《勇者のパーティーから追い出されましたが、最強になってスローライフ送れそうなので別にいいです》しかし彼は苦戦せず
「お、おい!  もっと早く飛ばせないのか!?  これじゃ追いつかれるぞ!」
「悪いが、これ以上飛ばすと制が出來なくなる……っ!」
  背後から嫌な気配をじ、進路を急速に左へ切り替える。無理な急制を行なったせいか、全の骨格がミシミシと嫌な音を立てる。下手に繰り返せば、骨折どころか全が砕ける事もありうるだろう。
  だが、その位の事をしなければ狂獣からは逃げ切れない。その証拠に、高速でへし折れた大木が俺達の真橫を掠めていく。
  恐らく道中で折った木を利用し、高速で飛び回る俺達を叩き落とそうとしたのだろう。知能がある、というベリオ言葉は噓ではなかったようだ。これは確か普通の獣や魔獣には真似出來ない。
「くそぉっ!  こんな、こんな所で死んでたまるかよ!  せっかく母さんの形見を見つけたって言うのに!」
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「あんま喋んな、気が散るだろ!  それに、何かを投擲するにはモーションが必要だ。それならしでも差が開いて……」
  狀況を確認するため、背後をチラリと覗く。だが、次の瞬間に眼前へと広がっていたのは、迫り來る鋭い五本の爪だった。
  狂獣の腕だーーそれを理解する前に、俺のは行を開始した。
  咄嗟に右掌を翻し、最大出力で破。右と左で逆ベクトルに力が働いた俺のは高速で回転、狂獣と相対する。
「ぜああああああ!!」
  猛る咆哮を燃料に、回転の勢いを利用して繰り出された全力の膝蹴りは、眼前まで迫っていた狂獣の腕かいなへと鋭く突き刺さる。
  だが、これだけでは足りない。力を込め切れない空中では、猛る獣の一撃をいなす程の威力は出ない。そう咄嗟に判斷した俺は、接地點となった膝から発を起こす。
  ゼロ距離の発に耐えきるというのは並大抵の事ではない。大ダメージという訳にはいかないだろうが、それでも狂獣の攻撃軌道を曬すだけの力は十二分にある。目論見通り、発の威力に押され兇刃は大きく吹き飛んだ。
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  だが、こちらも大きく姿勢を崩された。下手に飛んで制を失い、木に叩きつけられるという結末は避けなければならない為、俺達は一度地面へと著地する。
「ぐ……すまん。俺が後ろを見ていれば」
「ま、次からはそうしてくれ。それにしても隨分と禍々しい見た目してないか?  あいつが魔獣じゃないってのが、俺には一番の衝撃なんだが」
   そう、眼前に唸り聲をあげながら相対している奴からは、魔獣の気配が一切じられないのだ。浴びる程の魔力をけて誕生した魔獣は、その誕生時から溢れんばかりの魔力を垂れ流す様になる。だが、こいつからはそれをじ取ることができない。
  だというのに、その狂獣の威容は一際異彩を放っていた。人を幾人も食い殺していそうな容貌に、普通の人間の五倍は優に超える高。長年の時を経た巨木の如く太い腳に、鋭い爪を備えた腕。若干の焦げ跡が付いている事から、先程の俺達を襲ったのもこれだろう。そして極め付けは、背中から生えた筋骨隆々の腕だ。
  腕ならば先程特徴に上げただろう、と思うかもしれない。その通り、だが前述の腕と後述の腕は全く別なのである。
  肩口から生えたと、肩甲骨のあたりから生えた。合計四本の腕が、奴には生えているのだ。生としてこれだけの腕が本當に必要になるのか、甚だ疑問である。
  魔獣ならばこういった特異な変化は珍しくもない。だが、普通の獣としてこういった容貌をしている生はを見るのは、それこそこの狂獣が初めてだ。
  だが、確かにあれならば背中の腕がを投げている狀態でも走り続けることが出來る。追われるとしてはこれほど厄介なことはない。余計な進化をしてくれたものだと思わず心で舌打ちをしてしまう。
  深い唸り聲を上げ、こちらを殺さんとばかりに睨みつけてくる狂獣。よほど先の発が気に障ったのか、心なしか向けてくる殺気も強くなっている様な気がしてくる。
「さ、最悪だ……気まぐれじゃない、完全に標的を俺たちに定めてる。下手したらこいつは死ぬまで追ってくるぞ」
「あー……まあ仕方ないわな」
  絶的な聲を上げるベリオを降ろすと、俺は軽になった肩をぐるぐると回す。俺が何をしようとしているのか、それを察したベリオは大きく目を見開いた。
「お、お前まさか!?」
「逃がしてくれないならやるしか無い。獣なら獣らしく、丁度いい程度に躾けてやる」
  挑発する様にあからさまに手招きをして見せると、狂獣の怒気が一段と膨れ上がる。知能の高さ故か、俺の行為の意味がわかってしまった様だ。
  だが、此方としては後手に回ってばかりもいられない。先手必勝とばかりに、一気に狂獣へと飛び込んでいく。
  如何に怒りで思考が染まっていようと、先程まで逃げ続けていた獲が急速に転すれば不意を突かれる。目論見通り、狂獣からのアクションはその腕で俺を捕まえようとするシンプルなだった。
  だが、その程度で捕まる俺では無い。迫り來る四本の脅威を掻い潛り、背中側へと抜け、その場で反転。一瞬で対象を見失った狂獣は、咄嗟の出來事に反応し切れず、視線のみでしか俺の事を追い切れていない。
  背後に回った俺を潰そうと、背中側にある腕を振り抜いてくる狂獣。だが、人が蝿を捉え切れないように、小さい対象を捉えきるのは至難の技だ。一撃當たれば致命となる狂獣の腕を難なく掻い潛る。
「寢てろッ!」
  直接的に炎で燃やすという案は、場所が場所である為NG。ならば俺が利用出來るのは発攻撃のみだ。
  それを狂獣自ではなく、奴の足元の地面へと數発打ち込む。自らの足場が揺らいだ事で、狂獣は數回たたらを踏んだ。
  俺から視線が外れたこの瞬間が、奴にとっての大きな隙だ。両手から煙を起こし、俺は天高く飛び上がる。
  眼下に広がる鬱蒼とした大森林。神的な景だが、それに想いを馳せる程の余裕は無い。慌てた様子で辺りを確認する狂獣を睥睨し、態勢を制しながら一気に降下。
「ーーおおっ!!!」
  雄びを上げ、自を勵させる。顔面に強烈な風圧がぶち當たるこの覚、まるで音すら置き去りになったかの様だ。
  漸く上空にいることに気付いたのか、狂獣が上を向くがもう遅い。
  狂獣の顔面を鷲摑みにし、勢いのまま地面へと叩きつける。狂獣の全重と落下の衝撃をけ、蜘蛛の巣のようにヒビがる地面。慌てて引き剝がそうと手足を暴れさせるが、此方の準備はとうに出來ている。
「さあ、お仕置きの時間だーー耐えて見せろよ?」
  グッ、と掌に力を込める。次の瞬間、ゼロ距離で引き起こされた発が幾つも狂獣の顔面を襲った。
ーーゴッ!  ゴッ!  ゴッ!  ゴッ!
  連続して響く発音の合間に、時折る狂獣の唸り聲。初めこそ抵抗する様に手足を振って暴れていたが、脳を幾度も揺らされては平衡覚を保つ事すら難しくなる。
  次第に狂獣の四肢、いや六肢から力が抜けていき、やがて立つことも難しくなったのかその両足を折り、地面へと倒れ込んだ。
「……終わったか」
  肩を足で小突いて狂獣が完全に無力化された事を確認すると、俺はゆっくりと顔面から手を離した。
  流石の狂獣といえど、至近距離での強烈な連撃には耐えられなかったか。俺は溜息をつくと、影から戦いを見守っていたベリオの元へと近付く。
「終わったぞ。さっさと戻ろうか」
「あ、ああ……お前、あの狂獣をあっさり下しちまうなんて一何者なんだ……?」
  ベリオの恐る恐るといった疑問に、俺はゆっくりと肩を竦める。
「別に。未知の森に迷い込んだ、ただのしがない旅人だよ」
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