《勇者のパーティーから追い出されましたが、最強になってスローライフ送れそうなので別にいいです》彼は村まで案され
  獣人。それは神話や伽噺に出てくる存在であり、大抵の場合人間の対立者として描かれることが多い。
  鋭くびた鉤爪に、兇悪な相貌。人の姿をしているがその本は紛れも無い獣であり、闇夜に現れては人を食う邪悪な存在。夜遅くまで起きている子は獣人が攫いに來るという決まり文句さえ広まっている。
  獣人の他にもエルフ、ドワーフ、竜など種類は様々だが、そのいずれも人間へと害をなす存在として描寫されている。そんな存在が今、目の前に立っているのだ。
「じゅ、獣人!?」
「?  どうしたんだアンタ?  変なものでも見たような顔して」
  一瞬構えるが、相変わらず不思議そうにこちらを見つめている年を見ているとなんだか自分が馬鹿らしくなってくる。
  溜息をつき構えを解く。自を害する意思もない者を警戒するほど馬鹿らしい事はない。
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「……いや、何でもない。それよりキミ、集落に住んでるんだって?  出來れば案してしいんだが……」
「ああ、いいぜ。でもオレは『キミ』なんて名前じゃねぇ。ラトラっていう立派な名前があるんだ!」
「分かった。なら、俺の事はバグスと呼んでもらおう。これから宜しく頼むぞ、ラトラ」
  俺がそう言うと、彼は機嫌を良くしたようで満足げな表でを張った。
「ああ!  きっとバグスも、オレ達の村が気にるぞ!」
◆◇◆
  ラトラの案の元、草木を掻き分け森を抜ける。獣人の村に案されるという不安はあったが、それ以上に伽噺の存在と會えるという期待が上回っていた。
  木々を抜け、若干ひらけた場所に辿り著いた頃、その村は見えてきた。
「ほら!  あそこがオレ達の村だぜ!」
  ラトラの指差した先を見ると、丸太で出來たロッジのような家々が立ち並んでいる。周囲は先の削られた木のバリケードで囲まれており、魔に対する備えも萬全のようだ。
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  予想以上にしっかりとした集落だ。そんな想を抱きながら、ラトラに連れられ村の中へとっていく。
「おう、ラトラ!  そいつぁ誰だ、お前の番つがいか?」
「うるせぇぞおっちゃん!  噛み千切るぞ!」
「ガッハハ!  悪い悪い!」
  道中で話しかけてきた中年男の言葉が癇に障ったのか、獣らしくガウガウと威嚇するラトラ。が逆立っているところを見ると、まるで子貓の威嚇だ。
  そんな様だから大して効果も無いようで、男は相変わらず大口を開けて笑っている。
「別の集落の奴か?  それにしては耳も尾も無いようだが」
「なんでも、々あって全部失っちまったらしいんだ」
「おおっと……そりゃ気分のいい話じゃ無いな。突っ込んで悪かったよ」
  いや、そんなこと言った覚えないんだが。ありもしない事を吹き込んだラトラを見るも、『しっかり事は伝えてやったぜ』というドヤ顔を見ると怒るに怒れない。どうやら彼の中では固定された事実のようだ。
  まあ確かに、人間であると伝えるよりリスクはないだろう。俺ではなく、信頼を得ているであろうラトラから伝えられたというのも信憑を増す結果となっている。都合がいい為、このまま利用させてもらうとしよう。
「ま、そういう事だ。あまり気にしないで貰えると助かる」
「あたぼうよ!  まあ何も無い村だがゆっくりしてってくれ」
  そう言って俺達から離れていく男。やり取りは完全にそこらの人間と変わらなかったが、その後ろ姿を見ると腰のあたりから一本尾が生えている。改めて、ここは獣人の集落なのだと思い知った。
  それ以外にもチラホラと見るが、誰も彼もが獣耳と尾を生やしている。もはや気分は異世界だ。
「ったく……どうやったらオレ達が番いに見えるんだ。ほら、早く行くぞバグス!  家はこっちだ!」
「あ、ああ」
  ラトラに手を引かれ、俺は彼の指す家へと向かっていった。
「ただいま!」
「あら、お帰りラトラ。晝から姿が見えなかったけど、一どこに行ってたの?」
  家にった俺達を迎えれたのは、ラトラの母親らしき人だ。
  とはいえ、別に老けているとかそう言う意味ではなく、寧ろ外見は非常に若い。彼の纏う雰囲気がそうさせるのだろうか。長くびた耳を見るに兎がモデルの獣人だろうが、貓っぽいラトラとは正反対の印象をける。
  料理でも作っていたのか、どこか獣臭いの臭いがする。そう言えば晝飯がまだだったな、と俺は空きっ腹思わずさすった。
「あーっと、ちょっとした冒険に……」
「噓つけ。『ちょっとした』冒険で魔に襲われる訳ないだろう」
「わーっ!  わーっ!」
「魔……?  というかラトラ、そちらの方は?」
  まあ、確かに見知らぬ男を息子が連れてくれば疑問にも思うだろう。丁寧に一禮し、自己紹介をする。
「どうも、先程宅の息子さんと知り合ったバグス・ラナーと申します。まあちょっとしたトラブルがあっただけですのでお気になさらず」
「……あら?」
「ん?」
  丁寧に挨拶をしたにも関わらず、何故か疑問の聲を上げるとラトラ。何か相をしただろうか、と先の言葉を思い返してみても、どうにも考え付かない。
  俺が首を捻っていると、何かに気づいたようにが手を打ち鳴らす。
「ああ、そういう事だったのね!  バグスさん、々と勘違いされているようで」
「勘違い?」
「ええ。まず私、この子の母親ではなく姉です。これでもまだ産まれてから二十を超えてないんですよ?」
「……は」
  なんと、どうやら自分はとんでもない勘違いをしていたようだ。慌てて頭を下げ、謝罪をする。
「申し訳ない!  決して悪気があった訳ではなくて、ただ雰囲気からして保護者だったと言うか、その……」
「いえ、気にしてませんよ。ただ、息子というのはし頂けないですねぇ。ラトラはの子ですのに」
「はーー??」
  立て続けに明かされた衝撃の真実。グルリと思い切り振り向くと、ラトラが頰を若干膨らませてこちらを見ていた。
「……う、噓だろ?」
「本當だよコンチクショウ!」
「ごっへぁ!?」
  中のバネを生かし、貓のようなしなやかさを使った右ストレートは、長差も手伝い、良い角度で俺の鳩尾へと鋭く突き刺さる。
  何も食べていなかった為、幸いにも中は出さずに済んだが、それでも吐き気は止まらない。機嫌を悪くしたのかラトラは肩を怒らせながら別室へと消えて行った。
  後に殘されたのはなんとも言えない表をしていると蹲る自分の二人。初対面同士が放置されれば基本的に気まずくなるだが、生憎と今の俺にそんなものをじる余裕は無い。
「大丈夫ですか?  ここで寢転ぶのもあれですし、一旦椅子に座りましょう」
「ぐ、す、すいません……」
  ジクジクと痛む腹を抑え、の肩を借りながらどうにかこうにかリビングの椅子へと座る。
  自業自得とはいえ、ここまでやる必要は無いだろう。そう思いながら傷跡をさすっていると、が困ったような表で話しかけてきた。
「免なさいね。あの子も決して悪気がある訳じゃ無いの。ただ、し腕白に育ち過ぎちゃって……」
「……いえ、原因は自分にあるので気にしてませんよ。ましてや貴が謝ることでも有りません」
「そう言ってもらえると助かるわ。私も親代わりになろうと頑張っていたのだけれど……そう考えると、さっきの勘違いは寧ろ喜ぶべき事ですね」
  くすりと笑う。姉とは言っていたが、ラトラとは似ても似つかない格の持ち主のようだ。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私の名前はサウリールと申します。何も無い家ですが、どうぞゆっくりして行って下さい。そうだ、お腹は空いていませんか? 折角ですから何か食べてください」
「あ、ああ……ご好意はありがたいが今の狀況じゃ食えそうにない。済まないが空き部屋か何かを紹介してもらえると……」
正直、この腹調子では何かれたところで直ぐに出てきてしまう。直ぐにでも橫になって、療養しておきたいというのが正直な想だった。
俺の顰め面に苦笑いを浮かべると、サウリールはラトラがっていった扉とは反対側に位置する扉を指さす。
「あの部屋を使ってください。最近はあまり使っていませんが、掃除はしているのでそれなりに綺麗なはずです」
「済まないな。し借りる……いっつつ」
「大丈夫ですか? 必要なら何か薬草を……」
「いや、そこまで世話はかけない。自前の薬がある」
懐からいくつかの薬を取り出し、サウリールに見せる。勇者パーティーを抜けた際、これも餞別として貰ったものだ。數はないが、効果は折り紙付きである。
「そうですね、ないでしょうがこれは禮として幾つか置いておきます。薬効は保証しますよ」
「そんな、お禮を求めた訳じゃ……」
これ以上何かを喋るのも限界だった為、半ば押し付ける形で薬を置き、俺は案された部屋へと向かった。
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