《「お前ごときが魔王に勝てると思うな」とガチ勢に勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい》118 オーバードライヴ

神喰らいと紅の剣が衝突する。

二人を中心として、激しい風が吹きすさぶ。

ビリビリという振が柄を通じて、フラムのに響いた。

それは不自然なほど強く、ガディオがまた何かを仕掛けてきたことは想像に難くない。

「く……ごぷ……っ」

フラムの口からどろりとしたが溢れ出た。

震気砕フェイタルクエイク――ガディオはその技で増幅させた震を相手のに送り込み、臓を破壊したのだ。

しかし、彼とてやられてばかりではない。

「今さら……中が壊されたぐらいでえぇッ!」

痛くないわけじゃない、気持ち悪さが全を満たすほど最悪な気分だ。

だが今まで味わってきた痛みに比べれば、そう飛び抜けて辛いわけじゃない。

の両腕の力は緩むどころか、さらに強さを増してガディオを押し返す。

筋力や力では彼の方が勝っている。

真正面からのぶつかり合いでフラムが優位に立てるはずもないのだが――明らかに、彼の両足には力がっていない。

そう、刃がれ合った瞬間、彼は騎士剣キャバリエアーツを放ったのだ。

その名は気鳴閃プラーナノイズ。

先ほどをもってガディオに教わった、“音”を増幅させ、平衡覚を喪失させる技である。

(効いてる……殺規則ジェノサイドアーツも避けてたし、つまり――)

ガディオは先ほどから二度ほど、フラムの放った騎士剣キャバリエアーツをかき消し――否、吸収・・していた。

その謎は未だ解けていないが、しかし彼は理解する。

それもまた、騎士剣キャバリエアーツの一種なのだと。

「ふッ!」

よろめくガディオに向けて、フラムは片手で剣を突き出しプラーナの矢を放つ。

今の彼の勢ではまともにけることはできないはずだ。

しかし軽く剣の腹で弾くだけで、気穿槍プラーナスティングはやはり・・・消える。

続けて彼は剣を高く持ち上げ、空気とのを意識しながら振り下ろした。

「これならぁッ!」

生じた靜電気をプラーナで増幅し、幾重にも枝分かれする雷気槍レヴィンスティングを放つ。

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彼はそれをけ止めはせず――全力で後退して避けようとした。

つまり、吸収できるのはプラーナによる攻撃だけなのだ。

(おそらくあれは、対騎士剣キャバリエアーツを前提とした技。相手のプラーナを吸収して、自分のプラーナに変換してるんだ)

それさえ見抜ければいくらでも対処できる。

要は、プラーナを叩きつけるのではなく、プラーナにより増幅した理現象をぶつければいいのだ。

著地したガディオは雷撃を避けきれず、両足にはまだ麻痺が殘っている。

オリジンによるフォローでそれもすぐに消えるだろうが、一瞬だろうと隙は隙。

足元の地面を反転させ、同時に踏切、フラムは弾丸のようにガディオに接近する。

相手は炎気幕ブレイズブラインドで炎の壁を作り出す。

前に突き出された神喰らいが炎にれた。

「凍り付けリヴァーサルッ!」

溫度は反転する。

炎は瞬時に凝固し明の氷と化す。

そこでプラーナを弾けさせ、ガディオに向けて出。

氷の壁を彼は剣で薙ぎ払う。

すると砕け散った破片の向こうから、神喰らいを擔いだフラムが現れる。

「せえええぇぇぇえいッ!」

ガゴォンッ!

振り下ろされた一撃は、黒い鎧を切り裂く。

「まだまだあぁぁぁぁッ!」

さらにプラーナを両腕に満たし、その全てを“速さ”につぎ込む。

ズドドドドドォッ!

気剣連斬プラーナストリームにより、コンマ秒よりもさらに剎那の世界――一秒の間に數十発の斬撃がガディオに襲いかかる。

「もういっぱぁつッ!」

最後は切っ先をに突き立て、至近距離からの騎士剣キャバリエアーツ・気剣旋槍プラーナスピア。

この距離ならば、プラーナを吸収される心配も無い。

ドオォッ! と鎧に大きなを空けながら吹き飛ばされるガディオ。

もちろん反転の魔力も込めたが、コアを破壊した手応えは無い。

どうやらに埋め込まれているわけではないようだ。

(今ので仕留めたかったんだけど……)

地面に橫たわるガディオは、まるでり人形のようにむくりと上半を起こし、傷など負っていないかのようにあっさりと立ち上がる。

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オリジンの満ちたあのは、タフさではフラムと同等だ。

互いに狙うは急所のみ。

さらに傷が増え、における螺旋の割合が増えれば増えるほど、おそらくガディオの殘した志は薄れていくだろう。

できるだけ死が綺麗な狀態で戦いを終えたい――フラムがそう願うのは、決して彼に対する未練のみが理由ではなかった。

ガディオは剣を地面に突き立てる。

地中に注ぎ込まれるプラーナは、風船のように破裂直前まで膨らんだ。

そして踏みしめた瞬間、大地がぜ、瞬きの間にフラムの眼前に迫る。

(速い――でもっ!)

スピードではフラムの方が勝っている。

神喰らいで攻撃をいなしながら、彼は彼の傍らを通り過ぎる。

背後を取ると刃を振り上げた。

しかし、ガディオは剣を地面に突き刺して減速、さらに同時に地中にプラーナを送り込む。

無茶な方向転換に、腕からが噴き出し、腳の骨が歪み折れた。

そうして放たれる、二度目の気吼疾雷斬プラーナアサルトバースト。

フラムは雷気槍レヴィンスティングを放とうとしていたが、それではガディオの加速に対処できない。

方針を変える。

足元に反転の魔力を流

地面が持ち上がり壁として立ちはだかる。

ガディオは躊躇無く、それに突っ込んだ。

この程度では気吼疾雷斬プラーナアサルトバーストの威力は止められない。

だが――減衰はしている。

さらに、視界が塞がれた今なら集中も緩んでいるはずだ。

プラーナの刃で神喰らいを補強、巨大化させ、真正面からけて立つフラム。

「づぅっ、く……はああぁぁぁああッ!」

プラーナは吸収されない。

威力は拮抗する。

衝突の瞬間、二人は同時に震気砕フェイタルクエイクを発

臓が破壊され、フラムの口との渦から、多量のが吐き出される。

しかしお互いに譲らず。

今度は剣を通じて、ガディオからプラーナが流し込まれた。

それは植のようにフラムの両腕に広がり、肩まで達し、さらには首やにまで到達する。

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このまま放っておけば、側からが破壊されてしまう。

自らのプラーナで押し止めようとしたフラムだったが――途中でやめる。

(違う、抗うんじゃない。ガディオさんが見せてくれた技が全て、私に教えるものなのだとしたら――)

プラーナを吸収したあれを模倣してみせろと、彼はそう言っているのだ。

『やれるか?』

そんな聲が聞こえたような気がした。

目の前にあるのはの渦だが、その表も心なしか笑っているようにも見える。

「やれるに、決まってるじゃないですかっ!」

魂喰らいに出會うまで空っぽだったそのは、いまだ満たされることを知らず――際限なく、與えられる分だけ取り込んでいく。

り込んだを、自らのプラーナを薄いにして包み込むのだ。

さらに細かいを張り巡らせ、己のへと変える。

吸気法プラーナアブソーブ――そして吸収したプラーナを、両腕の強化に使用。

「とおぉりゃあああッ!」

倍化した腕力でガディオの巨を弾き飛ばす。

距離が離れると、フラムは神喰らいを素早く地面に突き立てプラーナを注ぎ込んだ。

踏み切る足裏で叩く。

すると限界まで張り詰めた力がバーストし、フラムの出した。

「く、ぉぉぉぉおおおおおおおおおッ!」

は超音速を超えて空する。

空気を震わせ、発音がセレイドに響く。

その勢いを、そのままガディオにぶつけると、さらに激しく剣戟が轟いた。

フラムは彼を力で押し切る。

勢いのまま、地面をえぐり、民家などの障害をも破壊し、いつまでも速度を緩めることなく一直線に突き進む。

剣でけ止めるので一杯のガディオは、反撃に転じることもできない。

為すもなく後退を続け、そしてセレイドを囲む分厚い壁に衝突してようやく止まった。

「もらったァ!」

素早く剣を振り上げたフラムは、壁にめり込んだガディオに斬りかかる。

だがの渦が脈し、彼の両拳が強く握られたかと思うと、発せられた“圧”が壁をえぐり、さらに彼をひるませた。

「つぅっ……あの狀態から気円陣プラーナスフィアを!?」

ガディオは辛うじて殘っていた壁を踏み壊し、突っ込んでくる。

「私だって、まだまだぁっ!」

フラムは彼の頭部に刺突を繰り出す。

相手は空中で強引にを傾け、回りながら彼の首を刈った。

すかさず神喰らいを収め、軽になったで跳躍、回避。

空中でプラーナの壁を作り出し、それを蹴って地上のガディオに強襲する。

ガディオの眼前をかすめる刃。

さらに続けて薙ぎ払うと、彼は剣を立ててそれをけ止めた。

「ちィッ!」

フラムの舌打ち。

そんな彼の目の前でグリーブが微かにき、カシャンと音を鳴らす。

地中からなにかがせり上がってくる気配――ゴガァッ! とせり上がって來たのは土魔法、アースランスだ。

顎先をかすめる鋭利な巖は、のけぞって避けるしか無い。

しかしガディオがその上から叩き潰してくるのは目に見えていた。

ゆえにフラムは素早さを活かして先手を取る。

鼻先の巖に両腕で強引に神喰らいを振るい、さらに地面に刃を叩きつける。

同時に大剣を収納し、斬撃の反で橫に転がるように逃げた。

するとその直後、ガディオの攻撃が先ほどまでフラムのいた場所を砕き、さらに気剣斬プラーナシェーカーによりその前方に存在するものを真っ二つに斷ち切る。

彼は避ける可能も折り込み済みだったのか、すぐに剣をなぎ払い、彼に向けて橫向きのプラーナの刃を出。

フラムは膝を付きながらも神喰らいでけ止める。

(やり方は摑んだ。行ける!)

吸気法プラーナアブソーブにより、ガディオの力はフラムに吸収される。

は取り込んだ力を利用しながら、素早く斬り上げた。

刃が空気とし、バヂッとを放つ。

ガディオはすぐさま後ろに飛び、後退しながら全く同じ技を繰り出す。

ぶつかり合う雷気槍レヴィンスティング。

真っ向から衝突した力と力は相殺し、最終的に相手のプラーナを取り込んだフラムの方だけが殘る。

しかしガディオは、すでに範囲外まで逃げ切っていた。

(お互いにダメージは無い、か。一筋縄じゃ行かないなあ、やっぱり)

積み上げてきた経験も技も、間違いなくあちらの方が上だ。

フラムが新たな技を習得したことで一時的に優位に立ったものの、相手もすぐに適応してくる。

戦いは長期戦の様相を見せ始めていた。

しかし彼には、足止めをする仲間の元に駆けつけ相手にトドメを刺すという役目がある。

ここで止まるわけにはいかなかった。

もっとも、その意図を今のガディオが汲んでくれるはずもないのだが。

「すぅ……ふぅ」

呼吸を整えるフラム。

がディオもタイミングを図っているのか、まだ仕掛けては來ない。

かと思えば、彼は左手で腹を抑えるような仕草を見せた。

意味のない行とは思えないし、フラムの攻撃が今になって効いている……というわけでもなさそうだ。

注視していると、ふいに彼のがビクンと震えた。

さらに顔の渦が激しく脈打ち、ダラダラとを垂れ流しはじめる。

鎧の間から見えるも、心なしか赤くなっている。

溫が上がってる……?)

きっかけは、腹部に手をあてたあの作。

そこからの新陳代謝が活化し、オリジンの力にまで影響を與えたのだろうか。

ガディオは左手をフラムとの距離を測るように前に出し、右手で赤い剣を握る。

肩の上で構えられた大剣の切っ先は、真っ直ぐに彼の方を向いていた。

(また、今までとは違うなにかが來る――それも、とびきり強烈なやつが)

フラムのがごくりと上下する。

浴びせられる殺気が一気に膨み、がぞわりと粟立つ。

ドッ、ドッ、ドッ、と心音がうるさくなってきた。

両手で神喰らいを握り、フラムは構えた。

下手に近づけば殺られる、そう直が告げている。

本當ならもっと離れるべきかもしれない。

しかし背中を向けた――いや、気持ちが背後に向いたその瞬間に仕留められる。

回避する手立てを考えるも、すぐさま理が否定する。

それほどまでに、ガディオの纏う気迫は異様だった。

(見える……纏う、“力”が……)

まるでオーラのような靄が、ガディオのから湧き上がる。

(あれは、たぶんプラーナだ。生されるプラーナが多すぎて、から溢れ出してるんだ)

フラムにはそれがわかる。

だが普通はそんな大量のプラーナを、この短時間で生することは不可能だ。

たとえ、ガディオだったとしても。

弓を引くように剣を握る右腕に力がこもる。

瞬きせずに、フラムは見開いた瞳でそのきを凝視していた。

兆候を、見逃さないように。

そして、腳がぴくりといたその瞬間。

(來――)

フラムが『來た』とそう脳で言葉にするより早く――彼の顔の右半分が、消失・・していた。

「……ひゅ?」

失われた口では、まともに聲を出すことすらできない。

今わかることは、自分の前方にいたはずのガディオの姿がないということだけ。

自らの慘狀に気付いたのは、顔が再生を始めたそのときである。

脳がようやく痛みをじ、フラムはぐずぐず顔を押さえながら戦慄した。

「う、ぐ……なに……いあ、の……!?」

見えなかった、全く。

髪をしながら振り返ると、そこにはガディオの後ろ姿があった。

彼の赤い剣は、おそらくで生じたと思われる熱で高溫になっており、白煙を纏っている。

一方で溢れ出すプラーナはもう目視することはできない。

すなわち、あれだけの量を一撃で全て使い果たしたということである。

「つ……うぅ……今の私でも見えないぐらい、速かったってこと……?」

シンプルに、彼はありえない速度でフラムに近づき、刺突を放った。

ただ、それだけだ。

そして顔をえぐった。

本當は頭を吹き飛ばすつもりだったのかもしれない。

しかし、そのスピードを自でも制しきれなかったのだろう。

狙いは微かに逸れ、心臓、あるいは脳幹を破壊することはできなかった。

それでもフラムの心に、十分すぎるほどの恐怖を刻むことはできたが。

「また來るの……?」

ガディオが腹部に手を當てる。

化しているのは――おそらく、コアだ。

貫いたに急所が存在しなかった以上、そう分析するしかない。

つまり彼は弱點をさらけ出した。

そうまでして、今の技を見せようとしたのだ。

これはガディオからの挑戦狀だ。

それもおそらく、最後の・・・。

早く勝負を終わらせたいと願ったフラムの気持ちを知ってか知らずか、彼は騎士剣キャバリエアーツの奧義を披したのである。

『フラム。たどり著けるか、この境地に』

紅の剣を構えるガディオを見ていると、フラムはそう言われているような気がした。

「はっ……はっ……」

疲労ではなく、張り詰めたにより呼吸がれる。

けて立つ以外の選択肢は無い。

だが果たして、見えもしないあの技を、模倣することができるのだろうか。

け止めるには、同じ境地に達するしかない。

そうするしかない――だが、できるヴィジョンが湧いてこない。

(溢れるほどのプラーナの生……? 一そんなもの、どうやって!)

フラムにコアは無い。

だとすると、代わりとなるのは心臓か。

心臓を活化させ、殘る力で強引にを満たす。

だとしても、プラーナの生速度が増すわけではない。

もう一つ――人に存在するなにか・・・を、覚醒させねばならないのだ。

ガディオのを白いオーラが包む。

立ち込めるそれは、フラムの目にはまるで鬼の形を描いているように見えた。

ゴッ!

そして彼は地面を蹴る。

文字通り、姿が消える。

今のフラムには、神喰らいを盾代わりにすることしかできなかった。

ガギィッ!

響く鈍い金屬音。

「づうぅッ!」

剣は弾かれ、それでも必死にこらえようとしたフラムの右腕が耐えきれず千切れ舞う。

け止めるだけで腕が千切れるなんて、馬鹿げてるっ!)

どれだけ馬鹿げていてもそれは現実。

乗り越えるしか無いのだ。

「こんのぉッ!」

ガディオは懐に飛び込み、二の太刀を放つ。

それをフラムは左手で抜いた神喰らいを振りおろし防いだ。

防ぐ間に右腕が再生する。

両手で繰り出す斬り上げを、後ろに飛んで回避するガディオ。

さらにもう一度飛ぶと、また腹部のコアにプラーナを送り込む。

「そう何度も好きにはやらせない!」

フラムは左腕をガディオに向ける。

そしてガントレットが消え、細かく砕けた指先が無數の弾丸として放たれた。

相手は走りながらそれを避ける。

続けて右手で剣を振り回し、數多のプラーナの刃――気剣プラーナクラスターで怒濤の攻撃を仕掛ける。

だが彼は避けようとはしない。

「それも、やらせないってのぉ!」

どうせプラーナを吸収するつもりなのだ。

それぐらいは読んでいる。

が素早く剣を振り下ろすと、雷鳴が轟き、まばゆい閃がガディオを襲った。

すると彼はその場で十字に刃を振った。

そして展開されるプラーナの盾、気極壁プラーナシールド。

その後ろでガディオは奧義を放つ準備を整え――雷撃を、真正面から突っ切った。

で危機をじ取ったフラムは、首を傾ける。

すると、ボッ――と首の半分と、頬から顎にかけてのパーツが消し飛んだ。

(駄目だ……対処できない)

一方でガディオの消耗も相當だ。

こんな無茶な技、そう何度も使えるはずが無いのだ。

だが彼のに殘った全てが使い果たされる前に、このままではフラムの方が追い詰められてしまうだろう。

(どうしたらいい? どうしたら、あんなに大量のプラーナを作り出すことができる?)

プラーナは覚で作り出すものだ。

そうガディオ自も言っていたし、だからフラムも今までそうしてきた。

の詳しい過程なんて、考えたこともなかった。

だが、今の彼にわからぬ技を、彼が使ったりするだろうか。

それも、わざわざオリジン側として必要のない短期決戦を挑んでまで。

(可能なんだ、見つかるはずなんだ、だから考えなくちゃ。どうやったら、覚を増幅できる?)

複雑なロジックじゃない。

たぶん、それはフラムにもわかる単純明快な答えだ。

工程一は、心臓にプラーナを集中、大量の力を前借り・・・する、それは間違いない。

工程二――どこだ、どこにプラーナを注ぐ?

覚を増幅するなんて、そんなものができるのは――

(……脳?)

そこしか、ない。

ああ、しかしそれは、あまりに破滅的な行為ではないだろうか。

いや、心臓の時點でそうだ。

あまりに、を削りすぎる。

ガディオが躊躇せずに使えるのは、すでに命が無いからだ。

フラムが使えば、いくら再生能力があるとはいえ、再生するのはあくまでも傷だ。

すり減るものはすり減る。

失われるものは失われる。

(……なにを今さら。タダで勝てないことぐらい、とっくにわかってたくせに)

ネガティブイメージを切り捨てる。

覚悟はもう済ませている。

たとえ何十年かかっても、する人の元へ帰る。

その約束を果たすため、過程・・でびーびーと泣き言を喚いている場合ではないのだ。

なくとも、私が英雄でなければならない、今は)

に手を當て、プラーナを集中させる。

ドクン、と心臓が大きく跳ね、強い痛みにフラムは顔をしかめた。

だが、その部位を中心にじわりと熱が広がっていく。

に、まともではない・・・・・・・力が満ちる。

続けて、プラーナは脳に干渉した。

ズクン、と萬力で潰されたような痛みが走る。

しかし口から臓を吐き出しそうな苦痛とは裏腹に、意識はクリアになっていった。

まるで、危険な薬でも使っているようだ。

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ……」

強制的にほてらされた

呼吸も自然と早くなる。

そして――白いオーラが、フラムの背中から立ち上った。

同じく、対峙するガディオもプラーナを飽和させ、に纏う。

二人は同時に剣を構えた。

フラムは両手で。

ガディオは右手で。

互いにその切っ先を相手に向けて。

脳が活化した影響か、フラムには一秒一秒がやけに長くじられた。

風に吹かれて舞い散る砂埃が、スローモーションに見える。

おそらく今、二人は同じ時間の流れの中にいる。

一秒が何倍にも引きばされた、極めた者しか立ちれない領域に。

(たどり著きましたよ、ここまで)

『ああ、お前なら來ると思っていた』

ガディオは笑う。

フラムは歯を食いしばり、を抑え込む。

不要だ、不要だ、なにもかも。

今だけは――

(そう、今だけだから)

戦いが終われば、もう英雄である必要もない。

だったら泣こう、ぼう、喚こう。

今まで我慢してきた不平やわがままを、一杯ぼう。

だから、今は――を振り切り、置き去りにして、突き抜ける。

「っ!」

吐き出される息。

踏み出す足。

フラムがくと同時に、ガディオも地面を蹴った。

目視不可能だった彼の姿。

だが同じ世界を駆ける今は、はっきりと見える。

握る刃は渦巻く力場を纏い、近づいてくる。

それはおそらく、ガディオのものではなく、オリジンから與えられたものだ。

いわば、螺・騎士剣キャバリエアーツ・スパイラルとでも呼ぶべき剣

対するフラムのプラーナは、反転の魔力を含有する。

すなわち、反・騎士剣キャバリエアーツ・リヴァーサル。

そのとき、すでに行く末は見えていた。

だからガディオは笑ったんだろう。

だからフラムは泣きそうな顔をしていたんだろう。

オリジンの螺旋はフラムの反転により打ち消される。

殘るは互いのプラーナのみ。

ほぼ同量の力場がぶつかりあった場合、勝利するのはどちらか。

決まっている。

より、・・・純粋な方・・・・だ――

似て対なる二人の力は、永き0.1秒の時を経て衝突し――その瞬間、決著する。

すれ違い、著地するフラムとガディオ。

互いに背中を向け、どちらも振り向こうとはしない。

するとフラムは、その場で天を仰いだ。

脳を酷使したせいか、瞳からはの涙が流れている。

「ガディオさん」

ガディオはし俯きながら答える。

「満足したか、フラム」

優しい聲に、彼の涙腺が一気に緩んだ。

「はい」

「ふっ、それならよかった。ならばこれで、約束は果たせたな」

「……ありがとう、ございます」

言葉が震える。

それでも涙を流さぬよう、フラムは必死だった。

そう、流れているのはあくまで

別れを惜しむ、々しい涙などではないのだ。

たぶんその命は、約束を果たすためだけにあった。

魂はすでに召され、この世に殘ったのは未練のみ。

ゆえに、戦いが終われば、彼の意志も消える。

「これで後悔が、ひとつ消えた。醜き蛇足めいたこの生にも、意味はあったらしいな……」

その聲が幻聴なのか、本當に聞こえてくるものなのかはわからない。

だが振り向かない限り、事実は確定しない。

「……フラム」

「なん、でしょうか」

きっと今、ガディオは優しく微笑んでいる――フラムはそう決めつけながら、彼の最期の言葉に耳を傾けた。

「勝て。そして、幸せになれよ」

を噛み、拳を握りしめ、フラムは必死で返事を紡ぐ。

彼がしでも不安なく眠れるよう、気丈に明るい聲を作りながら。

「はい……必ずっ!」

その言葉を聞くと、ガディオはいつになく満足げな表を浮かべ――真正面に倒れた。

腹部から流れたが、地面に滲む。

彼のコアは、フラムの剣に貫かれ破壊されていた。

対するフラムは、腕こそまみれなものの致命傷には至らず。

オリジンに侵された不純だけのプラーナで、彼の力を打ち砕けるはずがなかったのだ。

騎士剣奧義キャバリエアーツアルカナ・気越一閃プラーナルオーバードライヴ。

常人では扱うことすら葉わぬその極意は、今確かに、一人のに伝承された。

そして彼は歩き出す。

まだ戦いは終わっていないのだ。

別離を惜しむ暇もなく、次の戦場へと――わした言葉を、に。

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