「に、人間が喋りかけてきてる！？」

あまりにも驚いたのか、唾が大量に俺の顔に飛び散る。

うげぇ、汚ねぇ……。

見かねたコスケが飛び上がり、オークをシバく。

「汚いモノを飛ばすんじゃないんだよ！」

「ウゲラッパ！？」

頬を思い切り毆られたらオークが地面を削りながら転がっていく。

その拍子に腰簑しか著けていないので、もっと汚ない奴の一がに……うげぇ。

思わず顰めっ面をしたのだが、それを察したコスケがオークの間へとスマッシュを決める。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ！」

「汚いモノを見せるな！」

スマッシュされた自分の一を抑えあっちこっちに転がり回り勢いよく木にぶつかったり、石に頭をぶつけたりしている。

うわぁ、痛そうだな……。

暫く転げ回ったオークは俯せでを付き出すようにしてビクンビクンと痙攣していた。

よっぽど痛かった様で、嗚咽が聞こえる。強く生きろよ。

若干帰りたい気持ちを抑えつつも、このままでは問題を先ばしにすることになるので、手っ取り早く行こう。

すすり泣くオークへと近づいていき、未だにオークが立ち上がれないので、こっちが目線を合わせる為にしゃがむ。

「よし、落ち著いた所で提案についてなんだけど……」

「これが話せる狀況に見えるのでごわすか！？」

こいつ喧しいな。

唾が飛んでくるからばないでもらいたいな、至近距離なので、耳に響く。

「充分元気だと思うけど」

「じゅ、１０分寄越すでごわす！　そしたら話は聞くでごわすから！」

本當に話を聞くのが辛そうな様子なので、仕方なく待つことにした。

コスケが「主君を待たせるとかなんな訳？」とかぶつぶつ言ってたけど原因お前。

それから１０分後、スライムだが全く侮れない強さを持っているコスケにビビって大人しくなったオークと再び會話を試みる。

因みに俺は丁度良い切り株に座って、膝の上にコスケが乗っており後ろに族長が控えている。

うん、強者になった気分だ、１番弱いのは俺だ勘違いするなよ。

「あのスライムを従えているのでごわすか……つまりあの人間が１番強い！？」

早速勘違いしてるアホが１匹。

的はずれな確信を得たオークは背筋をばし、正座をしている。どこで習ったのだろう。

否定するのも面倒なので特に何も言わないでおこう、俺は早く話を進めて帰りたいのだ。

と言うのも、族長が出ていく所をチラッと見てしまったせいで、特に口に何もいれずにやって來たおでお腹空いてます、いやマジで。

「で、改めて提案なんだけど」

「は、はいでごわす！」

「その前に１つ質問だ、お前たちオークは引き下がるつもりは一切無いんだな？」

「と、當然でごわす。種族を滅ぼすなんてことはワテらには出來ないでごわす」

しっかりとした目付きでオークは俺を見返す。素人目でも引く気はないってじだな。

「次に族長はどうだ？　ゴブリンの縄張りを渡すつもりはあるか？」

「いーや無いね。種族の頭として引き下がらない。それにゴブリンの領土はマスターの領土でもある、舐められる訳にはいかねぇ」

両方とも妥協は無しと言うことを改めて確認した。まぁ、どっちも引かないってことは分かってたけどさ、気持ちも理解は出來るし。

ならここは正々堂々と決著をつけるしかないだろう。

「お前らの意志はよく分かった。そこで提案に移るぞ、と言っても単純だ。決著を著けるために勝負をするんだ」

「勝負……でごわすか？」

「そう、勝った方が負けた方の條件を呑む。単純だろ？」

どっちも引けないなら戦うしかないだろう、非常に脳筋な提案だが魔に話し合いなんて無意味だし、解決策はこれと言って浮かばない。

どちらにせよ一即発な雰囲気だ、話し合いでどうにかなる問題じゃないだろうし……毆り會えば友芽生えるんじゃね？　的な昭和ヤンキーみたいな提案だが、意外といけるのではと考えてます。

「どっちかが降參、もしくは全滅するまで続ける……と言いたい所だが、みどろな爭いは免だからな、勝負の方法は俺が決める」

「ま、待つでごわす！　それだとそっち側が有利になるでごわすよ！」

「安心してほしい、報を與えただけじゃ有利不利に繋がるものじゃないし、それに今ここで発表するし」

至極単純で死者も出ない、素敵な提案が俺にはあるのだ。

「マスター、ここまで見越してやがったのかよ……」

なにやら勘違いをしている奴がまた増えた気がするが、放置だ放置。

「主君、どんな容で勝負をするの、だよ？」

「あぁ、それはな……」

「ちょっと待つでごわす！」

折角きめようと思ってどや顔まで準備したってのに水差しやがって。

「なんだ？」

「出てくるのはゴブリン族だけでごわすよな！？　そ、そこのスライム……ひぃっ、スライム様が出てくるなんてことは……」

「安心しろ、今回出てくるのはゴブリン族だけだこいつを含め他の奴等も出てこないと誓うさ」

「そ、それなら良いでごわす」

今回、ダンジョン側はミストやユキムラなどの完全なダンジョン側にいる奴等は出すつもりはい、俺としては軽い小競り合いに戦車を持ってくるとかしない。

出すのは元(・)ゴブリン達だけだ、今では進化してホブゴブリンとなっております。

おまけに地獄の特訓により數段強化済みなので、ある意味卑怯だがそこは堪忍してや。

このオークに回る頭があるのなら、以前とは変わり果てたホブゴブリンの族長を見て他にも強い戦力がいるのではと考えるだろうし、心配は要らないか。

「ふっふっふ、スライムが出てこないのならばあとはただのゴブリンだけ……注意するのは族長のホブゴブリンだけでごわすな！」

こりゃダメだな。

「それで勝負の容だったな、それは……『旗取り』だ！」

勢いよく切り株の上に乗りコスケを脇に抱えつつ、ズビシッと指を天に掲げる。決まった……。

「「「なにそれ？」」」

心底意味が分からないとばかりに聲を揃えた魔達に若干恥ずかしさをじる。

だれか突っ込め、このポーズにコメントをくれぇ！

「主君、かっこいいよ」

察してくれたコスケからお褒めの言葉を戴いたが、小っ恥ずかしいので止めてほしい所だ。

「まぁ簡単だ、お互いの陣地に旗を掲げてそれを奪い合うだけだ。旗を守るための妨害は何をしても良いが、殺しは許さんぞ」

「それは確かに……勝負としては立しているが……まぁマスターの提案だ。斷る理由はねぇよ」

そうして族長はオークへと視線を向ける。

オークは足りない頭を必死に働かせ、なんとか理解しきったようであった。

「ふっふっふ、良いでごわすよ！　その提案に乗ったでごわす。ゴブリンごときに負けないでごわすからな！」

「だ、そうだぜマスター」

自信満々なオークはもう勝ったつもりな様だ。

こっちの言いたいことは言えたし、そろそろ帰るか、腹が減った。

「開始は３日後、旗は俺が用意しても良いか？」

「……変な細工はしないでごわすか？」

「そんな邪魔しないよ、安心してくれ」

「ならお願いするでごわす」

「分かった、じゃあな」

俺は踵を返し、ダンジョンへと戻ることにする。

「ホブゴブリンよ、ワテらオークの力見せつけてやるでごわすよ！　覚悟するでごわす！」

族長へと宣戦布告をするオークに対し、漢な族長も振り向き様に告げた。

「上等だ、返り討ちにしてやんよ！」

そう言って俺より先に歩いて行ってしまった。

これは見だな。

「あ、おーいオーク。言っておく事がある！」

「な、何でごわすか！？」

びっくりしないでほしいんだけど……。

「お前らが戦うのは元(・)ゴブリンだ、今は全員ホブゴブリンだからな、ちゃんと対策しろよ」

このままではフェアじゃないので報をプレゼント。

そんな報を聞き、オークは數秒固まった。

「ふぁっ！？」

そんな変な聲をあげたオークの聲を聞きつつ、俺もダンジョンへと足を運ぶのだった。