《「お前ごときが魔王に勝てると思うな」とガチ勢に勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい》123 螺旋覚醒
キリルは腰を落としての剣を構えると、素早く真一文字に薙いだ。
エターナは空中に氷のレールを作り出し、ジーンは風で浮かび上がり攻撃をやり過ごす。
遅れて、斷ち切られた柱や壁がずれ・・、支えを失った天井が二人の頭上より落下する。
「この天才にそう何度も同じ手が通用すると思うな、アースメテオライトッ!」
ジーンは瓦礫を巻き込みつつ巨大な巖を作り出し、キリルを押しつぶす。
「カノン」
の渦が蠢き、彼はのない聲を響かせた。
剣先から、の砲弾が放たれ巖を砕する。
「アイスランス!」
そんな彼の頭の真上から、エターナの作り出した鋭利な氷が降り注いだ。
それは、明らかに殺すつもりの一撃。
彼とて、フラムがキリルを生かしたがっていることは知っている。
だが、そんな遠慮をして足止めできる相手ではないのだ。
それにどうせ――この程度では、傷一つ與えられない。
「なぜ僕の方に!?」
キリルは一歩後退すると、落ちてきた氷を手で握りジーンに投げつけた。
その速度は、エターナが魔法としてそれを放ったときよりも早い。
どうにか避けたジーンだが、肩のローブが裂け量のがにじむ。
「エターナ、お前の攻撃はいつも何故か僕の方に飛んでくるな」
「運が無いだけ」
「僕の足を引っ張るなと言ってるんだ!」
「どうでもいい、今は口より魔力をかす」
砂埃が舞う中、天高くかざされたキリルの剣。
すぐさま次の攻撃が飛んでくる、口喧嘩をしながら勝てるほど甘い相手ではない。
実際、キリルの魔法の破壊力は常軌を逸したものだ。
最初にエターナとジーンが彼と遭遇したのは、真っ直ぐに続く廊下だったはずなのだが、いつの間にかだだっ広い空間に変わっている。
移したのではない、キリルの攻撃によって壁や天井が全て消し飛んでしまったのだ。
魔王城は西も東も完全に崩壊しているため、建自が壊れるのも時間の問題だろう。
しかしキリルは、そんなことお構いなしに剣を振り下ろす。
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「レイン」
その名の通り、雨のように魔力の塊が二人に降り注いだ。
「ちぃッ、僕は天才だぞ。お前たちのような雌狐が逆らうなど世の理に反している!」
最低限の攻撃を巖の盾を作りけ流しつつ、必死でそれを避けるジーン。
彼の橫を通り過ぎていった魔力の雨は、地面に手のひら大のを空ける。
「言うほど天才でもない」
一方でエターナは、氷のレールの上で踴るように間をっている。
能力そのものは大差無いものの、どうやら相手を翻弄することに関しては彼の方が上のようだ。
「キリルの行予測も外してた」
そもそも二人は、今のブレイブを使用したキリルと真正面から打ち合うつもりはなかったのだ。
ジーン曰く、『あの魔法には反がある、封印解除に支障をきたすためうかつには使えないはず』らしい。
なのでブレイブを使わない素の狀態のキリルに奇襲をしかけ、フラムの到著を待つ――つもりだったのだが。
オリジンがいる地下へ向かう階段の前に立ちはだかっていたキリルは、二人の気配を察知してか、すでに発した狀態で待ちけていたのである。
そのステータスは――
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豚思。コ僭フ引羣澹虧シ楜ァ゜漕カ
el:勇しァ
楜ァ゜:57982
魔リォ:56193
渣:54009
廷゛ャ:51242
ノ虜、:55278
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二人が力を合わせても、抑え込める限界を超えていた。
「あれはっ……一つの可能として提示しただけだ……っ!」
さらにキリルの魔力がをかすめる。
レインによる攻撃は止まったが、痛みできを止めたジーンを、キリルは見逃さない。
すかさず瞬時に接近し、懐にり込み、素早く突きを放つ。
フラムやライナス、ガディオのような近接戦闘に慣れた面々ならともかく、基本的に後衛である彼には、そのきはワープしたように見えただろう。
「しまった!」
「世話が焼ける」
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「ごふっ!?」
すると、エターナの周囲を浮かぶ球がジーンのを毆り飛ばす。
キリルのきを読んだ上で、先んじて近づけておいたのだ。
(やっぱり、オリジンはジーンの方を狙ってる)
先ほどから、集中的に狙われているのは彼の方ばかり。
思えば――オリジンはジーンのせいで、數々の計畫を臺無しにされてきたのだ。
今だって、何を企んでいるのかわかったもんじゃない。
警戒するのは當然のことであった。
「き、貴様っ、フォローするならもうし丁寧にやれ!」
「そこは謝するべき、ヘイルストーム」
「謝などせん、戦いが終わったら絶対に償わせる! ブルーフレイム!」
降り注ぐ氷の雨と、まとわりつく青い炎。
キリルが軽く剣を振ると、それらの魔法はあまりに簡単にかき消された。
そして握る片手剣の刃がに包まれ――
「ブレイド」
また、薙ぎ払う。
大振りの攻撃が二人に當たることは無いが、避けるのにワンアクション必要になるため、次の行の選択肢が減るのだ。
つまり、キリルに行を読まれやすくなる。
「アルターエゴ」
彼は再び飛んだジーンの背後を取ると、剣を振り払う。
「エターナ、後ろに行ったぞ!」
「ジーン、後ろ!」
しかし、二人は同時にそう口にした。
そして互いに振り向き、自分の後ろに確かに存在するキリルを見て、驚愕する。
「分だと!? チッ、アースウォール!」
「アイスシールド」
彼らは気休めに魔法の盾を作り出したものの、それが無意味であることは、すでに実験で知っている。
キリルの刃はケーキでも切るように盾を斷ち切り、二人のを切り裂く。
「ぐぅ……ッ!」
苦しげに顔を歪めるエターナは、橫腹を深く斬られていた。
幸い臓までは屆いていないが、出量が多い。
一方でジーンは、前に突き出していた左手の指が數本無くなっている。
彼も痛みはじていたが、それ以上の怒りが苦痛を塗りつぶす。
「おのれぇ、そんな便利な魔法があるならなぜ前から使わん!」
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別にキリルが使わなかったわけではない。
オリジンが“勇者”の力を解析し、彼が知らない魔法を引き出しているのだ。
「だから……口じゃなくて、魔力を……」
「百も承知だ、エレメンタルバーストッ!」
至近距離で放たれる魔力の本流を、キリルは――
「シールド」
の盾で、あっさりとけ止める。
エターナを襲った方のキリルはすでに消えており、おそらくそちらが分だったのだろう。
やはり、本命はジーンの方なのだ。
「ならばこれでどうだ、エレメンタルバースト・イリーガルフォーミュラ!」
ジーンの手のひらから放たれる魔力の量が、さらに増加する。
もちろん彼は魔族からそれを學んだわけではない。
しかし、間近で見ていれば、多の考察と努力ですぐに真似ぐらいはできる。
「僕たちを甘く見すぎだ、うかつなんだよキリルゥ!」
彼はどこか嬉しそうに、防に専念するしかないキリルを見下す。
その格の悪さに心引きながらも、傷口を氷で塞いだエターナがいた。
彼はキリルの背後に回り、魔法を打ち込む。
「アイシクルブレード・イリーガルフォーミュラ」
明な氷の塊が巨大な剣となり、無防備な背中に迫る。
これで仕留めきれなかったとしても、多のダメージは與えられるはず。
そう思っていたのだが――
「オーラ」
キリルがぼそりとそう言うと、彼を中心としてゴオォッ! と激しい風が吹き荒れた。
踏ん張って耐えるエターナとジーン。
「ぬ、おぉっ!? また見たことのない魔法をっ!」
「耐えきれない……飛ばされる」
為すもなく二人は吹き飛ばされ、背中から壁に衝突する。
直前で水のクッションを用意したエターナはともかく、ジーンは強く後頭部を強打して意識が揺らぐ。
また、エレメンタルバーストも、アイシクルブレードも、バチバチと火花を散らしながら広がる魔力にかき消されていた。
(強いとは知ってたけど、正直、想像より何倍も差がある……)
どんなにステータス差があっても、傷の一つぐらい負わせられると思っていた。
だが今のところ、キリルは無傷だ。
一方で二人はすでに満創痍。
エターナは応急処置で出を止めたものの、すでに相當量が流出したのか頭がくらくらしている。
ようやく両足で立ち上がったジーンも、意識がはっきりしないのか足元がおぼつかない。
苦しむ二人だが、キリルは――否、オリジンが二人のを案じて手を緩めてくれるはずもない。
「アルターエゴ」
またも分し、そしてそれぞれがエターナとジーンに向かって剣の切っ先を向け――
「ブラスター」
文字通り、必殺の一撃を放つ。
「……っ」
「クソがッ!」
力の消耗により聲すら出せないエターナと、語彙力が低下するジーン。
二人は前に飛び込み、地面を転がりながらそれを避けた。
不格好だが、もはや外面を気にする余裕などない。
「ブラスター、ブラスター、ブラスター、ブラスター」
そんな二人に向けて、容赦なく“必殺”の攻撃を連発するキリル。
彼も彼で、もはや格好など気にせずに、完全に相手を殺そうとしている。
「アクアテンタクルス!」
エターナの腕からびた明の手が、辛うじて殘った柱に絡みつき、そちらへ彼のを引き寄せる。
それを見たジーンも真似をして、全く同じ魔法で危機をした。
もっとも彼の方は使い慣れていないため、制は不完全であったが。
そして二人は、キリルに導されるかのように一箇所に集まる。
「ふぅ……さっきの、わたしのパクり」
「リスペクトと言え」
「ところでこれ、まんまと罠に引っかかってる気がする」
「奇遇だな、僕もだ」
追い詰められ、思わず半笑いになるジーン。
二人の危懼した通り、キリルは詰めの一手を繰り出すべく、言葉を紡ぐ。
「アルターエゴ」
消えた分が再び現れ、今度はその分も同時に呟く。
『アルターエゴ』
二人は四人に増える。
どうやら“アルターエゴ”と呼ばれる魔法で生される分は、せいぜい數十秒しかもたないようだ。
たかが數十秒、されど數十秒。
それだけの時間があれば、とっておきの一撃を放つには十分すぎる。
『アルターエゴ』
四人のキリルが八人に増える。
その全てが一斉に剣をエターナとジーンに向けた。
「……天才は、この狀況をどう切り抜ける?」
「僕は天才だ、あまりに頭が良すぎて未來まで予知できる」
「そう、それでわたしたちの未來は?」
「途切れている、つまりここで終いだ」
二人は『はっはっはっ』と乾いた笑い聲をあげた。
かと思えば聲は突然途切れ、真剣な表で手を前にかざす。
「ウィンドウォール、フレイムウォール、アースウォール、アイシクルウォール!」
ジーンの作り出した計四層の壁が順番に現れる。
「アイシクルウォール・イリーガルフォーミュラ!」
さらにエターナの作る大きく厚い壁が、最もキリルに近い位置に立ちはだかった。
「貴様と協力するなど反吐が出るほど不愉快だが……!」
「今はそうするしかない」
猿だろうが犬だろうがキジだろうが、迫る死の前には互いに手を貸すしかない。
キリルは現れた壁を見ても、じる様子はなかった。
ただ無表に――いや、顔にはの渦があるだけだが、それすらかすこと無く、剣を構えるだけだ。
そして、八人のキリルは同時に聲をあげる。
『ブラスター』
並ぶ計八門の剣。
その先端に集中した魔力が、一斉に放たれた。
分が出したものも威力に遜は無い。
さらにそれぞれが絡み合いながら、一本の大きな束となって氷の壁に激突した。
せき止められたの奔流は、まるで水のように彼たちの両側を流れていく。
「うぅ……!」
エターナが苦しげな聲をあげた。
彼は壁を作り出しただけでなく、今も継続的に魔力を送り込み続けている。
歯を食いしばり、前に突き出した左手が震え、額に汗が浮かぶ。
「ぐ……あぁ……!」
この一枚だけで止めきれないことはわかっている。
となればあとはジーンに任せることになるわけだが、
(インクのために死ぬわけにはいかないし、なによりこいつに命を救われるのだけは嫌だ……!)
そんな不純な機も絡みつつ、エターナは必死に、使い果たすつもりで魔力を注ぐ。
だがそれもやがて、限界を迎え――パキ、と氷の壁にヒビがる。
一箇所傷が生じると、もう止まらない。
みるみるうちに形は崩れ、砕けてゆく。
「無理はするな、凡人の限界はここまでだ。そこから先は僕に任せて――」
「うるさい、黙れ」
エターナにも意地がある。
そもそも、魔力では彼の方が勝っているのだ。
ジーンは様々な屬を組み合わせることで相手を翻弄する攻撃が得意な一方で、こういった単純な力比べで頼りにならない……なくとも、彼はそう思っている。
となれば、まだ半分も力を削げていない今の段階で諦めるわけにはいかない。
「アイシクル……ウォール……!」
壊れかけの氷の壁を、さらに別の壁で覆う。
形はいびつだが耐久は持ち直した。
(このまま……もっとブラスターの威力を削いで……!)
しかし、想いだけで支えられるのもここまで。
キリルの力は圧倒的だ。
氷の壁は再び崩れ、今度こそ形を失い砕け、溶かされていく。
「キリルよ、貴様に僕の魔法が突破できるか!?」
おそらくできるだろう。
それでも二人を殺せるほどの威力は殘らない。
だが不安なのは、衝突で生じるのせいで、壁の向こうにいるキリルの姿が見えないことだ。
さらに追撃のブラスターを仕掛けてくるわけでもなく、靜かに自分の魔法が防がれているのを見ているというのだろうか。
いや、ありえない。
だが左右も頭上も激しいの流れに囲まれており、逃げ場は無い。
「……ジーン」
「忙しい、話しかけるな!」
先程までの不遜な態度はどこへやら、もはやジーンにも余裕は殘っていない。
キリルの力が想像以上だったのだろう。
エターナはそんな彼の方を見ながら、地面を指さした。
彼は意図を理解し、彼の提案をけれることを嫌がりながらも、地面に手を當てる。
やがて全ての壁が破壊され、白いが二人のいた場所を包み込む。
さらにキリルが“レイン”を発させると、頭上から魔力の弾丸が降り注ぐ。
すると、彼のの渦がぴくりといた。
気配・・が無いのだ。
案の定、視界が晴れてもそこに二人の姿は無く、彼は咄嗟に振り返りの剣――“ブレイド”を振るう。
そこに立っていたのはエターナだ。
彼のは真っ二つに両斷され、ずるりとり落ちると、地面に衝突して々に砕け散った。
「聞こえる音で方向を修正できる……やはり天才だな僕は」
自畫自賛する地中の・・・ジーンの両掌の上で、四の魔力が飛びう。
火、水、地、風の四屬は徐々にざり合い、相乗効果で力を高め、やがて白い一つの玉となった。
「エレメンタルバースト!」
玉を頭上高くにかざすと、ドォンッ! と力が解き放たれ、すぐ真上にある天井を貫く。
そして彼の打ち出した魔法は、キリルの足元・・から彼を強襲した。
「……!」
直前で気づいたキリルは飛んで避けようとしたが、間に合わない。
形勢逆転、今度は彼が魔力の奔流に曝される番だ。
「この僕の魔法が直撃しては、いくら勇者でも無事ではいられまい! くはははははぁっ!」
「どっちが悪かわかったもんじゃない」
ぼやくエターナは、ジーンがエレメンタルバーストで開いたのとは別の、前もって開けておいたから地上に出た。
彼も頭上から這い上がり、戦果を確認する。
「さてと。ジーンにちょっと尋ねたいことがある」
周囲を見回しながら、エターナは口を開いた。
「なんだ? 心の広い僕が耳を傾けてやろう」
ジーンは腕を組んで偉そうに答えた。
もはや彼はムッとしない。
慣れた……というより無駄だと悟ったのだ、もはやこいつは人ではなく、そういう生きなのだと。
「さっきの魔法で、キリルのが消し飛ぶなんてこと、ありえる?」
エターナがどれだけ観察しても、キリルの姿は見えない。
だがジーンの手応えからして、エレメンタルバーストがまともに彼に命中したのは間違いないはずなのだ。
実際、地面にはそれらしき痕跡も殘っている。
「ただでさえ天才の僕は実はまだ溢れんばかりの才能をに殘しており、それが突如覚醒し、オリジンをも越える強力な魔法が炸裂した可能も捨てきれないな」
「すごくアホっぽい」
「僕にアホと言った報いはあとで絶対にけさせるからな」
「本気で言ってるんだとしたら間違いなくアホ」
「ジョークだとわからぬ貴様の方が阿呆だ。僕は誰よりも自分の実力を知っている、天才であるがゆえに、な」
「それを踏まえた上で答えると?」
眉間に皺を寄せ、ジーンは言った。
「ありえない・・・・・」
斷言する。
エターナの表が険しさを増した。
つまり、キリルは、どこかにいる。
おそらく二人の姿が見える場所に。
「とりあえず近くを探してみる。ヴェイパーディテクション」
エターナの手のひらから、目に見えない水の粒子が広がっていく。
探知範囲はセレイド全域。
もっとも、キリルがそれから逃れるを持っている可能も否定できないが。
「どうだ、見つかりそうか?」
「……今のところはどこにも」
「セレイドの外まで逃げたのか? それとも隠れているのか……」
さすがのジーンも、今は張しているようだ。
構え、目を細めながら、注意深く周囲を観察する。
「やっぱり近くにはどこにもいない」
「そうか、わかったぞ。天才である僕に恐れをして――」
「はぁ。そういうのはもう……いい……」
ため息まじりにジーンの方を見るエターナ。
彼の目に映ったのは、千切れ飛ぶ彼の右腕と、舞い散る赤いだった。
「な……!?」
驚愕に見開かれるジーンの瞳。
直後、彼は傷口を手で押さえながら苦悶の聲をあげた。
「ぐああぁぁぁっ! う、腕が、僕の腕がぁっ!」
彼に駆け寄ったエターナは応急処置として傷口を凍らせ、を止める。
「あんのクソぁっ! どこから攻撃してきたっ!?」
「さっきはあっちの方角だったけど……っ、また來た!」
彼がジーンを突き飛ばすと、そこを何か・・が通り過ぎていく。
早すぎて視認は不可能だ。
だが、キリルの放った魔法であることは間違いない。
當の彼は――セレイドを出て、そこからさらに數キロ離れた地點から、二人を狙っていた。
剣を前に突き出し、その先端を銃のように彼らに向けて。
「シューター」
その宣言と共に放たれるのは、ブラスターと比べるとあまりに細い魔力の糸だ。
しかし細い分だけ、速い。
これだけの距離がありながら、発から一秒と経たずに著弾している。
「シューター」
彼は淡々と、戸う二人に向けて撃を続ける。
安全域から、殺すつもりで。
だが、いつまでも続けるわけにはいかない。
オリジンを守らなければならないのだから。
エターナがジーンを連れてにったところで、キリルは地面を蹴る。
「アクセラレイト」
加速し、數キロの距離をものの數秒で詰める。
「ステルス」
姿を消し、さらにエターナのヴェイパーディテクションまでも回避。
そして二人に接近する直前、彼はおもむろに、自らの剣を空高く放り投げた。
「……狙撃は止まったのか?」
「みたい。でもどうせまた仕掛けてくる」
「接近は探知できたか?」
「まだ出來てない、ただ過信は出來ない」
キリルの攻撃が緩んだことで、ジーンは若干の神の余裕を取り戻したようだ。
実際は、余裕どころか、敵本人がその背後にまで接近しているのだが。
拳を振り上げる。
狙いを定める。
繰り出す打撃で――頭を潰す。
「っ!? ジーン、後ろッ!」
「何だとっ!?」
命中する直前、直で気づいたエターナが、今度は水の手で彼を引き寄せる。
空振りとなったキリルの拳は、その風圧だけで壁を々に砕いた。
あれが人のなら、間違いなく死んでいただろう。
しかし、未だステルスは解けず。
気配すら消した彼の正確な居場所を、エターナもジーンも把握できていない。
「貴様の魔法は相変わらず役立たずだな!」
「助けておいてもらってそれを言う?」
「気づいていれば死にかけることもなか……ぬおぉっ!?」
またエターナの手がジーンのを引っ張った。
そこをキリルの拳がかすめる。
今度はその余波で手が千切れ、彼のは地面に放り投げられた。
(この攻撃、剣じゃない。なんでわざわざ毆る必要がある?)
行には必ず意味がある。
つまりキリルは“ステルス”でを隠して命を狙うと同時に、別の何かをすでに仕込んでいるのだ。
「ホワイトダスト!」
相変わらず狙われ続けるジーンは、殘った左腕を前に突き出して魔法を発する。
すると景が白く濁った。
氷のチリが、一帯を覆ったのだ。
「ふっ!」
そして彼は、キリルの攻撃を回避する。
姿は見えずとも、チリの流れで彼の位置がくっきりと浮かび上がったのだ。
したり顔で微笑むジーン。
そこに、エターナの聲が響き渡った。
「ジーン、あっちに全力で飛んで!」
理由はわからない。
しかしすでに何度か命を救われている以上、従わないわけにもいかない。
すぐさま風の魔法を用い移しようとするジーンだったが、
「バインド」
彼の足を、る蔓が縛り付ける。
そしてキリルは、なにかから逃げるように彼から距離を取った。
「あ、あのッ! クソ、クソ、クソォオッ! 離せ、離せえぇっ!」
その頃には、すでに彼も気づいていた。
なぜエターナがあんなにも必死でんだのか。
上空から、強大な魔力の塊が落ちてきている。
“サテライト”、それがキリルの放った魔法だ。
彼が投げた剣は魔力を帯びて空中に浮かび、高高度から地表を狙い撃つ。
放たれるのは、大出力のブラスター。
無論、直撃をければ人の消滅は避けられない。
「ジーンッ!」
「……くっ、お……おぉおおおおおッ!」
逃げられない。
死ぬ。
いや、死ぬよりは――
「まだ僕には天才としての役目がある、死ぬわけにはいかないッ!」
彼は自らの右足に手を當てると、火屬の魔法を炸裂させた。
「ぐああぁぁぁぁあああっ!」
千切れる足に、反で投げ出されるジーンの。
エターナはそのに手を巻き付け、サテライトの範囲外にまで引っ張る。
しかし間に合わない。
天空より舞い降りたの剣が、魔王城のど真ん中に突き刺さる。
強烈な熱波がジリジリとを焼き、地面はえぐれ、大量の瓦礫が空に舞い上がる。
著弾點に殘されたのは、魔王城の敷地、そのど真ん中をえぐるクレーター。
「う……うぅ……」
衝撃波に飛ばされ、地面に倒れたエターナが起き上がる。
そして、彼はについた小さな砂礫をはたき落としながら周囲を見回した。
すると數メートル離れた場所に、ジーンのが落ちている。
「は……はぁ……」
彼も、辛うじて息があるようだ。
しかし、右足は千切れているし、何より――火傷がひどい。
被害は顔にまで及んでいて、もう左目は開くことすらできそうになかった。
エターナは駆け寄り、慌てて止するものの、早急に回復魔法を使わなければこのまま命を落としてしまうだろう。
「ジーン、一旦退いてセーラのところに行った方がいい。これだけ派手に城が壊れたら、もう個別撃破なんて言ってる場合じゃない」
「……は。そんなわけには……いかん、な……」
彼がそう言うと、千切れた手足を地屬魔法――巖の義手と義足で補い、立ち上がろうとする。
だが彼の怪我はそんなに単純なものではない。
よろめきそうになるところを、エターナが支えた。
「気に食わん、な……貴様に……助けられる、とは……」
「わたしも本意ではない」
「は……なら、いい。乗り気で助けられても、気味が悪いだけだ……!」
エターナも、腹部の裂傷の影響もありうまくがかない。
二人でようやく一人分、と言ったところだろうか。
もはやキリル相手に、時間稼ぎをすることすら不可能だろう。
だが彼は、やはり止まってくれない。
今度は剣を握り、瓦礫を乗り越え、二人の前に現れる。
「離れろ、エターナ」
「立てる?」
「問題ない、僕は天才……だからな」
微笑みながらエターナが離れると、彼は顔をしかめながらも、自らの両足で立った。
そしてキリルを睨みつける。
「それで、どうするつもり?」
「僕に任せろ、お前は退け」
「どういうこと?」
「最初から……そのつもりだった。そうしなければ、ならなかった」
「償いでもするつもり?」
「償い? なんのことだ。僕は、生涯、一度も罪を犯したことなど、無い。僕の正しさが……世界の正しさだ」
ぼろぼろになっても、殊勝になることはない。
いや、ここ最近は隨分としおらしくなっていたが、土壇場でようやく彼らしさを取り戻したといったところだろうか。
「さあキリル、かかってこい! 僕が、貴様に――否、貴様ら・に、僕を拒絶し否定した罰を與えてやる!」
両手を広げ、力強く言い放つジーン。
彼の挑発に乗ったのだろうか、キリルは剣を構え、地面を蹴った。
◇◇◇
「げほっ……ごほっ……今の、なに?」
舞い上がる砂埃に、咳き込むフラム。
エターナとジーンの元に向かっていた彼の目の前で、壁が吹き飛んで消えたのだ。
それがキリルの攻撃によるものだということはすぐにわかったが、それにしたって――馬鹿げた破壊力だ。
エターナたちのが不安になった彼は、その場から駆け出し、白く濁った空気の中を突っ切っていく。
(リートゥスさんの力はもう使えない。元々ディーザを殺すために一緒にいたんだし、それは最初からわかってたけど……)
フラムは不安げに、自らの黒い鎧にれた。
そこからはもう、以前ほどの力はじられない。
(とはいえ、呪いはまだ殘ってる)
相當に強烈な呪いだった。
彼が仏しても、染み付いたそれはなかなか消えはしない。
(しずつ弱まってるじはするけど、オリジンを倒すまでは保ちそうかな)
最終的に、ただの普通の鎧になるのか、それとも呪いが殘るのかはわからない。
そもそも、鎧に怨霊が取り付いているというケース自がレアなのだ。
フラムに考えたってわからないだろう。
それより今大事なのは、一応、まだステータスはほぼ減していないということ。
キリルと戦うにあたって、力は100でも1000でもあって困ることはない。
(ツァイオンだってシートゥムちゃんのこと助けられたんだもん、私だって必ずキリルちゃんをっ!)
元で拳を握り、頷くフラム。
彼が澱んだ空気を抜けると、一気に視界が鮮明になった。
そこで見たものは――キリルの背中と、彼の剣にを貫かれるジーンの姿。
「ジ、ジーン……!?」
「う……ぐ……」
彼は苦しげにきながらも、自らを突き刺すキリルの肩を摑んだ。
そして口元を、ニィッと、彼らしく歪ませる。
「くっはははは……フラムまで、來たか。いけすかないどもが、勢揃い……だな……!」
その表に悲壯はない。
まるで、最初からそうなることを予見していたかのようだ。
「だが、やはり……最も頭が腐っているのは、お前だ、キリル。ごふっ……ふ……至近距離で、見てみろ。僕ほどに、整った顔の男は他にいない。格も……く……才能も、誰よりも、抜きん出ている! この魅力を……ぉ……理解、せずにぃ……! 拒んだ挙げ句、僕を刺すとは……運良く勇者の力を得ただけの、愚者めが……!」
どうやらジーンは、キリルを化にしただけでは鬱憤を晴らすことができなかったらしい。
今もなお、彼のことを恨み続けている。
「そんな貴様に、殺されるとは……不愉快だ。最悪の、気分だ。しかしぃ、しかしだぁ! がっ……がぼ……ぶ……勝ち、誇るには、まだ早いぞ」
彼は大量のを吐き出しながらも、言葉を止めない。
キリルも剣を抜いて逃げようとしているが、よほど強く摑んでいるのか、なかなか離れない。
「はは……全ては、僕の手のひらの上! 全てはぁっ、僕の計算通りィッ!」
キリルの刃が魔力による熱を帯びる。
ジーンのや臓が焼け焦げ、不快な匂いが周囲に広がる。
生きながらに焼かれる苦痛は相當なものだろう。
しかし、もはや彼の脳に痛みは屆かない。
脳麻薬すらって、意図的に、自分の意志で止めているのだ。
なぜならば、彼は天才だから。
「さあ――」
そして天才であるがゆえに、ただでは死なない。
ましてや、今日死ぬことを、彼は知っていたのだ。
ならばオリジンの予測すら越える準備をするのは當然のこと。
ジーンはさらにで赤く染まった歯を見せて笑う。
いつになく上機嫌に、自分はこの瞬間のために生きてきたと言わんばかりに。
「この人類史における、最高ゥの天才っ、ジーン・インテージの、偉大さをおぉッ! そのに刻み込めえぇぇぇぇぇぇぇッ!」
魂の咆哮が轟く。
同時にに刻まれた陣に魔力が注ぎ込まれ、魔法が発する。
一般的に、ものに魔法を封じ込めるときに使われるのは水晶である。
魔力の蓄積量、使用効率ともに高い數値を示すからだ。
他に選択肢が無いと言われるほど唯一無二の質。
しかし実は、それを越える質がこの世には存在する。
それが、人だ。
人を使い捨てのとして利用し、なおかつ範囲を限定することでオリジンに強化されたすら突破する、高い威力を実現する。
いわば、ライナスに渡した水晶の完形――
が、繭のようにジーンとキリルを包み込んだ。
凝された熱量は、巻き込んだを跡形もなく消し去る。
ライナスとマリアのが消滅したように、キリルも同じ運命をたどるのだ。
フラムは彼を助けるつもりでいるのに、どこまでも勝手なジーンらしい、完全に殺すつもりの一撃。
「自……したの……?」
フラムが呟く
エターナも呆然と、その景を見守っていた。
は周囲を明るく照らし、神々しさすらじさせる。
そしての中から――
「螺旋覚醒スパイラルブレイブ」
そんな、キリルの聲が聞こえた。
ゴォオオッ! と渦巻く風が吹き荒れる。
その嵐に巻き込まれ、ジーンが放った命を賭した魔法は――泡沫のように歪んで消えた。
そして中から現れたのは、無傷・・のキリル。
フラムはその景を見て、繭から羽化したようだ、とじた。
「ジーンのアホ……やっぱりアホだ……それじゃあ、ただの無駄死になのに!」
エターナが嘆く。
あいつのことは嫌いだった。
でも、その命を無駄に使っていいと思ったことは一度だってない。
彼だってそのつもりだったはずだ。
命を使って、世界にその価値を刻もうとしたのだ。
だというのに――殘ったものは、希どころか、さらなる絶だけ。
エターナとフラムは、ほぼ同時にスキャンを発していた。
螺旋覚醒スパイラルブレイブ――その言葉の意味を確かめるために。
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思。コ僭フ引=ORIGIN
屬:勇/原初
楜力:126823
魔リォ:129331
無:123753
抗ャ :126661
不可:129454
--------------------
そして直面する。
どうしようもない現実に。
リートゥスの力はもう使えない。
ジーンは死んだ。
ガディオも、ライナスも、マリアも。
エターナは満創痍。
セーラとネイガスは魔力を使い果たし、ツァイオンとシートゥムはまだけない。
殘るは、フラム一人のみ。
「キリルちゃん」
立ち向かうしか無いのだ。
そして、勝つしかない。
どれだけ絶的な力の差があろうとも、死んだ人々の想いを無駄にしないために、する人と歩む未來を摑むために。
神喰らいを引き抜き、構える。
するとキリルはゆっくりとフラムの方を向いた。
小高く積み上がった瓦礫の上で、の渦がこちらを見下ろす。
「行くよ」
「……」
向き合った二人。
ついに――最後の戦いが、幕を開けようとしていた。
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