《「お前ごときが魔王に勝てると思うな」とガチ勢に勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい》135 完全である必要はない、それなりでいい

一度でも接點を持ってしまえば、それから逃れることはできない。

その理屈から考えれば、おそらく全ての始まりは、フラムとカムヤグイサマとの戦いが発端だったのだろう。

だが最大の原因は、現在の・・・ジーンと會話をわしたことに違いない。

元より特殊な狀態だった彼は、わずかな接からパスが形されてしまい、そこから濁流のように流し込まれてしまったのだ。

オリジンとの長きに渡る闘爭が終わり、心に余裕――もとい隙間が出來ていたがゆえ、余計にやりやすかったに違いない。

心配するようなことではない。

いわゆる帰巣本能というやつである。

空いている場所があるから、するりと潛り込む。

その際、多の頭痛などの副作用が生じる可能はあるが、に影響を及ぼすものではない。

あるべき場所に戻るだけのこと。

あるいはそれを害だとじる者もいるかもしれないが、フラムの場合は何ら問題は無いのだ。

『すごかった、です。想像以上だった』

確かそれは、の話だ。

ったときの――決していかがわしい意味ではなく、なくともそのときはまだ、半分ぐらいは興味本位で。

『はっはっはっはー! 楽しいでしょ? もっと笑え笑えー!』

確かこれは、二人で遊園地に遊びにいったときの思い出だ。

なかなか笑わない彼をどうにかして楽しませようと、必死だった。

『空……綺麗だね。明るい街じゃなかなか見れないよ。でも……負けないぐらいXXXXXも綺麗』

ある日の夜、岬にある燈臺に登った。

その頃にはすでに世界は死につつあったから、空の星が見たこと無いぐらい綺麗だったことを覚えている。

『あ……あぁ……どうして……どうしてっ!? なんで私じゃなくてあなたなのっ!? お父さんも、お母さんも死んで……みんな、いなくなって……私には、もう……XXXXXしか……ああぁぁああああああああ!』

嘆き。

が涸れて、の匂いがするまでび続けた。

怒りと、悲しみと、怨嗟と、と。

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冷たくなっていくを抱き締めて。

けれどどれだけんだって、屆かない。

あいつは、天上でニタニタと笑っていた。

『適? そんなのどうだっていい。復讐ができるの? ちっぽけな私にも、できることがあるの? なら……使って、私のを』

捻れる。

捻れる。

捻れる。

時計回りとは逆に。

が、中が、意識が、心が、魂が。

私はいつの間にか、アレを破壊するだけの道へとり果てていった。

『あーあ……痛かったのに、苦しかったのに、無駄だったじゃん。ぜんぜん、屆かないじゃん』

語は悲劇で幕を閉じる。

悪役の高笑いが響き、空には無數の核ミサイルが飛びい、地上には殺戮兵と化したロボットが闊歩する。

そんな、終わった世界。

結局、先に死ぬつもりだった彼は、一人生き殘ってしまった。

だけどそれもじきに終わる。

『今度會えたら……絶対に、ちゃんと、“してる”って言うからね』

もう、逃げるつもりも無かった。

視界がに埋め盡くされる。

が熱に溶かされる。

不快な笑い聲が――耳にではなく、魂に、無限回転する機械仕掛けの神から、響いてくるような気がしていた。

◇◇◇

「……また似たような夢だ」

目を覚ましたフラムは、ぼそりと呟いた。

隣ではのミルキットが寢ている。

フラムは彼の方を見ると、その髪にれる。

「今日も同じ夢を見てるのかな……ミルキット」

以前はそうだった。

全然知らない世界で、フラムとミルキットと似た誰かが出會い、そしてには至らないものの関係を深めていく。

そんな、夢のような、夢でないような、夢。

フラムとミルキットは、そんな全く同じ夢を、すでに一度共有したことがあったのだ。

「んー……何なんだろ、これ」

先日、ジーンと話したときにも似たような景を見た気がする。

最初こそミルキットと同じ夢を見られることを素直に喜んでいたが、どうにも引っかかる部分が多かった。

果たして、これは本當に夢なのだろうか。

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『大丈夫、もう世界は終わらないよ』

時折聞こえてくる聲は、本當に幻聴なのだろうか。

せっかく幸せな毎日を送れているのだから、謎を謎のまま放置して、もやもやするのは避けたい。

しかし謎を探ろうにも、手がかりがこれっぽっちも見つからない。

フラムはとりあえずミルキットの寢顔と向き合って、その可さでのもやっとを誤魔化すことにした。

「……んふふ」

本當に見ているだけで他のことがどうでもよくなってくるのから、とは、とは恐ろしいものである。

◇◇◇

その日、フラムたちはシートゥムに招かれ、北區にある魔王城に向かった。

……間違いではない、紛れもなくそれは魔王城なのである。

もっとも、セレイドにあったもののように禍々しい見た目はしていないし、王城より大きいということもない。

魔王城と王城が並ぶ景は、人と魔族が手を取り合い共存していくための、一種のシンボルでもあった。

「お待ちしてましたよ、みなさんっ」

城のエントランスでフラムたちを迎えたのは、エプロンを纏ったシートゥムであった。

相変わらずの生活である。

しかし初対面のときと異なり堂々とその姿で出てきたということは、もはや吹っ切ったということなのだろう。

もっとも、さすがに城の中に洗濯が干されている様子は無いが。

「さあさあこちらへどうぞ、食事會の準備はもう出來ています。兄さんや他の人たちも待っていますから」

「シートゥムちゃん、私たちポルターガイスト現象の原因を探ってほしいって言われて來たんだけど……」

それは今日の朝、家にやってきた一人の魔族が発端であった。

玄関をあけたフラムの前に現れたのは、ツァイオンの友人であり、同時にディーザのを引く魔族――トーロスだ。

彼は現在、シートゥムとツァイオンの側近を勤めながら、人の世界で魔族が生きていくための支援をする仕事をしているらしい。

彼にも々あったようだが、今ではわだかまりも全て消え、家族と仲良くやっているそうだ。

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そんなトーロスが、なぜフラムの家にやってきたのか。

彼は、シートゥムから託されたという一通の手紙を差し出した。

を簡単にまとめると――

『魔王城でポルターガイスト現象が起きるようになってしまいました、魔族の力でもその正を暴くことはできません。フラムさんの力でどうにか解決できないでしょうか』

とのこと。

さらにトーロスは補足して、

『特にフラムさんが使っていたアビスメイルの周りで起きやすいみたいなんです』

と言った。

リートゥスはすでに仏しているし、となると、あの鎧に込められた呪いが原因である可能が高い。

そこで、フラムに白羽の矢が立ったというわけである。

だというのに――呼び出したシートゥムは、なぜか食事會をやる気満々であった。

エプロンを纏っているということは、おそらく彼の作った料理が並んでいるのだろう。

當然、フラムと共にやってきたミルキット、キリル、エターナ、インクも解せない様子である。

「ポルターガイストが起きるのは決まって深夜なんです。ですから、それまではご飯でも食べて、部屋でゆっくり休んで、英気を養ってください」

にっこりと笑ってそう言われると、頷くしかない。

(もしかしてポルターガイストって、私たちを呼び出す口実だったんじゃ……いや、でもそんなことしなくても、呼ばれたら行くんだけどな)

釈然としないまま、シートゥムに案され広間に向かう一行。

途中で見かけた魔族の中には、ツァイオンとネイガスの友人であるセイレル、トーロスの妹であるレーリスなど、見知った顔も何人か混ざっている。

そして食事會の會場である広間には、すでにセーラとネイガスが待機していた。

セーラは二人の魔族のと談笑していたようだが、フラムたちの姿を見ると、たちは頭を下げて広間から出ていった。

「あれって……えっと、ミナリィアと、クーシェナだっけ」

「今はこの街で暮らしてるんですよ」

「へぇ……の傷とか、すっかりよくなったんだね」

「セーラさんが治療していたようですから」

そして今は、セーラと友人関係にあるそうだ。

4年という月日は、だけでなく、彼たちの心の傷も癒やしていた。

だがそこには、二人の面倒を見ていたトファノおばあさんの力があったことを忘れてはならない。

はミナリィアとクーシェナが預けられたヴォーラーという集落に殘っているが、定期的にこの城にも顔を見せるそうだ。

「よく來てくれたな」

「ツァイオン、すっかり王様らしくなったね」

「外見だけはな」

スロウにしてもそうだが、王冠を頭に乗せてマントを羽織ると、それだけで王様っぽくなるものである。

それでもちゃっかり襟を立てているあたりは、さすがツァイオンと言ったところか。

「ずいぶんと気合のった夕食だと思ったら、おねーさんたちも呼ばれてたんすね」

セーラとネイガスもフラムに歩み寄ってくる。

「じゃあセーラちゃんたちも、怪奇現象を解決するために?」

確かに魔法を使うセーラなら、幽霊退治にはうってつけの人材だ。

もっとも、相手が幽霊かどうかも定かではないが。

「何のことっすか? おらとネイガスは、よくここでご飯を食べてるっすから、いつも通り來ただけっすよ。ねえ、ネイガス?」

「ええ、私とし合っているセーラちゃんは実質魔王ファミリーのようなものだもの」

つまり、ポルターガイストを止めるために呼ばれたわけではない、と。

ここに來た理由が違うのはともかく、頻繁に魔王城を訪れている彼たちが現象を知らないのはおかしくはないだろうか。

「やっぱりこれは、フラムじゃないと解決できない問題なんだね」

「そう、フラムレベルにならないと原因を摑むことすらできない」

一方で、キリルや、いつもは鋭いエターナは、なぜかそのことを疑問に思っていない様子。

そしてインクはなぜかフラムから顔をそらして肩を震わせ、ミルキットは若干気まずそうにうつむいている。

(ほほう……こやつら、何か企んでいるな?)

やはりポルターガイスト現象は、フラムをここに呼び出すための口実に過ぎないらしい。

だが、何のためにそこまで回りくどい真似を?

フラムはまだ、その意図を読めないでいた。

「ほらほらフラムさん、こんな素敵な料理の前で立ち話なんてもったいないですよ。まずは座ってからにしましょう」

シートゥムに促され、フラムたちは椅子に腰掛ける。

「自分で素敵な料理とか言うのかよ……」

迷いなき自畫自賛に、ツァイオンがぼそりと呟いた。

しかしシートゥムの地獄耳には、しっかり聞こえていたようだ。

「それだけ自信作なんですー! 兄さんだって絶対に味しいって言うはずですから!」

「斷言されると言いたくなくなるな」

「それでも言います。他の人が誰も言わなかったとしても兄さんだけは絶対に言います」

「なんでだよ」

「あ……がっ、ち、ち、調味料としてっているからです!」

「そこまで恥ずかしがるなら言うなって」

二人の喧嘩はいつものことだが、オチに新婚らしさがにじみ出る。

ぶっきらぼうに返すツァイオンも、なんだかんだで顔が赤くなっていた。

「私たちもいるのに、見せつけてくれるよね」

ニヤニヤと笑いながら眺めるフラム。

だがそんな彼の、自分を棚に上げた発言を周囲が放っておくわけもなく――

「……それ、フラムが言えたセリフ?」

「フラムたちのおかげで慣れてるから普通に見られるね」

的な接が無いだけ大人しい方だと思うなっ」

まずはすかさず、三人分の突っ込みがる。

「う……」

たじろぐフラム。

「むしろフラムちゃんのおかげで、公衆の面前でいちゃついても許されるみたいな風があるわよね」

「さすが世界を救った英雄っす」

さらに追加で二人分が彼に突き刺さる。

無論、反論の言葉などあるはずもない。

「うぅ……」

うなだれ落ち込むフラムを、ミルキットは寄り添いめるのだった。

◇◇◇

食事會は楽しく味しく過ぎていき、フラムたちは今日泊まる予定の部屋に案された。

もちろんフラムはミルキットとの二人部屋。

シートゥムは案を終え去っていく際、笑顔で『お布団は汚しても大丈夫ですからね』と言い殘していったが、そんなつもりはない。おそらく。

そもそも、落ち著いて眠る時間など無いはずなのだ。

今日の目的は、あくまでポルターガイスト現象を鎮めることにあるのだから。

時刻は午前2時。

一度仮眠を取ったフラムはベッドを抜け、目を覚ましてしまったミルキットに「行ってくるね」とキスをして、部屋を出た。

廊下で待っていたのはネイガスだ。

に案されシートゥムとツァイオンの部屋に連れて行かれたフラムは、そこでルール説明・・・・・をける。

夫婦の部屋はシートゥムの趣味である淡い桃の家と、ツァイオンの趣味である赤が混ざり合って、まだ“慣れていない”雰囲気だった。

だがキングサイズのベッドには枕が二つ並んでいたり、寢間著はどことなくペアルックぽかったりと、ちゃんとそれらしいこともしているようだ。

フラムがおそろいの格好を見て微笑むと、気づいたシートゥムの頬がほんのり紅した。

「おほんっ……アビスメイルが置いてあるのは、この部屋とはちょうど真逆にある倉庫です」

「そこに様子を見に行けばいいの?」

「はい。だいたいいつものこの時間に、何が音がしたり、勝手にいたりすると、見回りをしている方が言ってましたから」

「ふーん……それって、人に危害を加えたりとかはしないんだ」

「今のところ怪我人はいねえな。でもいつそうなるかはわかんねえ、できるだけ早く解決したいんだ」

「なんだったら、あの鎧、うちで預かろうか? 私だったら呪われても裝備できるし、エピック裝備だから仕舞っておくことも……」

「いえいえそれはっ、ご迷でしょうから!」

そうでもないのだが――なぜかシートゥムは必死で拒絶した。

やはり怪しい……というか完全にクロだ。

だがここまで準備してくれたのだから、乗っからなければ失禮である。

「わかった、じゃあぱぱっと見てくるね」

説明を終え、立ち上がるフラム。

「私がそこまで連れていくわ、ついてきて」

話を聞いただけでは場所がいまいちピンと來なかったが、ネイガスがついてくるのなら安心だ。

まあ、明るいうちに部屋の場所を教えておいてくれれば何ら問題は無かったのだが、そこも含めて演出ということだろう。

部屋を出ると、廊下はなぜか暗くなっていた。

ネイガスは用意周到に手に持ったランプであたりを照らす。

とはいえ、真っ暗な城の廊下にランプの明かりだけ、というのは非常に不気味である。

「なんでわざわざランプなんて使ってるんです?」

指摘をけて、ネイガスはわざとらしく壁にある明かりのスイッチに手をばす。

「おかしいわね、點かないわ。もしかするとこれも怪奇現象のうちの……!」

「順番間違えたんですね」

「……フラムちゃん、これは怪奇現象よ!」

「間違えたんですよね!?」

頑なに認めないネイガスであった。

フラムは確信する、彼は演技には向かない人間だと。

結局、ネイガスは怪奇現象でそれをゴリ押し、ランプ片手に先導し歩く。

長い廊下に、二人の足音だけがカツ、カツ、カツ、と不気味に響いていた。

「なーんか肝試しみたいですね」

「私、意外とこういうの苦手なのよね……」

「本當に意外ですね」

だったらなぜこの役割を引きけたのか。

つくづく配役ミスである。

するとそのとき、二人の真橫にある額縁がガタッ! と音を立てて傾いた。

「ひゃぁっ!?」

驚きもちをつくネイガス。

冷靜に観察するフラム。

もはやどっちが仕掛け人かわからない有様だ。

「大丈夫ですか、ネイガスさん。なんだったら私が前を行きましょうか?」

「い、いえ……さすがにそれはまずいわ。頼まれた手前、ちゃんとやり遂げないと」

もはや隠す気ゼロだ。

フラムは苦笑いしながら、立ち上がろうとする彼に手を差しべた。

「前から苦手だったんですか? こういうの」

「いや……前はシートゥムが驚いてるのを笑うぐらい平気だったわ。オリジンとの戦いの後からよ。あいつら、暗い場所からいきなり出てくるじゃない?」

「キマイラですか」

「そう、あとそれ以外も。廃棄された研究所で出會った実験とか、地味にトラウマになってるのよ」

フラムにもそれはわかるような気がした。

今でも暗くて見えない廊下の奧から、誰かの顔をした化が姿を現すのではないかと思うことがある。

倒すだけの力はある。

だがそれと、化が怖いかどうかは別の問題だ。

「セーラちゃんは平気なんですかね」

「あの子もよく夢でうなされてたりするわよ」

「……4年経っても、ですか」

「そう簡単にはね。ああ、でも大丈夫よ、抱きしめると楽になるみたいだから」

セーラとネイガスは、二人きりで數ヶ月間旅をしてきた。

その間、何度もネイガスに守られてきたのだろう。

セーラが彼に抱く信頼は、睡眠中の無意識下でも影響を及ぼすほどになっていた。

「一緒に寢てるんですね」

「それはそうよ、だって同棲してるのよ?」

「大聖堂の近くって言ってましたっけ。なんかセーラちゃんとネイガスさんの同棲ってあんまり想像できません」

「そうかしら、ちゃんと家事も分擔してうまくやってるわよ。あー……でも、あのセーラちゃんの姿は私しか見てないかもしれないわね」

「二人きりだと違うんですか?」

「それはもう、ぜんぜ……うひぃっ!?」

臺の上に置かれていた壺が床に落ちた。

だが気を使ってか、當たる直前に減速し、ふわりと著地する。

「優しいポルターガイストですね……」

「もう何のためにやってるのかわからなくなってきたわ……」

それを一番言いたいのはフラムの方だ。

気を取り直し、前進を再開する。

「それで、うちでのセーラちゃんだけどね、それはもう甘えん坊なのよ。表からきから全て、二人になると絶対に表では見せられない狀態になるわ」

「しっかりしてて、割とネイガスさんと仲良く喧嘩してるイメージですけど」

「あー、もうぜんぜん違うわね。あれは完全に仮の姿だわ。フラムちゃんにもわかりやすく言うと、ミルキットちゃんの甘え方をちょっとくしたじ?」

「ミルキット並ですか……それはすさまじいですね」

「まあ、あんな顔されたら押し倒すしかないわよね」

「わかります」

腕を組み、深く頷くフラム。

ネイガスも一緒に首を縦に振った。

「私が言うのもどうかと思うんだけど……かなり、されてると思うわ」

「それは間違いないと思います。普段のセーラちゃんからも、ネイガスさんへの気持ちが溢れてますもん」

「やっぱりわかる!? 私もね、付き合いだしてから1年ぐらい経った頃だったかな……他の人がいるときの素直じゃないセーラちゃんからも、実はすっごい好き好きオーラみたいなのが溢れてるって気づいたのよ!」

「日常の何気ない作から、ですね」

「そう、そうよ! んでそれに気づいたら私の方もが溢れるっていうか、がきゅうぅぅぅんっ! ってするようになっちゃって……今はもうすっかりセーラちゃんの虜だわ」

「元からじゃないですか」

「前よりもっとよ」

「ははは、幸せそうですね」

「もちろん! 忙しいけど超幸せよ。あなたたちにも負けないぐらいにね」

フラムはし心配だったのだ。

教會に変わる新たな組織を作り、人と魔族という異なる種族同士で結ばれたセーラとネイガス。

どんなに二人がし合っていても、障害は必ず立ちふさがって、彼たちの道を妨げてくるはずだ。

しかし――不要な心配だったようである。

「うひゃあっ!?」

そんなものは関係ないぐらい、二人の絆は深まっていて、

「んひっ!? な、なんで私の近くで驚かすのよぉっ!」

いかなる障害が現れようとも、

「ちょ、ちょっと、あっちでしょ、あっちを驚かすって――」

想いの力は、それを容易く打ち砕くはずだ。

「だからなんで私ばっかりなのよぉぉぉぉっ!」

「たぶん、ネイガスさんが面白いように驚いてくれるからだと思いますよ」

「フラムちゃんを驚かすのが今回の主旨だったはずなのに……」

すでに涙目のネイガスさん。

そんなとき、私たちの前に一枚の紙が現れた。

不思議なことにそれは浮き上がっており、まるで壁にり付けられたような狀態になっている。

「ここから先は一人しか通しませんよ……って文字風に書いてありますね」

割と頑張って書いてあるが、どこからどう見てもペンによるものだ。

「どうやら私に案できるのはここまでみたいね」

急に演技がかった喋り方をしだすネイガス。

おそらく臺本通りの展開なのだろう。

「ここからは、あなたに託すわ」

そう言ってランプを手渡す。

「ふぅ……」

そしてやりきったに溢れたため息。

「ちなみこれ、誰が発案したんですか?」

「言ったらネタバレになっちゃうじゃない、行けばわかるわよ」

「もはやポルターガイストもへったくれもないですね……」

「そんなの首謀者が私の方を驚かし始めた時點で崩壊してるわ! とにかく、私は部屋に戻ってセーラちゃんに癒やしてもらうから、あとは一人で頑張って。じゃっ!」

ネイガスはフラムに親指を立てると、そのまま暗闇の中に消えていった。

遠くから「痛っ!? あ、やば、ランプ無いと真っ暗じゃないのここ!」という聲が聞こえてきたが、まあ、普段から見慣れた場所なので、どうにか部屋まではたどり著けるだろう。

「さて、と。何が待ってるのやら……」

一人になったフラムは、ランプで前を照らしながら目的地へ進んだ。

アビスメイルが置いてある倉庫は、もう目の前だ。

扉の手前で立ち止まると、早くも中では異変が発生しているようだった。

カタカタと何かが震え、ガタンッと金屬の塊が落ち、オォォォォ――と亡霊を思わせる聲が響く。

何も知らずにここに連れてこられたら、フラムでも怯えていたかもしれない。

「幽霊とかどうやって倒せばいいかわかんないもんなぁ。あ、神喰らいで斬っちゃえばいいのか」

呪いの塊であるあの刃なら、亡霊ぐらい両斷できるかもしれない。

それができなくても、反転の力を強引に行使すれば、この世にフラムが消滅させられないなど存在しないのだろうが。

「おじゃましまーす」

扉を開く。

するとその瞬間、中から聞こえていた音はぴたりと止まった。

「逆に靜かな方が不気味だ……」

には、アビスメイル以外にも鎧を著せられたトルソーがいくつか並んでいた。

他にも壁には様々な種類の武が飾られ、大事なアイテムがっていそうな寶箱や、季節違いの服がっていると思われる裝箱が置かれており、まさに置といった雰囲気である。

以前の魔王城にあった寶庫に若干似ているものの、あの場所より生活がある。

「もしもーし、誰か隠れてるんなら出てきてくださーい」

正直、フラムはとても眠かった。

こんな時間に歩かされ、ミルキットは部屋に一人で寂しい思いをしているはずだし、肝試しが目的ならもう終わってしまっていいと思っていたのだ。

どうせポルターガイスト現象とやらも、シートゥムたちの魔法を使ったいたずらなのだろうから。

「懐かしい……ってほど時間は経ってないんだよね。私、よくこんな派手な……っていうかかっこつけた鎧を付けて戦えてたよね」

アビスメイルの前まで移したフラムは、しみじみと言った。

だが近づいてみても、鎧からは以前のような呪いの力はじられない。

試しにスキャンを使い、能を確かめる。

--------------------

名稱:鬼哭啾々のアビスメイル

品質:エピック

[この裝備はあなたの筋力を345減させる]

[この裝備はあなたの魔力を571減させる]

[この裝はあなたの力を482減させる]

[この裝備はあなたの敏捷を406減させる]

[この裝備はあなたの覚を559減させる]

[お久しぶりです、お元気でしたか?]

--------------------

「うわー、やっぱかなり呪いの力は弱まって……って、ん?」

最後の一文が、明らかにおかしかった。

「お久しぶり……?」

フラムは念の為、もう一度スキャンをかけなおし、確認する。

--------------------

名稱:鬼哭啾々のアビスメイル

品質:エピック

[この裝備はあなたの筋力を345減させる]

[この裝備はあなたの魔力を571減させる]

[この裝はあなたの力を482減させる]

[この裝備はあなたの敏捷を406減させる]

[この裝備はあなたの覚を559減させる]

[ここに來るまでの間、もうし驚いてくれてもよかったんじゃないですか?]

--------------------

「……変わってる」

エンチャントの表記は、そう簡単に変えられるものではない。

だが4年間の間に、スキャンを使ったときに任意の文章を表示するような魔法が生み出された可能もある。

フラムは周囲を見回す。

しかし――魔法を使われたじもしないし、近くには人の気配もしない。

どんなに息を殺そうとも、今のフラムの覚から逃げられる生は存在しないはずである。

「自式の魔法を仕込んであった……?」

[違いますよ]

「即答されてしまった」

[だって見てますし。私が誰なのかもうわかっているのではないですか?]

「いや、その可能を考えなかったわけじゃないけど、だって、ほら……」

フラムは頬を引きつらせながら言った。

「臺無しじゃないですか、々と」

[々?]

「恨みを晴らして的に逝った雰囲気出してましたし、というか戻ってこれるならキリルちゃんとの戦いにちょっとぐらい參加してくれてもよかったんじゃない? って思わないこともないですし」

[冷靜に考えたら、シートゥムにも會ってないのに仏できるわけないと思って、頑張って戻ってきたら終わってたんです]

「頑張って戻れるものなんですか!?」

無論、普通は不可能である。

だが依代としていたアビスメイルがその場所にあったこと、そして彼・・自が、死後も長時間現世に留まっていたため、そういったことが出來てしまったのだろうと思われる。

當然、普通の死者にできることではない。

「もうスキャンで會話するのも何ですし、出てきちゃっていいですよ」

[誰だかわかったんですか?]

答えるまでも無いとフラムは思っていたのだが、どうしても彼は名前を呼んでもらいたいらしい。

「とっくにわかってますよ、リートゥスさん」

フラムがその名を呼ぶと、アビスメイルの中から煙のように白い影が浮き上がる。

それは次第に人の形へと変わっていき、髪の長いが姿を現した。

「忘れられていたらどうしようかと思いました。お久しぶりです、フラムさん。その節はお世話になりました」

ぺこりと頭を下げるリートゥス。

今の彼からは、悪霊だった頃の邪悪さをじられない。

ディーザやオリジンが死に、さらに娘と再會できたことで浄化されたということだろうか。

「こちらこそ戦いを手伝ってくれてありがとうございました」

「私としてはもっとフラムさんにも驚いてしかったのですが、うまくいかないものですね。そのまま終わるのもなんなので、ついネイガスを驚かせてしまいました」

「ついって……」

「元はと言えば、あの子たちの演技が下手なのが原因ですから」

意外と毒舌である。

悪霊だった頃の影響なのか、あるいは元からそういう人だったのか。

「はぁ……リートゥスさん、こんな愉快なサプライズを仕掛けてくるような人だったんですね。印象が変わりました」

「悪霊だったころとは違いますから」

元悪霊が、仏もせずに普通の霊になれるものなのだろうか。

というか、現世に殘れるものなのだろうか。

この世にはジーンにだって明らかにできない不思議が數多く存在する。

そのうちの一つだと考えれば――フラムはご都合主義がすぎる気がしないでもなかったが、オリジンが滅びたこの世界なら、それも許されていいはずだ、と思った。

リートゥスとの會話の最中、天上にぶら下げられたランプが明かりを燈す。

廊下の方も同じように明るくなったようで、どうやら仕掛け人であるシートゥムたちがネタバラシに來たようだ。

もっとも、フラムはすでに全てお見通しだが。

「どうでしたか、フラムさん。驚いていただけましたか?」

「いや、驚くっていうか……何かあるんだろうな、っていうのは最初からわかってたし」

「ば、バレてたってことですか!?」

「あれでバレないと思ってる方がどうかしてんだろ……」

まったくもってツァイオンは正論である。

「お母様とあんなに打ち合わせや練習をしたのに……」

「いいのよシートゥム。本番はうまくいかなくとも、練習だけで私は楽しかったですから」

「……そう、ですね。お母様と一緒にんなことができるだけで贅沢ですもんねっ」

リートゥスと再會してからのシートゥムは、すっかりお母さんっ子になってしまったらしい。

まあ、い頃の死んだはずの母が目の前に現れたら、生前仲が良ければ誰だって似たような狀態のなるのかもしれないが。

しかし、そこで困るのはツァイオンである。

「ツァイオンも大変だったでしょ?」

「オレが? あぁ、リートゥス様が――」

「お義母さん」

「か、義母さんが……近くにいて、シートゥムと付き合うのに問題は無かったかってことか?」

「そうだけど……」

フラムは家庭のヒエラルキーを一瞬で悟った。

それはともかく、シートゥムが母とべたべたしていると、彼氏――今は夫になったわけだが――であるツァイオンは、なかなか自由にいちゃいちゃできなくなってしまう。

「リートゥスさん、壁とかすり抜けてくるもんね。鍵をかけても無駄って中々辛いと思う」

「そこまでして踏み込んではこねえよ。とっくに親公認の仲だしな、そこはちゃんと気を使ってくれてたよ」

「そっか、リートゥスさんが生きてた時點でもう仲良かったんだもんね」

馴染ってのは、相手の両親と新しい人間関係を作らなくていいからなぁ、楽っちゃ楽かもしれねえ。つっても、不満がないわけじゃねえけどな」

遠い目をするツァイオン。

「何が不満なの?」

フラムの問いに対する答えに、シートゥムとリートゥスも興味津々である。

言いづらい狀況の中で、しかしよほど不満が溜まっていたのか、あえて彼は包み隠さずに悩みを吐き出した。

「孫の顔がみたいって……一日三回ぐらい言われんだよ。オレはそれをどんな気持ちで聞けばいいんだ? どう返事したらいいんだ?」

「兄さん、そんなに悩むことないじゃないですか。『頑張るぜ!』って言えばいいんですよっ」

「母親の目の前で言えるわけねえだろっ!?」

「別に私は、あなたが娘のまだい肢を滾らせても気にしませんよ」

「だからそういうとこだよぉぉぉぉ!」

深夜の魔王城にこだまするツァイオンの嘆き。

まあ――なにはともあれ、人間の世界で暮らし始めた魔族たちは、それなりにうまくやっているようである。

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