が、より良き死を迎えられますように、と。

「コアを取り込んだヒューグが、近づいています」

「なんのこと?」

「早く逃げないと、せっかく助けた人たちが彼に殺されてしまいますよ」

「自分を見逃せと」

「違います。エターナさんの力では、わたくしはおろか、コアで蘇らせられたガディオさんにすら太刀打ちできませんから。むしろ見逃してあげているんです」

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力の差を見定められないエターナではない。

絶対に敵わないことは、対峙した時點で理解していた。

だがフラムを彼らに渡してしまえば、もはや人類に対抗の手段はなくなる。

命を賭けてでも奪い返すべきだが、無駄死にになる可能の方がはるかに――

「ヘイルストーム・イリーガルフォーミュラ!」

しかし納得できない。

気づけば、エターナはのままに魔法を発していた。

「無理だと言っているのに」

マリアが呆れたように言うと、ガディオがいた。

コアにより強化された腕力とプラーナで、剣を一振り。

たったそれだけで、彼らに降り注ごうとしていた氷の雨――いや、その大きさから言って流星群とも呼ぶべき強力な魔法は、簡単に吹き飛ばされた。

エターナほどの使い手が、法外呪文イリーガルフォーミュラを使ってもこの有様。

まっとうな人間で今の二人に勝つことは不可能だろう。

「二度目の警告です。見逃してあげますから、早くヒューグのことを知らせてあげてください」

「ぐっ……」

悔しいが――今は彼の言うとおりにするしかない。

インクも待っているのだ。

エターナはがにじむほど強く噛み締め、マリアに背中を向けた。

◇◇◇

跡跡地まで戻ってきたエターナ。

そこでは、彼の水の魔法によって救出された人々が、アンリエットやオティーリエ、ヘルマン、そしてヴェルナーに介抱される姿があった。

ヴェルナーはこの跡を守っていたはずなのだが、なぜか最初から外にいた。

曰く、たまたま外の空気を吸っていただけらしいが、怪しいものである。

しかしなくとも今は、不穏なきを見せていない。

処斷は後からでもいいだろう。

ミルキットは意識を失っているのか、地面に橫たわっている。

だがが上下しているところを見るに、命に支障は無いらしい。

そしてケレイナとハロムにいたっては、気絶することもなくピンピンしていた。

エターナがこの避難所にやってきたのは、決して偶然ではない。

付近の街道でマリアとライナスの戦闘の形跡を発見した彼は、さらにその後、アンリエットたちに出會った。

そして、フラムたちがここにいることを知ったのである。

がオリジンに狙われていることは既知の事実だ。

ならばマリアの狙いは――と、駆けつけてみれば、案の定であった。

崩落する跡に水をり込ませ、彼らが生き殘るための空間とクッションを作り出す――ギリギリではあったが、『間に合ってよかった』と、救出された人々を見て改めてをなでおろすエターナ。

まあ、マリアはそれも期待していた節があるが、今は素直に喜んでおく。

介抱の様子を眺めつつ、ヒューグのことを伝えようとアンリエットに近づくと、インクが抱きついてきた。

「おかえり」

肩に顔を埋めて、くぐもった聲で彼は言った。

そして服にしがみつく。

よほど心配していたのだろう。

だが、それ以上の言葉は出てこない。

右腕を奪った・・・・・・自分に、そんな資格は無いとでも思っているのだろうか。

エターナは罪悪に苦しむインクの背中を抱きながら、あのとき、王都で起きた出來事を思い出す――

◇◇◇

王都がオリジンによる攻撃をけたとき、リーチの屋敷でパーティに參加していた面々も例外なくダメージをけた。

最初に様子がおかしくなったのはインクだ。

顔が青ざめ、肩を抱いて震えている。

合が悪くなったのかと思い、エターナはパーティ會場を抜け出し、部屋のベッドに彼を寢かせることにした。

エターナが本格的にオリジンの影響をけ、意識を失ったのはそのすぐ後であった。

目を覚ました彼は、インクの狀態がさらに悪くなっていることに気づく。

その全は痙攣しており、汗が吹き出していた。

拒絶反応かとも思われたが、屋敷の中からは怒號やび聲、さらには激しい戦闘の音も聞こえており、危険が迫っていることは明らか。

そこでエターナはインクを連れて、窓から屋敷を出した。

そしてキマイラの気配のない東區の別の建を隠し、インクの診察を始める。

すると寢かされていた彼は突如、跳ねるように上半を起こした。

『う……うぶっ、げ……が、ぼ……っ』

意識は失ったままで、大きく口を開くインク。

その奧底からせり上がり、吐き出され、ぼとりとエターナの腕の上に落ちた――眼球。

気づくより先にに埋沒したそれは、彼の右腕を二本に増させた。

さらに続けて眼球は吐き出され、エターナを追い詰める。

それはインクのに殘っていた、オリジンの殘滓によって引き起こされた現象であった。

一時的なもので、彼の意識が戻ると同時に止まったが、すでにエターナの腕は十本以上にまで増していた。

というより、右手を犠牲にしてそれ以外の部位を守ったのだ。

こうなってしまうと、もう切斷するしかない。

回復魔法の使い手もいないため、治癒は期待できないが、この重荷を引きずって移するよりはマシ――と、エターナはあっさり自らの魔法で右腕を切り落とした。

◇◇◇

それから數日が経った今でも、インクは申し訳なさそうにしている。

まあ、當然といえば當然である。

魔法で止は済ませ、痛み止めも服用しているとはいえ、エターナが苦しげな表を浮かべることもなくない。

隠そうとしていても、ずっと一緒にいたインクにはわかってしまうのだ。

苦しげにれる呼吸を聞いて、原因を作った張本人が何も思わないはずがなかった。

一方でエターナの方も、どうにかしてインクの気持ちを楽にしてやりたいと考えていた。

試しに『インクがわたしの右腕になってくれればいい』とかかっこつけたりしてみたが、むしろ逆効果だった。

そして今は、言葉をかけるだけ無駄だと気づき、とにかくいつも通り一緒に過ごすことにしている。

エターナはインクの背中をぽんぽんとでながら、改めてアンリエットに近づく。

は「もう大丈夫だぞ」と負傷者に聲をかけながら、救助された人々の不安を取り除いていた。

「アンリエット、話がある」

「エターナ、無事でなによりだ」

潰されたかけた人々の救助を済ませると、いきなり『マリアを追う』と言っていなくなってしまったのだ。

本當にマリアがそこにいたのなら、いくらエターナでも一人で敵う相手ではない。

「マリア・アフェンジェンスは見つかったか?」

「見つかった、でも逃げられた」

「そうか……だが、逃げたのならもう安心だな」

「そうもいかない、ヒューグが近づいてる。コアを取り込んでるらしいから、逃げた方がいい」

アンリエットは眉をひそめる。

フラムから彼の狀態は聞いている、會えばここにいる全員が皆殺しにされるだろう。

「誰から聞いた?」

「マリアが言ってた」

「それは信憑のある報か?」

「噓をついてる様子はなかった」

「そうか、君が言うのなら信じよう。あいつが來るというのなら早急に移しなければならないな――みんな、聞いてくれ!」

アンリエットが大きな聲をあげると、ほぼ全員が彼の方を見つめる。

崩落の混冷めぬ中、さらなる混を招く不安もあったが、全員に現狀を正直に伝えるつもりのようだ。

もちろん救出された人々はざわついたが、錯して逃げ出す人間がいなかったことが救いか。

各々がけない者を抱き上げたり、魔法で運搬しつつ、その場を離れていく。

意識を失い倒れていたミルキットは、エターナが作り出した足の生えた水のベッドに乗せられ、そのまま運ばれる。

「う……うぅん……」

その移の揺れでミルキットの意識が戻った。

うっすらと目を開いた彼は、エターナに尋ねる。

「ご主人、様……は……?」

なぜ彼がここにいるのか、もちろんそれも気になる。

だがミルキットにとって最も重要なのは、フラムがどうなったかだ。

「ごめん、連れ去られた」

「あぁ、そんな……ご主人、さま……」

はひたすらにフラムのを案じながら、再び意識を失う。

そしてエターナもまた、奪い返せなかったフラムのを案じ、夜空を仰ぐのだった。

◇◇◇

自分が連れ去られてからどれだけ時間が経ったのか、フラムは自分でもわからなかった。

目を覚ましたとき、彼は薄暗くジメジメとした地下牢の中にいて、足は鎖で繋がれていた。

頭とが痛い。

力もうまくらない。

記憶を消されたときと同様に、裝備は奪われてしまっているらしい。

「ここ……は……」

顔を手で覆いながらを起こすと、周囲を観察する。

だがやはり、地下牢ということ以外は何の報も手にらなかった。

ふいに、意識が途切れる寸前に見た景が蘇る。

渦巻くガディオの顔。

破壊された跡。

救えなかった――ミルキットのこと。

「私は……結局、なんにもできなかった……」

思い出すだけで、の奧底からがこみ上げて、涙があふれてくる。

無力に打ちひしがれ、嗚咽をらすこともなく、ただただ流れる雫が頬を濡らす。

「ああ、やっぱりフラムちゃんだったのね」

そんなフラムに、隣の牢から誰かが呼びかける。

「……ネイガス、さん?」

「ええ、何日かぶりの再會なのに、ずいぶんと久しぶりな気がするわね」

ネイガスもフラムと同じように、足を繋がれている。

とは言え、彼は魔法だって使える。

出ようと思えば出られるはずだが――出口までの道のりには見張りのキマイラが大量に配置してあり、どのみち逃げることはできないだろう。

「ここは、魔王城……でしょうか」

「その通りよ、魔王城の地下牢。まさか私がここに繋がれちゃうなんて、想像もしてなかったわ」

「セーラちゃんや……他の魔族は、どうしてるんです?」

「街にいたはずの魔族たちのことは、詳しくはわからないわ。セーラちゃんはできるだけセレイドから離れた場所まで送り屆けたんだけど……一人にさせてしまったから、無事であってしいわね」

生きている可能がある。

それが確認できただけでも、今のフラムにとっては救いだった。

もっとも、人類が滅びれば、彼も例外なく殺されるのだろうが。

「シートゥムは、たぶんもうダメでしょうね。ディーザに殺されたのよ。せめてツァイオンだけでも逃げててくれるといいんだけど」

「あの人がシートゥムを見捨てることはないと思います」

「そうよね……」

一人で逝かせるぐらいなら、自分もついていく。

そういう男だ。

実際は、シートゥム自みで逃げ切り、生き殘っているわけだが――ネイガスがそれを知るはずもない。

「ネイガスさんは、どうしてここに?」

「セレイドに戻ってきて、キマイラとあのジーンって男をセーラちゃんが目撃したの」

「ジーンが……」

「それでまずいと思って逃げたけど、もう手遅れ。コアを取り込んだキリルちゃんに追いかけられて、捕まって」

「キリルちゃんも、やっぱりそうなってたんですね」

「封印解除をできるのは彼だけだもの、必然的にそうなるわ」

つまりあのとき見たのは、幻などでは――いや、封印を解いたのがキリル自だというのなら、やはり時系列がおかしい。

オリジンの力を手にしたキリルが、殘り僅かな正気と、その能力を使ってフラムにメッセージを伝えたんだろうか。

たった一言、謝るためだけに。

「そこから、私も殺されると思ったんだけど……どういうわけか、マリアが『生かしておいて使いたい』って言い出したらしくて、今もこうして閉じ込められてるってわけ」

マリアはガディオの死を利用するようなだ。

どうせろくでもない目的に違いない、とフラムは確信する。

「大変、だったんですね」

「王都にいたあなたたちに比べれば、そうでもないんじゃない?」

今度はフラムが報を話す番だった。

は王都で起きた出來事を、かいつまんでネイガスに語る。

思い出すだけでが痛み、何度も言葉に詰まった。

そのたびにネイガスは「無理しないでいいわよ」と言うのだが、フラムの話は止まらなかった。

吐き出して、誰かに同してほしかったのかもしれない。

この苦しみは、一人で背負うにはあまりに重すぎるから。

「思ってたよりさらに壯絶だったわ。そう、王都が壊滅……ミルキットちゃんまで」

「もう……世界なんて、終わった方がいいのかも、しれません……」

ミルキットがいない世界なんて、生きていてもしょうがない。

フラムは本気でそう考えていた。

奴隷の印を刻まれてから今まで、彼の存在を支えにして生きてきた。

その支えが無くなってしまった以上、心が折れるのは當然のことだ。

「ミルキットぉ……う、うぅ……」

フラムは彼から貰った髪留めを外し、握りしめる。

魂喰いですら折れてしまった今でも、これだけは殘っていた。

裝備と一緒に外さなかったのは、溫のつもりなのだろうか。

ミルキットが死んでしまった今、それもただ虛しいだけだ。

勵ますために聲をかけようとしたネイガスだが、うまく言葉が浮かばない。

下手な言葉では、むしろ傷つけてしまうだけだ。

重苦しい空気が漂う中、誰かが階段を降り、この地下牢にやってくる。

やけにわざとらしい、靴が床を叩く音――つまりキマイラではない。

おそらく人間だ。

そしてマリアでもなければ、ディーザでもない。

「僕はずっと思っていたんだよ。なぜ君のような愚かな人間が、英雄だ救世主だとちやほやされなければならないのか、と」

聞くだけで耳が腐るような不快な聲。

まだ姿は見えないが、フラムはすぐにわかった。

そして湧き上がる、強い憎悪。

ミルキットの命を奪われたことに対する憤りも加わり、フラムは腹の奧底から、そのを吐き出すように彼の名を告げた。

「ジーン……!」

姿を現した男は、紫の髪をかきあげ、「ふん」と鼻で笑った。

「この偉大なる賢者ジーン・インテージを呼び捨てとは、の程をわきまえるんだ、フラム・アプリコット」

「殺してやる、殺してやる、殺してやるううぅぅぅぅッ!」

フラムはガチャガチャと鎖を鳴らしながら、殺意をむき出しにしてジーンに食って掛かる。

無論、今の彼の力で拘束を解けるはずもない。

「おっと、落ち込んでたかと思えばいきなりそれか。まるで理のない獣だな。奴隷である貴様にふさわしい姿と言える」

「お前がっ、お前がああぁぁぁぁッ!」

「濡れも大概にしておくれよ、僕が何をやったと言うんだ? 仮にあのミルキットとかいう気味の悪い奴隷が死んだとしても、それはフラム、君の実力が足りなかっただけだ。つまり、彼は君が殺したんだよ」

それはフラムも、どこかで思っていたことだ。

あのマリアやガディオに勝利することなど普通の人間には不可能なのだが、それでも思わずにはいられない。

そして図星を突かれたからこそ、フラムはに耐え難い痛みをじた。

「ああぁぁぁああああああッ!」

苦痛を吐き出すように、彼び聲をあげる。

「あっははははははははははっ!」

その無様な姿を見て、ジーンは高らかに笑う。

近頃のフラムは周囲からもすっかり英雄扱いされており、ジーンはその噂を耳にする程度だったが、それでも十分に不愉快だった。

底辺であるべきだ。

奈落のそこで苦しむべきだ。

愚者でありながら自分と同じ英雄を名乗るゴミクズには、それがふさわしい。

そう考えるジーンは――彼を奴隷商人に売ったときと似たような絵面を再現できたことに、ご満悅だった。

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